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映画『パラサイト』韓国の「格差」はそんなにすごいのか? 高安雄一さん(大東文化大学教授)

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
2月29日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、韓国経済に詳しい大東文化大学経済学部教授・高安雄一(たかやす・ゆういち)さんをお迎えしました。高安さんは1966年、広島県生まれ。一橋大学を卒業後、1990年、経済企画庁に入庁。1999年に外務省在韓国大使館の書記官としてソウルに赴任。このときスピーディーに変化する激動の韓国経済に関心を持ち、以後、政府の仕事と並行して、研究するようになりました。その後、2010年に退官して大東文化大学准教授となり、2013年から現職。『隣りの国の真実 韓国・北朝鮮篇』(日経BP)などの著書があります。今回は、話題の映映画『パラサイト』で描かれた「韓国の経済格差」についてお聞きしました。

日本の格差も『パラサイト』と同じ?


アカデミー賞で4部門の賞を獲得した『パラサイト』は、半地下住宅で暮らす貧困4人家族(全員失業中!)が、豪邸に暮らすIT企業社長の家族を騙して寄生(パラサイト)する話。いまの韓国の深刻な経済格差を描いていると言われています。でも実は、日本社会の格差も同じくらいなのです。所得格差を測る尺度としてよく使われるのが「ジニ係数」。これは0(ゼロ)から1までの値をとり、「0」に近いほど格差は小さく、「1」に近づくほど格差が大きいことを意味します。2016年のジニ係数を比べてみると、韓国が「0.355」で日本は「0.339」となっています。

アメリカのジニ係数は「0.391」ですから、こちらのほうが格差は大きいですし、「0.454」のチリ、「0.458」のメキシコのほうが深刻です。中国の「0.514」(2011年)、南アフリカの「0.620」(2015年)という数字は凄まじいですね。

『パラサイト』は韓国の富裕層と貧困層の両極を抽出しているのでインパクトがありました。ただ、その両極は社会全体の中では少数です。両極の間に存在する大多数の家族の所得分布をしっかり分析しなければ、その国の経済格差の実態は分からないと高安さんは言います。

「韓国で経済的にもっと苦しいのは、『パラサイト』では描かれていない高齢者です」(高安さん)

韓国は社会保障の整備が遅く、国民皆保険制度が始まったのは1999年でした(韓国の年金制度自体は1988年に始まりましたがこのときは皆保険ではなく、またもらえる年金も大変少ないそうです)。そのときすでに60歳以上だった人たちは年金がもらえないまま現在80歳以上になっています。韓国では高齢者の6割が無年金だそうです。

かつて高齢者の多くは息子家族と同居して扶養を受けていましたが、1990年代になると別居する家族が増え、97年の通貨危機以降は家族による支援も難しくなりました。韓国では高齢になっても働き続けなければならない現状があるのです。実は韓国では高齢者の自殺が大変多いということです。

『パラサイト』から見えてくる韓国社会


『パラサイト』からは経済格差のほかにも、いまの韓国の状況がいろいろ見えてきます。例えば、映画に登場する貧困家族の父・ギテクは、「韓国チキン」の店や「台湾カステラ」の店を始めてはことごとく失敗しています。「韓国チキン」も「台湾カステラ」も実際に韓国で流行ったものです。一流企業に就職できずに中小企業で働いたもののリストラされ、退職金を使って店を始める人がたくさんいました。そして多くの人はひと山当てるどころか事業に失敗し、退職金を使い果たしてしまったり、さらに借金まで背負ってしまったようです。

また、貧困家族の長男・ギウは、大学受験に失敗して4浪しています。これは韓国の激烈な競争社会をうかがわせます。高安さんによれば、ギウはおそらく韓国で「SKY(スカイ)」と呼ばれる三大名門大学(ソウル大学、高麗大学、延世大学)をねらって4浪もしているのではないかということです。韓国では高校までは基本的には受験がなく、大学受験は一流企業に入るための最初にして最大の関門。ここで妥協して名門大学に入れなければその先は望めないということで、多浪する人は結構いるそうです。もっとも名門大学に入っても一流企業に就職できるのはほんの一握りだそうです。といって、日本のように初めから「滑り止め」をいくつも受けるような安全志向はないそうです。だからよけいに競争が激しくなるのです。

「最低賃金アップ」のしわ寄せ


経済格差の問題は、富める者がさらに富み、貧しい人たちはより貧しくなることにあります。韓国では文在寅大統領が所得主導型の成長政策をとったのですが、これが完全に裏目に出ます。所得主導型成長というのは、国民の所得を増やすことによって景気を良くしようというもの。そこで「最低賃金」を上げました。最低賃金を上げること自体は決して悪いものではありません。でも韓国の場合、あまりにも急激に上げすぎました。1年目が17%アップ、2年目が10%アップと、短期間に30%近く上げたのです。その結果、コンビニエンスストアや中小飲食店など零細企業にしわ寄せが集中してしまいました。そもそも大企業の人たちは最低賃金で働いていません。最低賃金はコンビニエンスストアや中小飲食店などで働いている人たちに関わってきます。最低賃金を2年で30%近くも上げられたら、零細企業ではアルバイト代やパート代をとても支払えなくなってきます。だからリストラせざるを得ません。そして若者は貧困になります。また、事業主のほうもアルバイトやパートをりリストラした分、自分が労働を負担しなければならくなるので、やはり苦しくなっているのです。

南北統一はいつ実現するのか?


さいごに久米さんが高安さんにどうしても聞きたかったのは、朝鮮半島の南北統一はいつ実現するのかということ。この質問には高安さんはとても困ってしまいました。というのも、高安さんの専門はマクロ経済ですから。

「私は学生時代、東西ドイツの統一について仲間と議論したものですが、私は統一できないと言っていたんです。ところが統一できちゃった(笑)。これには、東ドイツの後ろ盾になっていたソ連が崩壊したという事情があったからですが。それでもまあ、統一の予想は外してしまいましたから、韓国と北朝鮮の統一についてもどうも…」(高安さん)

「あと何年ぐらいあれば統一できると思います? ぼくは、自分の目が黒いうちは無理だと思っているんです。高安さんはご自分の目の黒いうちに統一はあると思いますか?」(久米さん)

「えーっと、うちは早死にの家系なので、私も目の黒いうちは無理かと(笑)」

映画『パラサイト』は韓国社会の格差に多くの人の目を向けさせましたが、それだけにとどまらず、韓国の人たちが普段どんな生活をしているかということにも興味を持たせてくれます。お隣りの国なのに、韓国について知らないことはたくさんあることを高安さんは教えてくれました。

高安雄一さんのご感想


きょうは大変幅広い話ができて嬉しかったです。

ラジオやテレビはある程度シナリオがあってその通りに進んでいくんですが、久米さんとの対談は非常にスリルがありました。初めは『パラサイト』の話から始まって、こちらも格差のことが頭にあったのですが、それ以外のことにも広がっていって、南北統一の話まで聞かれるとはまったく想定外でした(笑)。ただ、答えるのは大変でしたけど、そういう質問によっていまの韓国の状況が見えてくることが多かったので、よかったと思います。

韓国は隣の国なんですけど、久米さんがおっしゃるように、みなさんにあまり知らていないんですね。また、偏った情報も多いんです。きょうのトークではいろいろな話ができたと思っていますが、これで全てではないので、ぜひみなさんには興味を持っていただいて、できるだけいろいろな情報に接して韓国の本当の姿を考えていただくきっかけになればと思います。

きょうはありがとうございました。

「今週のスポットライト」ゲスト:高安雄一さん(大東文化大学教授)を聴く

次回のゲストは、ジャーナリスト マヤ・ムーアさん

3月7日の「今週のスポットライト」には、2011年3月11日の福島第1原発事故によって姿を変えた福島県双葉町の「双葉ばら園」の物語を綴ったフォトエッセイ『失われた福島のバラ園』を出版した、ジャーナリストのマヤ・ムーアさんをお迎えします。

2019年3月7日(土)放送「久米宏 ラジオなんですけど」http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20200307140000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)