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「映画『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』をより楽しむための音楽ガイド」(高橋芳朗の洋楽コラム)

ジェーン・スー 生活は踊る

音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる洋楽コラム(2020/01/03)

「映画『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』をより楽しむための音楽ガイド」

【高橋芳朗】
2020年一発目の音楽コラムはこんなテーマでお送りします! 「本日公開! 映画『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』をより楽しむための音楽ガイド」。

本日3日より公開になったアメリカのラブコメディ映画『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』。ラブコメディが大好きな僕とスーさんは試写会でひと足先に拝見して「これはもう現行ラブコメの最高傑作だ!」と大興奮。映画の公式サイトに推薦コメントを寄せたうえ、昨年12月には番組主催でトークショー付きの試写会まで開催してしまったという入れ込みようで。

【ジェーン・スー】
詳しい映画評は男性ファッション誌『UOMO』のウェブサイトで私とヨシくんが連載している『ジェーン・スー x 高橋芳朗 愛と教養のラブコメ映画講座』をご覧になってください。

【高橋芳朗】
そうですね。映画の見どころはここでたっぷり語っております。堀井さんもご覧になられたんですよね。いかがでしたか?

【ジェーン・スー】
いかがでした?

【堀井美香】
フフフフフ、ふたりのすごい圧が(笑)。

【高橋芳朗】
ちょっと僕らふたりがこの映画のことを好きすぎるからね。表面上は丁寧に「いかがでしたか?」なんて言いながらも実際は「おい、どうだったんだ!」って詰め寄ってるみたいな構図になってるという(笑)。

【堀井美香】
もうシャーリーズ・セロンがきれいできれいで。彼女のことをずっと見ていました。あと、高校生〜大学生ぐらいのころに聴いていた曲が結構かかっていて。

【ジェーン・スー】
そうなの!

【高橋芳朗】
挿入歌は80年代〜90年代のものが中心ですもんね。

【堀井美香】
それがすごくよかったです!

【ジェーン・スー】
まずはどんな映画なのか、ちょっとヨシくんから説明してください。

【高橋芳朗】
はい。「『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『タリーと私の秘密の時間』などでおなじみオスカー女優のシャーリーズ・セロンと、『40歳の童貞男』のセス・ローゲンが共演したラブコメディ。アメリカ大統領選への出馬を決めた才色兼備な国務長官に恋をした失業中の冴えないジャーナリストの奮闘を、男女逆転のシンデレラストーリーとして描く」と。まあ、いわゆる格差恋愛/格差カップルを題材にしたラブコメディです。

【ジェーン・スー】
男女の場合、男性の社会的地位が上の場合は「格差」とは言われないんですよね。女性が上の場合だけ「格差」と言われる。不思議なトリックがあるんです。

【高橋芳朗】
あんまり使いたくない言葉ではありますね。

【ジェーン・スー】
この『ロング・ショット』では女性がすべてを持っていて、男性がすべてを失ったという設定で。そんなふたりがどうやって結ばれることになるのかってところなんですけど、ヨシくんと私がよく話してるのは「ラブコメ映画はポスターを見た時点で誰と誰が結ばれるのかはっきりわかっている」ということ。この映画のポスターを見ても主演のセス・ローゲンとシャーリーズ・セロンがくっつくのは明白ですからね。そこに至るまでのロードマップをどう描くか、これがラブコメ映画の醍醐味なんですよ。

【高橋芳朗】
今日はそんな『ロング・ショット』の魅力に音楽面から迫っていきたいと思います。まず最初に聴いていただきたいのは、デヴィッド・ボウイの「Modern Love」。1983年の大ヒットアルバム『Let’s Dance』の収録曲です。この曲に関しては映画本編ではなく予告編で使われている曲になります。日本のテレビコマーシャルでも流れているから「おっ、ボウイじゃん!」と反応したリスナーの方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。

この「Modern Love」、もちろんノリの良さで使っているところもあると思うんですけど、ちゃんと映画のテーマを踏まえての意味のある選曲だと考えていて。というのも、『ロング・ショット』という映画はまさにモダンラブ、現代的な恋愛観/男女観にのっとって作られているんですよ。既存の恋愛観/男女観を覆すことに意識的に作られている。白馬に乗った王子様がヒロインを迎えにくる、旧来のラブコメディのセオリーを打ち破った映画なんです。

M1 Modern Love / David Bowie

【ジェーン・スー】
「ラブコメ映画って若い人のものでしょ?」って思ってる人もいるかもしれないけど、この選曲でもう狙い撃ってきてることが伝わったんじゃないでしょうか。もうアラフォーアラフィフが撃ち抜かれまくりだよね。

【高橋芳朗】
そうね。セス・ローゲンとシャーリーズ・セロンが出会うきっかけがボーイズIIメンだったり、随所に『ビバリーヒルズ高校白書』ネタが仕込んであったり。そんなふうに90年代初頭のカルチャーへの引用が多い『ロング・ショット』のなかでも、特に印象的なのが映画『プリティ・ウーマン』へのオマージュになります。さっきも「白馬に乗った王子様が〜」という話をしましたけど、そういう王道ラブコメディの象徴といえる映画ですね。1990年公開、主演はリチャード・ギアとジュリア・ロバーツでした。

【ジェーン・スー】
ねえ。堀井さんも何回も見たって言ってました。

【高橋芳朗】
『ロング・ショット』はその『プリティ・ウーマン』の男女逆転バージョンなんて言われていたりもするんですよ。しかも劇中では実際に『プリティ・ウーマン』の挿入歌を使用していて、それによってこれが『プリティ・ウーマン』のカウンター、旧来型のラブコメのカウンターであることを明確に打ち出しているんです。

その曲はスウェーデン出身の男女デュオ、ロクセットの「It Must Have Been Love」。もともとは1987年にリリースされた曲なんですけど、1990年に『プリティ・ウーマン』の劇中で使用されたことがきっかけになって全米1位を記録しています。実は『ロング・ショット』の『プリティ・ウーマン』オマージュは音楽にとどまらず衣装やセリフでも表現されていて。

【ジェーン・スー】
そうなのよ、いっぱい出てくるの。それを見つけるだけでも楽しいよね。

【高橋芳朗】
うん。そんななかでも「It Must Have Been Love」でシャーリーズ・セロンとセス・ローゲンがスロウダンスを踊るシーンはラブコメ転換期のシンボルになるような名場面だと思います。

【ジェーン・スー】
この曲がかかったときに思い浮かぶシーンが変わっていくということですよね。

【高橋芳朗】
まさに。昨年12月9日に亡くなったロクセットの女性ボーカル、マリー・フレデリクソンの追悼も込めてこの曲を聴いてもらいましょう。

M2 It Must Have Been Love / Roxette

【高橋芳朗】
こんな具合に『ロング・ショット』は劇中で使われている音楽が非常に雄弁な映画なんですよ。ここからは個人的に特に印象に残った音楽シーンを紹介していきたいと思います。

まずはブルース・スプリングスティーンの「I’m On Fire」。1984年の大ヒットアルバム『Born in the U.S.A.』の収録曲です。ブルース・スプリングスティーンというと、ロナルド・レーガンからバラク・オバマまでアメリカの大統領と密接な関係にあるアーティストで。不本意なものも含めて自分の曲がたびたび大統領選のキャンペーンソングに使われたり、民主党のイベントに参加してパフォーマンスを披露したり。

この『ロング・ショット』でも大統領選挙への出馬を決めたシャーリーズ・セロン演じる国務長官はかつて民主党のイベントでブルース・スプリングスティーンと共演したことがあるという設定になっていて。それを受けてセス・ローゲンがシャーリーズ・セロンに「僕が君と一緒に過ごした時間は人生でも最高の瞬間だった。君にとってはスブリングスティーンと共演したことの方が思い出深い体験だろうけどね」と自分の思いを打ち明けるシーンがあるんですよ。ふたりはこれを機に急接近することになるんですけど。

【ジェーン・スー】
ニヤニヤシーンですね。

【高橋芳朗】
そのやり取りの直後に流れるのが、スプリングスティーンの「I’m On Fire」です。文字通りふたりの関係に火がついたということですね。個人的にこのくだりにはめちゃくちゃ唸らされたというか感銘を受けまして。次期アメリカ大統領候補がヒロインの映画でアメリカ大統領選とゆかりの深いブルース・スプリングスティーンを重要なシーンのダイアローグに絡めて、かつスプリングスティーンと大統領選との関係の起点になった「Born in the U.S.A.」の収録アルバムからとびきり情熱的なラブソングの「I’m On Fire」を選曲するという。このセンスは本当に洒落てますよね。

【ジェーン・スー】
この映画の素晴らしいところは、なんの予備知識がなくてもラブコメ映画として思いっきり楽しめるんですよ。でも、深く掘ろうと思ったら結構いくらでも掘り下げられる。隠しコマンドみたいなものがいっぱい仕掛けられているんですよね。

【高橋芳朗】
そう。いまのアメリカの社会情勢やトランプ政権に対するフラストレーションも強く反映されている映画になっています。

M3 I’m On Fire / Bruce Springsteen

【高橋芳朗】
最後にもう一曲、これも映画のとある重要なシーンで流れるアレサ・フランクリンの「Bridge Over Troubled Water」を。サイモン&ガーファンクルが1970年にヒットさせた「明日に架ける橋」のカバーですね。1971年の作品。

「明日に架ける橋」は「あなたが困難な状況に立たされたときは私が身を挺してあなたを助けよう。濁流に架かる橋のように」という内容の歌になります。これはもちろんシャーリーズ・セロンとセス・ローゲンの関係を投影しているものでもあるんですけど、決してそれだけではないというか。重要なのは、サイモン&ガーファンクルではなくあえてアレサ・フランクリンのカバーバージョンを使っているところなんですよ。

僕はこの選曲にウーマンリブやフェミニズムのメッセージも託されているんじゃないかと考えていて。1970年前後のウーマンリブを音楽面から後押ししたアレサによる「明日に架ける橋」が合衆国初の女性大統領を志すヒロインにオーバーラップしてくると、それはもうどうしたって当時の運動の継承を意識せざるを得ないわけで。僕はこのシーンを見ながら「アメリカで女性大統領が実現するのはいつになるのだろう」なんて考えてしまいました。

【ジェーン・スー】
2016年の大統領選では悲願が叶わなかったわけですからね。

【高橋芳朗】
今年アメリカは大統領選がありますからね。この映画は当然それも射程に入ってるんでしょう。

M4 Bridge Over Troubled Water / Aretha Franklin

【高橋芳朗】
2020年の映画界は年明けから話題作が目白押しで。今日はほかにも韓国で記録的な大ヒットになったアクションコメディ映画『エクストリーム・ジョブ』が公開になるし、来週10日からはいよいよ『パラサイト 半地下の家族』、それから『フォードvsフェラーリ』も始まります。そんなわけで新年からなかなかの激戦になっているんですけど、ぜひこの『ロング・ショット』も有力な選択肢のひとつに加えていただきたい。とりあえずは冒頭でも触れたスーさんと僕が『UOMO』のウェブサイトで公開している連載『ジェーン・スー x 高橋芳朗 愛と教養のラブコメ映画講座』をチェックしてみてください。

―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ――
当ラジオ番組では「日々の生活に音楽を」をコンセプトに、音楽ジャーナリスト・高橋芳朗さんによる洋楽選曲を毎日オンエア。最新1週間のリストは以下です。

12月30日(月)

(11:06) Love Love Love / Donny Hathaway
(11:41) One Man Band / The Chi-Lites
(12:15) Don’t Say Good Bye Again / The Jackson 5
(12:23) So Very Hard to Go / Tower of Power
(12:48) You Ought to Be with Me / Al Green

12月31日(火)

(11:07) God Only Knows / The Beach Boys
(11:35) Go Where You Wanna Go / The 5th Dimension
(11:48) A Lifetime Lovin’ You / The Innocence
(12:14) You’ll Be Needing Me Baby / Nino Tempo & April Stevens
(12:24) I Believe Her / The Tradewinds
(12:49) Younger Girl / The Critters

1月2日(木)

(11:15) Mr. Blue Sky / Electric Light Orchestra
(11:28) Get it Right the First Time / Billy Joel
(11:37) With a Little Luck / Wings
(11:45) Who Needs You / Queen
(11:15) Whenever I Call You Friend / Kenny Loggins & Stevie Nicks
(11:24) Right Down The Line / Gerry Rafferty
(12:46) Slip Slidin’ Away / Paul Simon

1月3日(金)

(11:07) Got to Be Real / Cheryl Lynn
(11:27) Happy Man/ Chic
(11:44) Standing Right Here / Melba Moore
(12:14) Don’t Cost You Nothing / Ashford & Simpson
(12:23) Time / Deniece Williams