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マサカとは、じわじわと打ち寄せて包囲するもの~辻仁成さん

コシノジュンコ MASACA

2020年2月16日(日)放送
辻仁成さん(part 2)
1959年生まれ。81年にロックバンドECHOESを結成し、デビュー。作家としては89年『ピアニッシモ』ですばる文学賞、97年『海峡の光』で芥川賞を受賞。99年『白仏』のフランス語版でフェミナ賞学国小説賞を日本人として初受賞。現在はパリに拠点を置き、詩人・ミュージシャン・映画監督・演出家としてご活躍されていらっしゃいます。

出水:辻さんの最新刊『84歳の母さんが僕に教えてくれた大事なこと』は、ご自身の半生とともにお母様のことを書いたエッセイですね。

JK:読みやすい! 自分の親とオーバーラップするところもあって、すごい身近に感じる。でもウチのおかあちゃんはここまで素敵なお母さんだったかなあ? でも、お母さんって素敵ですよね。

辻:ありがたいですよね。今になって良く分かるっていうかね。昔はあんまり分からなかったんですけど。

JK:まあそんなもんですよね。私もそうだったなぁ。

辻:僕も最近ありがたかったなぁと思うことが多くて……うちの息子がおばあちゃん子で、毎年夏は2カ月間おばあちゃんのところに行ってるんですよ。福岡に2か月預けっぱなし。息子が日本語をしゃべれるのは、おばあちゃんのおかげ。

JK:そうたい(笑)

辻:うちの母親が野球大好きで、TVの1m前に座って、野球選手が失敗すると「このバカッたれがー!」って言うんです(笑)それをパリに帰ってきてから「パパ、『バカッたれ』って言うんだよ」って(笑)

JK:福岡弁ってすごい。本も全部それで書いてるじゃないですか。

辻:母親は筑後弁で、有明海に近いところなんで博多弁とはちょっと違うんですけど、まぁ混ざっちゃってますね。

出水:筑後弁で書かれているので、よりお母様の性格やお人柄が沸き立ってくるという感じがします。

辻:とにかく父親が厳しい人で、家から出られなかったんで、どうやって家から出ないで人生を楽しめるかってことに命をかけていた人です。それこそ刺繍教室を始めたり、料理教室やったり、木彫りの先生をやったり陶芸の宣誓をやったり・・・最後は父親がヨボヨボになってからダンスを始めて。父親が悔しそうに見てるのを弟が僕にチクって(笑)それは大変だなあ!って話もしたことがあります。

JK:女は強い! やりたいことをずーっと温めてて、結局最後に成立させるからね。

辻:この人のお父さんが発明家で、いろんなものを発明したんですよ。僕らが食べてる四角い海苔、あの海苔の巻き上げ機とか乾燥機とかも全部作ってる。半世紀ぐらい前の話ですけど。昔は海女さんたちが手で積んでたのを、それを機械で揚げようってことで、巻き上げ機が最初だったんです。

JK:へえっ、すごいわね!

辻:それで勲章もらったり。だけど母さんは女なんで家業を継げなくて、結婚して。でもおじいちゃんの才能を受け継いだのは母さん。手先が器用で!

JK:だから刺繍だの陶芸だの・・・全部習ったわけじゃないんでしょう? 自分で?

辻:自分で。当時インターネットなんかないから、ほとんど独学ですよね。引っ越す最後の日とかは家に生徒さんが来て、女の人ばっかりで雑魚寝して(^^)30人ぐらい雑魚寝してて・・・ちょっと怖いでしょ? みんなにきょうこさん、きょうこさんって愛された人でした。

JK:好かれるというか、人を育てるのが好きなのね。

出水:その辺りはジュンコさんのお母様と似てますね(^^)

JK:うちの母親は全国好奇心の塊の会っていうのをやってて、全国に何百人単位であるんですよ。それが人脈として私たちの財産になったわね。

辻:好奇心の塊の会っていいですね!

JK:だから興味あるってさ、成長するわよね。人に会うチャンスだからどんどん綺麗になっていったり。94歳までいたんだけど、だんだん綺麗になっていくのよ。頭も良くなっていくの。やっぱり人に会うっていう好奇心がないとね。

辻:好奇心がやっぱり一番の若返り。いつまでも自分を失わないでいる精神の柱でしょうね。好奇心を持っている人が僕は好きですね。人と会って、この人好奇心旺盛だなって思う人とはだいたい面白くなりますよね。

JK:ビジョンを持ってると魅力的ですよね。

辻:息子なんかでも、「こういうの見つけた」「音楽はこういうのやってる」って、自分で見つけてきてハマっている姿をみていると、親として安心します。ここに向かうディレクションをちゃんと持ってるんだなって。

「仁成、図に乗るな。調子には乗れ。
しかし調子に乗り過ぎては、人間はうぬぼれ、その結果図に乗り、失敗するたい。
調子に乗ることは、仕事でも人生でも悪かことじゃなか。
波に乗るってことたい。
ダメなのは、調子に乗り過ぎて図に乗ること。
実るほど、頭を垂れる稲穂かな」

JK:これいいわね。お母様に代わって書いたんですか?

辻:そうです。一語一句覚えてるわけじゃないんですが、この人突然いいこと言うんですよ! この時は確かサーフィンの話をしてたんですよ。たしかサーフィンに例えて「波に乗ってる人間をみてごらん、あれが調子に乗ってるってこと。そこで変なことをやって転落するのが図に乗るってことだよ」って言ったんです。その時は書けなくて、あとから思い出して書きました。

JK:お料理も大きいわよね! 「食べることは生きること」

辻:だから、苦しいと思ったらじゃんじゃん炒めてがんがん食え、って言われてました。今でも自分が落ち込んでるときは、息子から「ほら、じゃんじゃん炒めてがんがん食えばいいじゃない」って言われます(^^)

出水:まあ、息子さんも!

辻:僕ら時々、「ああ、今日は鬱だ鬱だ」「また始まったよ、パパの鬱が」って言ってるんです(笑)「どうしようもない、今日はもう掃除洗濯はしないぞ!」って言ったら息子が「じゃあ、じゃんじゃん炒めてガンガン食うか」みたいな。それで2人で餃子作ったり、ピザ作ったり。

JK:食べると治る(笑) 今仕事は? 陶芸の仕事とか?

辻:今も刺繍をやってます。もう84で、1回大手術して、一度死にかけてるんですあ、まだ元気ですね。あと10年は元気そうです。そうそう、この本が出た直後にどこかのTV局が、母さんを主役に番組を作りたいって言い出して(笑) この人言うこと聞かないから、僕は弟と悩んでたんですが、どっかから小耳に入ってきて「私は出るよ」って!

JK:主役やるつもりね!

辻:それで福岡まで撮影隊が来てくれて・・・矍鑠としてるんですよ! 全然そんな人じゃないのに! どういうことなのこれ!カッコつけすぎでしょ!って(笑)みんなに「素敵なお母さんですね」って。違う違う、こんな人じゃありません(笑)

出水:お母様はこの本を読まれた?

辻:いや、出るまで内緒にしてたんですよ。覚えてないこともいっぱいあるから「これ私が言った言葉じゃありません」って言われると困るなと思って見せなかったんです。でも番組が決まっちゃって、それもまずいから「読んでみて」って言ったら、「お前は悪い子だ」って言われました(^^;)やんちゃでいたずらしかしない子だ、って。

JK:うちの親も『カーネーション』ってドラマになったでしょう。こういうのがあると、だんだん膨れ上がって、ストーリーができて、うちの親が亡くなってもまだまだ続いている。だから本を残すっていうのはものすごい親孝行よ。

辻:生きてるってことですよね。

JK:今までのマサカは?

辻:いや僕は多すぎて! 青天の霹靂っていうのはいっぱいあるんですけどね。僕はいま息子と2人で暮らしてますけど、そんなことは一度も思ったことなかったですからね。子育てをして、この子を大学まで入れて社会人にするなんて、思ってもいなかった・・・しかも男手一つで。これがマサカです。マサカっていうのは一瞬じゃなくて、長い人生の中でじわじわと打ち寄せてきて自分を包囲しているものが「マサカ」なのかなって。

JK:でも、こうやって男手で育てられた人とか世の中にもいると思うけど、いい例だと思う。

辻:フランスで暮らしてて一番面白いなと思うのは、PTAとか行くと8割がたお父さんなんですよ。

JK:あらそう! 日本は全部お母さんよ??

辻:びっくりでしょう?! 父親が子供の教育に関心が高いんです。自分の子どもを立派に育てたいっていう意欲があって、お母さんを押しのけてPTAに行く。だから僕も最初PTAに行くの恥ずかしかったんですけど、ママ友もいっぱいいるけど、パパ友もいっぱいいるんですよ。

JK:いいわね、いい社交場っていうか。

辻:だから僕のコンサートにもパパ友が来てくれるんです。聞いてきた音楽が一緒だから。わりとコンサートでお客さんが増えてきたひとつのきっかけが、息子の学校の親御さんたちが最初にファンになってくれて(笑)それで人を連れてきて。今は本当に満杯になったんで、続けてればこうなるんだなあって。全部パパ友ママ友から始まってます(笑)

JK:へぇ~! 子どものおかげね! うちもそういう経験一杯あるけど。

辻:今はパリの中心地に住んでるんですが、あったかいんですよ。その周りのカフェとか、バーとか、レストランとかスーパーとか・・・全員友だちなんですよ! 知り合いじゃなくて、全員友だち。抱きしめ合うぐらいの。

JK:へぇ! もうそこが故郷なのね。

辻:呼ばれたらみんな遊びに来るし。多分、ここまでフランス社会に溶け込んでる日本人って僕ぐらいだと思う。バーやカフェで飲んでたら代金はサービスって言われて、払うよって言ったら「あっちのバーに、あそこのカフェのマスターがいるでしょ?彼が今日はプレゼントだ」って。

JK:すごい下町な感じ! 楽しくてしょうがないわね。

辻:これがよくあるんですよ! 「あんたの本読んだけど、面白いからお金いらない」って。僕は父親が転勤族でしたから、生まれたのは東京ですけどあっちこっち点々としてたんで、これが故郷かなって。

出水:フランス社会にそれだけ入っていく秘訣って何なんですか?

辻:日本人の観光客に言いたいんですけど、スペインやイタリアでも同じですが、地元民でにぎわっているお店は本当に最高なんだけど、外国人は怖くて入っていけない。でもそうじゃない。まずど真ん中まで行くっていうのが僕のポリシー。一番デカい連中が飲んでるカウンターの真ん中。ちっちゃい日本人が入っていって「ビア、シルブプレ」(笑)そうすると周りの連中は興味持つじゃないですか。カタコトで仲良くなったら、次の日も同じ場所に行くんですよ。「また来たね、お前」ってなる。そしてその翌年もそこに行く。そうすると友だちが増えていく。

出水:ああ~、顔見知りが増えていくんですね。

辻:必ず自分をアピールして、ど真ん中に立て! 端っこにいて、旅行者みたいにしてると石投げられるかもだけど(^^)真ん中に行ったら悪口も言われないですよ。

JK:そうだ! なんでパリなの?って聞きたかったの。ミュージシャンだったら真っ先にロンドンでしょう?

辻:僕はフランス文学が好きだったし、哲学が好きだったし、シャンソンが好きだったし。あとフランス映画が好きだったんですよ。フランスの映画を撮るのが夢で・・・フランスにも映画人の友だちがいて、もう20年いるけどさすがにそこだけはもうちょっと時間がかかりそう。なかなか実現しない。小説は10冊ぐらい出てるので、名刺代わり。名刺を持たないから、仲良くなったら1冊あげるんですよ。ちょっとキザだけど(^^;)

出水:おっしゃれ~!

出水:でも、それで一気に認められるわね。

辻:アジア人ってちょっとバカにされるんですよ。僕はバカにされるの大嫌いだし、されたことない。横柄だから、差別されたら差別し返すっていうのが僕の人生哲学。何か言われたら、言い返せば相手もリスペクトしてくれる。黙って逃げれば、やっぱりって思われちゃう。ある日いきなり「君は何をしてるの? いつも昼間からビール飲んだりしてるけど、只者じゃないと思う」って言われて、「作家で本を書いてるんだよ」って1冊渡すと、まあ皆さん文学とか大好きだから、一瞬で “先生”に変わる(笑)でも、5年も10年も何も言わないわけ!

JK:時間がかかるのよね。ある意味京都と似てる。入りにくいのよ。いったん入ったらものすごく仲良くなるのに。

辻:すごい仲の悪いパン屋のおばちゃんがいたんですけど、最近愛想がいいんですよ。「なんで笑顔になったの?」って訊いたら、「あんたが作家だって聞いたから」って(^^)「私、本が大好きなの」って。変わり者は多いけれど、愛すべき人たちがフランス人。日本と対局的だけど、似てるなぁとも思います。

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辻仁成“Dear Friend” ~60th ANNIVERSARY CONCERT~”
会場:東京・Bunkamuraオーチャードホール
日時:2020年5月24日(日)開場16:00 開演17:00
料金: S席7,000円(税込)のみ発売 
※プレミアムシートSS席はSOLD OUT
※振替公演チケットの一般発売日:2020年2月22日(土)~
問い合わせ:https://www.red-hot.ne.jp/
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=OA楽曲=

M1. 冬の虹 / 辻仁成

「コシノジュンコ MASACA」
TBSラジオで、毎週日曜17:00-17:30放送中です。ラジオは、AM954kHz、FM90.5MHz。パソコンやスマートフォンでは「radiko」でもお聴きいただけます。