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「映画『ハスラーズ』をより楽しむための音楽ガイド〜ジャネット・ジャクソン編」(高橋芳朗の洋楽コラム)

ジェーン・スー 生活は踊る

音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる洋楽コラム(2020/02/07)

「映画『ハスラーズ』をより楽しむための音楽ガイド〜ジャネット・ジャクソン編」

【高橋芳朗】
今日はこんなテーマでお送りします! 「本日公開! 映画『ハスラーズ』をより楽しむための音楽ガイド〜ジャネット・ジャクソン編」。

恒例の映画の劇中で使われている音楽を解説するシリーズです。今回は本日より公開の『ハスラーズ』を取り上げたいと思いますが、この映画の挿入歌に関しては2月3日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』での特集で一通り紹介済みで。僕とスーさんで一緒に出演して映画の見どころを語り尽くしてきました。radikoタイムフリーなりラジオクラウドなりでぜひ聴いてみてください

【ジェーン・スー】
ギャーギャー騒いでまいりました。

【堀井美香】
ああ、そうなんですね。

【高橋芳朗】
なのでここではまた別の切り口から、この劇中で大きくフィーチャーされているジャネット・ジャクソンにフォーカスして映画の魅力に迫ってみたいと思います。『ハスラーズ』はジャネット・ジャクソンの曲で始まってジャネット・ジャクソンの曲で終わる構成になっているんですよ。

では、まずは映画の概要を紹介しましょう。「2008年のリーマンショック後のニューヨークを舞台に、ストリップクラブで働く女性たちがウォール街の裕福なサラリーマンから大金を奪う計画を立てた実話を映画化。監督/脚本は『エンド・オブ・ザ・ワールド』のローリーン・スカファリア。出演は『クレイジー・リッチ!』のコンスタンス・ウー。そして自ら製作総指揮にも名を連ねているJ.Loことジェニファー・ロペスのダブル主演」。ジャンル的には実録犯罪映画になるのかな? 女性の友情や連帯を意味する「シスターフッドムービー」と紹介されることも多いようです。

そんな『ハスラーズ』のオープニングに流れるのが、ジャネット・ジャクソンの1986年のアルバム『Control』のタイトル曲「Control」です。これはジャネットが当時マネージャーだった父親の支配下から逃れて「自分の人生は自分でコントロールするんだ!」と決意表明する彼女の自立のプロセスを歌った曲になります。監督自身が「コントロールこそが作品全体を貫くテーマである」と明言しているように、このジャネットの「Control」は実質的な映画のテーマソングと言っていいんじゃないかと思います。

おもしろいのは、曲の冒頭のジャネットの独白「This is a story about control」(これはコントロールについての物語)をそのまま主演のコンスタンス・ウーの登場シーンにオーバーラップさせているんですよ。つまり、あたかも映画のテーマをジャネット自身に語らせているような演出を施しているわけです。これはなかなか粋なオープニングでしたね。

M1 Control / Janet Jackson

【高橋芳朗】
スーさんがバリバリ踊っております!

【ジェーン・スー】
最高!

【高橋芳朗】
いや本当に最高! ジャネットの曲をこうしてフェミニズム的な文脈で使った映画はおそらくこの『ハスラーズ』が初めてだと思うんですけど、女性の自立を前面に打ち出した『Control』というアルバムは本来フェミニズムや女性のエンパワメントと非常に相性がいいと思うんですよ。実際、2016年にはこのアルバム『Control』がフェミニズム的な観点から注目を集めるちょっとした事件が起きていて。

【ジェーン・スー】
へー!

【高橋芳朗】
その事件というのは、このアルバム『Control』に収録されている大ヒット曲「Nasty」をめぐる騒動になります。2016年10月のアメリカ大統領選の最終テレビ討論会の際、富裕層への増税について発言したヒラリー・クリントンに対して、ドナルド・トランプが彼女に「Such a nasty woman」(なんていやな女だ)と捨て台詞を吐いて女性蔑視的な発言として大問題になったんですよ。日本でもそこそこ大きく報じられたので覚えている方も多いと思います。

【ジェーン・スー】
ああ!

【高橋芳朗】
このトランプの発言は多くの人々にジャネット・ジャクソンの「Nasty」を連想させることになったようで、討論会の映像に「Nasty」をかぶせた映像が作られてSNSでめちゃくちゃ拡散されたんですよ。さらに『Control』のジャケットのジャネットをヒラリーに差し替えた画像も作られて、「#IamNastyWoman」や「#NastyWomanUnite」といったハッシュタグと共にSNSで拡散されてTwitterでトレンド入りする事態にまで発展して。

【ジェーン・スー】
「あなた方の思い通りになる人間ではない」という意思表示だよね。自分の思い通りになる女性に対して「いい女」と肩書きをつけるのはどこの国も一緒だから。

【高橋芳朗】
その結果、音楽配信サービスのSpotifyではジャネットの「Nasty」の再生回数が一気に250%アップしたんですって。

【ジェーン・スー】
アハハハハ!

【高橋芳朗】
トランプの発言を受けてリバイバルヒットしてしまったというね。この「Nasty」はそもそもストリートハラスメント、街で声をかけてくるウザい男をあしらう曲で。だから女性たちによる反トランプのテーマ曲としてうってつけの内容なんですよ。

あと、この曲にも先ほどの「Control」と同じようにジャネットの自立が表現されていて。歌詞のなかには「My last name is control / No, my first name ain’t baby / It’s Janet」(私のラストネームはコントロール。ファーストネームはベイビーなんかじゃない。ジャネットだよ)という一節があるんですよ。これはもはやアティテュードとしてはR&Bシンガーというよりラッパーですね。非常に力強いエンパワメントソングだと思います。

この「Nasty」をめぐる一件、そして今回の『ハスラーズ』での「Control」によって、ジャネットのアルバム『Control』はフェミニズムの新しいシンボルになっていくのではないかと考えています。

M2 Nasty / Janet Jackson

【高橋芳朗】
ジャネットのアルバム『Control』と映画『ハスラーズ』の関係としては、もうひとつ非常に重要なトピックがあって。主演のジェニファー・ロペスがエンターテイメントの道を志すようになったきっかけは、実は彼女が17歳のときに見た『Control』収録の「The Pleasure Principle」のミュージックビデオなんですよ。

BGM The Pleasure Principle / Janet Jackson

これは昔からジェニファー・ロペスのどのインタビューを読んでもピンポイントで「The Pleasure Principle」を挙げているから、彼女にとってものすごく大切な思い入れの強い曲なのだと思います。

ジェニファー・ロペスは「ジャネット・ジャクソンは私のダンスとミュージックビデオの最大のインスピレーション源です」と公言しているほどジャネットをリスペクトしているんですけど、彼女がすごいのはジャネットへの憧れを出発点にしてそれから6年後、24歳のときに当のジャネットとの共演を実現してしまうんですよ。

【ジェーン・スー】
すごいよねー。

【高橋芳朗】
それが1993年のジャネット・ジャクソンの大ヒット曲「That’s The Way Love Goes」になります。この曲のミュージックビデオにはまだ無名に等しかったジェニファー・ロペスがバックダンサーとして出演していて。彼女は冒頭の寸劇にもからんでいてかなり目立っているから、きっと見れば一発で確認できると思います。ジェニファー・ロペスが「もってる」と思うのは、結果的にこの曲はジャネットのキャリアで最大のヒット曲になっているのに加えて、90年代のR&Bを代表するエポックな曲にもなっているんですよね。

M3 That’s The Way Love Goes / Janet Jackson

【堀井美香】
この曲は昔からずっと聴いていましたけど、いま芳朗さんの解説を聴いて初めてどういう歌なのかがわかりました。

【高橋芳朗】
まさかこの名曲のビデオにジェニファー・ロペスが出演していたっていうね。彼女はこの「That’s The Way Love Goes」のビデオ出演を経て、このあとジャネットのワールドツアーへの参加を打診されるんですよ。でもジェニファー・ロペスは「Control」のジャネットよろしく「自分の人生は自分でコントロールするんだ!」と決意したんでしょうね。彼女は自分の将来を見据えて「いま自分が本当にやるべきことをやらないと」という理由からそのオファーを断るんですよ。

ジェニファー・ロペスはそれで女優業に専念して、2年後の1995年に『ミ・ファミリア』で映画デビュー。その後1997年には『セレナ』で初主演を務めて見事ゴールデングローブの主演女優賞にノミネートされることになります。「That’s The Way Love Goes」のビデオからたった4年でここまで上り詰めているんですよ。

このジェニファー・ロペスの足跡を踏まえると、今回自ら製作総指揮を務めて役者としても勝負をかけてきた『ハスラーズ』において、オープニングとエンディングをブックエンドのようにジャネットの曲で挟んだ構成にちょっとグッときてしまって。彼女のジャネットに対する感謝と敬意を感じるんですよね。

【ジェーン・スー】
本当だよね。泣ける!

【高橋芳朗】
そんなわけで、最後は映画と同じようにジャネット・ジャクソンの1989年のナンバーワンヒット「Miss You Much」で締めくくりましょう。これがまためちゃくちゃ粋な選曲なんですよ。この曲はもともとプロデュースを手掛けているジミー・ジャムが長年付き合って別れたかつての恋人から「I miss you much」(あなたがとても恋しい)と書かれた手紙をもらったことに着想を得ているそうなんですけど、この映画では「あなたがとても恋しい」という歌詞を劇中のコンスタンス・ウーとジェニファー・ロペスのシスターフッド、女性同士の友情と連帯に重ね合わせているんです。映画のビターな余韻にかすかな希望を加えるナイス選曲ですね。

【ジェーン・スー】
そうだね、この曲で少し気持ちが明るくなる。

M4 Miss You Much / Janet Jackson

【高橋芳朗】
というわけで本日公開の映画『ハスラーズ』、ここでは劇中で大々的にフィーチャーされているジャネット・ジャクソンにフォーカスしてみました。そして実はこの映画のパンフレット、ジェーン・スーさんが寄稿しております!

【ジェーン・スー】
書いてます!

【高橋芳朗】
これがまためちゃくちゃ素晴らしい解説なのでぜひ皆さんチェックしてみてください。

【ジェーン・スー】
いやー、頭のなかでずっとジャネットが踊ってるわ。最高!

―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ――
当ラジオ番組では「日々の生活に音楽を」をコンセプトに、音楽ジャーナリスト・高橋芳朗さんによる洋楽選曲を毎日オンエア。最新1週間のリストは以下です。

2月3日(月)

(11:06) Never Be The Same / Christopher Cross
(11:23) Don’t Ask Me Why / Billy Joel
(11:35) Romeo’s Tune / Steve Forbert
(12:14) Him / Rupert Holmes
(12:51) Goodies / EPO

2月4日(火)

(11:04) Jolie / Latimore
(12:12) We The Two of Us / Betty Wright
(12:22) You’re the Song I’ve Always Wanted to Sing / Timmy Thomas
(12:48) Keep it Up / Milton Wright

2月5日(水)

(11:05) The King Is Half-Undressed / Jellyfish
(11:26) Diane / Material Issue
(11:38) Bubblegum Factory / Redd Kross
(12:12) Do You Have to Break My Heart / The Darling Buds
(12:25) Can’t Get You On My Mind / Adam Schmitt
(12:50) Slip Away / The Primitives

2月6日(木)

(11:04) These Days / Nico
(11:22) The Wailing of the Willow / Nilsson
(11:37) Punky’s Dilemma / Simon & Garfunkel
(12:12) I Wish You Could Be Here / The Cyrkle
(12:22) Pretty Girl Why / Buffalo Springfield
(12:50) Imagination / Chad & Jeremy

2月7日(金)

(11:06) Brick House / Commodores
(11:27) Saturday Nite / Earth Wind & Fire
(11:37) Ffun / Con Funk Shun
(12:10) Let’s Have Some Fun / The Bar-Kays