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令和と陽水からわかる日本語の奥深さ~ロバート・キャンベルさん

コシノジュンコ MASACA

2019年1月26日(日)放送
ロバート・キャンベルさん(part 1)
アメリカ、ニューヨーク出身。近世文学から明治期文学を専門とする日本文学研究者。東京大学名誉教授、国文学研究資料館館長。TVのMCやコメンテーター、新聞や雑誌の連載・書評など様々な分野で活躍していらっしゃいます。

JK:今日はようこそいらっしゃいました!

RC:コシノさんとはいろんなところでバッタリ出会ってるんです。私の近所のうどん屋さんでさりげなくうどんを召し上がってらっしゃって・・・それって結構難しいことですよね、コシノ・ジュンコさんが“さりげなく”近所でうどんを召し上がるって(笑)

JK:日本語がこれほど流暢で、いったいどうなってるのかってことを、今日はひも解きたいです!

出水:ロバート・キャンベルさんが日本にいらしたのはいつごろ? 今で滞在は何年目ですか?

RC:移り住んでから34年ぐらい経つと思うんですが、その前に学部生のときに東京に留学してたんですね。それがちょうど20歳ぐらいのとき。1979~80念から1年ぐらい。それが初めてだったんです。

JK:ニューヨーク出身でしょ?

RC:はい、ブロンクス。両親はブロンクスで生まれて育ってるんですけど、その上の世代がアイルランドの農村から渡ってきたんです。

JK:アイルランドの人って背が高くて、ひゅ~って人が多いですよね。

RC:そうですね、あとはすごく色が白い。お酒に強かったり(笑)アイリッシュウィスキーとかね。ちょっと泥炭の香りがするような、スモーキーなお酒ですね。

JK:寒いからそれでまずはきゅっ!と乾杯するんでしょ?

RC:それが最初で、最後までずっと飲み続ける(笑)アイルランドの人たちはゲール語も話しますけれど、基本は英語。でもブロンクスの周りがプエルトリコの人やイタリア南部の英語が話せない人だったり、ユダヤ系のイディッシュ語が聞こえてきたり。周りがみんな違う言葉を使っていた。僕が日本語に出会ったのは19歳のとき、大学に入ってからなんですけれど。

JK:いろんな言葉を聞いてたから、逆に日本語に興味を持ったのね。

RC:そうですね。周りに日本語がまったくなかったんです。大学に入ってから日本の美術の授業を受けて、日本美術がすごく面白いなと思って。桃山時代から江戸初期の風俗屏風がありますよね。たとえば京都の洛中洛外図とか、有名な舟木本というものをスライドで見せられて・・・雲の上から何百人も描かれていて、言葉は何もないのに人の声が聞こえてきて。ファッションがものすごくぶっとんだ傾奇者が街を闊歩していたり。

JK:俯瞰ね、鳥観図。

RC:それで先生のところに行って「屏風がすごく面白いのでもうちょっと調べたい」と言ったら、「それはいつでも調べられるから、まずやるべきは日本語を覚えることだ」って言われた。大学1年生の時です。でも僕は、それは違うんじゃないかって先生に立てついたんです。だって見ればわかるじゃないですか、人が何をやってるかって。僕はもっとビジュアルから入りたいという思いがあったので、何度か先生に言ったら「だから19歳は困る、若者はバカ者だ」って(笑)

JK:Foolish boyとか? (笑)

RC:この屏風には、ものすごくたくさんの物語があって、その物語をあなたが読めるようになれば初めて発見ができる。自分のオリジナルの解釈は、実はここに秘められている言葉にあるんだって。

JK:その通りね! そういう意味では令和の由来につながるんじゃないですか? 万葉集の。

RC:すごく嬉しかったのは、ひとつには僕が日本文学の研究者で、万葉集という最古の詩集から元号をとったというのもあるんですが、あれは歌=ポエムですよね? イベントだったわけです。大伴旅人の庭園の中で、みんなで梅が散るのを見ながら、その日の主人、つまり大伴旅人が「1人1人が歌を作りましょう」と言った。

JK:梅の咲くころだったんですか?

RC:みんなが庭に集まって梅を見ながら・・・寒いですから、多分厚着をしながら、ウィスキーのショットグラスじゃなく日本酒を飲みながら(笑) そして彼は32人の32首の歌をまとめて、漢文で序文を書いているんです。その中に「初春の令月にして気淑く風和ぎ」とあるわけです。その「令」と「和」という字をとって、「令和」という全く新しい言葉をつくって、時代のブランディングにしているんです。

JK:梅の花のことを言っているの?

RC:令月っていうのは気持ちいい季節のころ合いのこと。2~3月ですね。梅って言うのは百花に先駆けて、冬の雪の中から美しい香り高い花を咲かせるもの。日本では、こらえて我慢して、力を蓄えて生まれ変わるというシンボルなんです。今までは「平成」にしても「大正」にしても「明治」にしても、為政者の目線の名前だったんです。でも「令和」っていうのは生活する人たちの目線。今日もスタジオに入るときはちょっと寒かったけれど、天気が良くて、いい風だな、いい光だなと思った。その一瞬の「ありがたい」という気持ち、大好きな2人に会えて、まぁジュンコさんはちょっと怖いけど(笑)そういう私たちの日常の感覚が、日本のたくさん何百ある言語の中に凝縮されているスペシャルな言葉だと思うんです。

JK:素晴らしい! 新しい文化の始まりっていう意味にぴったりですね。

RC:今の時代にもふさわしいと思うんですね。分裂であるとか、政治に対する不信であるとか、私たちを結び合うものは何なのかと考えたときに、政りごとであるとか正しくあろうという言葉よりも、もっとシンプルに言葉を越えて、宗教を越えて、人種とは関係なくみんなが通じ合えるメッセージ。それが「令和」にはあると思うんです。

出水:キャンベルさんといえば、井上陽水さんの50曲を英訳された本が発売されていますよね。

JK:これはどういうきっかけ?

RC:東日本大震災の年に大きな病気をしまして・・・感染症だったんですけれども、病院に入った時に生きるかどうなるか分からない数日間を経て、生き残ることは分かったんですけれども、2か月ほど入院しなくてはいけない。そしてその半年後に再入院して、心臓病の手術をしなければいけない。そして手術の2か月前は何もしてはいけない。先生が私はワーカホリックだということを知っていたので、その間編集者も入れてはいけない、同業者も入れてはいけない、と。少なくとも1か月は安静にしてくださいって言われたんですよ。

JK:へぇ~!

RC:とにかく生きなきゃならないから、分かりましたって言ったんですけど・・・ずっと言葉と競って格闘して、自分なりに理解したり、学生に教えたり、物を作ってるつもりで生きてきたので、こういう1日過ごすのが辛いんですよ。そのとき僕は20代のころから陽水さんを聴いていたんですが、その時陽水さんの歌が次々浮かび上がってきたんですね。僕は暗い気分だったので、闇の中の歌の歌詞が、夜中の消灯後に浮かび上がってきて、それを紙に翻訳し始めたんです。そうするとちょっと気持ちが楽になることがわかって、1日1曲、写経するように翻訳することで自分の気持ちが楽になっていったんです。ちょうど6週間ぐらいあったので、50曲いけるかもしれない、と思い。

JK:英語のニュアンスと日本語のニュアンスって違うんじゃない?

RC:いや、ニュアンスどころじゃないんですよ。日本語がわからないんですよ! 「いっそセレナーデ」という歌がありますよね。あの「いっそ」って何? わかります?

出水:あぁ・・・

RC:わからないでしょ? 「セレナーデ」に「いっそ」という言葉がマッチする訳って? でも私たち陽水ファンはずっと何も考えずに、すっと薬のように、すっと入ってきて胸が熱くなる。

JK:病院のなかってクリーンだから、すっと入ってくるのよね。余計な邪念がないし。

RC:私はそういう中でも暗い歌に魅かれるわけです。一番真っ先に思い出したのが「青い闇の警告」という歌なんです。ガラスが砕け散って、その破片を拾って、自分の心のように並び替えるような歌。それがちょうど僕が病室で街の風景をみながら、千々に砕け散ったような、鋭いものを拾っているような気持ち、その時の思いと重なって、思い出して翻訳したんです。それは上手くいったんですけど・・・だけど、「少年時代」の中に「風あざみ」って言葉が出てきますが、存在しない日本語なんですね。でもそれがすっと自然に入ってくる。他の言葉に置き換えられないくらいにすっ、と。

JK:説明することではないですよね。想像ですよね。

RC:ただ翻訳するということは、英語で読む人が、日本人であってもアメリカ人であっても、同じような追体験ができるように、臨場感をもって読んでほしい。どうやってそれを英語に置き換えるかっていうのはすごく難しい。

JK:たとえば英語とフランス語だったら、フランス語のほうが・・・ポエムっぽいとか?

RC:(フランス語のほうが)しっくりくることもありますね。僕もあえて英語じゃなくてフランス語に翻訳している箇所があるんです。「覚めない夢」っていう歌があるんですが、私はThe dream goes on=見続ける夢、夢が続く、としたんですね。陽水さんは最後に英語で1行入れてるんです。「Just a little love/思い出ばかり」 それを英語に翻訳すると、Just a little loveをそのままにするとフラットになってしまうんですね。日本語との段差がなくなって全然面白くないので、「Juste un peu d’amoureux/ Still same old memories」という風にフランス語と混ぜて、英語から日本語になるときの気圧が変わるニュアンスを表現しました。そういうところが陽水さんの歌詞にはある。ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞しましたけれど、僕は井上陽水さんにも文学賞を与えたらいいと思います!

JK:それいい! 文化庁で推薦してもらいましょう!

RC:だから僕は詩集として翻訳したわけです。日本語として再発見した。英語に翻訳して、もう1回日本語に戻ってくる。日本語の難しさだけじゃなくて、面白さや不思議さ、奥行きが感じられます。

=OA楽曲=

M1. 覚めない夢 / 井上陽水

「コシノジュンコ MASACA」
TBSラジオで、毎週日曜17:00-17:30放送中です。ラジオは、AM954kHz、FM90.5MHz。パソコンやスマートフォンでは「radiko」でもお聴きいただけます。