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宇多丸、『CATS』を語る!【映画評書き起こし 2020.2.7放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

今週評論した映画は、『キャッツ』(2020年1月24日公開)。

オンエア音声はこちら↓

宇多丸:

さあ、ここからは私、宇多丸がランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのはこの作品……『キャッツ』

(「Jellicle Songs For Jellicle Cats」が流れる)

やったー!(笑) 本当にこれ、いいんだよな。1981年、ロンドンで初演されて以来、世界で8000万人以上の観客動員を誇るミュージカルの金字塔『キャッツ』を、最新VFXを使い映画化。満月が輝く夜、ロンドンの路地裏に捨てられた白猫ヴィクトリアは、年に一度、特別な1匹の猫を選ぶための舞踏会に参加する、個性豊かな猫たちに出会う。出演は、英国ロイヤルバレエ団プリンシパルのフランチェスカ・ヘイワード。この彼女が抜擢されました。

その他、ジェニファー・ハドソン、テイラー・スウィフト、ジュディ・デンチ、イアン・マッケラン、イドリス・エルバなど。ちなみにジュディ・デンチさんは、1981年の初演の時に、グリザベラ役とかでキャスティングされていたんだけども、ケガをしちゃって降板した、という、その経緯もあるというキャスティングでございます。監督は、『レ・ミゼラブル』などのトム・フーパー。また、オリジナル舞台の作曲を務めたアンドリュー・ロイド=ウェバーが、製作総指揮とかね、あとは今回のテイラー・スウィフトとの新曲とか、いろんな形でも関わっております。

ということで、この『キャッツ』をもう見たよ、というリスナーキャッツのみなさま、<ジェリクルリスナー>からの監視報告(感想)をニャーニャーとメールでいただいております(笑)。ありがとうございます。メールの量は、「多め」。前評判を知り、怖いもの見たさで足を運んだ人が多かった様子……先に言っておきますけども、要するに、世界中で大酷評の嵐。阿鼻叫喚の大酷評の嵐で、興行的にも、世界的には……日本はね、興行収入、初週で1位も取りましたし、あれでしたけど。世界的には大不評だ、という前提で、怖いもの見たさで足を運んだ方が多かったと。賛否の比率は「褒め」「ダメ」「普通」とそれぞれ同じ比率。ただし褒めてる人も、「欠点の多い映画だ」とは認めている。

褒めている人の主な意見は、「なんだかすごいものを見た。音楽や歌が素晴らしく、最後には涙した」「セットも豪華で俳優たちのダンスも素晴らしい」「ここ数年で一番の珍作。カルトムービーとして今、劇場で見ておいて損はない」などがございました。一方、主な否定的な意見は、「不気味な猫人間に最後までに慣れなかった」「いくら元のお芝居通りとはいえ、ストーリーがなく、映画として観るに堪えない。映画にする意義が感じられなかった」などなどがございました。

 

■「『飽きる』だの『キモい』だの散々な言われようですが、『キャッツ』は元々そういうものなのです!」(byリスナー)

代表的な感想を紹介しましょう。ラジオネーム「ミュオタ」さん。「初めてメールさせていただきます。私は海外ミュージカルファン歴20年の30代女性です。同じくファン歴10年、11歳の息子とファンではない娘・9歳と一緒に字幕版を見てきました。結論から申し上げます。今回の映画版、最高です! まず作者のアンドリュー・ロイド=ウェバーに対する敬意がしっかり払われた出来だったと感じています。「Overture」をはじめ、各曲の音作りが忠実で別物になっていません」。この方、この間のジョン・ファヴロー版の『ライオン・キング』は、音が原曲からいろいろ変えられちゃって台無しだった、という風におっしゃられている。

「……98年のDVD版を意識した出来となっており、歌曲の様々な点での影響を見ることができました。巷では歌曲だけのストーリー展開に『飽きる』だの『猫の見た目がキモい』だの散々な言われようですが、仕方ないではありませんか。『キャッツ』は元々そういうものなのです!」という。で、いろいろ書いていただいてですね。「……舞台版に対するオマージュあふれた今回は、欠点を補ってあまりある出来でした。たとえばゴキブリのシーンはあえてケーキを取り入れたことにより、舞台版の円形劇場を再現。これには膝を打ちました」。なるほど、なるほど。

「何よりもラストシーンの”あれ”。あれが上空に上っていくシーンは、まさにあの映画化もされた、某伝説的ミュージカルのまさにアレに対するオマージュ!」。これは僕は気づかなかったあたりですね。あの、あれが上空に上っていくシーンに対する僕の意見というのは、また別にあるんですが。はい。「きっと監督はこれがやりたくて映画化したのではないでしょうか。このシーンだけでも5億点です」というご意見でございました。

一方、否定的な意見もございます。ラジオネーム「山田」さん。「昨年、初めて劇団四季版『キャッツ』を観劇し、今年二度目の観劇をするほどには『キャッツ』が好きです。以下は全て劇団四季版との比較になります。『キャッツ』という舞台はストーリー性は低く、結末は非常に宗教的で、『それは幸せなのか?』と疑問に残ります。有名なわりにはいびつなカルト的魅力のある作品です。特別な存在“ジェリクルキャッツ”に選ばれるために、様々な猫が歌い踊るアピール合戦の中、犬と猫の喧嘩(なんで?)が挟まり、崇拝されている長老ネコが犯罪王に誘拐されて、マジックしてる間に見つかり、第四の壁をぶっ壊して『いかがでしたか?』と猫たちが観客に話しかけ、『猫は犬にあらず』と、知っとるがな! みたいなことを朗々と歌い上げる」という(笑)。「前半で一定数の観客が振り落とされます。寝ている人がわりといます」。

わかる。オレも最初、すごい面食らいました。「話、ないやん!」ってね(笑)。「……それでも『キャッツ』に魅了されるのはなぜか? 中毒性のあるアンドリュー・ロイド=ウェバー作の楽曲。そして身体性を存分に活かした素晴らしいダンスにあると思います。映画版はことごとくダンスをきちんと見ててくれません。何度も何度もカットを割りまくり、『やっと猫の全身が見れる!』と思うと、またカットが割られる。

演者の嘘のない素晴らしい身体性をもCGで台無しにします。空間と距離の把握を観客ができていないのにカット割りが繰り返されるので、連続性がなく、多くのシーンが唐突に感じます。映画にするにはストーリーの強度が弱いことは素人目にも明らかなのに、舞台版に毛が生えた程度のストーリーの補填で効果がわからない変更点も多く、『トム・フーパー監督はもともと過大評価だと思ってたんだよな』とスクリーンと腕時計を見比べながら遠い目をしていました。

酷評するというよりは心配になる作品でした。真面目に真剣に作ったけど間違っちゃってる作品が持つ愛敬みたいなものがある作品でした」。そう。全力で作ってるのは間違いないよね。はい。ということで山田さん、どうもありがとうございました。

 

■あらかじめ劇団四季の舞台やオリジナル版のDVDも観劇。そのときの印象は……

ということで私も、TOHOシネマズ六本木で字幕版、こっちはちょっと入りが寂しい感じでしたけど、それに対してバルト9で日本語吹替版と、2回見てまいりました。そしてこの吹替版には、すごくお客が入ってました。たぶんこの、山崎育三郎さんとかね、大貫勇輔さんといった、ミュージカル畑からのキャストのファンの方々だったんじゃないかな? 男性は僕だけ、ぐらいの勢いで、皆さんね、エンドロールでも誰も席を立たない。ゴソゴソもしないぐらい、本当にお行儀がいい皆さん、っていう感じでね。普段の映画館とはまた違う客層でしたね。はい。

で、先にそこに関してだけ言っておくとですね、この日本語吹替版が、かなりよくできてる!っていう風に私は思いました。まあ恥ずかしながら僕自身は、この前まで完全なる『キャッツ』弱者でございました。今回のね、この映画版が2020年に公開されるというのを、去年、予告などで知って。もしこのコーナーでガチャが当たった時に、肝心の舞台版を1回も見たことがないっていうのもあれだし、そこからいきなりチケットを取って見に行こうとしても、その週のうちにっていうのはたぶん難しいだろう、ということで、念のため、あらかじめ早くからチケットを予約して、この元日にようやく見てきたわけですね。大井町のキャッツシアターに見に行った。

ちなみに僕の奥さんはですね、子供の頃から何度も見て、歌も歌えるくらいの『キャッツ』ファンなので、いろいろと解説なんかもしてもらいながら見たという。で、その結果、今さら僕が言うのも何ですが、まあミュージカルとしての『キャッツ』、大ファンになりました! もう言わずもがななんですけど、本当にとにかくやっぱり、アンドリュー・ロイド=ウェバーの楽曲、どれも素晴らしい。言わずと知れたミュージカル界の巨匠中の巨匠。さすがですね。本当に耳に残るし、楽しい!という感じでございます。

ただですね、その四季版を見て、ちょっといろいろと思うところはあったんですね。まずひとつ気になったのは、日本語詞の歌の乗せ方で。やはり、いろいろとブラッシュアップはしているんでしょうが、その四季版の初演、1983年からも随分と時間が経っていることもあって、今だったらもうちょっと……たとえば、もうちょっと日本語詞でも韻を踏むとか、もうちょっと今風のミュージカルとしてやりようがあるんじゃないか、という風には思ったんです。職業柄もありまして、どうしても思ってしまった。

あとですね、サウンドアレンジも、四季版は正直ちょっと、一昔というかニ昔、三昔前ぐらいの感じがあるな、っていう感じがして。ちょっとそこは引っかかったあたりだったんですね。「ああ、やっぱりなんか古い感じがするな」っていう。で、今回はまずですね、その英語版を見て。それからソフトとして出ている、先ほどメールにもあった98年の、オリジナル舞台の映像化版というのを見て。

それでやはりそちらも、原作がT・S・エリオットが子供たちのために書いたという詩が元だから、当然、要するに元の英語の歌を聞いたら、ライミングを含めた言葉遊びがキモな歌だった、ということも再確認しつつ……今回の映画版、アンドリュー・ロイド=ウェバー御大ご本人はもちろんのこと、グレッグ・ウェルズさんという音楽プロデューサー、音楽アーティストとか、あとは曲によっては……「The Rum Tum Tugger」とか「Macavity」には、ナイル・ロジャースが参加していたりして。まず、サウンドのアレンジは、やっぱり格段にアップデートされてるんですよね。やっぱりすごくちゃんと今っぽい部分も増えているし。

 

■サウンド面が格段に進化。そして日本語吹き替え版がいい!

ということで、アップデートされている。僕なんかはむしろ、今回の映画版で改めて『キャッツ』の楽曲群の真価に、この映画版で気づかされたぐらい。「ああ、やっぱりちゃんとアレンジとかを今風にブラッシュアップしたら、すげえいいんじゃん!」みたいに、気づかされました。歌詞とかもね、元のも「ああ、このライミングの感じが楽しいんだ!」みたいな。

で、さらにさっき言った日本語吹替版。最初の方こそちょっとね、リップシンクのズレとかがやっぱり気になるは気になるな、みたいなのが一瞬あったんだけど、歌詞はしっかりですね……あと、そのリップシンクもだんだん、見てるうちに、「ああ、でもちゃんと気も使ってるな」っていうのも分かってくるし。歌詞はしっかり、さっきから僕が言ってるような部分、たとえばライミング、韻を踏む部分なんかもばっちり押さえた上で、日本語詞としての聞き取りやすさ、飲み込みやすさにも、配慮が行き届いていて。はっきり僕は、劇団四季版よりもブラッシュアップ、アップデートされている日本語吹替版になっていると思います。これ、すごいいい仕事してるな、という風に思いました。

また、日本版キャストの歌唱も、本当に申し分なくて。たとえば、一番わかりやすいところで言えばやはり、最も肝心要の「Memory」ですね。これはもうスタンダードとして、『キャッツ』と関係なく残ってますけども。「Memory」。これもですね、シンガーの高橋あず美さんという方が……この方は元々、(今回グリザベラを演じている)ジェニファー・ハドソンに憧れて、なんかアポロシアターで年間チャンピオンだか、すごいことを成し遂げた人なんですけど。とにかくジェニファー・ハドソン版グリザベラの押しの強さとか、それに引けを取らない歌唱力はもちろん、その緩急の呼吸まで見事に重ね合わせて、文句なしの日本語版「Memory」を成り立たせている、というあたりだと思います。本当に見事だと思いました。

そんなハイレベルな日本語吹替版。プロデュースしたのはなるほど、やっぱりあの『SING/シング』ですよ。僕は2017年3月25日に評しました。これ、公式書き起こしもありますので。ここでも言及しましたが。『SING/シング』と同じく、あれでも他に類を見ないレベルで、本当に素晴らしい日本語版を手がけていらっしゃいました、蔦谷好位置さん。日本を代表する名ポッププロデューサーですよ。蔦谷好位置さんプロデュース。さすが!っていう感じですね。あと、日本語歌詞監修としてクレジットされている、田中秀典さんという方。この方も蔦谷さん同様、agehasprings所属なので。まあ恐らく、この方の果たした役割も大きかったのかもしれません。

ということで、ちょっと長くなってしまいましたが、こと音楽面に限って言えば、今回の映画版『キャッツ』、きっちりこの時代にやるべきことはやっている作品なんですね。で、あまつさえそのアンドリュー・ロイド=ウェバー本人と、テイラー・スウィフトによる、これはこれで「いきなりクラシック!」感、やっぱりさすがとしか言いようがない「Beautiful Ghosts」という素晴らしい新曲まで、加わっているわけだし。さらに言えば、さっきから言ってるように、日本語吹替版も大変良い仕事をしている、ということで。これ、本当に日本語吹替版、おすすめです。

 

■元も子もないことを言えば、そもそも『キャッツ』はあんまり映画化には向いていない

にも関わらずですね……同時に、やっぱりこの映画版『キャッツ』ね、全世界的な酷評の嵐、それがここまでの言われようが妥当かどうかはちょっと置いておいても、なるほどたしかに、万人にすんなり受け入れやすいとは全く言い難い、映画として大変奇妙な作品になっているというのもまた、明らかなあたりでございまして。僕は個人的には、この奇妙な、もうビザールと言っていいような味わい……あとずっと、これは予告を見てる時から「あっ、オレ、このテイストは嫌いじゃないな」と思ったのは、悪夢を見てるようないびつさ。決して嫌いではないんですが……元々ですね、さっきから言ってるように、原作は、T・S・エリオットが子供たちのために書いたという詩の連作。これ、ちくま文庫から出ております。で、81年初演のそのミュージカル版も、直線的なストーリー展開というのは、ないわけですね。僕もちょっと、その四季版を見てすごく面食らいました。「ストーリー、ないな」っていう。

で、じゃあなにかっていうと、いずれ劣らぬ個性的な猫たちの、自己紹介的な歌と踊りが次々と連鎖していくという……まあいわゆる「レビュー」形式ですね。レビュー形式に近い舞台なわけです。脈絡があんまりない、という。作品としてのトーンみたいなのは全然違うけど、『くまのプーさん』がやっぱり直線的なストーリーがなくて、っていう構図と、ちょっと近いものがあるという風に思います。『くまのプーさん』も、あまりのストーリーのどこに行ってるかわからなさに、だんだんと気が狂いそうになってくる、っていうね(笑)。あの感じとも近いものがあるという。あと、言葉遊びがメインだったりも。

で、なおかつそのT・S・エリオットの元の詩というのはですね、猫の生態を擬人化して表現したものだったっていうのを、舞台では、猫に見立てた、80年代的コスチュームですね……あのスパンデックス、要するにレオタードですね。80年代的コスチュームを着て、その猫に見立てた人間たちが演じる、という。つまり、こういうことですね。「人に見立てた猫」を、「猫に見立てた人」が演じる、っていう。で、他にもたとえば、列車に見立ててガラクタとか、犬に見立てた猫とか、そういうさまざまな「見立て」の趣向を楽しむような、まさに舞台芸術ならではの構造が強く前提にあるという、そんな作品なわけですね。非常に、「見立て」が面白い作品なわけです。で、それってもう、舞台ならではの面白さなわけじゃないですか。『キャッツ』はね。

つまり、「直線的なストーリーを持たないレビュー形式」、なおかつ「舞台ならではの“見立て”’ありきの作品」……要はこれですね、元も子もないことを言うようですが、そもそもあんまり映画化には向いていない題材、という(笑)。これはもう分かり切った感じなんですね。で、たとえばその直線的なストーリーがない点をカバーするために、今回の映画版では、舞台版では持ち歌もない、わりと小さな役だった白猫のヴィクトリアというキャラクターにですね、四季版でのシラバブっていうキャラクターがいますけども、シラバブ的な、要するにグリザベラにちょっと寄り添うような役割を加えて、一応の主人公にして。捨て猫として外部から来たその彼女の視点で、一貫した物語性を担保する、という手を取ってるわけなんです。

これ、考え方としてはまあ、理解できますよね。まあまあまあまあ……って思うんですけど。ただ、それが実際の作品上では、あまりうまく機能していない。一貫した直線的なストーリーの推進力に、このヴィクトリアというキャラクターは、やはりあまりなっていない。これがまず、多くの方が本作を見て、少なくとも長編劇映画として退屈、もしくは散漫に感じる、ひとつの大きな要因だと思います。このキャラクターのために抜擢された、その英国ロイヤルバレエ団の現役プリンシパル……すごい人なんです、もうすでに。フランチェスカ・ヘイワードさん。

まあたしかに、当然のことながら、身のこなしから何から、美しい!の一語ですし。表情も愛らしい。ただですね、彼女が実際にやらされていることと言えばですね、次々と登場する、そのアクの強い猫キャラとかシチュエーションを前にですね、毎回……こういうことです。「何やら目を輝かせて、身をくねらせてる」っていう(笑)。とにかくこのですね、その歌や踊りのシーケンスになるたびにですね、彼女を筆頭に、「何やら目を輝かせて、身をくねらせる」っていうショットが、しつこく示されるわけですね。こうやって……クドいんですよ。で、この多くの批判的な評が言っている、「まるで全編、発情しているみたいだ」みたいに評されるんですけど、これはたぶんまさにこの、「何やら目を輝かせて、身をくねらせる」っていう、単調なリアクション演出の頻出が、おそらく原因だと思うんですよ。

で、特にこのヴィクトリアに関しては……この『キャッツ』という作品の特性上しょうがないんだけど、素のセリフみたいなのが、ほぼ無いんですね。『キャッツ』はね。ほとんど全てがその、さっきが言ったような各キャラクターの自己紹介ソングなので。要は持ち歌が元々ないヴィクトリアは、それぞれの歌に部分的に乗っかるか、後はその新曲の「Beautiful Ghosts」、中盤になってようやく出てきますけど、そこでようやくっていうか、なんなら唐突に心情めいたものを漏らすしかなくて。結局のところ、主人公として継続的に観客の感情を引っ張っていくような存在には、どうしたってなりようないんですよ。そもそも無理があるんですね。

ということで、映画的な物語の再構築には、やはりこれはもうはっきりと、失敗している、と言わざるを得ないという風に思います。ヴィクトリアを主人公にしても。で、そういうレベルでなくても、たとえば後半ね、ミスター・ミストフェリーズっていうあのマジシャン猫がですね、何度もそのマジックに失敗するくだりの、クドさと、テンポの悪さとか。あちこちで、理解に苦しむ鈍重な展開が見られて、本当に眠気をさらに加速させている、という(笑)。

 

■猫たちの「気まずい」造形やバッドテイストな具体描写で前半から脱落者が多かったのでは

そしてさらに、映画化に際してもうひとつの大きな懸念としての、さっき言った「見立て」問題なんですけど。たしかにこれね、オールアニメCGの猫キャラかなんかでやっても、その見立ての面白さがゼロになってしまうから、これは『キャッツ』らしさは全然なくなっちゃって面白くない、っていうことになるけど。まあ世界中でやはり、「気持ち悪い」「怖い」と阿鼻叫喚、超絶不評の大合唱の、今回のその猫見立て処理……まあ人間の肉体のプロポーションは、ほとんど裸体そのままのような生々しさも残しつつ、CGで全身に毛、耳や尻尾もくねくねと動いて、これがまた気持ち悪く動物的。それでいて、乳や性器など直接的に性的な要素は、ツルーンとしていて、なきことにされているという。

その結果、人でも獣でもない、しかし妙に生々しくて、なんならやっぱりエロくもある、という生き物が現出することになったという。特にその「やっぱりちょっとエロくもある」っていうあたりが、多くの観客を、はっきり「気まずくさせている」っていう(笑)。これは間違いない。「なんか気まずいな」っていう。しかもですね、このトップバッターが、レベル・ウィルソンがこれ、舞台版よりかなり若くエグく下品なノリで演じている、ジェニエニドッツ。まあガンビーキャットですね。あれのシークエンス。

モロにバスビー・バークレー風ショット。上から見た円形のショットっていうのは、いわゆるバスビー・バークレー風ショットですけども、それが連発されて、「わかりやすくミュージカル的」っていうところではあるんだけど。ここはやっぱりその、子供のネズミたちとかゴキブリ軍団ダンス……しかもね、ゴキブリをわざわざ食べたりとか、非常にそれも悪趣味出し。レベル・ウィルソン自身も、大股びらきとか尻尾を股間に通してゴシゴシしたりとか、そういうまあセクシャルなアクションをわざとやっていたり。要は、特にここはこの『キャッツ』の中でも悪趣味色、バッドテイスト色が、あえて強いシークエンスなんですね。

なので、ここが頭の方に来ることで、いきなり、さらに食らってしまう方が多かった、これでもう脱落!っていう方が多かったんじゃないか、と思います。あとはまあ、ここもそうなんですけども、たとえばジェームズ・コーデン演じるバストファージョーンズ氏のくだり。バストファージョーンズがゴミ箱の中を漁って、中の食べ物をむさぼるところとか、要は舞台では抽象的表現で描かれていたものが、わりとエグめの具体描写で示されることで、ゲッ!ってなるところも多かったです。

具体描写で言いますと、先ほどのメールでね、非常に、とある有名な……たしかにわかります、あるミュージカルへのオマージュだっていうことで評価されてたメールでしたけど、ラスト、「天上に行く」描写も、今回の映画版の描写だとですね、単に島流しとか、姥捨てっていう風にしか見えないよ!っていう風に思ったりとかして(笑)。あと、個人的には、ジェニファー・ハドソンのグリザベラ。もちろん歌唱力は圧倒的ですよね。それはもちろんね。で、その圧倒的な歌唱力、それをアップでグーッと見せる。

作りとしては同じトム・フーパーの、『レ・ミゼラブル』のアン・ハサウェイの絶唱。あれは感動的でしたけど、あのくだりと同じなんですけど。やっぱりジェニファー・ハドソンはですね、少なくと老いた老娼婦猫って……老いては見えないし、そこまでボロボロの、人生メタメタの人にも見えなくて。なんならまだ生命力があふれまくってるように見えてですね、正直その「Memory」のエモーションっていうのが、やっぱり、やたらと押しの強さばかりが際立っているような感じでもあるな、という風に思いました。歌は素晴らしいんですけどね。

今回のその半猫半人『キャッツ』、一番ハマっていたのは、僕は明らかに、ボンバルリーナ役のテイラー・スウィフトだと思いますね。元々いわゆる猫顔なのもあって、自然に似合っているし、彼女の歌うその「Macavity」のシークエンスは、本当にセクシーでかっこいいし、サウンドも、ナイル・ロジャースが参加してめちゃめちゃかっこよかったですし。このマキャヴィティー自身を演じているそのイドリス・エルバ。今回のマキャヴィティーは、はっきりね、今までのマキャヴィティーのそのキャラクター作りと比べて、はっきりドラッグディーラーのメタファーになってて。それはちょっとどうなんだ?っていう気もしなくもないけど、まあかっこよかったし……みたいなのもありますね。

あとね、スキンブルシャンクスのところの、あのタップダンスで鉄道猫を表現するという、あのへんも楽しいし。あとは全体の、その縮尺感覚の狂った世界を表現する、悪夢的、ノワール的美術も含めて、見どころはちゃんとあると思います。

 

■音楽劇として気持ち良く見せてくれないのが最大の問題展。ただし、見るべきところもある

ただですね、全体にこれ、トム・フーパーさんの、完全に癖ですね。落ち着きのない手持ちカメラと、意外とせわしない編集によって、これは否定的なメールもあった通り、単純にミュージカル、音楽劇、もしくはダンス劇として、気持ち良く見せてくれないところが多いわけです。実はこここそが最大の問題点なんじゃないですかね? あんまり気持ち良くないんですよね。

前述の、その要所の絶望的なテンポの悪さとも重なる話なんですけど。トム・フーパーさん。『英国王のスピーチ』、僕は2011年3月19日に評しました。これはともかく、日本では大ヒットした『レ・ミゼラブル』。個人的にはあれも、少なくともミュージカルとしては、相当変なバランスの作品だった、と思っています。手持ちのグラグラした、いわゆる「リアルな」カメラ。そしてその「リアルな」世界観の中で、いきなり朗々と歌い出す!っていう。僕はだからあの時点で、今回の『キャッツ』同様に、「いや、変だろう? 気持ち悪いだろう、これ?」って普通に思ってましたし。

あと、たとえばラッセル・クロウの、「うわー、自殺しなさそう……」感とか(笑)。あとはさっき言ったアン・ハサウェイの絶唱シーン。あれはまあ、すごくうまくいってたと思うけど、それの撮り方とか、実は今回の『キャッツ』といろいろ通じるバランスも多々ある。要は、「ミュージカルとして、いろいろ距離感がおかしくない?」みたいな感じは、前から、『レ・ミゼラブル』の時点から、トム・フーパーはあったよね、という風に僕は思ったりします。はい。

といったあたりなんですが、ただですね、さっきから言ってるように、まず『キャッツ』のミュージカルとしての魅力っていうのを僕自身は改めて発見するぐらい、今回の、少なくとも楽曲面、音楽的なサウンドアレンジとかも、原曲の良さをたしかに殺さずに、でもちゃんと今風、今のレベルにブラッシュアップしてる……という意味では確実に、今やるべきこと、その価値があったと思うし。あと、特に日本語吹替版ですね。これは本当に、日本語バージョンとして、四季版をさらにブラッシュアップ、アップデートしていて。これは素晴らしかった。これ、実におすすめしたいですし。

あとは皆さんがおっしゃるように、やっぱり珍品として、これはこれで捨てがたい味わいがある。後になってみれば、「みんな、あんなに怒ることなかったのに」っていう感じにも落ち着く気もします。というあたりでございます。といったあたりで、少なくとも私がね、とにかく何かっていうと『キャッツ』風のくだりを持ち出してウザがられるぐらいに(笑)『キャッツ』にハマる、といういいきっかけになりましたし。ぜひぜひ皆さん、悪評に惑わされすぎずに、ぜひぜひ劇場でウォッチしてください。

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『ジョジョ・ラビット』です)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

【オマケ。ガチャパートにて】

ということで以上9作品、レッツガチャタイム!

……(出たカプセルを見て)フフフ、『バッドボーイズ フォー・ライフ』か(笑)。まあ、どうかな? どうか……でもウィル・スミス、この前(『ジェミニマン』)やったからな……久しぶりに1万、行っちゃおうかな? 1万出すキャッツ♪ もう1回、回すキャッツ♪ だいたい後悔するキャッツ……あ、『ジョジョ・ラビット』、来た。これでいいんじゃない? 『ジョジョ・ラビット』、行ってみよう! ラビット、キャッツ♪ 金返せ、キャッツ♪ ウィル・スミスのせいキャッツ♪ 違うキャッツ♪(笑)

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