お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

放送中

放送中


  • お知らせ
  • 放送ログ
  • 音声あり

宇多丸、『ジョジョ・ラビット』を語る!【映画評書き起こし 2020.2.14放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

今週評論した映画は、『ジョジョ・ラビット』2020117日公開)。

オンエア音声はこちら↓

 

宇多丸:

さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞して評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのはこの作品……『ジョジョ・ラビット』

はい。日本の公開作で言うと『マイティ・ソー バトルロイヤル』などで知られる、タイカ・ワイティティが監督を務め、第92回アカデミー賞で作品賞ほか6部門でノミネート、そして脚色賞を受賞した人間ドラマ。第二次世界大戦下のドイツ、立派な兵士になる日を夢見る10歳の少年ジョジョは、ある日、母親がこっそり匿っていたユダヤ人の少女を見つけてしまう……

出演は、ジョジョ役のローマン・グリフィン・デイビスの他、母親ロージー役のスカーレット・ヨハンソン、教官役のサム・ロックウェル、レベル・ウィルソンなど。監督のタイカ・ワイティティが、ジョジョの空想の友達であるアドルフ・ヒトラーを演じている、ということになっております。ということでね、アカデミー賞でも評価が非常に高かったというこの『ジョジョ・ラビット』を、もう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「多め」。はい。ありがとうございます。

賛否の比率は「褒め」が9割、否定的意見が1割。「今年ベスト」「人生ベスト」「大好きな映画」と熱烈な声が目立ったということでございます。褒めている人の主な意見は、「愛くるしいジョジョ少年の成長を描きつつ、戦争の残酷さにもちゃんと向き合っている」「コメディとしてセンスが良く、キュートさもあるが重さもあってズシンと残る」「スカーレット・ヨハンソンもよいが、またしてもサム・ロックウェルがよかった」などなどがございました。また『この世界の片隅に』と共通点を挙げる人も多かったというね。まあ僕もちょっと連想する瞬間がありましたけどね。

一方、主な否定的な意見は、「ドイツが舞台なのに、なぜ登場人物たちが英語をしゃべっているのか?」。いや、これはあの、アメリカの……ハリウッド映画全般がね、歴史的にそういうことを──まあ、それが良いか悪いかは別にして──それは『ジョジョ・ラビット』だけの問題ではないというね。『イングロリアス・バスターズ』はそこをちゃんとやってる、という話をね、映画評の時にもやりましたけどね。「ジョジョくんがあまり成長していない」「少年の成長や家族の愛を描くのに、あるいは反戦や反ヘイトのメッセージを描くのに、なぜわざわざナチやホロコーストを持ち出すのか?」などがございました。

「こんな作品がこの世に存在してくれているというだけで強く生きていけるような映画」(byリスナー)

代表的なところをご紹介しましょう。「きたあかり」さん。「今作は第二次大戦の、それも主犯国というか、ドイツが舞台で、さらにイマジナリーフレンドとしてのヒトラーを動かしておきながら、映画全体としてはかなりポップで明るい物語です。おそらくこの描き方に違和感を覚える人もいるでしょう。でも私はこの映画は悲惨な過去が現実から逃げてはいないと思います。むしろ、立ち向かっていると思います。

この映画の主人公はまだ子供のジョジョです。陽気で楽しげでおもちゃ箱のようなこの映画に一貫してる空気は、彼が見ている世界そのものです。だからきっと大人たちが感じていた本当の意味での戦争のシリアスはあまり見えず、現象として描かれるのはジョジョの周りで実際に起きてしまった出来事だけでした。しかし、ジョジョのようなナチに対して無邪気に好意を抱いていた子供たちは実際に存在したわけで、それは親切にもオープニングで流れるビートルズのメロディーに乗せて示してくれます。ちっともおとぎ話ではないのです。

このような戦争映画で凄惨な演出をしようと思えばいくらでもできたと思います。ですが、ジョジョの周りにいたキャラクターたちは皆、とても優しくて強い人ばかりでした。そんなつらい最中、『きれいごとを』と考えるのは当然であり、簡単なことですが、でもそんなことは百も承知でしょう。それでも美しく生きていくことの素晴らしさを信じて、祈りのような気持ちをジョジョに、ひいては映画に託したのではないかと私は思います。

母がダンスをしたように、ジョジョはぎこちなくステップを踏みました。それが全てなんじゃないでしょうか。こんな作品がこの世に存在してくれているというだけで強く生きていけるような、そんな作品が人それぞれあるとは思いますが、『ジョジョ・ラビット』もそんな映画のひとつになりました。本当に大好きな1本です」ということでございます。

一方、ダメだったという方。これね、和歌山の書店、「本屋プラグ」の嶋田さん。本屋プラグさんね、僕が和歌山にツアーに行った時に寄らせていただいて、この番組でもお話をしました、素晴らしい書店さんでございます。本屋プラグの嶋田さん。嶋田さんはちょっとね、作品としての質の高さとか俳優陣の良さみたいなことはもうわかった上で、それもいろいろと列記していただいた上で、それでもですね……

『俺がこの映画の悪口を言わなければ誰が言う!』という使命感を持ってメールさせていただきます。『ジョジョ・ラビット』、結論から言えば全くダメでした」と。それでまあ、いろいろと書いていただいているんです。(映画としては)すごく質も高いんだけど……「『ライフ・イズ・ビューティフル』が人生ワースト級に、もはやトラウマレベルで苦手なので予告から嫌な予感をしていました」という。ちなみに僕も、『ライフ・イズ・ビューティフル』は、ちょっといただけない派です。それで、まあとにかくいろいろ書いていただいているですけども……

そういうことじゃない、と。「ホロコーストは『昔昔、あるところで』でも『ここではないどこか』の話ではないのです。ほんの半世紀前のヨーロッパで起きた出来事であって、寓話といえども多くのユダヤ人の少女エルサのような人々が実際に命を失ったリアルと対峙するのに、その命を左右する力を持った主人公の少年のリアリティーのなさはあまりに軽薄で、さらにそれが無邪気なナチ信奉者となれば、その素直さというかバカさ加減。『こんなバカが1人の人間の命を左右する力を持ってしまうのか』と呆れを通り越して醜悪とまで感じてしまいました」という。

それでですね、まあとにかくそれが美談に落としこまれるのもどうかと思う、というようなことをお書きいただいて。「こうした映画が2020年の今、公開されてまた評価されているのは、もちろんナチの悲劇を忘れないというメッセージではなく、今現在も行われている様々なヘイト、差別に対抗するというメッセージとして受け入れられているのだと思います。が、しかし、そうした現在進行形のヘイトや差別に対抗するなら、現在進行形のヘイトや差別を描けばいい。わざわざナチを引っ張り出してこなくてもよいのではないか? 結局ナチとホロコーストを描く必然性が見い出せない作品でした。映画としての完成度が高いだけに残念です」というね。これもまあちょっと理はあるかな、というご意見だと思います。

 

■タイカ・ワイティティさんという、この才人の名前を覚えて帰ってね

はい。ということで皆さん、メールありがとうございます。私も『ジョジョ・ラビット』、TOHOシネマズ六本木とTOHOシネマズ日本橋で2回、見てまいりました。特に六本木で見た時はですね、アカデミー賞発表直前だったのもあるんでしょうかね、もうほぼ満席で。すごい人が入っていましたね。ということでですね、その先日発表された第92回アカデミー賞で、脚色賞を獲得した一作という。つまり、原作があるわけです。クリスティン・ルーネンズさんという方の『Caging Skies』という小説で、これ日本語訳が出てないので、今回僕はですね、Kindleの英語版をダウンロードして、頑張って読んだ……気になった、っていうね、状態でございます(笑)。もう「読んだ気」です。あくまでもね。

で、とにかくナチスに心酔している、ヒトラーユーゲントに入団とかをしている少年の目線を通して、第二次大戦ドイツを描き出していく、というこの小説に、今回の映画は、大胆な独自のアレンジを加えている。たとえばその、少年のある種、父親代わりでもある想像上の友達、イマジナリーフレンドとして、なんとアドルフ・ヒトラーその人が登場する。これは小説にはないディテールなんですね。小説では、お父さんが一応ちゃんと出てくるんですよね。で、映画版ではお父さんが不在の代わりに、そのお父さん代わりの位置に、そういうイマジナリーフレンドとしてのヒトラーが出てくる。これは映画独自のアレンジです。

あとは全体的に、ファンタジックですらあるようなコメディタッチで描く、とか。そういう、まあ下手したらかなり非難を集めてもおかしくない……もちろんそこをもって、先ほどのメールのような意見があってもおかしくない、まさに大胆きわまりないアレンジを施して。その結果、見事な成果と評価を残してみせたのが、本作の製作・脚本・監督、そして前述の少年のイマジナリーフレンドとしてのヒトラー役というのを、チャップリンばりに……というより、わりとはっきりと、メル・ブルックス寄りですね。メル・ブルックスっぽいバランスで演じている、タイカ・ワイティティさん。

まあニュージーランドの方で。お父さんがニュージーランドの先住民マオリ族で、お母さんがロシア系ユダヤ人。つまり、「マオリ系ユダヤ」という出自を持つ方です。今回はまず、このタイカ・ワイティティさんという才人の名前を覚えて帰ってね、というのがまあ、ひとつの一番の大きなポイントじゃないでしょうか。今後、間違いなくね、様々なシーンで名前がさらに出てくる方だと思いますが。

日本ではですね、しかし一般劇場公開されてる作品が、実は少なくて。辛うじて、2014年、これは共同監督ですが、『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』というモキュメンタリー作品と、あとは『マイティ・ソー バトルロイヤル』。まあ(原題は)『マイティ・ソー ラグナロク』ですね。それくらいしか日本では劇場で一般公開されてないんですが、実は、特に長編二作目の『ボーイ』という2010年の作品、あとは四作目になるのかな、『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』を挟んでの、『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』、これは2016年の作品。こちらの『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』というほうは、日本でも配信が見られます。僕もこのタイミングで見ましたけども。

『デッドプール2』のファイヤーフィスト役の少年、ジュリアン・デニソンくんが、おそらく……要するにこの作品での好演があって、その『デッドプール2』のファイヤーフィストにたぶん抜擢されたんであろう、という主演作『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』。この二作、いずれもですね、少年を主人公とするコメディで、ニュージーランド本国の歴代興行収入記録を、最初に『ボーイ』が更新して、それでその次にこの『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』がまた塗り替えた、という。

要するに、すでにかなりすげえキャリアの持ち主だったわけです。だから我々、その『マイティ・ソー バトルロイヤル』の時に、「えっ? 『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』の人だよね? よく抜擢したな」って思ったけど、そういうことじゃないんですね。もともと実績がある人。それで、その意味では今回の『ジョジョ・ラビット』も、まさに彼の十八番たる題材なんですね。少年物、というのは得意なわけです。

■ウェス・アンダーソン作品を思わせる画面構成や世界観

さらに言えばですね、一般社会から隠れなければならないような存在とか生活、っていうモチーフは、さっき言ったようなその『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』とか、『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』とも通じているものでもある、というあたりで。しかし、やはりそれでもなお本作、この『ジョジョ・ラビット』が、タイカ・ワイティティのキャリアをさらにね、本当にアカデミー賞レベルにまで押し上げる特別な1本となり得たのは、やはりひとえにですね、まあナチス物だからですね。

やっぱりアカデミー賞はナチス物、強い、っていうのはありますよね。ユダヤ系の方、すごくアメリカの映画界は多いですから。ナチス物が強いっていうのはありますし、ナチス物として非常に大胆かつ斬新な……そしてやはり、分断と憎悪が渦巻く現在の世界とも、非常に切実に接続する作品だったから、ということが当然、あるわけです。冒頭からとにかく徹底しているのはですね、10歳の少年の目線。彼から見た世界、彼が感じた世界である、ということが徹底されているという。

まあもちろん、先ほどのメールでも例として出てましたけど、たとえば『ライフ・イズ・ビューティフル』、あれもね、その無垢な少年が、悲惨な現実に対して、幻想というかね、その頭の中の世界で対抗する、というのは似てるんだけど、『ライフ・イズ・ビューティフル』は、客観視点がやっぱりちょいちょい入る、と言うか、(少年に現実を見せまいと奮闘する)お父さん側の視点というのがメインですから。それに対してこっちは、完全に子供の視点がずっと通されている。

まず、カメラが基本、その主人公ジョジョくんの背丈を基準に置かれてるわけですね。低いわけです。なので、大人たちの顔や身体が、結構画面から切れてることも多かったりする、という。で、たとえばそれを使った演出として、そのスカーレット・ヨハンソン演じるお母さんが、白と茶のコンビがすごくお洒落なパンプスを履いているわけですね。で、そのパンプスの足だけが見える。ジョジョ目線でそのパンプスの足だけがですね、お母さんがちょっと高いところに立っていて。そのパンプスだけがこう見えている、という、非常に印象的な画面の切り取り方をしてるわけですけど。

その画面構成が、中盤の、思わず息を呑むようなあるショッキングな展開、それを示す演出、それの、実は周到な布石いうかね、伏線にもなっていたりする、という感じなんですよね(宇多丸補足:無論、「靴ひもを結ぶ」というアクションの共鳴込みで……また、その中盤の悲劇的シーン、周りを取り囲む家々の窓が、まるで目のように見える、という不思議なショットの連なりも印象的でした)。まあそんな感じでもう、画面構成もジョジョくんの視点になっているし。とにかく10歳の少年の目線、彼から見た、彼が感じた主観的世界、というスタンスで、語り口が徹底している。その表れとして、たとえばすごくシンメトリックな構図、左右対称な構図が頻出したりとか、要はグラフィカルな画面構成……あとは、箱庭のようにファンシーでカラフルな、美術とか衣装など、ビジュアル的なデザインがすごくかわいくおしゃれで、隅々まで行き届いてる感じなんですね。なので、すごく映画として、まずルックがすごいチャーミングなわけですよ。

まあ一番やっぱり連想するのは、ウェス・アンダーソンですね。ウェス・アンダーソン作品のように……特にやっぱり、少年が主人公で、ちょっとボーイスカウト的なね。ヒトラーユーゲントのキャンプがボーイスカウト風だから、やっぱり『ムーンライズ・キングダム』はすごい連想するし。あと、『天才マックスの世界』とかね、そういうのをちょっと連想したりする感じなんです。『天才マックスの世界』と言えば、僕は今回『ジョジョ・ラビット』を見ていて、サム・ロックウェルが演じるそのナチス将校、それがちょっとこう、ダルそうな、「引いたスタンスのいい人」っていう感じなんですね。その感じが……あとはその少年との、歳の離れた友情感とかが、『天才マックスの世界』の、ビル・マーレイの校長の感じにちょっと近いな、なんて思って見ていたんですけども。

これ、『BANGER!!!』っていうサイトでのサム・ロックウェルへのインタビューを読んだらですね、本当に、実際ビル・マーレイを参考にしました、っていう風に、サム・ロックウェルは言ってました。あと、あれですね。彼の部下で、おそらくゲイのパートナーでもある、ほぼセリフなしなんだけども、アルフィー・アレンさん。これは『ゲーム・オブ・スローンズ』のシオン(・グレイジョイ役)ですね。もう最高です! シオン役だったアルフィー・アレンさんが、セリフないのに、すごい存在感ですね。それも素晴らしかったです。

■「ポップにナチス時代を描く」という際どい試みを宣言する冒頭

ともあれ、まあとにかくウェス・アンダーソンばりに、美しくポップにデザインされた世界……なんだけど、それは実はやっぱり、第二次大戦中、ナチス政権下。言うまでもなくホロコースト、いわゆる「ショア」という、人類史上最悪の事態が進行していた時代、場所でもあって、という。なので、特に序盤はですね、もちろん意図的なものなわけですが、観客は、特にちゃんと歴史の知識が……当然あるべきなんですが、ある観客は、まあなかなか微妙なというか、結構居心地の悪い思いをしながら見ることになる、という。

冒頭から、とにかくそのジョジョ少年は、無邪気にそのナチス、およびヒトラーを信奉しているわけですね。演じてるローマン・グリフィン・デイビスさん。これ、なんと映画初出演ということなんですけども。オーディションで選ばれた。単にかわいいだけじゃなくて、どことなく僕は、『ブリキの太鼓』っていうドイツ映画がありますけども、そのオスカル少年を思わせる、ちょっとエキセントリックなムードも漂わせている、という。おそらくですけどもタイカ・ワイティティさんは、『ブリキの太鼓』のオスカル感を、多少は狙って彼をキャスティングしてるんだろう、と思うんですけど。はい。

まあ、それもすごく、これ以上なくハマっているんですけども。で、まあとにかく彼がですね、ヒトラーユーゲント入団を前に、緊張してるわけです。それで鏡に向かってこうやっていると、そこへ、さっき言ったように顔が切れた構図から、そのタイカ・ワイティティ本人が演じる、イマジナリーフレンドとしてのヒトラーが現れて。で、その彼を鼓舞する。「ハイル、ヒトラー! ハイル、ヒトラー! ハイル、ヒトラー!」って連呼して、彼を鼓舞して。それで勢いづいたジョジョが、「ハイル、ヒトラー! ハイル、ヒトラー!」って言いながら、表に駆け出していく。

それと同時に、ドイツ語版のビートルズ『抱きしめたい』が流れ出して、先ほどのメールにもあった通り、まさに本当に当時、そのポップスター的な熱狂を集めてた、若者たちとか女の子が「キャーッ!」って言っているヒトラーの映像をモンタージュしていく、という感じです。まさにこの映画の、「ポップにナチス時代を描く」という、そのなかなかに際どいスタンスが、早々に打ち出されるオープニングなわけですね。ただしかし、実際、ナチスを無邪気に信奉し熱狂した人々にとってですね、まさにそのナチス、ナチズムというのは、このようにポップな、「善きこと」そのものであったのではないか、というね。もちろんだから、これはそういうことを踏まえた上での、痛烈なジョークでもあるわけですね。

以降もですね、ちょっと『モンティ・パイソン』の戦争ギャグとか、あとは昔の映画で言うと『まぼろしの市街戦』とか『ジョンレノンの僕の戦争』とか、といったような、まあ毒っ気たっぷりの戦争ジョーク物みたいな……すごい毒っ気たっぷりの戦争ジョーク、たとえば後半で、レベル・ウィルソンがね、もう子供に手榴弾をこうやって、「はい、これでアメリカ兵に抱きついてきなさい!」みたいな。そういう、まあかなりブラックなというか、痛烈なジョークもあったりする、ということですね。

■「他者」と向き合うことで偏見や憎悪を乗りこえていく話

ともあれですね、そのジョジョくんのイマジナリーフレンドとしてのヒトラー。これはつまり、彼がいつの間にか内面化してしまった、たとえばその、ユダヤ人を恐れ、憎むのが正しい、とする考え方。それを具現化して見せたものなわけですね。つまり、人が内面化しでしまったヘイトの、メタファーとしてのヒトラーなわけです。同時にそれは彼にとっては、不在の父親に代わる、「男らしさ」のシンボルでもある。だからもう序盤からその彼、ヒトラーが言うことは、とにかく「お前は男だろう?」とか……あとは(ヒトラーユーゲントの訓示として語られる)「お前らは今日、大人の男になる!」とかっていう。それに対して女性の役割っていうのは、それこそ「はい、子供を産むのが役目です」とかね。なんてことを言って、すごくこう皮肉っぽく、最初に提示されるわけですよね。

ただですね、ナチス思想にとってそのヘイトの対象である「ユダヤ人」にしても、そしてその「男らしさ」にしても、実際のところその10歳の少年の主人公ジョジョにとっては、どちらも単なる机上の空論っていうか、妄想の産物でしかないわけですよ。「ユダヤ人って怖いんでしょう? 臭いんでしょう?」って言うんだけど、知りもしないから。で、それって実は、ヘイトが生まれる構造そのものですよね。知らないから怖いし、憎む、っていうね。で、その彼が、なんとよりによって、「ユダヤ人」で、なおかつ(母親以外の)「若い女性」という、要するに圧倒的な「他者」っていうのと、ひょんなことから実際に向き合うことになることで……という話。

ここ、2人が出会うところのくだりが、あえて、ここは完全にJホラー風の演出をしているところとか、なかなかおかしいんですけども……とにかくその、「他者」と向き合う経験を重ねることで、特定の人種を恐れ、憎悪することの無根拠さであるとか、あるいは表層的な「男らしさ」っていうものの、何たる無意味さ、無力さ!っていうのを、自然に彼は学んでいく、というね。まあ『ジョジョ・ラビット』っていう今回の映画は、言ってみればそういう話ですね。要するに、他者っていうのに向き合わないから勝手にいろんなことを思い込んでいた人物が、他者と向き合う経験を通じて、それを乗り越えていく、という話。

なので、ここはだから先ほどのメールにもあった通り、そこの是非はちょっと置いておいても、もちろん第二次大戦下のナチスを題材にはしているんだけども、要はその、「ヘイトや偏見を内面化してしまった人が、他者を知ることでそれを乗り越えていく」という、まあ当然、現在の社会、世界に通じる普遍的なメッセージ、っていうものを含む作品で。この作品のですね、従来の第二次大戦物、ナチ物とは違うこの「ポップな」意匠というのも、そこを際立たせるための作りである、ということは間違いない。ただ、それに対する是非とか意見の相違というのが出てくるのも、それもまた当然かな、という風に思います。

僕も実はちょっと……後ほど言いますけど、ちょっと微妙に思うところもある。で、本作はとは言え、本当にその、さまざまなディテールとか場面とかが、非常に魅力的な作品で。

■とにかく魅力的なキャラクターたち。誰ひとりとして非人間的に描かれていない

何が魅力的かというと、やはりこれはタイカ・ワイティティ監督の一番の真骨頂の部分として、個性的にして人間的なキャラクターたち……とにかくキャラクターの立て方が本当にうまい、っていうところだと思います。ナチスの人たちもですね、誰ひとりとして非人間的な怪物として描かれてはいないわけですね。思い込みが激しかったりとか、あるいは嫌々その組織に従ってたりはするけども……とかね。決して怪物的に描いているわけではない。

で、やっぱりその魅力的なキャラクターの最たるものは、アカデミー賞でもノミネーションがありましたけども、スカーレット・ヨハンソン演じるお母さん。まずあの衣装とか、たたずまいのかっこよさ、っていうのもありますし。このお母さんのくだりはやっぱり特に、『この世界の片隅に』を僕は強く連想したところでした。お母さんとのね、最後のあの美しい日々であった、あの自転車で漕ぎだすところで、ロイ・オービソンの『Mama』という曲のドイツ語版が流れるという、その絶妙な選曲も含めてですね、こういう悲惨な時代の中にも、美しいその瞬間がある、というようなくだり。

あと、脇で言うと、やっぱり主人公のお友達のヨーキーくんですね。彼を演じるアーチー・イェーツくん。本当に『カールじいさんの空飛ぶ家』のあの子! だと思ってください(笑)。あの子の具現化というか。この子、『ホーム・アローン』のリメイク版への主演が決まっているらしいんですけどもね。彼とのやり取りのキュートなところもら本当に魅力的だし。まあシーンごとに言ってもですね、たとえば中盤。ゲシュタポが家宅捜索しに来る。あそこでまずね、そのもう果てしない「ハイル、ヒトラー」天丼ギャグ(笑)。もう何回言うんだよ!っていうその「ハイル、ヒトラー」天丼ギャグも面白いし。同時にここは当然、ナチス物の定番である「バレるの? バレないの?」サスペンスとしても、非常に盛り上がりますよね。

しかも、それだけではなくて、その「バレるの? バレないの?」サスペンスの緊張感が、頂点に達したところで、ジョジョのその、ユダヤ人の女の子に対する恋心が、そこであからさまになってしまう、っていう。ギャグもあればサスペンスもあれば、そしてその彼の内面っていうのかな、それが露わになってしまう、まあちょっと青春物語、ちょっとしたラブストーリーとしての緊張感が高まる場面として、何重にも面白みが重なっている。ここ、本当に名場面だという風に思いますね。

■ホロコースト物でこんなに「割り切れる」後味でいいのかな……? とは思ってしまう

まあ後半ですね、とあるきっかけがあって、さらにジョジョくんが孤独というか、追い込まれた状態になったところの描写が、本来なら『火垂るの墓』化していってもおかしくないところが、非常にあっさりととですね、わりとあっさりと、きれいに生き残っていく感じとか……あとはやっぱりですね、とはいえ仮にもナチスを題材に扱って、ここまで「割り切れる」、すっきりした後味でいいのかな? みたいなことは、ちょっと思わなくもないんだけど……というぐらいですね、やっぱり幕切れの切れ味とかが、抜群にやっぱり素晴らしくてですね。「ああ、いい映画を見た!」っていう切れ味になっているわけですね。

まあそのいくつかの分断をね、主人公のジョジョくんと、エルサというそのユダヤ人の女の子が、いくつかの分断を乗り越え……「ユダヤ人とドイツ人」っていう分断。「ナチスとユダヤ人」という分断。「男と女」という分断。「歳の差」という分断。それらをいくつか乗り越えて、もしくは乗り越えようとしているこの2人、まずは何をやるべきか?という時に、ここで流れ出す曲の、選曲込みで……だから要はね、うますぎる!っていうことだと思います。なので、この映画単体としての完成度とか、たぶん否定的なメールでも、そこを否定している人はいなかったです。

映画としての質の高さ、完成度の高さ。これは間違いないと思います。ただ、やっぱりどうしてもそのナチス物、ホロコーストを扱っていて、ここまでこんなに「割り切れる」感じでいいのかな?って思ったりとか、あと、あの事態の後に、子供たちがあそこで何のお咎めもなくいるって、あるのかな? とか。だって一旦、家宅捜索までされてるのに……とか。いろいろちょっと引っかかるなって思うところが、僕はなくはなかったです。はい。

でも非常に魅力的なディテール、演技であったりとか美術であったりとか、そしてもちろんメッセージも、非常に重要なことを言ってると思います。質の高い作品であるのは間違いないと思います。ぜひぜひ今、アカデミー賞の脚色賞を……でも、この脚色賞こそがタイカ・ワイティティさんの才能、ということで。彼の才能を改めて日本人が知る意味でもですね、今、劇場でウォッチしてください。

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は37セカンズ』です)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

++++++++++++++++++++++++++++++