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新国富指標

森本毅郎 スタンバイ!

忙しい朝でもニュースがわかる「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)8時からは、話題のアンテナ「日本全国8時です」

全国ネットで、日替わりゲストとともに放送。
毎週木曜日は、東京大学名誉教授、月尾嘉男さんの「雑学コラム」!

月尾嘉男

解説は東大名誉教授の月尾嘉男

12月5日(木)は「新国富指標」

新国富指標

今日は最近、注目されるようになった「新国富指標」についてご紹介したいと思います。

国の経済的な豊かさは一般に2種類の指標によって表されます。一つは国内総生産(GDP)で、一定期間にどれだけ富を生産したかという数字で、もう一つは国富(ストック)で、新たな生産に使用できる資産の「在庫」、住宅など建物、道路鉄道など構造物、機械など生産設備などをまとめた「有形固定資産」コンピュータソフトウェアなど「無形固定資産」、土地や地下資源など「非生産資産」、外国にある債権と債務の差引の残高である「対外純資産」の合計から構成されます。

なかなか分かりにくいのですが、個人で考えると分かりやすいと思います。

国内総生産に相当するのは給与や年金などを合計した「年収」になります。国富に相当するのは所有している土地や住宅、自動車や家庭電化製品、貯金と借金の差額などの合計になります。

ところが、最近では、資源の枯渇や環境の破壊などが経済成長を抑制する一方、情報分野の人材が新しい産業を創り出す時代になると、これまで国富に含まれていなかった、そのような要素も国富と考えるべきだという意見が登場し、「新国富指標」が考案されるようになりました。

このような発想は、国際連合の呼びかけで、ノーベル経済学賞を受賞したスタンフォード大学名誉教授の経済学者ケネス・アロー(故人)や、ケンブリッジ大学名誉教授のパーサ・ダスグプタなど20人以上の学者が参加した「富の計測プロジェクト」で作成され、2012年にブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」で提案され、「新国富指標」と名付けられた概念です。

新国富指標の考え方

英語では「インクルーシブ・ウェルス・インデックス(IWI)」ですから、「包括的国富指標」という概念ですが、では何を抱括するかということです。

基本的な考え方は、これまでのように鉱物資源を大量に使用して工業製品を生産すれば、当面の国内総生産(GDP)は増加するけれども、資源が枯渇すれば生産は持続できないし、漁業も大型漁船で次々と漁獲量を増やしていけば当面は経済発展をしますが、今年のサンマのように漁業資源が枯渇してくれば持続できないし、石油を大量に使用して便利な生活をすれば、国内総生産は増加するけれど、地球温暖化が加速して持続的な発展はできないというように、資源も環境も無限ではないという前提で、これまでの国富で使用されてきた要素を見直そうということになったのです。

★三つの要素

そこで従来の国富の対象であった要素をまとめて「人工資本(プロデュースト・キャピタル)」とし、それに追加して人間の教育や健康を「人的資本(ヒューマン・キャピタル)」、石油や金属などの鉱物資源、魚類や森林などの自然資源、自然環境がもたらすエコサービスなどをまとめて「自然資本(ナチュラル・キャピタル)」とする概念が作られ、この3種類の資本を一体にした価値を「新国富指標」としたということです。

この活動を背景に作り出されたのが、最近、話題になることが多い「SDGs(サステイナブル・ディベロップメント・ゴールズ)」で、単純な経済発展を目指すのではなく、世界の貧困や飢餓を減らす、保健や教育を向上させる、海洋資源や陸上資源を保全する、

気候変動対策をするなど17の目標を設定しました。今週の月曜日の12月2日からおよそ2週間、スペインのマドリッドで「国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)」が開かれていますが、そこでも議題になると思います。

やや専門的になりますが、このSDGsの前身として国連が2000年に制定したのが貧困や飢餓の撲滅、初等教育の普及、男女平等の推進、環境保全の推進など8つの目標からなる「MDGs(ミレニアム・ディベロプメント・ゴールズ)」でした。

しかし、2012年に新国富指標が登場したので、17に目標を増やしたのがSDGsです。

★各国の新国富指標

この新国富指標で世界各国を調べてみると興味深い世界の現実が明らかになります。

例えば、過去25年間のGDPの平均増加率が最も大きかったのは中国で、毎年10%弱でしたが、新国富指標の数値の平均は2%にしかなっていません。理由はこれまでの経済成長と考えられていた「人工資本」は成長していますが、「人的資本」は成長が低く、「自然資本」は大気汚染や資源採掘による環境問題が発生してマイナスになっているからです。

サウジアラビアなどは経済成長こそ平均で年率0・7%程度ですが、新国富指標ではマイナス1・1%になっています。

理由は「自然資本」である石油の産出がサウジアラビアの経済を発展させる原動力ですが、それは年とともに減少していく一方、新しい産業が発展していないため「人工資本」も増大しない、すなわち「自然資本」を食いつぶしながらの成長というわけです。では日本はどうかというと、

日本の経済成長は25年間の平均が0・8%で、新国富指標も0・9%でほぼ同じです。

これは道路や空港など社会基盤に投資をしてきたため「人工資本」は増加し、かつ教育水準が高く、平均寿命も長いということで人的資本も増大してきたことが貢献しています。

しかし、見方によっては、その人工資本や人的資本という国富の増加をGDPに反映させる政策が十分に効果を発揮していないということにもなります。

11月中頃に双胴(カタマラン)のヨットでアメリカを出発し、大西洋を横断してポルトガルのリスボンからCOP25の開かれているマドリッドに向かっているスウェーデンの少女グレタ・トィンベリさんが、「私たちは大量絶滅の時代の始まりに立っているのに、大人はお金や永遠の経済成長というお伽話しかしていない」と世界の経済社会を批判していますが、その論点を数字で明確にしているのが「新国富指標」ではないかと思います。

これまで無限に存在すると勝手に思い込んできた「自然資本」は急速に減少し、一部は枯渇さえ心配されているのに、それを無視して経済成長を追いかけてきた世界に、現在、開催されている「COP25」がどのような結論を出すのかは、極端に言えば、人類の将来がかかっているのかもしれません。

月尾嘉男の「日本全国8時です」http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20191205080130

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