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「オスカー作品賞ノミネート! 映画『ジョジョ・ラビット』をより楽しむための音楽ガイド」(高橋芳朗の洋楽コラム)

ジェーン・スー 生活は踊る

音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる洋楽コラム(2020/01/24)

「オスカー作品賞ノミネート!映画『ジョジョ・ラビット』をより楽しむための音楽ガイド」

【高橋芳朗】
本日はこんなテーマでお送りいたします。「オスカー作品賞ノミネート! 映画『ジョジョ・ラビット』をより楽しむための音楽ガイド」。

今週も先週に引き続きアカデミー賞作品賞にノミネートされた映画の音楽についてお話したいと思います。今回取り上げるのは先週17日(金)から公開になった『ジョジョ・ラビット』です。

【ジェーン・スー】
気になっているんだけど、どういう話かいまいちよくわかってないのよ。

【高橋芳朗】
そういう人は結構多いかもしれないですね。一応「第二次世界大戦下のドイツを舞台にしたヒューマンエンターテインメント」という触れ込みなんですけど、これがコメディ映画でもあり反戦映画でもありラブストーリーでもあり、そしてひとりの少年の成長譚でもあるという、非常に多様な魅力を持った映画なんですよ。

僕がこの映画に興味を持ったのは予告編の音楽がきっかけで。第二次世界大戦下のドイツが舞台であるにも関わらず、モンキーズの「I’m a Believer」やデヴィッド・ボウイの「Heroes」が使われていたんですよ。「I’m a Believer」はオリジナルではなくジャック・ホワイトによるカバーなんですけど、両方ともドイツ語バージョンを使用しているあたりに強いこだわりを感じて。それでちょっと調べてみたらどうやら時代設定に関係なくポップミュージックを使っていく映画であることがわかったという。そういう経緯ですね。

【ジェーン・スー】
ほう。そういうことだったのね。

【高橋芳朗】
まずは映画の概要を紹介しますね。「第二次世界大戦下のドイツ。10歳のいじめられっ子の少年ジョジョはイマジナリーフレンド(空想上の友人)であるヒトラーの助けを借りながら立派な兵士を目指している。そんなある日、ジョジョは自分の家にユダヤ人の少女エルサがかくまわれていることに気づく。ユダヤ人は悪と教えられていたジョジョは戸惑いながらも、エルサとのぎこちない交流を通して次第に強く勇敢な彼女に惹かれていく。監督は『マイティ・ソー バトルロイヤル』のタイカ・ワイティティ。主な出演はジョジョの母親役にスカーレット・ヨハンソン、ジョジョを指導するナチスの教官役にサム・ロックウェル。同じくナチス党員役で売れっ子のコメディエンヌのレベル・ウィルソンなど」。

こうした出演者のラインナップやポップミュージックを使った演出からなんとなく想像がつくと思うんですけど、ナチスドイツや戦争を題材にしながらも映画自体の体裁はすごくポップなんですよ。劇中で使用される言語もドイツ語ではなく英語だったりして。それで冒頭のタイトルバックでいきなり度肝を抜かれたんですけど、ヒトラーに熱狂する戦時下のドイツ民衆の実際の映像にかぶせてビートルズ「I Wnat To Hold Your Hand」のドイツ語バージョンが流れるんですよ。

【ジェーン・スー】
へー!

【高橋芳朗】
ビートルズは1964年当時にドイツのファンに向けて「She Loves You」と「I Want To Hold Your Hand」をドイツ語で録音していて。ここではその音源を使っているんですけどね。

この選曲がなにを意味しているのかというと、まだナチスの意味もよくわからないまま無邪気にヒトラーを偶像視している主人公の少年ジョジョと1960年代のビートルズフィーバーを重ね合わせているのがひとつ。そしてさらに、この物語が少年ジョジョとユダヤ人少女エルサとの淡い恋を描いたものであることも示唆しているのではないかと。

だからものすごくシニカルな意味が込められた選曲ではあるんですけど、同時に「I Want To Hold Your Hand」というピュアなラブソング本来の魅力もちゃんと活かしているわけですよ。しかもそれを映画の舞台であるドイツ語のバージョンでかけるという。映画の題材的に使用の許諾を得るのにはかなり苦労したようなんですけど、実際めちゃくちゃ大胆かつ攻めた選曲だと思います。

M1 Komm gib mir deine Hand / The Beatles

【高橋芳朗】
いきなりビートルズの有名曲がかかるわけですから、さっきも話したように『ジョジョ・ラビット』は戦争を題材にしながらも体裁自体はすごくポップなんですよ。どういうポップさかというと、共にオスカーでノミネートされているかわいらしい美術や衣装、それからどこかほのぼのとした映画全体を覆うムードも含めて、ウェス・アンダーソン監督作品に通じるところがあって。同じ子供が主役ということもあって個人的には『ムーンライズ・キングダム』(2012年)を思い出したりもしました。

音楽の使い方でもウェス・アンダーソンっぽいセンスだなと思ったのが、トム・ウェイツの「I Don’t Wanna Grow Up」(1992年)が流れるシーン。少年たちが一人前の兵士になるべくハードな実地訓練を受けている様子をモンタージュで見せながら、そこにトム・ウェイツのあの酒焼けボイスで「大人になんてなりたくない。いいことがあるなんてちっとも思えない。みんななりたくもないものになっていく。でも今日を生きていくためには仕方のないことなのさ」という歌詞がオーバーラップしてくるんですよ。ちょっとシュールな場面なんですけど、こうしたナチスや戦争を戯画化した演出がこの映画の大きな特色になっています。

M2 I Don’t Want To Grow Up / Tom Waits

【高橋芳朗】
曲がかかっているあいだに話していたんですけど、なんでも堀井さんはトム・ウェイツが大好きということで。

【堀井美香】
そうですね。私はビートルズのメンバーも言えないんですけど、トム・ウェイツは大好きで。

【ジェーン・スー】
おじいちゃんが好きだから?

【高橋芳朗】
トム・ウェイツは堀井さん好みのおじいちゃん感とはちょっと違うんじゃない?(笑)

【堀井美香】
すごい聴いてましたよ。

【ジェーン・スー】
へー、そうなんだ!

【高橋芳朗】
でも堀井さんのイメージに合うかも。

【ジェーン・スー】
これは堀井さん向けにトム・ウェイツ特集をやらなきゃね。

【高橋芳朗】
うん、やりましょう!

【堀井美香】
ありがとうございます。

【高橋芳朗】
では続けますね。この映画、第二次世界大戦下のドイツが舞台であるにも関わらずわざわざ現代のポップスを使っているぐらいだから、一曲一曲にちゃんとしっかりした意味が込められているんですよ。たとえばロイ・オービソンのこれもドイツ語バージョンで使われている「Mama」(1962年)。この曲はジョジョの母親役のスカーレット・ヨハンソンのテーマソング的に流れてくるんですけど、これがヒトラーに心酔しているジョジョを頭ごなしに否定するのではなく対話を重ねながら優しく導こうとする彼女の慈愛を見事に体現した素晴らしい選曲で。またスカーレット・ヨハンセンが『マリッジ・ストーリー』に続いて素晴らしい母親を演じているんですよ。今回のオスカーの主演女優賞と助演女優賞のダブルノミネートも納得の好演でしたね。

あと、ジョジョがいよいよ戦争の悲惨さや愚かさと向き合うことになる場面で流れるラヴの「Everybody’s Gotta Live」(1974年)。これは「みんな生きてみんな死んでいく。みんなただ良い人生を送りたいだけなのに」という戦時下の庶民の声を代弁するような歌詞なんですけど、この曲の歌詞には「He couldn’t hardly tie his shoes」(彼は靴紐を結ぶのにも苦労していたね)という一節があって。おそろしいことに、劇中では靴紐がジョジョの成長を示すひとつのメタファーとして使われているんですよ。

【ジェーン・スー】
へー、本当にいろいろな意味があるんだね!

【高橋芳朗】
うん。これもまたすごい選曲だなと。

M3 Everybody’s Gotta Live / Love

【高橋芳朗】
最後はデヴィッド・ボウイ「Heroes」(1977年)のドイツ語バージョン。最初に話したように予告編でも流れていた曲ですね。

デヴィッド・ボウイの「Heroes」といえば、ボウイが1970年代後半に西ベルリンに住んでたころに作ったいわゆる「ベルリン三部作」の代表曲。サビの「僕らはヒーローになれる。今日一日だけなら」という一節があまりにも有名ですが、この曲はベルリンの壁の監視塔のもとで落ち合うカップルを描いた曲なんですね。

さらに言うと、デヴィッド・ボウイは1987年6月に西ベルリンのベルリンの壁近くの広場で壁に背を向けるような格好でコンサートを開催していて。これはボウイ自身「過去最も感動的なコンサートだった」と語っているんですけど、特にこのときに演奏した「Heroes」については「さながら賛美歌のようで、ほとんど祈りに近いものがあった」とコメントしているんですよ。このコンサートでは壁を挟んだ東側にも約5000人のオーディエンスが集まったそうで、何台かのスピーカーは東ベルリン側に向けられていたという逸話も残っています。

このコンサートの開催が直接的にどれだけ影響を及ぼしてるかわからないんですけど、ご存知の通りそれから2年半後の1989年11月にはベルリンの壁が崩壊することになります。そして、デヴィッド・ボウイが亡くなった2016年1月にはドイツの外務省がTwitterを通じてボウイにこんな弔辞を送っているんですよ。「さようなら、デヴィッド・ボウイ。あなたはいまヒーローズの一員になりました。壁の崩壊に力を貸してくれてありがとう」と。

【ジェーン・スー】
ふーん!

【高橋芳朗】
こうした背景を持つデヴィッド・ボウイの「Heroes」が、映画のクライマックスで少年ジョジョとユダヤ人少女エルサのふたりに天から降り注いでくるように流れてくるんですけど、この「Heroes」に関してはいままで紹介してきた劇中の挿入歌と立ち位置が違うというか、ちょっと異なる演出が施されているんですよ。それはここでは伏せておきますけど、その演出によってそれまである種の距離感をもって映画を見ていた我々にも反戦のメッセージが真正面から突きつけられてくることになります。このシーンには本当に心が震えましたね。

そしてこのシーンで改めて痛感させられたのは、デヴィッド・ボウイは本質的に少年少女にエールを送り続けてきたアーティストなんだよなって。帰りの電車で天国のデヴィッド・ボウイに思いを馳せていたら涙が止まらなくなっちゃいました。完全に不審者(笑)。

【ジェーン・スー】
ええーっ! そこまで?

【高橋芳朗】
うん。でもこれは映画に感動したのもそうなんだけど、僕のデヴィッド・ボウイに対する思い入れによるところが大きいのかもしれないです。

M4 Helden / David Bowie

【高橋芳朗】
というわけで、今日は映画『ジョジョ・ラビット』の挿入歌を4曲紹介しました。この映画はアカデミー賞をはじめとする各映画賞で高く評価されている一方で、ナチスやヒトラーの描き方から違和感を示している人も少なくないようで。実際、僕も抵抗感を覚えたという感想をいくつか目にしました。ただタイカ・ワイティティ監督もそのへんはわきまえているようで、あくまで彼は「そういう人にもいつかこの映画を理解してくれるときが来ると願っている」というスタンスなんですよ。そんな監督の覚悟は少年ジョジョのイマジナリーフレンドであるヒトラーを自ら演じていることにも表れているんじゃないかと思います。今年に入ってから毎週のように年間ベスト級の傑作が公開されていてこの怒涛のペースになかなか追いついていけないなんて方も多いと思いますが、『ジョジョ・ラビット』、ぜひ皆さんもトライしてみてください。

―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ――
当ラジオ番組では「日々の生活に音楽を」をコンセプトに、音楽ジャーナリスト・高橋芳朗さんによる洋楽選曲を毎日オンエア。最新1週間のリストは以下です。

1月20日(月)

(11:07) I’ll Be Good to You / Brothers Johnson
(11:27) Hollywood / Rufus featuring Chaka Khan
(11:37) On Your Face / Earth Wind & Fire
(12:14) It Ain’t Because of Me Baby / Bill Withers
(12:49) Uptown / 吉田美奈子

1月21日(火)

(11:10) Brown Eyed Girl / Van Morrison
(11:27) I Dig Rock and Roll Music / Peter Paul & Mary
(11:36) Sweet Peony / Bobbie Gentry
(12:14) The Wine Song / The Youngbloods
(12:50) Down Along the Cove / Bob Dylan

1月22日(水)

(11:04) January / Pilot
(11:24) Now’s The Time / Brinsley Schwarz
(11:37) Last Dance / Raspberries
(12:14) When My Baby’s Beside Me / Big Star
(12:25) Feel Alright / Cargoe
(12:50) Baby Blue / Bad Finger
Prince Buster All Stars – Hey Train (1964)

1月23日(木)

(11:05) Prince Buster All Stars / Hey Train
(11:36) Don Drummond / Garden of Love
(12:13) Roland Alphonso / Sandy Gully
(12:23) Tommy McCook / Rocket Ship
(12:51) Tony Washington & The D.C.’s / But I Do (Honky Tonk Ska)

1月24日(金)

(11:05) Just a Touch of Love / Slave
(11:23) I Feel for You / Prince
(11:35) Fool On the Street / Rick James
(12:11) Go On Doin’ What You Feel / Switch