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宇多丸、『ダンスウィズミー』を語る!【映画評書き起こし 2019.8.30放送】

アフター6ジャンクション

   TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

今週評論した映画は、『ダンスウィズミー』(2019年8月16日公開)。

オンエア音声はこちら↓

宇多丸:

さあ、ここからは私、宇多丸がランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞して評論する週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのはこの作品……『ダンスウィズミー』 『ハッピーフライト』『サバイバルファミリー』、などなどなど、の矢口史靖監督が監督・脚本を手がけた、ミュージカル・コメディ。(BGMを聴いて)ああ、これね、ド頭のところで宝田明さんが歌うやつですね。ミュージカル嫌いなOL・静香は……というか、「ミュージカル嫌い、と公言している」OL・静香は、ある日訪れた遊園地で、あやしげな催眠術師に、「音楽を聞くと歌い踊らずにはいられなくなる」催眠術を、はからずもかけられてしまう。

主演の三吉彩花さんが、吹き替えなしでダンスと歌に挑戦。共演はやしろ優さん、この番組にもライブしに来ていただきましたchayさん、三浦貴大さん、ムロツヨシさん。そしていま、(後ろに流れている曲で)歌ってらっしゃいます、宝田明さん。まさにリビングレジェンド、といった感じでございます。ということで、この『ダンスウィズミー』をもう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「普通」。まあでも、意外とこれ、矢口史靖さんの最新作にしては、公開館数が都内でもそこまで多くなくて。なのでやっぱり、これは十分に健闘している方じゃないかな、と思います。

賛否の比率は、「褒め」が6割、否定寄りの感想が4割。褒めるにしろけなすにしろ、熱狂的な意見が少なかった、というのが特徴です。褒めている人の主な意見は、「ミュージカルの不自然さを逆手に取ったコメディという着想がいい」、さらに「そこに、主人公のトラウマが癒され、自分を見つめ直すというドラマを絡めたところが見事」「主演の三吉彩花さんが素晴らしい! 彼女のバディとなるやしろ優さんも良かった」といったご意見。

一方、否定的な意見は、「前半はいいが、後半からのロードムービー展開で失速」。この意見は、褒めてる人の意見でも多かったです。また、「ミュージカルシーンに魅力がない。カットを割りすぎだし、選曲も古い」。また「ミュージカルをバカにされたようで複雑だ」という、ミュージカルファンからのご意見もございました。

■「コッテコテなプロットのわりに、チューニングは丁寧ですんなりと飲み込めた」(byリスナー)

ラジオネーム「切れ目はない」さん。「結論から言いますと、気持ちを軽くしてすんなり楽しめる、なかなか良い作品だったのではないかと思います。今作の面白さはまず『ミュージカル映画の主役は傍から見たら笑えちゃうんじゃないか?』という着眼点であり、ドラマの着地を、それと対をなす『人の目なんか気にせずに好きなことを自信もってやっていきたい』という点に定めたことです。

また、そこに行き着くまでの、ともすれば『いやいや、人の迷惑を顧みず自分勝手に生きてるだけじゃないか』と思われかねないような主人公たちの言動、なんなら奇行をうまく希釈して、そこまで気にならなく調整していることが特に効果的でした。決定的に暴発するオフィスのくだりでは『まあ、ここなら大暴れしてめちゃめちゃにしてもそこまで罪悪感わかないかな』という描き方が事前にされていたり。主人公たちのやらかしには相応の罰があったり。特に三浦貴大さん演じるイケメン上司というか先輩の電話口でのたった一言を描くだけで、『あれ? 本当にこいつについて行って大丈夫なのか?』と思わせるスマートさなど、見事なものです。さすがです、矢口監督」。

たしかにね。毎回、説明的じゃないセリフとか、言葉ではない何かで、完璧にその情報を伝えきる。本当に矢口さんはそれはもう、そういう部分のレベルでは、もう演出はトップ級ですよね。「このように各々のキャラクターの背景や心の動きも語りすぎない演出にとどめるスマートさでやるなど、チューニングは丁寧なため、コッテコテなプロットのわりに思ったよりもすんなりと飲み込め、楽しめた印象です」といったあたりです。

一方ですね、ラジオネーム「えすき」さん。この方は「惜しい」というような感じ。「映画の感想としては『序盤、結構いい。中盤、うーん。終盤、まあでもいい映画だったかも』といった感じでした。とにかくロードームービー的な展開になっていく中盤以降からこの映画の勢いが失速していった印象です。いちばんの問題は、主人公が観客を圧倒するようなダンスシーンが中盤以降全くないという点ではないでしょうか。

序盤までの展開から彼女がミュージカルを嫌う原因となったトラウマを、中盤からの展開でダンスによって克服していくという展開を予想していた身としては、ダンスではない方法で誰かと分かり合えたり、序盤でのダンスシーンからかなり控えめのダンス描写で場面が終わっていたり。あらゆる描写が印象的だった序盤の縮小版という風に感じられて、ここがかなりの肩透かしでした。

中盤での描写がしっくりこないことが主人公・静香とやしろ優さんが演じている千絵の主人公2人のキャラクターの掘り下げという部分でもあまり機能してないように思えて、ロードムービー的な展開になるわりには、映画内でも世界があまり広がらない、窮屈な印象を感じました」といったあたりでございます。

■ここ2作は当たりが続いた矢口史靖監督。だがその本質は

ということでみなさん、メールありがとうございます。私も『ダンスウィズミー』、新宿ピカデリーで2回、見てまいりました。矢口史靖脚本・監督最新作。ざっと説明しておくと、ぴあフィルムフェスティバル出身で、一風変わった、特に初期は、毒っ気強めのコメディをずっと作ってこられた。ですが、特に2001年、みなさんご存知『ウォーターボーイズ』の大ヒット以降は、メジャーなエンターテイメント作家、的な立ち位置にもシフトしつつ……でもやっぱり本質的には、独特の、「ちょっとヘン」なテイストっていうのも、実はしっかり根幹にキープされている、というような。ざっくり端的に要約するなら、そんな感じのスタンスでやってこられた、矢口史靖さん。

つまり、立ち位置的にはどメジャーなところにいると言っていいわけですね。だって、監督の名前が、今時ね、宣伝でもいちばん先に「矢口史靖監督最新作」ってドーンと押し出されるっていうのは、なかなかないことですし。つまり、今どきなかなかないぐらい、映画監督として世に知られている方なわけですけども。要するに、非常にマスに向けた作品をつくる立場にある。であると同時に、基本的には全てオリジナル企画、脚本ですね。例外は2014年の『WOOD JOB!~神去なあなあ日常~』ですけども、あれも原作小説から大幅に、映画用にアレンジしているし。

で、毎度、これまで他の日本映画がタッチしてこなかったような角度とか切り口とか題材のコメディにチャレンジする、という。まあ要は、インディ作家的な挑戦的姿勢、アクの強さも、がっつり持ち味としてある方なので。要はですね、見た目は万人向けエンターテイメントをつくるような感じになってますけど、決して万人向けとは言い難いところが前面に出るパターンもあるし、場合によっては――これは僕の見方ですが――場合によっては、大空振り!っていうことも、たまにはある、という感じの方ということでございます。

まあでも、その振れ幅込みでの面白さ、という面も同時に間違いなくあるという。これがやっぱり矢口史靖作品の面白さでもある。今回はどうだ?って……要するに、思いっきり豪快に振っていただいて、「ガキーン!」っていう時もあれば、「うわっ、豪快に空振ったな!」っていうのも……それも含めての面白さだ、という風に私は思っています。

とりあえず、ここんところの二作がですね、少なくとも僕的にはすごくいいのが……矢口さんのフィルモグラフィ的にも、それも対照的な意味ですごくいい二作が続いた、ということがありますね。さっき言った2014年の『WOOD JOB!』は、王道のウェルメイドな成長譚っていうのと、矢口作品ならではのバッドテイストな要素っていうのが、高い必然性をもって見事に融合した、まさに矢口史靖コメディの集大成にして、現状の最高傑作でしたし。

ただ、「評判のわりに『WOOD JOB!』、思ったよりもヒットしなくてショックだった」みたいなことを監督がインタビューでおっしゃっていて。これは私、絶賛した側としては、ちょっと力不足を感じるあたりでございます。続く2017年の『サバイバルファミリー』。こちらは逆にですね、矢口さんのフィルモグラフィーの中でも、明らかに異色作。要するに、非常にダークな色合いが強い。もう結構怖い、というかね。しかし見事に作り上げられた、日本型の「微温度ディザスタームービー」で。僕はこちらも、本当に大好きな作品でしたし。こちら、2017年2月25日、ウィークエンド・シャッフル時代に評した時の公式書き起こしが、いまも普通に読めますので。こちらをぜひ参照してください。

■「ミュージカルに違和感がある土壌」を逆手に取った設定

ということで、そこから約2年半ぶり、待望の新作となる今回の『ダンスウィズミー』、という。あちこちのインタビューなどで監督自身が語られていますが、要はミュージカルの、「急に歌って踊りだす」という違和感を……よく、しばしば取りざたされますよね、「おかしいじゃないか」って。昔はタモリさんなんかがよくそんな話をしてましたね。急に歌って踊りだす、という違和感を、いわば可視化してみせた。急に歌って踊り出すのを、奇異に感じる我々の常識的視点、というのを、劇中の設定に取り込んでみせたミュージカル、という。

つまり、こういうことですね。日本語による日本映画という、その、ミュージカルという土壌が当たり前にあるわけではない……というか、事実上ほぼないという、ミュージカルという意味では非常にハンデが大きい土俵、ならではのミュージカル、っていうアイデアですね。日本映画という、ミュージカルにハンデがある側だからこそ、これができる。アメリカ映画でこれは成り立たない、っていうことですから。この発想は、さすがに矢口さん!という風にね、これみなさんもおっしゃってるように、これはとても面白いあたり。

ただですね、これ、ミュージカルっていうのは定義にもよるんですけど、(この『ダンスウィズミー』は)ミュージカルって言っても、劇中で歌われる曲は、まさに先週の『ライオン・キング』がそうですけども、登場人物のセリフや心情が直接的に歌詞になった、オリジナル楽曲じゃないわけですね。僕はやっぱりミュージカルっていうのは、本当のミュージカルっていうのはそういうことだ、っていう風に思いますけど。でも今回の『ダンスウィズミー』は、既存の、わりと多くの人が知ってるようなポップスや歌謡曲……これは設定とも関係しています。「流れてくる曲に反応する」っていう設定なので、まあそうしてるんでしょうけど。

既存の、わりと多くの人が知ってるようなポップスや歌謡曲を、シーンとふんわりとリンクさせてチョイスしてる、という感じなので。その意味ではですね、まあ矢口監督の名前をメジャーに押し上げたと言っていい、『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』、この二作と連なるような、まあミュージカルというよりも、音楽劇っていう印象の方が、特にやっぱりみなさんがおっしゃってる通り、二幕目以降のロードムービー化していってからは、強くなるようなバランスではある。

そしてそのロードムービーっていう部分。特にその、社会のレールから外れてしまった女性の、様々な受難を描くロードムービー、っていうのはこれ、特に矢口史靖作品の初期作とも、はっきり通じるテイストでもありますね。やっぱりね。その意味ではですね、『WOOD JOB!』ともまた違った意味で、やはりこれもまたひとつの、矢口史靖映画の集大成、ではあるんですね。音楽劇っていうところもそうですし、女性が受難、地獄巡りするロードムービー、っていう部分でも、まあそういう意味ではいままでの流れの上にはある。

■狙い通りに成功している前半のゴージャスなミュージカルシーン

ただ、個人的に今回いちばん面白いなという風に思ったのは、やはりですね、今回の『ダンスウィズミー』、ならではの挑戦の部分。要は本格ミュージカルシーンの方で。特に序盤、今回オーディションで選び抜かれたという、この三吉彩花さん。さくら学院というアイドルグループの元メンバーであり、Seventeenの元専属モデルだったりする、三吉彩花さん演じる主人公のこの鈴木静香というのはですね、表面上、その一流会社勤めの社会人らしく、取り繕っている顔、というのがあるわけです。

で、実際にその三好さんは、ブスッとした仏頂面が、すごい映えるんですよ。たぶん、そこで選んだんだと思うんだけど。仏頂面が映えるクールビューティーでもある。たとえばね、病院で脳波を測るところの、あの頭全体をすっぽり……顔だけが出てる、すっぽりしたマスクで、測っているじゃないですか。あれが似合うっていうのはね……あれは真の美人じゃないと似合わないし。あれが、すごく矢口さんっぽい女性の見せ方だな、と思うんだけど。

でも、そのクールビューティーの、クールな顔が、ふとした拍子に崩れて、本音の部分が、説明的なセリフなどではなく、「漏れ出してしまう」瞬間というのが、とにかく絶品なんですよね。この三吉さんが。で、その積み重ねが、序盤で丁寧に丁寧に積み上げられている。一流商社に勤めてはいるけども、本音は出さないんだけども、内心ではこう思ってる……というのが、ちょいちょいちょいちょい、表情とかいろんなことから、漏れ出てくる。それが丁寧に積み上げられているからこそ、催眠術によって「音楽がかかると歌い踊り出さずにはいられない体質になってしまう」というそのトリガーが……これ、催眠術師のマーチン上田を演じている宝田明さん。言うまでもなく、日本を代表するスター俳優です。

往年の、そのゴージャスなエンターテイメント感っていうのを自然に醸し出している、っていうのはこれ、もちろんのことですけど。主人公にだけ、図らずも催眠術が強力にかかってしまうきっかけになる、いかにも矢口監督らしい……これは褒めてますけど、しょうもないにもほどがあるギャグ(笑)にも、しっかり乗っかっていただいているあたり、「ああ、宝田さん、素敵!」と思いましたけどね。宝田さんに、あんなバカなことやらすか?っていうね(笑)。

ということで、とにかく、要は後催眠暗示っていうやつですね。後催眠暗示がかかった状態、という設定がある。それがトリガーになる、っていう設定はあるんだけど、でも、なんなら彼女がもともと内に溜め込んでいた諸々の感情を、そのトリガーをきっかけに、一気に爆発させるがごとく……要は「うわっ、始まっちゃう! 本当の感情が表に出ちゃう!」っていう感じでスタートしていくミュージカルシーンが特に、これもまたメールに多かった通りで、私もそこは同意です、前半では概ね、しっかり意図通りのカタルシスを生じさせている。

要するに、しっかり狙い通りになってるな、という風に思います。すごく素晴らしいシーンになっていると思います。

■「虚構の楽しさ」に満ちた会社でのダンス場面

たとえば最初、あの自宅のタワーマンションを、ノリノリで闊歩する、というくだり。これ、まず選曲が、スペクトラムと来たか!っていうね。スペクトラムの「アクトショー(Act-Show)」っていうね、非常に渋いけど、どファンキーな選曲。これも絶妙ですね。で、そこから展開される、非常にてらいのない音楽的演出・編集。要するに音楽に合わせたあれ(カッティング)とかを、てらいなくバシバシバシッとやっていく。

そしてもちろん、三吉彩花さんのスタイルや身のこなし全体が醸し出す、華とかエネルギー。途中であの青のスカートが、フワッと舞って、一瞬パンチラになる。ここに監督がすごくこだわったっていうんだけども、これは要するに、生命力の発露としてのエロスっていうのを描くってこれ、すごく矢口史靖作品の特徴だと思うんですね。まあ、それも含めて、とにかく全てがかっこよく決まってるし、なによりもやっぱり、すごくワクワクさせられる。彼女が、掃除のおじさんは気付いてないけど、この調子で会社に行ったらどうなってしまうんだ!?って、ワクワクするわけですね(※宇多丸補足:ちなみにこのシーンの最後のあたり、バスの運転手役で、隠れキャラ的に田中要次さんが出ています)。

で、その後、オフィスで、orange pekoeの「Happy Valley」を元にした曲、というのを同僚たちと歌い踊る。まあ「現実」には、主人公1人が「暴れている」に等しいわけですけど。その場面もですね、これはまずそのorange pekoeの「Happy Valley」っていう曲が、そもそもね、他の曲に比べれば比較的そこまで知られている曲ではない上に、作者のorange pekoeさんの許可を取って、歌詞をこの映画用にアレンジしていることもあって、ここがやっぱりいちばん、ミュージカルっぽい。

要するに、歌詞の内容も劇中のそれといちばんシンクロしているところなので、本作中最もミュージカルらしい……要は虚構の楽しさですよね。虚構の楽しさっていうのがしっかり満ちている場面になっていると思います。あと、その後の場面で、メンタルクリニックで着信音につい反応してしまうというところの、あのコンテンポラリーダンス的な振り付けも込みの、なんというか、ここだけあえてフッと舞台的な演出になる見せ方とかも、非常に効果を生んでいると思います。このあたりとかもすごく面白い。

■設定の突飛さにストーリーテリングが追いつかず、混乱する場面も

ただですね、さっき言ったように、主人公が歌い踊るシーン、主人公の主観と客観的現実にはズレがある、という。これは当然、作劇としては分かりますよね。なんですけど、シーンごとにその主観と客観的現実のズレっていうのの見せ方が、一定じゃないっていうか、明瞭でないところがあって。ところどころ、「ん? ん? どういうこと?」っていう、ちょっとノイズの方が大きくなってしまうところも正直、ちょいちょいあったと思います。

たとえばですね、高級レストランで、山本リンダの「狙いうち」。「ウララ~、ウララ~♪」って歌いだしてしまうところ。シーンとしてはもちろん、シャンデリアぶら下がりから、シーツ引き抜き3連発、果てはね、矢口史靖さん映画のトレードマークである乱暴な人形使いまで、大変シーンとしては楽しい。これは間違いないんだけど。ただ、みなさん、僕は見ていて「えっ?」って思って。

あれって、まずバンドが「ハッピーバースデー」を歌ってる時に出てきますよね。あのバンドは、現実のものなんですか? いや、違いますよね。だって「音楽が鳴らない店を選ぶ」っていうことで来たのに。で、もし仮に現実にあのバンドがいたとしても、あのレストランで、急にバンドが「狙いうち」を勝手に演奏しだすっていうのは、ありえないでしょう? ということは、あの「狙いうち」は、誰が流した曲なんですか? あの場面は決定的におかしいですよ。そういう風に考えていくと。

という風に、こんな感じでですね、設定の突飛さに、ストーリーテリングがついていってないところがあり、ゆえにノイズが強くなってしまうところがあって。僕はあそこはもう、「はあ? 面白いけど、おかしいでしょ?」っていう風に思ったというね。よくわかんないといえば、前述した、さっき言ったオフィスでのミュージカルシーンが、結果としてビジネス的にもプラスになった、うまくいったよって言うんですけど。セリフでは説明でそう言いますけど、「えっ、どういうこと?」ってことじゃないですか。よくわからない。

ここは、三浦貴大さんのカリカチュアされた「できるプレイボーイ・サラリーマン」という、それを終盤のオチにもつながる表情一発で見せるっていうあたりとかは非常に楽しいし、上手いんだけど。ただ僕は、個人的にはこれ──ちょっとないものねだりだっていうのはわかった上で言いますが──主人公のその特殊体質が、このオフィス空間、ビジネスの場、つまり公のお硬い場でこそ大展開される、つまり、現代のサラリーマン物としての展開をこそ、期待していた。

というのは、序盤で、あえてでしょうけど、働いてる女性の社員たちっていうのが、主人公たちも含めて、あえて、その願望も込みで、ステレオタイプに描かれている。その女性社員の社内でのあり方みたいなものをですね、その主人公こそが、その資質で豪快にひっくり返していくという、そんな話だったらもう、この時代に日本で作られるミュージカルとして、5億点だ!という風に思ってたのに……まあもちろん、ないものねだりなのはわかっていますけど、というね。

■後半のロードムービー展開から大人しくなってしまう

というのも、さっき言った二幕目以降、この映画は、やしろ優さん……やしろ優さんはこれまた本当に意外なまでの大好演を見せていて。その千絵というキャラクター、非常にいいです。後半ね、コンビニの駐車場で、彼女がする行動。あんなに侘しいシーン、見たことないですね。俺、いままで映画で見たシーンの中で、いちばん侘しいです(笑)。「最悪だ!」っていう侘しさ。あの侘しさ表現とか、素晴らしいですし。やしろさん、キャスティングがすごくいいですよね。雰囲気もすごくいいです。とにかくそのやしろさん演じる千絵とバディ化していく、二幕目からのロードムービー的展開。

それ自体はたしかに矢口史靖映画的だし、まあ楽しいといえば楽しいんですけども。これも指摘している方が多かった通り、私もそう思いますが、そこからのミュージカルシーンが、なんか物足りなくなってくる、って思ったんですね。で、これはなぜなのか?っていう風に考えると、要はこういうことですね……二幕目からの、ロードムービー化してから先はですね、主人公自身が歌い踊ることを受け入れてゆくっていう過程があるのは、それはいいんですけど。

要は歌い踊るシーンが、「舞台/観客」の構造がしっかりあったり……これはたとえばシンガーソングライターのchayさんが、ストリートライブをやってる。そのchayさんの役が実はヤベえやつ、みたいなところとか、まあ矢口さんらしい意地悪さだし、chayさんのキャスティングもすごくハマっていていいんだけど。でも、(そこを含めて)「舞台/観客」「やる人/見る人」の構造がしっかりあるところでの演奏だったりとか、あるいは車内だったりとか、あるいはダンスバトルだったりとかね。

このダンスバトルのシーンも、車に積んだスピーカーからヒップホップの重低音が鳴り出した時に、「キターッ! これは間違いなく、超ヤベえラップバトル・シーンが始まるんでしょう!?」って、結構な数の人がワクワクしたと思うんですけど……えっ、ダンスバトルなの?っていう。しかも、ダンスバトルっていう意味でも、ちょっと僕はなんか「えっ、う、うん……」って。とにかく、ミュージカルっていうんだったら、ここはラップをしようよ! いま、このご時世なんだからさ。もうここは、「はあ~!?」っていう肩透かしぶりでしたね。

まあとにかく、その二幕目以降の音楽シーンは、「えっ、ここで歌い出すの?」的な設定の面白さがほとんど生きないような、要は「歌っても踊っても別にそんなに変じゃない」構造の場面ばっかりになってしまう。で、それと比例して、歌い方とか踊り方も、舞台上やストリートライブのそれとして、全然おかしくない範囲に普通に収まるという、非常におとなしいものになっていってしまう。前半にあった、爆発的ななにか、日常を食い破るなにか、まさに監督がインタビューでおっしゃっているような、ミュージカルというもの変さ、ゆえのスリリングさ、面白さみたいなものが、後半、ほとんど生かされなくなってしまう。なんのためにこんな設定にしたのか?っていう。

■とにかく惜しい! このバトンは次に繋げていって欲しい

それでクライマックス……ちなみにクライマックス手前、あの会場の入口の受付を演じてらっしゃるあの女性、あれは『よこがお』で、あの主人公の同僚を演じてらっしゃった、あの女優さんですよね。あの方の「真面目な感じ悪さ」は絶品なので。あの人もさらに売れっ子になっていくでしょうね。すごいよかった。それはいいんだけど、クライマックスも、あくまで舞台/観客の構造ははっきりある中での、歌やダンスに留まっているし。そのわりに、舞台上の絵面などが、「圧巻!」という粋に達していない。普通の歌謡ショーのレベルなので、劇場全体がノリノリになってしまう、ってのも、なんか取ってつけたようなというか、なんか説得力とカタルシスがあまり生じていない、ってことになっている。

ということで、発想は面白いし、いくつかのシーンはむちゃくちゃ上手くいっていて、心底楽しいです。特に、三吉彩花さんは本当に素晴らしい。僕、大好きになりましたし。やしろ優さん、chayさんなどのキャスティングも見事にハマっています。しかし、全体としてはですね、やはり息切れ感が感じられるというか、序盤のミュージカルシーンの密度を保ちきれなかった、っていう感じがしてしまう。とにかく惜しい! というところが目立つ、という感じだと思います。とはいえラスト、主人公に、ある人生の決断をさせるところ。やはりセリフにたよらない演出、ストーリーテリングで見せる。本当に一級品のストーリーテリングだと思いましたし。

大団円、カーテンコール的な、「タイムマシンにおねがい」を歌うあのエンドロール。これはもうもちろん、こんなのは楽しいに決まってますしね。特にあの、まさに『サニー 永遠の仲間たち』的な、「過去の自分と折り合いをつける」瞬間。あそこでの、カラーリング含め「反転」するような演出。あれはやっぱりちょっと、落涙してしまいましたし。さらにそこからエンドクレジット。ミュージカルシーンを改めてこうやってね、ダイジェスト的に見せられると、やっぱり「ああ、ここ楽しかったな、楽しかったな!」ってなるという。

その意味ではですね、ノウハウがほぼほとんどない状態から、よくここまで持ってきた、っていうことは言えるでしょうし、この試み……要するに日本型ミュージカル映画という試み、ここで単発で終わって、また振り出しに戻ってしまうのはちょっともったいないな、という風にも思いますので。僕はやっぱり「ここまでは到達した」っていう試みとして、まだまだこのバトンをつなげていってほしいな、という風に思います。

そのためには、この『ダンスウィズミー』がコケると、この試みが止まってしまうため。このバトンを続けていくためにも、ぜひですね、みなさん劇場に駆けつけて見ていただきたい。そして矢口史靖監督、次回作にさらに大きな期待をしたいと思います。ぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『メランコリック』です)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

(ガチャパートにて)

日本製ミュージカルってね、『だいじょうぶマイ・フレンド』とかのアレもあるから、それと比べれば、大変なレベルに到達した!っていうことですから(笑)。『ダンスウィズミー』、『だいじょうぶマイ・フレンド』と見比べてください!

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