お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

放送中

放送中


  • 放送ログ
  • 音声あり

いとうせいこう×DJ松永、東日本大震災のお話

ACTION

3月11日(水)のゲストは作家で日本語ラップのパイオニアである、いとうせいこうさん。いとうさんが書かれた東日本大震災をテーマにした小説『想像ラジオ』は2013年上半期の芥川賞の候補作になりました。今日はいとうさんから東日本大震災からの東北の方々との関わりについてDJ松永さんが伺います。

松永 :震災当時、DOMMUNEに出られてたラリー・ハードさんのDJで音楽に助けられたとの記事を見たのですが。

いとう:あの当時は皆そうだったと思うけど、事態があまりに凄まじいので、明日というものを考えられなくなったんですよ。当然10年後も考えられないし。人って未来を考えられなくなると、翻って今のアイデンティティがなくなっちゃうんだよね。どうしていいか分からない。皆、言葉を失っちゃったし。作家たちも言葉を失ってて。だからミュージシャンたちは早かったんだけど、演奏しに行ってたよね。僕なんかはどうも生きていくためのエネルギーが沸かないと思っていたら、DOMMUNEでラリー・ハードというシカゴ・ハウスのDJが日本に来てくれて。

いとう:当時、アメリカ人は皆、帰ってたんだよ。で、ラリー・ハードは延々2時間なんの言葉もない、ずっとビートだけを流したの。「ズッタン、ズッタン…」みたいな。それが「ビートのほうが雄弁だ」っていう気持ちになって。臭いことを言われるよりも、ただただ動物的な心臓の音みたいなものを延々とつないだラリー・ハードを聴いているうちに、「俺もなにか言わなきゃいけないな」となって。

そこで「DJ SEIKO」というTwitterのアカウントを作って。当時って東北でも音楽が聴けないんだよ。で、Twitterだけ生きていたから、「俺がDJだ!どんな曲でもリクエストしてくれたらかけるぞ!」と嘘をついたの。そうしたら全国各地からいろんなリクエストが来て。それは本当にある曲じゃなくても、「10年後の丘の上で聴く小鳥の声が聞きたい」とリクエストが来たらオンエアするんだよ。それはラリー・ハードのお陰なんだよ。DJが先にあってMCがあるんだよ。先に音楽があって、自分が励まされて、そういうグルーブの中で自分のできることを見つけた感じだね。

松永 :『想像ラジオ』は主人公のDJアークを中心にいくつかのエピソードが展開される構成ですが、この小説の設定にラジオを選んだのは2011年の「DJ SEIKO」があったからですか?

いとう:と言う人もあとからいて、俺もなるほどなと。当時は2年後ぐらいに実際に東北に行って。何にもなくなった瓦礫だらけのところで、皆でタクシーで被災地の人がやっている飲み屋に行ったの。でね、意味もなく信号だけ残ってるの。何もないのに。タクシーが信号で停まるの。

で、自分の町が流された女性も一緒にいたのね。彼女のいる町の前で信号でぷっと停まって。で、真っ暗なの。それで一緒にいた園芸家の柳生真吾さんと一緒にいたのね。もう亡くなっちゃったんだけど。それで柳生さんと、「これ、皆喋ってるよね」って言ったの。「皆が亡くなって、無言になったって思っちゃいけないよね」って。

いとう:僕も確かに「わ〜」と皆が言っている気がしたの。しかもその近くの杉の木の上に、誰かが引っかかっていて、なかなかその遺体を下ろすことができなかったということを、その土地の人が本当悔やみながら言っていて。それはその土地の人だけじゃなく、いろんなところでいろんな人が言ってたの。僕は「その人がDJかもな」って。「この人が何も言わないでただただ亡くなったと思っちゃいけないよな」って思ったのは確かなんだよ。もしかしたらタクシーからそのラジオが聞こえたのかもね。それで僕はここから、当事者じゃない自分が書く苦しみが始まります。

松永 :書き上がったあとはどうですか?


いとう:小説を書いてから、2回ほど大学のシンポジウムに呼ばれて東北に行ったんですね。そのときも「勝手に書いてすみませんでした」と謝ろうと思ってね。そうしたら、あるお父さんを大震災で亡くされた女性の人がいて。行方不明になって何日も経ってからお父さんが違う形で帰ってきちゃったと。「お父さんがどこにいて、何をしていたのかを自分は分からない。その亡くなる前後のことを想像してくれてありがとう」と言ってくださったのね。俺もう泣いちゃって。「こんなことを言っていただけるのか」と思って。むしろ東北の人に支えられていると思ったから、自分でこの本を宣伝すべきだと思いました。

松永 :なるほど、そうですね…。

いとう:しかもこの女性は、3.11に一緒にいた男性と結婚して、子供が生まれたのよ。それが3月10日に生まれてるんだよ。生まれ変わりみたいに生まれちゃって。その子の名前を「湊」ってつけたのかな。海の名前をつけたの。なんてすごいことなんだと思って。

松永 :避けちゃいますよね。

いとう:避けちゃうじゃん。でもそこと出会って、お父さんはいないから、この子に海を愛してもらうと思って。もう小説なんて形無しだよね。本当のことのほうがよっぽど素晴らしいなと僕は思いました。

いとうさんの東日本大震災のお話は尽きません。GUEST ACTION全編はradikoのタイムフリーで。

3月11日(水)のGUEST ACTIONを聴くhttp://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20200311162835

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)