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マジンガーZの格納庫は72億円「前田建設ファンタジー営業部」岩坂照之さん

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
2月1日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、「前田建設ファンタジー営業部」の岩坂照之さんをお迎えしました。ファンタジー営業部というのは実際には存在しません。本職は茨城県取手市にあるオープンイノベーションの拠点である「ICI総合センター」のインキュベーションセンター長です。

建設会社の面白さを伝えたい


岩坂さんは1968年、東京都生まれ。日本大学理工学部を卒業し、1993年、前田建設工業に入社。東京湾横断道路「アクアライン」や地下鉄東京メトロ南北線「永田町駅」などの建設に携わりました。岩坂さんは建設の仕事の魅力や面白さを伝えようと、2003年、社内の仲間たちとユニークなウェブサイトを始めました。「マジンガーZ」「銀河鉄道999」といったアニメの中に出てくる架空の建造物を実際につくるとしたら工期と建設費はどのくらいでできるのか、大真面目に見積書を作成して会社のホームページで公開したのです。そのサイトの名称が「前田建設ファンタジー営業部」です。

これが大反響を呼んで、前田建設の採用試験に応募してくる学生は急増。ファンタジー営業部の活動は書籍化され、舞台化もされ、ついに、岩坂さんたちをモデルにした映画『前田建設ファンタジー営業部』もつくられました(2020年1月31日から全国ロードショー)。

岩坂さんは入社2年目から土木設計部でアクアラインや地下鉄のトンネルを掘るためのシールドマシンをどうやって機械化・自動化するかを考える仕事を担当しました。

「どうやって組み上げてひとつの巨大な機械にすればいいかとか、どこをどう自動化したらいいかということを考えるんですけど、言ってみれば空想を形にする、現実のものにする仕事でした。そのプロセスがとても面白かったんです。でも、建設がこんなに面白いということが世間には知られていないんじゃないだろうか。こんなに面白い仕事なんだってことをもっと知ってもらいたいなという思いを持つようになったんです。そうしたら同じような思いを持った若手が5人集まるようになったんです。建設業のことをみなさんに分かっていただくのはなかなか難しいので、ただ仕事をしていればいいんじゃなくて、どんなことに頭を使いどんなことに汗をしてみなさんからお金を頂戴しているのかということを、自分たちから分かりやすく伝えるべきだよねという話し合いをしていたんです」(岩坂さん)

ホンダのロボットに触発


岩坂さんたち若手5人は「建設に興味がない人にもこの仕事の面白さを伝えたい」という熱い思いはあるものの、具体的に何をすればいいのかなかなか思いつきませんでした。でも、考え続けているとどこからかヒントが見つかるものです。1997年、ホンダが人型ロボット「P3」(ASIMOのプロトタイプ)を発表。ここから岩坂さんたちはひとつのインスピレーションを得ました。

「ロボットの技術にも感動したんですが、お子さんからお年寄りまで、P3を見たたくさんの方が喜んでいる光景に感動したんです。正直言うと、嫉妬したんです。なんで建設会社もこういう驚きとか感動を生み出せないのかなあと。そのとき、『うちはロボットはつくれんけど、ロボットの格納庫ならつくれるな』と思い付いたんです。それが原点です」(岩坂さん)

昔よく見ていたマンガやアニメの中に登場する建造物でいまの技術ならできそうなものを選んで、本気で工期と建設費の見積もりを出したら面白いんじゃないか…。岩坂さんがそんなアイデアを伝えると、仲間たちから賛同の声が返ってきました。それから数年間はそのアイデアを静かに温めることになるのですが、2002年に異動した総合企画部で岩坂さんがその話をしたところ火が付いて、ファンタジー営業はいよいよ本格的に始動すしたのです。ちなみにファンタジー営業部という名称は、当時、広報グループにいた女性が考えたものだそうです。記念すべき最初の物件は、ロボットアニメの金字塔「マジンガーZ」(原作・永井豪。テレビ放映は1972年~74年)から、マジンガーZの格納庫に決まりました。

2003年「ファンタジー営業部」始動!


岩坂さんたちは2002年の夏頃から、会社の上層部に対して「ファンタジー営業部というWeb企画をやらせてほしい」とお願いするようになりました。「マジンガーZの格納庫」という空想世界を題材にして、建設会社は巨大な建造物をつくるときにどんなことに頭を使い、どんなことに苦労し、最終的にどんなふうに具体的な形(見積書)にまとめるのかという一連のプロセスを、建設業に全く興味がない人たちに楽しく知ってもらいたい。そのために、前田建設工業の公式ホームページに「ファンタジー営業部」というサイトをつくって、見積書作成までの過程を月1回連載・全7回で公開させてほしい、と。

当初、会社の上司は全く取り合ってくれませんでした。意味が分からん。目的も分からない。仕事でも何でもないオタク趣味ために、関係する機械設備メーカーなどにも協力を仰ぐのか。第一、例え架空のものにせよ会社とって大事な情報が詰まっている見積書を公開するのはいかがなものか。

また、マジンガーZを題材にするなら著作権の問題をクリアする必要もあります。岩坂さんたちがアニメの権利を持っている広告代理店や制作会社に出向いて企画を必死に説明すると「数千万円払えばできますよ」という回答。有志5人の熱い思いだけではどうにもならない金額に思わずめまいを覚えながらも、原作者の永井豪さんご本人にアプローチ。説明を聞いた永井さんの頭の中は「???」。それまでマジンガーZの模型やおもちゃの話はいろいろあったけれど、岩坂さんたちがつくりたいのは主役のロボットではなく格納庫。それもおもちゃではなく〝本物〟。でも、それは実際に建設はせず(当然です)、ウェブサイトで見積もりを公開するだけ。永井さんは岩坂さんたちが何をしたいのか、何のためにこんなことをやろうとしているか、まったく分からなかったそうです。それでも「なんだか知らないけれど面白そうだから」ということでOKしてくれたのでした。

マジンガーZの格納庫は72億円


前田建設ファンタジー営業部は、マンガやアニメなど空想空間の建築物だからといって、どんぶり勘定で見積書を作っているわけではありません。実際にダムやトンネルをつくるときと同じように、まずマジンガーZの格納庫はどのくらいの大きさなのかということから始まって、格納庫は日本のどこにつくるのか、土壌の条件はどうか、周囲の環境や生態系への影響はどうか、格納庫内にはどんな設備が必要か、その設備を発注するメーカーはどうするか…などなど、あらゆることを真剣に検討するのです。

「結構、大変だったんですよね。つまり架空の格納庫なんですが、これを本当につくるっていう発想でやるんですから」(久米さん)

「どこにつくるつもりだったんですか?」(堀井さん)

「それはアニメ作品に忠実にやらなきゃならんわけです。だからそれは前田建設が決めるんじゃなくて、あくまで永井豪先生の設定、あるいは東映アニメーションさんの設定、あるいはファンのみなさんの心の中にある納得していただける場所につくらなければいかんわけです。そういうのを調べるのが非常に手間がかかるんです」(岩坂さん)

「どこなんですか、マジンガーZは?」(堀井さん)

「やっぱり昔のアニメなので設定に〝揺れ〟があるんですけど、最終的にはある本の記述と(永井豪さん原作の『魔神全書』という本の中に「富士山麓の南」と書かれているそうです)、それから我々前田建設の工事現場が近くにあったという理由で、富士宮市に(笑)」(岩坂さん)

「あははは」(久米さん)

「ふふふふ」(堀井さん)

「いや、土の状態をちゃんと分かって施工の計画をしなきゃいけないので」(岩坂さん)

「土質(どしつ)ですね」(久米さん)

「おっしゃる通りです。土質を分かって設計しないと失礼ですから。それで土質のボーリングをするためには、すでにある現場を使うしかない。それで当時、富士宮にシールド現場ありましたので、富士宮シールドのボーリングデータをそのまま使って設計しました」(岩坂さん)

岩坂さんたちファンタジー営業部の面々は、社内の関係部署はもとより、実際の現場でお世話になっている他社にも協力をお願いしました。これも実際の建設プロジェクトを進めるときとと同じです。ただしこちらはあくまで空想の建造物です。ふざけるなと怒られても仕方がないと思いつつ、岩坂さんたちが相談すると…。

「マジンガーZって、格納庫から舞台のセリのように26m上がって発進する。そうすると、そのエレベーターをつくってもらわなきゃいけない」(岩坂さん)

「えっ、ほかの会社も巻き込むんですか?」(堀井さん)

「エレベーターの会社とかスプリングの専門会社とかに相談に行くんです。向こうもまた、いい会社が多いですね」(久米さん)

「そうですね。自分の仕事をたくさんの方に伝えたいという気持ちが結構みなさんおありでして」(岩坂さん)

「でも一文にもならないんだよ(笑)。それで当時はファンタジー営業部のサイトもほとんど見る人がいなくてね。そこに『協力:○○株式会社』って、ちょこっと名前が載るだけ。ちょこっと乗るだけなのに心血を注いでね」(久米さん)

「会社にお願いしに行ったときも、『アクセス数がいくつになるかわからない前田建設ファンタジー営業部というサイトに名前が載るだけです』って正直に言ったら、それでも『やりましょう!』って言っていただいて。それは本当に感動しました」(岩坂さん)

他社からも協力を得ながら、細かいところまで考えてマジンガーZの格納庫の設計を進めます。でも、思いもよらないアクシデントに出くわすのが建築の現場。ファンタジー営業部でもそんなことがありました。アニメを全話、細部までチェックしているうちに、それまでには全く描かれていなかった設定が出てきたのです。

「とにかく、予期せぬ出来事がやたら起きますよね。マジンガーZって、プールの水がふたつに分かれて下からグワーッて上がってくるんですけど、69話で突然、マジンガーZが格納庫の中で横移動するんです。全部で92話ですから、結構後半になって大問題が出てきたんです。だって縦に上がるだけでも大変なのに、横移動はないだろうって(笑)」(久米さん)

「そうなると格納庫の設計は変更です(笑)。また他社さんに設計のやり直しをお願いしました」(岩坂さん)

ファンタジー営業部の一進一退の進捗状況がウェブサイトの連載で公開されると、実際の建設の仕事がいかに骨が折れるかが分かります。同時に、〝空想〟が〝現実〟のものになっていく面白さも伝わってきます。これこそが岩坂さんたちが多くの人に知ってもらいたいと思っていることなのです。

こうして他社や研究者たちにも協力を仰いで積算した結果、マジンガーZの格納庫は、建設費 72億円、工期6年5ヵ月という結果になりました。

ファンタジー営業部でほかに公開されているものでは、

  • 「銀河鉄道999」の地球発進用高架橋 37億円。
  • 「機動戦士ガンダム」ジャブロー基地 2532億円。

となっています。

ファンタジー営業部がリアルになった!


いま岩坂さんは茨城県取手市にある前田建設工業(株)ICI総合センターのインキュベーションセンター長を務めています。ICI総合センターは前田建設工業のオープンイノベーションの拠点。ここでの仕事に、ファンタジー営業部の経験がとても役に立っていると岩坂さんは言います。

「建設業は、ただつくるだけの時代は終わったんです。つくったインフラをどう使っていただくかという時代になったんです。『アズ・ア・サービス』って言ったりしますけど、いまのビジネスモデルは、モノの提供から、サービスの提供に変わっています。建設業界にもその波が来ています。ITとか新しい技術を使ってどんなサービスを提供できるか、そのためにはどんなインフラをつくればいいか、そしてそれをいかにして維持するかということをやっています。それは私たち建設業界の人間だけじゃできないんです。どうしても発想が現実的な枠におさまってしまうんですね。ファンタジー営業部でやってきたことって、いままでの建設業だったらまず接触しない業界の方と話をすることなんですね。そうしたらあるとき経営コンサルタントの方から『岩坂さんたちがやってることって、オープンイノベーションですよね』って言われたんです。そのときはそんな言葉も知らなかったんですけど(笑)。オープンイノベーションって、他社とか、大学とか、地方自治体、ベンチャー企業とかいろんな異業種の方たちと、アイデアとかノウハウを出し合って、組合せて、新しいビジネスモデルをつくることです。言われてみればそうだなって、あとから気づいて(笑)。それが、いまICI総合センターでやってることなんです。だから、ファンタジー営業部でやってきたことが、リアルファンタジー営業部になっているんです」(岩坂さん)

そして岩坂さんはこんなこともおっしゃっています。

「ファンタジー営業部をやってきたメリットは、やっているぼくらがいちばん勉強になることです。いろんな業界の一流の人に話が聞けて、しかも、企画が終わったあとは〝仲間〟になるんです。文化祭が終わったあとみたいな感じになるです、ほんと。これがいちばんの財産ですね」(岩坂さん)

岩坂照之さんのご感想


久米さんと堀井さん、お二人とも目がお優しくて、「大丈夫だよ」と言っていただいているような気がして一生懸命しゃべることができました。

久米さんは本当に知識が豊富でいらして、シールドトンネルの話をあんなにされると思わなくて(笑)。もう少しちゃんと説明できればよかったと後悔ばかりですね。でも途中から私も楽しくなって、緊張してるのにものすごく笑ってしまったところもありました。とは言いながら、サラリーマンなので、社長になるんですか? なんて聞かれると、急に会社のメンバーの顔が浮かんだりして。あれは汗をかきました(笑)。

また、ファンタジー営業部で他社さんにお話をしに行くことの大事さを掘り下げて聞いてくださって、本当にありがたかったです。ICI総合センターのことまで聞いていただいて、ICIのみんなや一緒にやっているベンチャー企業の方もすごく喜んでくれると思います。本当にいい経験になりました。ありがとうございました。



「今週のスポットライト」ゲスト:岩坂照之さん(前田建設ファンタジー営業部)を聴く

次回のゲストは、ゴディバジャパン社長ジェローム・シュシャンさん

2月8日の「今週のスポットライト」には、高級チョコレートブランド「ゴディバ」を日本で展開する「ゴディバ ジャパン」の代表取締役社長、ジェローム・シュシャンさんをお迎えします。7年間で売上を3倍に伸ばした凄腕経営者。日本の弓道の精神がビジネスに活かされているそうです。

2020年2月8日(土)放送「久米宏 ラジオなんですけど」http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20200208140000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)