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感染症の歴史

森本毅郎 スタンバイ!

忙しい朝でもニュースがわかる「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)8時からは、話題のアンテナ「日本全国8時です」

全国ネットで、日替わりゲストとともに放送。
毎週木曜日は、東京大学名誉教授、月尾嘉男さんの「雑学コラム」!

月尾嘉男

解説は東大名誉教授の月尾嘉男

2月27日(木)は「感染症の歴史」

★人類と感染症

新型コロナウイルスによる感染症の流行は、極めて短期間で世界に伝播してしまいましたが、このようなことは人類の歴史で今回が初めてではなく、何回も発生しています。そこで今日は人類と細菌やウイルスとの関係の歴史を振り返ってみたいと思います。

感染症とは、何らかの病原体が宿主といわれる生物に寄生して発生する病気の総称ですが、病原体には寄生虫から細菌、ウイルスなど様々な種類がありますし、宿主も植物、動物、人間などがあります。

今日は、その中でも細菌やウイルスが人間に寄生した場合の歴史を振り返ってみます。

細菌とウイルスの端的な違いは大きさです。細菌は1メートルの100万分の1のマイクロメーターの単位で表される大きさですが、ウイルスはさらに、その100分の1以下の大きさです。

分かりやすい違いは、細菌は光学顕微鏡で見ることができますが、ウイルスは電子顕微鏡を使わないと観察できないという大きさです。

★パンデミック

細菌やウイルスによって病気が一国全体や世界全体に伝染した状態を「パンデミック」と言いますが、その規模のものを紹介していきたいと思います。

歴史上、有名なパンデミックは紀元前5世紀中頃の古代ギリシャ時代に、アテネとスパルタが戦ったペロポネソス戦争で発生しています。

この30年近い戦争でアテネが負けますが、その敗戦の重要な原因がアテネの内部で広がった感染症とされています。

ツキジデスの『歴史』という本の中に、「患者から看護人へと病が燃え移り、患者に近づけばたちまち感染した。

治療法はないが、一度罹患すれば再感染しても致命的にならない特徴がある」と書かれていますので、天然痘ではないかと推測されています。

これは一都市内の流行ですが、はるかに大規模な流行となったのは「黒死病」、現在では「ペスト」と言われる感染症です。

★黒死病、ペスト

まず2世紀のローマ帝国で発生し、350万人から700万人くらいが死んだとされています。当時のローマ帝国の6000万人くらいでしたから、国民の1割が死んだことになります。6世紀には東ローマ帝国でも大流行し、人口の半分に相当する5000万人が死んだと推計されています。

しかし、「黒死病」と恐れられた有名な大流行は14世紀に発生しました。

当時のヨーロッパではペストは消滅したとされていましたが、中国で流行していたペストをモンゴルの軍隊がヨーロッパに進軍した時にもたらしたのです。

3回の大流行で、当時のヨーロッパの人口の6割にもなる3000万人、5億人程度であった世界全体の人口の2割に相当する8500万人から1億人が死亡したと推定されています。

これを契機に14世紀のベネチアで海上検疫が始まり、東方貿易から戻ってきた帆船の乗員全員を沖合の孤島に留め、健康であっても最長40日間はベネチア本島に上陸させない制度でした。

検疫は英語で「クワランティン」と言いますが、これはイタリア語で40を意味する「クアランタ」が語源になっています。

次に発生した大流行は15世紀になってスペインやポルトガルが南北アメリカ大陸を征服した時で、征服民がヨーロッパのコレラ、インフルエンザ、ペストなど様々な流行病を免疫のないアメリカ大陸の先住民に伝染させ、当時のメキシコでは人口の8割が死亡したという推計もあります。

その報復というわけではありませんが、征服民は先住民から梅毒を移され、コロンブスがヨーロッパに帰還した数年後にはヨーロッパ全域に伝播し、500万人近い人々が亡くなったという推計もあります。

当時のヨーロッパの人口は6500万人くらいでしたから、数年で8%が亡くなったことになります。

梅毒が日本に伝わったのは1500年代初めとされていますから、およそ100年でアメリカからヨーロッパを経由して東洋まで伝わってきたことになります。

★インフルエンザ

次にはじめて世界全体に大流行したのがインフルエンザです。

第一次世界大戦の末期の1918年にアメリカのシカゴで発生し、アメリカ軍が参戦してヨーロッパに進駐してきた時にアメリカの兵士からヨーロッパに広まり、感染者が6億人、死者が4000万人から5000万人とされています。

当時の世界全体の人口は12億人程度でしたから、半分の人が感染し、8%程度の人が亡くなったことになりますし、日本でも39万人が亡くなっています。

有名人では、詩人のギヨーム・アポリネール、社会学者のマックス・ウェーバー、画家のグスタフ・クリムト、日本では東京駅を設計した辰野金吾、劇作家の島村抱月などが亡くなっています。

このような世界全体に流行する伝染病をパンデミックと言いますが、20世紀には3度発生しており、上記以外に1957年のアジア風邪と、1968年の香港風邪で、アジア風邪では200万人、香港風邪では100万人が死亡しています。

21世紀になってからも2009年から2010年にかけてインフルエンザは世界規模で発生していますが、死者は1万4000人程度でしかありませんでした。

これは医学が進んで、ワクチンが開発されたことの効果です。

★エボラ出血熱、エイズ

20世紀になって新しく登場したのが「エボラ出血熱」と「エイズ」です。

「エボラ出血熱」は1976年にアフリカのスーダンで最初の患者が発生しましたが、治療法が分からず恐れられていました。

さらに1981年に発見されたのが「エイズ」です。

1984年にエイズウイルスが発見され、その後の10年間で100万人以上の感染になっています。そして今回、新たに脅威となったのが新型コロナウイルスです。

2002年に中国の広東省で集団発生したSARS(サース)や、2012年に中東で発生したMERS(マーズ)もコロナウイルスが原因ですが、今回はどの程度で終結するか見通しが立っていません。

★感染症 3つの要因

このように感染症の大流行の歴史を見てみると、3つの大きな原因があることがわかります。

第一は先進諸国から発展途上諸国へ人間が進出し、そこで未知の病原菌に伝染したり、反対に伝染させたりしたこと。15世紀末からの大航海時代が相当します。

第二は国際的に移動が拡大したこと。国際観光客数は30年前には年間4億人でしたが、現在では14億人と3・5倍に増えています。その結果、今回のような事態が発生することになります。

第三はヒトに感染するインフルエンザウイルスは動物にも感染し、そこで変化して、再度、ヒトに感染する性質があるために、開発されたワクチンが効かない場合が出てくることになります。

地球の生物の歴史から眺めれば、800万種とも推定される生物の1種だけが異常に増加した結果としてパンデミックが発生していると考える必要があると思います。

月尾嘉男の「日本全国8時です」http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20200227080130

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