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「オスカー作品賞ノミネート! 映画『フォードvsフェラーリ』をより楽しむための音楽ガイド」(高橋芳朗の洋楽コラム)

ジェーン・スー 生活は踊る

音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる洋楽コラム(2020/01/17)

「オスカー作品賞ノミネート! 映画『フォードvsフェラーリ』をより楽しむための音楽ガイド」

【高橋芳朗】
本日はこんなテーマでお送りします! 「オスカー作品賞ノミネート! 映画『フォードvsフェラーリ』をより楽しむための音楽ガイド」。

映画の劇中で使われている音楽を解説するシリーズですね。今回は先週10日より公開、第92回アカデミー賞作品賞にノミネートされた『フォードvsフェラーリ』を取り上げたいと思います。

【ジェーン・スー】
意外! 音楽がフィーチャーされた映画というイメージがなかったなー。

【高橋芳朗】
あー、確かにそんなところはあるかもね。では、まずは映画の概要を。「1966年のル・マン24時間レースをめぐる実話を映画化した伝記ドラマ。フォードモーター社からル・マンでの勝利を命じられた男たちが、王者フェラーリを打ち負かすため意地とプライドをかけた戦いに挑む。監督/脚本は『LOGAN ローガン』『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』のジェームズ・マンゴールド。主演はこれが初共演になるマット・デイモンとクリスチャン・ベール」。

【ジェーン・スー】
マット・デイモンとクリスチャン・ベールは初共演なんだね。

【高橋芳朗】
結論から言うとめちゃくちゃおもしろかったです。CGを極力排除したレースシーンの迫力は前評判通り。やはり大画面大音量で楽しんでこその映画という気はしますね。あと、物語としては『フォードvsフェラーリ』であると同時に『フォード上層部vsマット・デイモン』の要素も結構強くて。企業間の戦いと並行して描かれる現場と経営陣の戦いも見応えがありました。

そんな『フォードvsフェラーリ』の音楽ですが、予告編で流れているローリング・ストーンズの「Gimme Shelter」は本編では使われていないんですよ。しかも、この選曲が映画のトーンに合っているとは言い難いものがあって。

【ジェーン・スー】
なるほど。

【高橋芳朗】
劇中で使用されている音楽の傾向は、これからかける曲を聴いてもらえばなんとなくつかんでもらえると思います。本編で数回流れる実質的な映画のテーマソングですね。ジェームス・バートンの「Polk Salad Annie」。1971年の作品です。ジェームズ・バートンはエルヴィス・プレスリーのバンドでリードギターを弾いていた偉大なミュージシャン。これはトニー・ジョー・ホワイトが1969年にヒットさせた曲をインストゥルメンタルでカバーしたものになります。レースの興奮や疾走感を体現する見事な選曲です。

M1 Polk Salad Annie / James Burton

【高橋芳朗】
『フォードvsフェラーリ』で使われている音楽は、基本的にこういうノリのいいごきげんなロックンロールが中心になっています。そんななかでもサウンドトラックのトラックリストを眺めていて目を引くのが、ガレージパンク/ガレージロックと呼ばれるジャンル。これは1960年代半ば、まさに映画の舞台になった時代に台頭してきた音楽ですね。

ビートルズやローリング・ストーンズなど、イギリスのバンドの成功に触発されたアメリカの若者たちが演奏したシンプルで荒々しいロックがガレージパンク。彼らが自宅の車庫/ガレージで練習していたことからこの名前が付けられと言われていますね。「ガレージ」はある種のインディペンデント精神を表す言葉と言っていいと思います。

では、『フォードvsフェラーリ』のサウンドトラックからガレージパンクのサンプルとして一曲紹介しましょう。これはもうガレージパンクを代表するバンドによるガレージパンクを代表する名曲。ザ・ソニックスの1965年の作品「Have Love Will Travel」です。リチャード・ベリーが1959年にヒットさせたR&Bソングのカバーですね。まさに物語のギアが1速から2速にシフトするタイミングでかっこよく流れてくる、劇中で最も印象的な挿入歌のひとつです。

M2 Have Love Will Travel / The Sonics

【高橋芳朗】
レーシングカーのエンジン音をイメージさせるところがあるのか、『フォードvsフェラーリ』ではガレージパンクの荒々しいサウンドが映画の音楽面のひとつの指針になっている印象を受けました。映画のスコアはマルコ・ベルトラミとバック・サンダースが共同で手掛けているんですけど、そのなかにもガレージパンクのサウンドにインスパイアされたと思われるものがいくつかあって。実際ふたりのインタビューを読むと、監督がスコア制作の参考で用意したプレイリストに基づいて意識的に歪んだギターサウンドを取り入れたそうです。

劇中で使われているガレージパンクからもう一曲聴いてみましょうか。ザ・キングスメンの「Money (That’s What I Want)」。1964年の作品です。

【ジェーン・スー】
「That’s what I want♪」だよね。

【高橋芳朗】
そうそう。ビートルズやRCサクセションがカバーしていることでもおなじみのロックンロールスタンダードですが、オリジナルはバレット・ストロングが1959年に放ったモータウンの記念すべき最初のヒット曲。さっきのザ・ソニックス「Have Love Will Travel」もそうですが、ガレージパンクのバンドはリズム&ブルースの曲を好んでカバーする傾向にあるんです。

M3 Money (That’s What I Want) / The Kingsmen

【高橋芳朗】
最後はガレージパンクから離れて、個人的にこの映画の最も印象的な音楽シーンに挙げたいニーナ・シモンの1965年の作品「I Put a Spell On You」。映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の挿入歌としてリバイバルしたスクリーミン・ジェイ・ホーキンスの1958年のヒット曲のカバーですね。

これまで聴いてきた曲の男臭さからも想像がつくと思うんですけど、『フォードvsフェラーリ』は「男のロマン」を地でいく王道の少年マンガ的ストーリーになっていて。主役のふたりが殴り合いの喧嘩をすることによって絆を深めるという、いまどき少年マンガで描いたらソッコーでボツになるようなシーンがあったりするほどなんです。そもそも、役名がついているような女性はレーサー役のクリスチャン・ベールの妻を演じるカトリーナ・バルフしか出てこない。

【ジェーン・スー】
ひとりだけ!?

【高橋芳朗】
うん。ただ、このカトリーナ・バルフがめちゃくちゃ好演しているんですよ。男たちのロマンに翻弄される健気でつつましい妻、という都合のいい役回りだけでは終わらない強烈な存在感を残しています。なかでも特に素晴らしいのが、そのニーナ・シモンの「I Put A Spell On You」が流れるシーンなんですよ。

フォード上層部の意向でレースに出場できなくなったクリスチャン・ベールがもやもやしながらその模様をラジオで聴いていて。そこに妻のカトリーナ・バルフがやってきて、彼女がおもむろにラジオのチューニングを変えるんです。するとニーナ・シモンの「I Put a Spell On You」が流れてきて、彼女がすっと夫に寄り添ってふたりでスロウダンスを踊るという素敵なシーン。

この「I Put a Spell On You」のタイトルは「あなたに魔法をかける」という意味で、浮気ばかりしてる相手に呪いをかけるという内容になります。「あなたに魔法をかけておいた。だってあなたは私のものだから。いつまでも遊びまわっていないでもういい加減大人になったらどうなの?」と恋人をたしなめる歌。

だからこの場面で流れる「I Put a Spell On You」はレーサーの妻として夫を鼓舞する/魔法をかける意味も込めた選曲だと思うんですけど、どちらかというとロマンを追い求める夫に対して「お前の人生には私がいることも忘れんなよ!」という妻の心情を代弁するものなのでしょう。少年マンガ的な男のロマンを描いた映画のなかにあって、音楽を有効に使って女性の存在感を訴えた非常にインパクトのあるシーンでした。

M4 I Put A Spell On You / Nina Simone

【ジェーン・スー】
ちょっと曲調的に任侠映画みたいじゃない? この映画は見てないんだけどさ、自分が出るはずだったレースの模様をラジオで聴いていたら肩にポンと手をかけられて振り返ってみたら妻が立っていて。それで「お前さん、それでいいのかい?」って……もう完全に任侠映画じゃん!

【高橋芳朗】
フフフフフ。女性の存在感を強烈にアピールするという意味では、やっぱり普通のポピュラー歌手とかではなくニーナ・シモンというのが効いているんでしょうね。まさに「ニーナ・シモン力」を思い知らされるというか、音楽史におけるニーナ・シモンのポジショニングも踏まえたようなナイス選曲でした。

―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ――
当ラジオ番組では「日々の生活に音楽を」をコンセプトに、音楽ジャーナリスト・高橋芳朗さんによる洋楽選曲を毎日オンエア。最新1週間のリストは以下です。

1月13日(月)

(11:11) It Ain’t Over ‘Til It’s Over / Lenny Kravitz
(11:26) Shiny Happy People / R.E.M.
(11:42) Roam / The B-52’s
(12:11) Disappear / INXS
(12:19) Freedom! ’90 / George Michael
(12:52) Boys & Girls / サディスティック・ミカ・バンド

1月14日(火)

(11:07) I Want You / Bob Dylan
(11:23) Homeward Bound / Simon & Garfunkel
(11:37) Cactus Tree / Joni Mitchell
(12:14) Man in a Shed / Nick Drake
(12:48) Jennifer Juniper / Donovan

1月15日(水)

(11:05) I Wanna Be Your Boyfriend / The Rubinoos
(11:24) Come On, Come On / Cheap Trick
(11:37) Baby It’s Cold Outside / Pezband
(12:14) Starry Eyes / The Records
(12:24) Too Late / Shoes
(12:50) 10年早いぜ / 近田春夫 & ハルヲフォン

1月16日(木)

(11:03) My Baby Just Cares for Me / Nina Simone
(11:27) ‘Deed I Do / Blossom Dearie
(11:36) It’s Most Unusual Day / Beverly Kenney
(12:11) Exactly Like You / Carmen McRae
(12:21) Tabby the Cat / Lucy Reed

1月17日(金)

(11:06) And The Beat Goes On / The Whispers
(11:26) Here I Am / Dynasty
(11:35) Friends / Shalamar
(12:14) Winners and Losers / Collage