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宇多丸、『ジェミニマン』を語る!【映画評書き起こし 2019.11.1放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

今週評論した映画は、『ジェミニマン』(2019年10月25日公開)。

オンエア音声はこちら↓

宇多丸:

さあ、ここからは私、宇多丸がランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのはこの作品、『ジェミニマン』! (BGMを聞いて)……こんな音楽流れてたっけ?(笑) 『ブロークバック・マウンテン』『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』でアカデミー監督賞を受賞したアン・リー監督最新作。51歳のウィル・スミスを最新デジタル技術で23歳に若返らせたり、1秒120フレームのハイレート撮影するなど、最新技術満載のSFアクション。史上最強のスナイパー、ヘンリーは政府に依頼されたミッションを遂行中……「遂行中」ではないですね。遂行後から、若い頃のヘンリーのクローンに襲撃される。主演のウィル・スミスの他、クライブ・オーウェンやメアリー・エリザベス・ウィンステッドなどが出演しております。

ということで、この『ジェミニマン』をもう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「普通」。まあ、公開規模そのものはね……ただ、これ公開形態がごっちゃごちゃでね。めちゃくちゃいろんな種類で公開してるんでね。「同じ映画を見た」と言えるのか?ってぐらいの感じだと思うんだけども。

賛否の比率は半々。ただし褒めている人の多くは「映像やアクションはすごいが、ストーリーが弱い」という感じで、手放しで絶賛してる人は少なかった、という感じでございます。

主な褒める意見としては、「23歳に若返ったウィル・スミスが自然でびっくり」「斬新なバイクチェイスなどアクションシーンは迫力があり、大満足」「『バッドボーイズ』一作目の頃の瑞々しいウィルが見られて眼福」とかがございました。否定的な意見としては「ストーリーやキャラクター描写が雑」「ハイ・フレーム・レート映像特有のヌルヌルした映像が気持ち悪かった」「アクションを見てスカッとしたかったのに、みんなメソメソしていてモヤモヤした」などがございました。

■「鑑賞した映画館の環境によって大きく評価が変わる作品」(byリスナー)

代表的なところをご紹介しましょう。「いーちゃん」さん。「本作は鑑賞した映画館の環境によって大きく評価が変わると思いました。私はTOHOシネマズ日比谷で3Dプラス イン ハイ・フレーム・レート(3D+in HFR)で60FPS(1秒あたり60フレーム)の上映で見たのですが……」。で、これは実は後ほど言いますけども、完全な形態とは言いがたいんですが。「60FPSだと映画のヌルヌルした動きと驚異的な解像度の映像で、まるで画面の向こう側に本当に現実世界があるのではないかと錯覚してしまいそうになりました。なので映像体験だけでも料金分の価値はあったと思います。

またアクションシーンも頑張ってはいて、中盤の長回しで撮ったアクションは映像がクリアであるがゆえにごまかしが利かないということを考えれば、なかなか攻めているなと思います。しかし、ストーリーそのものは二昔前のアクション映画みたいな内容で、全体的にもたついているし適当。一応ウィル・スミス(現在)にはできなかったことをウィル・スミス(若)にさせるという個人の尊厳的な内容はありましたが、クローンの話ではありきたりです。この映像がなければただのつまらない映画だったと思います」ということです。

一方、もっとダメだったという方。いまのは褒めてる方でしたね。ラジオネーム「ユウ」さん。「『ジェミニマン』、ウォッチしてきました。今作、作り手のインタビュー等では画質やVFXなどの映像技術面を押し出しているようで、おそらく『アバター』的な革新的な映像で描く典型的なストーリーを作ったつもりなのかもしれませんが、アクションシーン以外の場面や話の展開があまりにいい加減で、映画の世界に入り込めませんでした。演者の顔をどアップで交互に顔を映すだけの説明的かつ段取りめいた会話が長々と続く一本調子な作劇。どんな場面でも終始垂れ流される説明的なBGM。なんの工夫もない冗長な編集テンポ。しかもそれぞれの要素が説明的なわりに敵も味方も心情的な内面、行動原理を上手く描写できていないので、プロット自体はシンプルで典型的なもののはずなのに、ただ各々がその場の思いつきで行動している人たちによる適当なストーリーにしか見えません。

クローンであるという設定を活かした設定や面白みがほとんどないですね。生き別れた息子だったとしてもこれは成立する話なのでは? またあまりにも画質が良すぎるためか、明るい画面で何かが大映しになると人や物がそのままそこに存在しているという身も蓋もない絵面に見えてしまい、そこがむしろB級映画のような安っぽさを感じてしまいました」。これね。昔の映画のすごい画質が向上したやつを見ると、「あっ!」って思うところ、ありますよね。「あれ? 身も蓋もなくなっている?」みたいなね。「なんかマジックが消えている」みたいなところはちょっと感じる時、ありますよね。

できるだけ環境が整った映画館で見ないと、意味がない!

はい。ということでみなさん、メールありがとうございました。私も『ジェミニマン』、MOVIXさいたまで3Dプラス イン ハイ・フレーム・レート(3D+in HFR)の字幕版、あとはTOHOシネマズ渋谷の字幕2D版で、見比べてまいりました。ということで行ってみましょう。久々に、「上映形式そのもの」が作品の鑑賞体験に大きな違いをもたらす、というタイプの1本が来てしまったという。以前ね、『アバター』以降の、3D映画が出かけの頃に、いろいろ3Dの形式による違い、みたいなものを解説していた時期がありましたが。久々にそういう時期が来たかな、という感じがします。とはいえ、僕自身も完全にその違いについて理解しきってるというわけではないので、ちょっとぼんやりで申し訳ないんですけども。

とにかく今回の『ジェミニマン』は、その革新的な撮影方法、そして上映方式こそが……要するに、VFXとかじゃないんですね。もっとその手前のところ。画期的な撮影方法、上映方式こそが、最も重要な要素、とさえ言っていい1本なので……先に結論を言います。みなさん、できるだけ現状、理想に最も近い環境が整った映画館で見ないと、意味がない! つまり、作品の内容、お話がどうこうとか「だけ」を語っても、大事なところがすっぽり抜け落ちてしまうので、いますぐ……日本だと、いいですか? 「埼玉のMOVIXさいたま」、私が行ったところ、か、「大阪の梅田ブルク7」「福岡のT・ジョイ博多」、この3館です! はい。理由は後で言います。

ドルビーシネマ3D+in HFR、かつ、120FPS上映。でも、実を言うとこれ、後ほど言いますけども、これでさえ完全な理想ではないという。とにかく、行った方がいいよ、いますぐこの3館に行った方がいいよ、というお話でございます。だから後から、全くなんか、そのへんのしょぼい感じの映像の設備とか、ソフトとか、テレビでやっているのとかで見て、「つまんねーよ」とか言っても、それは、ねえ。「それは……」っていう感じかもしれませんね(笑)。ということで、改めて順を追って話しますが。

「イノセンスの消失」を描き続けてきたアン・リー監督

まずこの、「年配の殺し屋が若い頃の自分と対決する」という企画そのものは、ハリウッドで20年以上いろんなところを渡り歩いてきた、古い企画なんですね。ずっと温められてきた企画。最初は実はクリント・イーストウッド主演で企画されていた、なんて言いますね。あとは、ニコラス・ケイジがかなりのところまで進めていたとか、ジョニー・デップが名前が上がった時期もあるよとか、まあこのへんはインターネット・ムービー・データベースにも載っている情報ですけども。でもとにかく、まずは単純に、ある俳優を若くしたバージョンを自然に演技させるというレベルまで、映像技術が追いついていなかった、という。それで頓挫してきた、というのがあるわけですね。

そういえば、ちなみに『LOOPER/ルーパー』っていうあの映画は、そのアイデアを、普通に違う俳優でやる、というね。昔ながらの映画の方法で撮った作品、と言えるかもしれませんけども。まああとは、ある俳優と、同じ俳優がCGで出てくる、というやつで言うと、『ターミネーター:新起動/ジェニシス』とか、『LOGAN/ローガン』とかもやっていましたけども。ただ、同一俳優対決はやっているけど、あれは二作とも、敵が人間的演技を必要としない役ですので。そういう意味では今回のこの話よりは、ちょっとハードルが低い、という。

ということで、そんな技術的な機が熟した、技術的なハードルが越えられる、という時期になったところで、ウィル・スミス曰く、要は“『ライオン・キング』超実写版”、8月23日にこの番組でも評しましたけども、あれが動物でやったことを……つまりフルCGで自然な演技をさせる、まさにそこに本物がいるように見える自然なキャラクターをフルCGで作る、というのを、こっちは人間でやっているんだ、という。たぶんウィル・スミスは、言外に「こっちの方が技術は高度だぞ」と言いたいんでしょうけども。

で、そこで監督として白羽の矢が立ったのが、アン・リーさん。僕がアン・リーさん作品を評したのは、前の番組時代に『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』、これを2013年の3月2日に評してますね。まあ、それ以来なんですけども。まあ『ライフ・オブ・パイ』は、本当に素晴らしい作品でございました。あれは本当にすごい作品だと思います。はい。あの作品でのCG使いの力がすごく評価されての今回の白羽の矢、というのも当然あったと思いますが。と同時にですね、たしかにアン・リーさん、この『ジェミニマン』の話そのものに食指を動かすのも、わかるなと。題材としてアン・リーさん向きではあるかもしれない、と思う。

その『ライフ・オブ・パイ』評の中でも僕、言いましたけど、アン・リーさんはとにかく、一見フィルモグラフィーが、あまりにも多岐に渡りすぎていて、支離滅裂、同じ人が撮ったとは一見思えないようにも思えるぐらい、本当にもういろんなタイプの映画を撮っている。全然脈絡がないように見えるんだけど、実は、アン・リーさん自身があちこちのインタビューで答えてる通り、実は「イノセンスの消失」……純真さ、純粋さとか、あるいは無垢だった時代とか、そういう楽園的な時代とか場所の喪失、というテーマで、実は完全に一貫してるわけですね。

その意味で今回の『ジェミニマン』もですね、さっき言ったような基本設定を使って、「イノセンスを喪失しかけた初老の男が、まだ純粋だった頃の若い自分と出会って、そのイノセンスを守ろうとする話」とすると、まさしくアン・リー的なテーマ性……というか、この企画をアン・リー的なテーマ性の方にグッと引き寄せてみせた、っていう感じだと思いますね。加えて言うならば、今回のその『ジェミニマン』も、父親的な存在に実験材料として使われ、兵器とされた、兵器化された息子的な存在が、その悪しき父親と直接対決する、という部分は、モロにですね、あの悪名高き2003年版『ハルク』を連想させる、という。『ハルク』みたいな話だな、と思いながらちょっと最後の方、見てましたけどね。ということでございます。ついでに言えばですね、ウィル・スミス主演作というところから連想されるような「陽性のアクション」感からは、随分と地味なと言うか、実際に見てみると、「なんか暗いな、この話」みたいなところ。若干の「思ってたのと違うー」感も、『ハルク』っぽい、っていう感じがしますけどね(笑)。

とまあ、そんな感じでですね、企画そのものをググッと自分寄りに引き寄せてみせた監督アン・リーさん。そしてですね、アン・リーさんは、さらにもう1個、ある意味、先ほどから言ってるフルCGのヤング・ウィル・スミス……まあ僕らは、若い頃のウィル・スミス、つまりラッパー「フレッシュ・プリンス」だった時代っていうのも、映像で見てるんで。若干今回の「ジュニア」さんはですね、ちょっと美形化していて……若干美化してないか、これ?っていう感じがしますけどもね(笑)。

まあ、すさまじい技術であることには変わりないという、その若いウィル・スミスのフルCGよりも、映画史的にはひょっとしたらこっちの方が大きいかもしれないという、ある種の技術的な挑戦を、アン・リーさんは本作に持ち込んだわけですね。それがなにかと言うと、先ほど言った件でございます。撮影形式と上映方式。

■「解像度4K」+「3D」+「120FPS」=『ジェミニマン』!

まず前提として、これまでの通常の映画というのは、1秒間に24コマ。まあフィルム時代だったらコマ。24フレームで撮影され、上映されるという風に……まあ、それが「映画」だったわけですね。これ、もう1920年代からずっと、映画っていうのはそうやってきているわけです。その前提。

で、それ以上のフレーム数で撮られているものが、「ハイ・フレーム・レート」ということなんですね。このハイ・フレーム・レートに関しては、僕が今まで過去に評した中で言いますと、2013年1月12日にやりました、ピーター・ジャクソンの『ホビット 思いがけない冒険』が、48フレーム。毎秒48フレームの撮影・上映をやった作品だったんですね。で、そのHFR 3D形式で見てきました、その感想なんかも評の中で当時、僕は言いました。これ、2013年のことです。あれもまあ、ヌルヌルした動きとか、いかにもデジタルなクリアな映像など、これまでの「映画」っていうのとは根本的に異なる何か、手触りがあった作品でしたね。

で、その後ですね、4Kテレビが出たりとか、それこそ8Kテレビが出たりとか、そこでUltra HD Blu-rayなんかを見ると、要するに撮影、映像技術込みでですね、なんか「映画」というものが、またちょっと違う感触に進もうとしているなっていう、どんどんどんどん進化しているな、っていうのはみなさん、家電売場なんかに行くとね、なかなかそれを実感できるあたりだと思います。なんですが、今回の『ジェミニマン』はその最先端バージョン、っていうことですね。いいですか? この3つの要素です。「解像度4K」「3D」「120FPS」です。毎秒120フレーム。普通の映画が24フレームですから、だいたい4倍から5倍ある、という状態ですね。それで撮影されてるという。

で、アン・リー監督は、実はこのハイ・フレーム・レートの撮影、前作の『ビリー・リンの永遠の一日』、2016年の作品……これ、日本では劇場未公開になっちゃったんですけど。これ、前の番組時代に、ライターの伊藤聡さんがおすすめ海外文学として紹介してくださって、僕もその原作小説を読んで、素晴らしかったですけども。それの映画化で、そのクライマックスでスーパーボウルのショータイムのシーンがあるんですが、そこだけを、今回の『ジェミニマン』と同じHFR撮影したわけですね。すでに一部では使っていた。それを今回の『ジェミニマン』で、その「4K」「3D」「120FPS」という、この現状の最強コンボで全面展開してみせた、っていうことなんですね。はい。

「限りなく現実にその光景を見ているような感覚を味わえる」という触れ込みの、この革新的技術。もちろんぜひ体験してみたいところですよね。こんなんね、やってんだったらね。ところがですね、みなさん。このですね、「4K」「3D」「120FPS」というこの理想の三条件を完全に満たす上映環境がある映画館は、現状、日本では……ありませーん!(笑) というか、世界でもほとんど、ありませーん! 北米でもありませーん! なんかね、プレミア上映の時にチャイニーズ・シアターにその設備を入れてやった、みたいな話があるみたいなんですけど。はい。つまり、作り手が本来望んだ環境での『ジェミニマン』上映は、ほぼほぼ地球上で、実現していない。

その映写機のあれが中国の会社がなんとかで……だから中国のどこかでやってるかもしれない、みたいな感じらしいですね。日本ではやっていない。で、現状日本で見れる……比較的見やすい中で限りなくベストに近い、と言われるのが、日本だと、さっき言ったMOVIXさいたま、梅田ブルク7、T・ジョイ博多の3つがある、「ドルビーシネマ3D」+「in HFR」。つまり「3D」で「120FPS」。これはこの3館だけなんです。他は60FPSなんですね。120FPSはこの3館だけ。

ただこちらは、惜しい! 解像度が2Kなんだなー!っていうね。ちなみにIMAXレーザーも、他は条件が条件が合ってるんですけどね、こちらは、60FPSなんだなー! あちらを立てればこちらが立たず。ということで、行ってまいりましたMOVIXさいたま、ということです。

不自然ささえプラスに感じられる120FPS撮影の凄さ

通常の24FPS、2D上映館とは、完全にこれ、映像体験として別物でした。全く別。とにかく細部の細部まで、バッキバキにクリア。3Dでもめちゃくちゃ明るい上に……明るいだけじゃない、黒もバキッと立っているので、ディテールがものすごく見やすく、美しい。どの画面も。どうってことのない画面でも。

で、動きも、もはやヌルヌル感すらない。120FPSになると。たとえば激しいアクション時も、いわゆる被写体ブレとか残像とかがなくて……つまり、「カメラが撮ったもの」感がないんですよ。わかります? カメラが撮ったことによって生じる光学的な効果が、ほとんどないので、たしかにショットによっては、本当に画面の中に入り込んだような感覚になります。なので、どうってことのない場面でも、とにかく画に……「えっ、すげえな、この画」みたいな、画を見ているだけで圧倒されるんですよ。たぶんだから、あんまり動きがない場面が多いのは、「まずは動きがない画面でも、(この画としての美しさは)どうですか?」みたいなことをやりたかったんじゃないかな、と邪推するぐらいですね。

特にこの撮影、上映方式が最もわかりすく堪能できるのが、まあこれは普通に見ててもこの作品の白眉です、『ジェミニマン』中盤の、コロンビア、カルタヘナという街での、一連のアクションシーン。要は主人公、ウィル・スミス演じるヘンリーが初めて、自分の若い頃まんまの通称ジュニアというのに遭遇し、追われる、というくだりですね。はい。まず、建物内部での銃撃戦。鏡を介した、まあもう本当に露骨なぐらいシンボリックな会話シーンの後に、再び銃撃戦。で、その最中にですね、こっちに投げ込まれた手榴弾を、即座に投げ返して、ポカーン!とかを、ワンカットで見せる。

かように、カットを割らないショットほど、やっぱりこのハイ・フレームならではの現実感、「そこにいる」感っていうのが体感しやすいかな、っていうのは、こういうショットとかでわかったりするという。で、もちろん作り手もその特性を意識しているので。圧巻はそこから……そのいまの銃撃戦から、街路に出てからの、バイクチェイス。で、たぶんここが本作でいちばん……擬似的に、かもしれません。ひょっとしたら、要は本当にワンカットで撮っているんじゃなくて、技術的につないでる感じかもしれませんけども、擬似的にであれ、カットを割らずに、ひとつながりの流れで見せている、というところなんですけど。

で、普通の24フレームの映像でもたぶん、それなりにすごいバイクアクションシーンなんだけども、その120FPSのパワー、HFRだと、画面内への引き込まれ力が、非常に半端ない。たとえばまず、狭い路地をオフロードバイクで走り抜けるウィル・スミスを、背中側から捉え続けるショットがまず入るわけです。これ、字幕2Dでは、見比べたところまあまあ普通にかっこいい画でした。なんだけどこれ、120FPSのHFRだと、本当にジェットコースター的なライド感がものすごくて。ちょっと、軽く恐怖を感じるぐらいなんですよ。「うわうわうわ、危ない、危ない!」って。

で、さらにそこから、カットが途切れないまま、坂を上がってポーンと塀をジャンプしたり、っていう、ダイナミックな動きになっていく。で、これね、仮に多少VFXを使っていたとしても……実際にジュニアの動きとかは、全編に渡って、要所要所、明らかに早回しを使っていたりとか、明らかに不自然な動き、特にジュニアに関しては多いんですね。なんだけど、これ、120FPSパワーでですね、ひとつながりの流れとして見せられると、「ああ、現実の中に引き込まれているようだ、実際に見ているようだ」の流れで見ると、その不自然ささえ、「信じられないことが目の前で本当に行われてる」感を増す効果に……不自然ささえプラスに感じられるな、と僕は思いましたね。

で、そこからの、バイクを格闘技的に使うというくだり。あそこはもう、普通の映像で見ていても「ああ、すげえな!」っていうあたりですけども。とにかく本作の白眉は、この中盤のバイクシーン……ただし120FPS上映なら、評価は5倍増し!っていう感じですね。「逆に言うと……」っていうところもありますけども。ちなみに本作、特にそのジュニア、若い頃のウィル・スミスが顔をはっきり見せて登場するシーンは、これはおそらくVFXの粗を隠すためと、予算の関係なんでしょう、全体に、かなり暗いシーンがほとんどです。

なので、字幕2Dで見ると、はっきり言って明、暗のコントラストもそのHFRほどついていない、甘い分、普通に見づらいシーンが多い映画になっちゃっています。要するに、HFRの実力を見せることもあって、たぶん暗いシーンが多いのもあるのかもしれないけど、見づらいんです、普通の上映だと。それは間違いなくあると思います。ということで、やはり120FPSとか、できるだけ理想に近い環境で見るのがおすすめの『ジェミニマン』なんですが。じゃあ中身は、と言うとですね、これが実は、わりと地味めというか。思いの外、淡白な映画ではありまして。

■この映画に足りないのは主人公の贖罪意識。革新的映像技術に見合った内容ではない

ジュニアが登場するまでの前半いっぱいが、結構長くて。そこまでは、それこそわりと地味めな、普通のスパイアクションなんですね。で、ウィル・スミスの存在感が、やはり根っから陽性、明るいので。人を殺しすぎてソウルジェムが濁ってきた男の悲哀、みたいなのが、ほとんどないので……味わいが、軽い。で、その味わいの軽さがもちろんウィル・スミスの良さなので、そここそを活かした『アラジン』は、めちゃめちゃ上手く行っていましたけど。っていう感じで、ジュニアと対峙するところも……まず、「クローンってそういうことか?」問題は置いておきましょう。あの、DNA、遺伝子がいくら同じでも、育ち方があれだけ違えば、たぶん相当違う人になっていると思うんだけど。

まあ、それは置いておいても。彼との対峙も、両者がわりと最初から「根はいいやつ」全開な上に、歩み寄る気満々で接するので(笑)。ここはさして盛り上がらないんですね。せめてこれ、世代間ギャップネタとか……ウィル・スミスだったら、たとえばもともとフレッシュ・プリンスっていうラッパーだったんだから、その老ウィル・スミスは80年代、90年代ヒップホップを聞いてノリノリ。で、それが、「お前、そんなのヒップホップじゃねえぞ」「バカヤロー! これがいまのヒップホップだ!」っつって、若ウィル・スミスはドレイクとかを聞いている、とか。そういうウィル・スミスならではの小ネタを……でも、アン・リーはやらなそうー! みたいな(笑)。そういうのもないしね。あんまり正直、そこは面白くないんですね。

とか、話全体も、たとえば味方だったはずの組織が……みたいな感じで、誰が味方かわからない、という話なわけです。スパイ・アクション的な。なのにこの映画は、なんか不思議と、「味方がやられた!」みたいな話の展開の後に、ちゃんとそのやられたところを、見せないんですね。「ドーン!」ってやられた身体とかを、見せないわけです。なので、「なんか含みがあるのかな? さっきのあいつ、なんか(実は死亡を偽装した黒幕、とか)なの?」って(観客としては思っちゃう)。でも実は、含みは……特になーい! みたいな感じで、ぜんぜんそれがノイズになるだけだったりする、とか。

あと、たとえばガルフストリームっていうジェット機。「あれを借りるアテなんかねえ……あっ、1人いた!」って、なんか思わせぶりな感じで電話するんですよ。でも、「誰」とか、特になーし! みたいな感じですね。とか、たとえば暗殺対象の資料改ざんに関わった……これ、ひどいですよね。無実の人を撃っちゃったことになるわけですから。それを改ざんした張本人が、わりとセーフで終わっていたり。というか、主人公のヘンリーそのものも、「ん? 結局無実の人を殺していることに変わりはないのでは?」みたいな。

でね、僕はこの話に関しては、決定的にこの映画が足りていないと思うのは、やっぱりヘンリーは、人を殺しすぎて魂が濁ってきてしまった……で、その重みを背負って、「お前は純粋なままでいてくれ」っていう話なのにもかかわらず、主人公が、その自分が重ねてきた罪に対して、贖いみたいなことを、全くせずに終わってしまうんですね。「そこも軽いのかよ? じゃあ、この話の意味がないじゃん」みたいな感じがしてしまうあたりです。あと、クライマックス、もう1人さらに、不死身の敵が登場する。この正体を含めて、ここは意外性もあって面白かったんですが。ただそのクライマックス、わりと小さめな街の、小さめな商店の中で展開される……『ランボー』一作目みたいな感じで。メソメソする感じも似ていますしね。

で、そこにいちばん悪いやつであるところの、クライブ・オーウェン演じるやつがやってくるんですけども。あれ、クライブ・オーウェンはあそこにやってくるの、むざむざやられに来ただけですよね。なにしに来たの、あいつ? 戦いにも来ていないですよね。むざむざ、本当に「殺して」と言わんばかりに登場する、みたいな感じですよね。あと、ちなみにこれ、RHYMESTERマネージャーの小山内さんが言っていた、「おこ」だった件です。ウィル・スミス映画なのに、サービスシャワーシーンがない!っていう(笑)。せっかくハンガリーでお風呂に入るシーンがあるのに、サービスシーンがない!って怒っていましたよ。「おこ」でしたよ!

みたいな感じで、まあ革新的映像技術に見合った内容かというと、『アバター』がその革新的映像技術を見せるのに特化した作品であるのに対して、ちょっとね……という感じがする作品ではございましたが。まあでもとにかく、さっき言った3館に行っていただいて、120FPSの実力を見ると、やっぱり評価がかなり5割、10割増しぐらいにはなりますので。ぜひぜひその3館に、いますぐ駆けつけるのがおすすめです!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『CLIMAX クライマックス』です)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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