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「流域思考」で台風19号の水害を考える 岸由二さん(慶応大名誉教授)

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
10月19日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、慶應義塾大学名誉教授の岸由二(きし・ゆうじ)さんをお迎えしました。専門は進化生態学と都市計画。つながりがなさそうな研究分野ですが、岸さんは川の「流域」という枠組みに注目して自然の保全や防災を研究しています。また、神奈川県の三浦半島・小網代(こあじろ)や鶴見川で自然保護運動を40年近く続けている市民活動家でもあります。岸さんは、大規模な水害には「流域思考」で対応することが不可欠だと言っています。

水害対応、行政区ごとでは限界


先日の台風19号で東日本は記録的な豪雨に見舞われ、大規模な浸水被害が起きています。各地でハザードマップを作成し、治水や避難の対策をとっているのに、ここまで被害が広がってしまったのはなぜでしょうか。

岸さんは、水害に対して市区町村といった行政区ごとの対応だけではどうにもならないと言います。水害は行政区分を越えて起きるからです。自然災害は人間の都合で作った行政区分という枠組みにはおさまりません。

であれば、もっと違う枠組みで対応したほうがいい。そこで「流域」という枠組みで国土をとらえなおして考えることが有効だというのが岸さんの考えです。

水害は「流域」で起きる

出典『「流域地図」の作り方』(岸由二、ちくまプリマー新書)

水害は豪雨だから起きると思いがちですが、必ずしもそうではありません。確かに豪雨は水害を起こすひとつの条件ですが、実際に水害が起きるかどうかは「地形」が大きく関わってきます。水が一気に流れ込んでくるようなところとそうでないところとでは、同じ豪雨でも水の溢れ方は違ってきます。水害は地形で起きるのです。そして、その地形が「流域」なのです。

では、流域とは何でしょう。川のまわりとか、川が流れている範囲のことを流域だと思っている人が多いのではないでしょうか。でも、それだけでは不十分。山にも注目してください。山の尾根に囲まれたエリア全体が「流域」なんです。川幅よりもずっと広い範囲になります。しかも山のいちばん高いところから谷を下り、川が流れているいちばん低いところにいたる、上下の空間も含めて流域なのです。

別の言い方をすると、流域とは。雨水が水系に集まるくぼ地のこと。川には「本流」と「支流」があります。本流と支流を合わせたのが「水系」です。川の源流から河口まで、本流と支流を合わせた水系全体を軸とした大きな流域があります(全体流域)。日本にはこの大きな流域(一級水系流域)が109あります。そして支流にもそれぞれの流域があります(亜流域)。さらに、支流に流れ込む支流もあって、そこにも同じように流域があります(中流域)。さらに、支流の支流の支流にも同様に流域があります(小流域)。このように、流域は「入れ子構造」になっています。
豪雨のときは、こうした流域というまとまりで水の動きに注目することが重要になります。大雨が降った上流では被害がなくて、下流で起きるということは、流域という枠組みで見れば理解できます。こうした考え方を岸さんは「流域思考」と呼んでいます。岸さんが流域を軸に考えるようになったのは、幼い時から川が身近にあったからです。

「流域思考」


岸由二さんは1947年、東京・目黒川のほとりで生まれ、幼少期からは横浜市・鶴見川の河口の町で育ちました。川や海辺の生物が好きで、横浜市立大学と東京都立大学大学院で生態学を専攻しました。ちょうどその頃は(1960年代後半から70年代前半)、各地で開発が進み、自然破壊や公害が社会問題になっていました。また、当時の鶴見川は「暴れ川」と呼ばれるほど頻繁に氾濫し、岸さん自身何度も浸水被害にあっていました。こうしたことから岸さんは生物の研究だけでなく都市計画にも問題意識を持つようになったのです。

川の最源流の森、中流の低地、河口の干潟、その先の海。壊されていく自然をどうしたら守っていけるか。そして自然の脅威からどうすれば都市を守れるのか。川を軸にした広い地域に関わることを、行政区分ごとの対策でなんとかしようというのは限界がある。そこで注目するようになったのが「流域」でした。

「言ってみれば、流域は運命共同体なんですね」(久米さん)

「行政区分で対策することももちろん大事です。でも、それだけは不十分で、流域思考の対策と二刀流で取り組むことが必要です」(岸さん)

「流域思考」で鶴見川の氾濫を防いだ


ところが流域という枠組みで洪水対策を検討している地域はまだほとんどありません。全国に109ある一級水系の中でたった1ヵ所だけ、流域思考に基づいた水害対策が取られているところがあります。それが、岸さんが育った神奈川県横浜市の鶴見川流域です。

鶴見川の水系は、東京の町田市と稲城市、神奈川県の横浜市(青葉区、都筑区、緑区、港北区、鶴見区、神奈川区)と川崎市(麻生区、宮前区、高津区、中原区、幸区)と、たくさんの行政区にまたがっています。岸さんが育った横浜市鶴見区で起きる川の氾濫は、町田や川崎で開発が進んだ結果、上流部で保水や遊水ができなくなったことが原因でした。こうした状況で、行政区分ごとの治水対策では意味がありません。

実は1970年代、建設省(現・国土交通省)でも、岸さんの流域思考と同じ考え方で治水対策を進めていました。そして1980年に「鶴見川流域総合治水対策」がスタート。前に挙げた全ての自治体が連携して、流域全体で鶴見川の治水対策を積み上げてきたのです。その結果、鶴見川では1982年以降、大きな水害は起きていません。

先日の台風19号が首都圏を通過した翌日、ラグビーワールドカップの日本対スコットランド戦が横浜国際総合競技場で行われましたね。あの競技場は、鶴見川の遊水地の中にあるのです。遊水地によって鶴見川流域の氾濫が回避され、ラグビーの試合も無事行われたというわけです。鶴見川流域には遊水地のほかにも、豪雨のときに洪水にならないよう降水を溜めておく調整地が4900ヵ所もあって、3000トンの水が溜められるようになっているのです。

「台風19号の雨は、昔なら5万から10万戸が水没するような雨量でした。でも、鶴見川は遊水地や調整地のおかげで氾濫が起きませんでした。一方、流域全体の対策は取られていない多摩川では、ご存知の通り氾濫しました。でも、鶴見川も今のままで十分というわけではありません。鶴見川の雨量は多摩川より少なかったんです。もし多摩川と同じくらいの量だったら危なかったかもしれません」(岸さん)

温暖化で「治水」はますます大きな課題


温暖化の影響で台風は強大化するケースが増えるのではないかと言われています。とすれば、治水対策はますます重要な問題です。だからこそ、いま「流域思考」を知っておいたほがいいと岸さんは言います。

「日本は、小中学校でも高校でも大学の教育課程でも『流域』を教えていません。こんな国はおそらく先進国ではほかにありません。地理や地学の知識が大切だということをもっと真剣に考えなければいけないでしょう」(岸さん)

岸由二さんのご感想


ぼくにはこれは伝えておかなくてはいけないなということがいっぱいあるんですけど、「これから順番に話すから皆さん聞いてください。まず…、次に…、そして…」というふうに話していると、1週間ぐらいかかりそうなんです(笑)。自分で言おうと思ったら90分授業5回分ぐらいになるんですよ。

でも久米さんの話の引っ張り出し方がうまいから、30分で全部しゃべらせてもらったという感じがあります。言っておかなきゃと思っていたこと大半をこんな短い時間で引っ張り出していただいて、感動しました。本当に面白かったです。ありがとうございました。

「今週のスポットライト」ゲスト:岸由二さん(慶応義塾大学名誉教授)を聴く




次回のゲストは、銭湯の改築・設計の建築家・今井健太郎さん

10月26日の「今週のスポットライト」には、銭湯の改築を数多く手がけている建築家の今井健太郎さんをお迎えします。老朽化した銭湯を見違えるような空間にリニューアルして、地域に新しい魅力を作り出しています。

2019年10月26日(土)放送「久米宏 ラジオなんですけど」http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20191026140000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)