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放送中

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「パナマ病」でバナナ絶滅の危機?

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
6月4日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、東京農工大学農学部教授・有江力(ありえ・つとむ)さんをお迎えしました。

有江力さん

有江さんは農作物の病害の研究者で、病害の中でも防除することが難しい土壌の伝染病がご専門です。特に作物を壊滅的に枯らしてしまう「萎凋病(いちょうびょう)」という伝染病の対策で日本各地はもとより、中南米にまで調査に出向いています。

実は今、その萎凋病によって大変なことになっているのが、バナナなんです。ここ数年アジアではものすごい勢いで被害が広がっています。すでに1万ヘクタール、東京ドーム2千個分以上のバナナ農園が閉鎖に追い込まれました。その萎凋病は業界では「パナマ病」と呼ばれ、バナナの絶滅さえ心配されています。

パナマ病の病原菌

実際、バナナはかつて絶滅の危機に直面しました。1900年代初めから1960年頃にかけて世界各地のバナナ農園でパナマ病が蔓延したために、当時、輸出入の大部分を占めていた「グロスミッチェル」という種類のバナナが壊滅状態になり(グロスミッチェルはクリームのように濃厚な味の「タネあり」バナナでした)、バナナで巨万の富を築いていたアメリカの巨大フルーツ企業に大打撃を与え、世界各地のバナナ生産者は大変な苦難に見舞われました。

パナマ病によって世界の市場から姿を消したグロスミッチェルに代わって登場したのが「キャベンディッシュ」というタネのないバナナ。これが今、私たちが普段食べているバナナです。以来この半世紀、キャベンディッシュは世界中何億という人々のを支える食糧になりました。ところが、その病気に強いはずのキャベンディッシュがパナマ病に侵されてしまったのです。新パナマ病です。その被害はアジアから中東やアフリカへと拡大し、かつての悲劇が繰り返されようとしています。このパナマ病をめぐる壮絶な歴史については『バナナの世界史』という本に詳しく書かれています。

バナナのパナマ病は私たち日本人にとっても、決して遠い国の出来事ではありません。
パナマ病、つまりバナナの萎凋病の原因は「フザリウム」という菌(カビの一種)。フザリウムはトマトの「萎凋病」、キュウリ、メロン、スイカなどの「つる割病」、イチゴの「萎黄病(いおうびょう)」、カボチャの「立枯病(たちがれびょう)」、そのほかたくさんの野菜の病気の原因となります。いずれも茎や根などがしおれて枯れてしまいます。しかもこの伝染病が発生した土壌に植えられている農作物はほとんど全滅という事態になってしまうのです。農家にとっては大変な損害になってしまう深刻な問題なのです。

久米宏さん

そして日本では2008年に、フザリウムが原因で高知県のトマトが大きな被害に遭っているんです。でもそのことはほとんど伝えられていません。当時は鳥インフルエンザが猛威を振るっていて、トマトの萎凋病はニュースにならなかったのです。私たちがそんな事情を知ることもない中で、有江さんは高知に足を運んで対策に取り組んできました。パマナ病がニュースになるよりずっと前から、しかも何度も、この日本でもフザリウムの被害が出ていたんですね。

スタジオ風景

有江さんは、農作物が病気で全滅してしまうのは自然の環境から考えれば当然だと言います。バナナ農園も、トマト畑も、田んぼのイネも、遺伝子的に均一な性質のものが同じ場所に密集して作られています。これは多様性がない状態なので、いったん病気が発生すると全体が感染しやすいのです。本来、自然は多様性があって、複雑。だから病気が出ても全滅はしません。生き残るものがあります。例えば、野生種のトマトは中南米にあるんですが、これはほとんど水がないような砂漠の中でぽつんと生えているんです。そしてニオイがすごくくさい。とても食べられるようなものではないんです。だけどそのおかげで病気や害虫から身を守っているんです。人間はそういうトマトを食べやすく改良し、なおかつ大量に均一に作るようになったんです。それが農業の歴史です。

でもそれは悪いことだとはいえません。たくさんの人が食べられるようにするためには仕方がないことです。だから、パナマ病や萎凋病が出るのは当然で、それに耐えられる品種をつくる。ところがまた、それをかいくぐる病気が出てくる。このイタチごっこです。でもこれは人間が、大勢の人の食料を確保するために農業を始めた時点で多様性のないものを求めたのですからこ仕方のないことなんですね。

有江力さんのご感想

有江力さん

久米さん、堀井さん、ありがとうございました。まず、驚いたのは、久米さんがとても勉強されていることですね。バナナのこと、トマトのこと、食物の病気のことも本当によく調べておられてびっくりしました。

皆さんの毎日の「食」は農業につながっています。今回、バナナのパナマ病の問題をきっかけに、このような機会を作っていただけたこと、実にありがたいことだなあと思ってます。病気がはやった時にただ「こわい」と思ったり、農薬と聞くとなんでも危険だと思うのではなく、ちゃんと自分で勉強して、根拠をもって判断していただきたいと思うんです。みなさんのとても身近にあることですので。専門的なことはなかなか難しいところもあると思いますが、私は学生たちをそういう考え方ができるように、それを社会で役立ててもらう人になってくれるよううに育てています。今日はラジオでそのことを少しでも伝えることができてありがたいと思いました。