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宇多丸、『アルキメデスの大戦』を語る!【映画評書き起こし 2019.8.9放送】

アフター6ジャンクション

 

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。今週評論した映画は、『アルキメデスの大戦』(2019年7月26日公開)。オンエア音声はこちら↓

 

 

宇多丸:

さあ、ここからは私、宇多丸がランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのはこの作品。『アルキメデスの大戦』。現在、ヤングマガジンで連載中の三田紀房さんの同名コミックを、『ALWAYS』シリーズや『永遠の0』『DESTINY 鎌倉ものがたり』などなどの山崎貴監督が実写映画化。第二次世界大戦開戦前の日本を舞台に、戦艦大和の建造計画を食い止めようとする数学者の闘いを描く。

出演は菅田将暉、舘ひろし、柄本佑、浜辺美波さんなどなど、となっております。ということで、この『アルキメデスの大戦』をもう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「いつもよりちょい多め」でございます。非常に見やすい環境というのもあるでしょうし、山崎貴監督、どんなもんかなという感じで見られたんですかね。

賛否の比率は、「褒め」が7割。「ダメ」が2割。両論併記が1割ということで、褒めている方も非常に多かった。褒めてる方の主な意見は「飽きさせないテンポと役者陣の熱演。エンターテインメント映画として普通に面白かった」「冒頭、戦艦大和の沈没シーンでグッと掴まれた。反戦映画として、そしていまの日本社会の風刺として、確かなメッセージ性を感じた」「山崎貴監督、正直ナメてました!」などなどがありました。

否定的な意見としては、「ラストの展開に納得できない」。これ、ちょっとアクロバティックな……ネタバレしないように何とか気をつけて言いますが、ちょっとアクロバティックな論理で締めるんですけど。「……なんでもセリフで説明してしまう悪い癖は相変わらず」「数学の天才を表すのにああいう表現しかないの? 食傷気味」などなど。まあね、『ビューティフル・マインド』とか、なんでもいいですけども、ここ(人物の頭の横などに)に数字、数式が浮かぶっていう。まあ、それ以外にどうやるんだ?っていうところもあるかもしれませんけどね(笑)。

■「山崎監督の『脚色の思い切りの良さ』も発揮。特に終盤、クライマックス後の展開はお見事」(byリスナー)

というところで、代表的なところをご紹介しましょう。「Mr.ホワイト」さん。この方、「山崎監督、VFXはなかなかだけど、画作りが凡庸で役者の抑制ができないというイメージで、本作もそこはそのままでした」というようなね、否定的な意見も抱きつつも、「……しかし、本作では『寄生獣』第一作で見せた『脚色の思い切りの良さ』は存分に発揮されたと思います。特に終盤、クライマックスたる会議を終えた後の展開は見事でした。兵器の持つ美に囚われた男といえば傑作『風立ちぬ』。かの作品において主人公・堀越二郎は多分にイノセントな存在になっていたと思いますが、本作の主人公・櫂少佐は明確に悪魔に魂を売り払いました」。ちょっとこれ、際どいな(笑)。

「……一介の軍人に成り下がった彼の最後の一筋の涙。これほどの苦渋はないでしょう。そしてそれがいまの時代に響く話でもあります。悪役にあたる田中泯さん演じる平山というキャラクターが主人公に冷たく放つ一言、『だからどうした?』。これは開き直りが当たり前となり、知性なき蛮勇がもてはやされるいまの世情を風刺した一言とも取れます」。冒頭のスペクタクル戦闘シーンの……とある場面でもこの視点を通したところが素晴らしかった、といったあたりです。ということで、非常に褒めているメールでした。

一方で、よくなかったという方。「たくや・かんだ」さん。「『アルキメデスの大戦』、見てきました。数学で戦争を止めようとした男の物語という、魅力的な宣伝文句で期待して行ったのですが、正直イマイチでした。浜辺美波さん演じるヒロインが大阪に行くことで事態が進展するというのが象徴的ですが、ストーリーは特に論理的な仕掛けがあるわけでもなく、平板で退屈でした」。まあ中盤はたしかにそのきらいがあるかもしれませんね。

「……また、部下が上司に報告する形を取っているものの、セリフで状況を説明する場面が多いのも気になりました。菅田将暉演じる櫂直という主人公は、『数学の天才』というよりも『変人・空気を読めないやつ』という描写が多くて、この手の理系の天才の描き方ももううんざり。その変人ぶりも面白ければいいんだけど全く面白くないし……」というね。

ただ、この方は全体的に批判的に書きつつも、「ラストの菅田将暉と田中泯さんのやり取りはよかった」という。要するにその着地はよかった、というようなことをおっしゃっていました。という感じでみなさん、メールありがとうございます。『アルキメデスの大戦』。全体的にやっぱり、山崎貴さん作品としては好意的な意見が非常に目立っていた作品でございました。

■山崎貴監督、現時点での最高傑作。これまでの作品とは、ちょっとレベルが違う

ということで『アルキメデスの大戦』、私もバルト9で2回、見てまいりました。まあ山崎貴さん、今回は脚本・監督・VFXを手がけられた……まあ「白組」所属ということで、もともとCGとかに非常に長けてらっしゃるということもあって。山崎貴さん、来年の東京オリンピックの開会式・閉会式のプランニングチームにも参加されている、まあ、いまの日本映画界を代表するヒットメーカー。これは間違いないと思います。

実際、現在もですね、この『アルキメデスの大戦』と、その翌週に公開された、こちらは脚本と総監督を務められている『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』が、並んで興行収入にランクインしてる状態ということで。まあこれ自体がもう、大したもんだとしか言いようがないんだけど。ただ、僕自身はやっぱり、過去の作品、一通り山崎さんの作品は拝見しておりますし、番組の中でも5作品、評してもいるんですけど、正直、かなり酷評することが多かったです。過去のものはね。

いちばん新しいところだと2017年12月23日、前の番組時代に評しました、『DESTINY 鎌倉ものがたり』という作品。こちら、書き起こしが残っていますので、僕がいままでどんな論調だったかっていうのは、それを見ていただければわかると思いますけども。まあ、『DESTINY』はそれでも、いままでの中では比較的マシ、ぐらいのテンションだったんですけども。加えて目下、先ほど言った、『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』というゲームをベースにした3DCG映画が、主にその元のゲームに思い入れが強いみなさんを中心に、まさに阿鼻叫喚のプチ炎上を起こしている。というよりは、はっきり怒り狂ってる人が続出している、という状況で。

僕もまあ、今週その『ユア・ストーリー』も見てきました。で、なるほどそちらはそちらで、「ああ、物議を醸し出すっていうのはまあわかるな」というつくりでした。つくり手ももちろん、それを分かった上でのつくりだし、それに対する僕なりの意見というのもありますが。それはそれとして……先にちょっと今日は、結論から言っておきますと、今回の『アルキメデスの大戦』、そうしたマイナスイメージに紛れてしまうのは、あまりにももったいない、という風に言いたくなるほど、明らかに山崎貴さん作品としては、いまのところの最高傑作。これまでの作品とは、ちょっとレベルが違う一作になっていると思います。

■これまでの欠点はおおむねカバーされ、そして長所がプラスに活きている

ざっくり言えば、これまですごく目立っていた弱点や欠点……たとえば、会話シーンなどの、役者に対する演出がまあ、ちょっと緩すぎるんじゃないか、ちょっとやらせっぱなしすぎるんじゃないか、とかですね。いくらなんでも全てを言葉で説明しすぎじゃないか、とかですね。演出も非常にベタベタで、今時ちょっと説明的すぎるんじゃないか、とかですね。あとはその、散々「イイ話」風に押し出してるけど、そもそもこれって全然イイ話になってないよ!的な、まあお話自体の、根本のヤダ味とかですね。とにかくそういう、思わず映画館の暗闇の中で大きめの舌打ちをしてしまわずにはいられなかった諸々のマイナスポイントが(笑)、今回は概ねカバー、もしくはさほど目立たないつくりになっている。

その一方でですね、山崎さんの得意なジャンル……やはり当然、VFXを駆使したスペクタクルシーンとか、そしてその、長大な原作を一本の劇場用長編映画の枠組みに置き換えてみせる手腕、などがですね、今回の『アルキメデスの大戦』に限って言えば、完全に僕はプラスに働いてるな、という風に思いました。

まずその、『ドラゴン桜』などでおなじみの、三田紀房さんによる原作漫画があるわけですね。いま単行本が、最近最新巻の17巻目が出たばかりなんですけども。僕もこのタイミングで、例によって全巻読みましたが。とにかくこれ、山崎貴さんが以前から映画化を熱望していたというこの原作。この原作の切り口が、まずはやっぱり秀逸だなと思いましたね。

戦艦大和に象徴される旧日本軍、ひいてはいまにも通じる日本的組織の非合理性、っていうのに、卓越した頭脳と人心掌握術を持ったヒーローが立ち向かっていく、というような話で。そもそもこの三田さんも、東京オリンピック(2020)の国立競技場を建設する時のすったもんだを見ていて、というようなことをおっしゃっていましたね。いまでもこういうことは残っている、というような。で、今回映画化されたお話は、単行本で言うと、いま最新で17巻出ているものの中の、3巻目の前半ぐらいまでなんですよ。全然最初の方なんですけども。

ただ、いくつかのキャラクターは根本から性格改変されてたりしますけど、基本的には原作のエッセンスをかなり忠実にトレースしていますし。3巻目以降の要素も、実はしっかり染み込ませているという。3巻目以降の主人公が考えることとか、主人公のちょっとした変化みたいなものも取り込んであったりして。なかなか上手く整理もしているという。で、問題はここで……これ、原作はまだ完結してないわけです。なおかつ、言うまでもなく、結局主人公が阻止しようとしている諸々の事態は、全て実際には起こってしまう、という史実があるわけですよね。

■決まっている史実に対して、アクロバティックかつ、「ちゃんと落ちてる」回答を用意

言うまでもなくですけども、結局日本は米英との戦争に突入してしまうし、戦艦大和もつくられてしまうし、そしてまんまと役に立たないまま沈んじゃったし……ということで。そういう動かせない現実の歴史、っていうのがあるわけです。そういうのに対して、超アクロバティックな映画的解決を持ち込んでみせた、っていうのが(主に『イングロリアス・バスターズ』の)タランティーノですけども。まあ誰もが“あれ”をできるわけではないわけで。つまり、その主人公がどれだけ途中で活躍しようとも、最終的にはすべてが徒労に終わる、っていうことが分かってるわけですよ、歴史的に。

これ、どうやって……特に1本の劇場用映画としてですよ、カタルシスあるオチをつければいいのか? 一時、主人公が勝ったとしても、真に勝ったことにはなっていないのを僕らは知ってるわけだから。どうやってオチをつければいいのか?っていうのはこれ、はっきり言って難題中の難題だと思います。非常にクリアするのは難しいハードルだったと思うんですけど。これ、山崎貴さんの脚本はですね、そこにひとつの回答を出してみせる。やっぱり非常にアクロバティックではあるし、アンハッピーエンドなのに変わりはないです。

つまり、いわゆるストレートな「イイ話」では全然ないんですけど、その後味の悪さこそがですね、はっきりカタルシスとなるようなところに着地していて。僕は「ああ、考えたな!」っていう。「ああ、落ちてる。ちゃんと落ちてる。見事だな!」っていうアイデアだなという風に思いました。もちろん、そこに対する好悪の問題はちょっと置いておきますね。

■出色の出来は映画冒頭、戦艦大和の沈没シーン。「山崎さん、見直した! よくやった!」

ちょっと順を追っていきましょう。まず冒頭、これパンフレットによれば5分半っていうことなんですけども、原作漫画にはない、映画ならではのツカミのスペクタクルシーンがあります。すなわち、これはもう言うまでもなく1945年4月7日、戦艦大和が撃沈される、というくだりから始まるんですけど。個人的にはここね、いままでも戦艦大和と、それが撃沈されたっていうことを描いた日本映画は、過去にもいくつかありますけども。『連合艦隊』とか『男たちの大和/YAMATO』とか、いろいろとあるけども。その中でも僕、今回のはトップの出来だ、という風に思いましたね。

山崎さんご自身が相当思い入れがあって、非常に史実に、すごく強くこだわってやってる。で、無論いまのVFX技術があればこそ可能になった描写、というのもあって。それをこの5分半という短時間に、たくさん盛り込んでいて。特にやっぱり、あれは『タイタニック』でもありましたけど、船体が傾いて、乗員がブワーッて宙吊りになっちゃって、ドーンと落っこちていく、というような、非常におっかない場面とか。そこからさらに、転覆する船体が海の上に……一旦は逃れた人々の上に、ブワーンと覆いかぶさって落っこちてくる、というところとか。まあ、特に劇場の大画面で見ると、恐怖をしっかり感じるような画づくりになっていて、見事なものでしたし。

個人的に心底うならされたのはですね、先ほどのメールにも実はあったんですけど、撃墜したその米軍機。「ああ、落ちた。当たった!」なんて喜んでるんだけど、そこからパラシュートでフーッとパイロットが脱出して。で、そこにアメリカの哨戒機がフーッとやってきて、彼を回収して、またフーッと去っていく……という様を、大和の銃座にいる一兵士の視点で、引きの画で、淡々と見せる。そしてその兵士は呆然とそれを見送るしかない、というシーンを挟んでいる。それはプレビズ時点では入っていなかった描写を、後から入れたらしいんです。

これ、どういうことかというと、パンフレットに載ってる山崎さんのインタビューによれば、キャストの中の1人のおじいさんが、大和が沈んでいくのを、近くの駆逐艦で見ていたという。で、その手記の中にあった描写を、山崎さんが「どうしても」ということで入れ込んだ、っていうことらしいんですけども。これが本当に大正解! 素晴らしいと思います。要するに、ドッカンドッカンってすごく悲惨な出来事が起こるっていうのはいままでも描かれていたけども、あの1人の兵士が、アメリカ軍の行動を見ることを通して……つまり「人的資源をこそ無駄にしない、米軍の真の合理性」っていうのを呆然と見送るしかない、この大和の乗員の視点。

先ほども言ったように、その大和っていうのは、日本的システムの不合理性の象徴として本作では扱われているわけですけども。つまり、それ(パイロットを米軍が救出する描写)が本作のテーマを、より鮮烈に際立たせているわけですね。戦力差だけじゃなくて、そもそも勝ち目は無いだろっていう。こんな考え方の違い(があったならば)。そして、僕はここに感動したんですけど、ここで「ああ、アメリカ軍は人を救っているのに……」みたいな説明ゼリフを、かつての山崎貴さん作品だったら言わせてしまいかねないところを、一切入れずに、呆然と見送るだけで済ませたところで、僕は「山崎さん、見直した! 山崎さん、よくやった!(拍手)」っていう(笑)。ということで、非常に監督としての手腕も見直しましたし。

で、やがてその船体の真ん中から、ポキッと折れるようにして、海に縦に沈んでいく大和。まるでね、巨大な生き物が死んでいくように沈んでいく大和。すると、その沈んでいく大和の船体に合わせて、上にカメラが上がっていくと、モクモクと黒煙が上がってるんですけど、それがですね──明らかに意識的にだと思いますが──ちょっとキノコ雲風に膨らましてるわけです。つまり、ここは「大和が沈没しました」っていうだけじゃなくて、後の原爆投下からの日本の完全敗戦まで、っていうところが、そこはかとなく画的に重ね合わせられるわけですね。

しかもこの一連のシーン、佐藤直紀さんの音楽がですね、非常にミニマルで。いたずらに悲劇性を謳い上げるようなドラマティックさじゃなくて、ただただ不吉!っていう、ミニマルな低い音の繰り返しなんですよ。「ブーン、ブーン……」って、そこも素晴らしいバランスで。僕はですね、山崎貴さんの監督作で、失礼ながら、初めてストレートにこのシーン、心から感動しました。本当に名シーンと言っていいと思います。「見事だ!」という風に思いました。はい。

■ストーリーの型は「法廷物」。しかしやりとりは全くロジカルではなく、「おじさんたちの意地の張り合い」

で、そこから12年前の1933年(昭和8年)に戻って、本編の話がスタートするわけですけども。要は、いかにその超巨大戦艦などという時代遅れの産物をつくらせないか……それがどう失敗に終わるかっていうのは、最初に見せてるんで。ひいては、いかにして日本を米英との無謀な戦争に踏み切らせないか、っていう。そのために、その戦艦の予算の見積もりの虚偽を、数学の天才を連れてきて暴いてやろうという。まあ、大筋はこれなわけです。ストーリーの根本はつまりこれ、一種の法廷物ですね。法廷物と言っていいと思います。プラス、さっき言った『ビューティフル・マインド』的な天才描写が入ってくる、ということだと思いますけども。

ただ、この話の場合ですね、法廷物っていうのは本来、ロジックの応酬であるべき議論の場なんだけども……軍服を着てやたらと威張っているのがまた滑稽なあのおじさんたちのですね、わりとしょうもない、意地の張り合いなわけです。全く議論がロジカルじゃないわけですね。で、それこそがまさに日本的組織の不合理性。そして悲しいかな、いまの日本にも全然通じてしまうっていう部分で。これ、原作もまさに、そこを浮き彫りにするっていうところが面白い漫画なんですよ。おじさんたちの言い合いがあまりにもバカっぽすぎて笑っちゃう、っていう。情けない!っていう問題を浮き彫りするっていうところなんですけども。

今回の映画版もですね、たとえば、ルックスを含め意外とこれが本人の実像に近いんじゃないか、という気もちゃんとさせる、舘ひろしさん演じる山本五十六。ルックスは実際、すごく似ているし、非常にダンディで、ちょっと遊び人なところもあったらしいからさ。もう舘さん、意外とぴったりなんですよ。とにかくそんな山本五十六をはじめとするおじさんチームの、どこかやっぱり「ダメだこりゃ」感漂うアンサンブルが、まずは楽しい。小林克也さん演じる大角海軍大臣の、あの日和見主義感とかも、非常に絶品ですし。

そしてもちろん、それと鮮やかな対照をなす、主人公の櫂直、それを演じる菅田将暉さんですね。原作はもうちょっと大人っぽいキャラクターっていうか、もうちょっと意識的なマキャベリストというか……人心掌握もすごくあれだし、なんかちょっと汚い手を使うこととかも辞さないタイプなんだけど。それに比べると、(映画版は)かなり純粋・天然寄り、なんなら幼めなキャラクター造形を今回はしてると思うんだけど。ただこれがですね、今回の映画版に関しては、詳しくは後ほど言いますけども、さっきから言っている映画オリジナルのオチに向けての、主人公の心理の動き、変化に対しては、この純粋さ、ちょっと天然な幼いバランスの方が、それこそ最適解じゃないかな、という風に思うようなバランスだと思いました。

あとは菅田将暉さん自身が、ご本人が数学好きで、数式も全部理解した上で覚えて書いているっていう、あのクライマックス。黒板に計算をするシーンなんか、つまり彼でなければこの説得力は出なかった、という役柄でもあると思います。これもパンフの山崎さんのインタビューによると、撮影が終わった後にキャストから拍手が出ちゃったっていうぐらい、しゃべりながら板書をして……っていうのが見事なものだったらしいですけども。

■全編ほぼ会話劇ながら、演出や画のぬるさはほとんど目立たない

あとね、彼回りで言うと、彼がその日本に踏みとどまることを決意するシーン。ここで突然、なんか内面ナレーションが始まっちゃったりするところは垢抜けないっちゃ垢抜けないんだけど。ただその映画オリジナルの、要は幻視をするわけですね。戦争が始まってしまうっていうことを幻視する場面も、以前に僕があの『ALWAYS』で「デジタルエキストラの佇まいが幽霊みたいだ」っていう風にちょっと揶揄したんだけども。今回のこれに関しては、その不気味さがプラスに働いている、とか。このへんも非常によかったし。

まあ彼の選択っていうのがつまり、表面的な合理性をどうしても超えてあふれてしまうもの、っていう風にしたのも、オチの流れと呼応していて、僕はとても感動的だった。「数学的には間違っているのに、残らなきゃいけない気がする」っていう。僕はすごい感動的だという風に思いましたし。とにかくこの菅田将暉さん演じる主人公の櫂直と、柄本佑さん演じる田中少尉。ここがちょっと、バディ感なんですね。山崎監督曰く、「ホームズとワトソン」感で進んでいくという。

で、たしかにメールにもあった通り、ちょっと中盤でストーリーとしては平板なところが続くんだけど、ただこの2人のバディ感で楽しく見せてる。あと、あの浜辺美波さんも、演技としてはやや拙いのかもしれないけど、あの時代のお嬢さん感、みたいなのが顔立ちとかも含めてすごい出ていて。なんか昭和感がちゃんとあって、とてもよかったと思いますし。とにかく全編ほぼ会話劇ながら、これまでの山崎貴作品に目立った演出や画のぬるさ、みたいなものはあんまり目立たないっていうか、そこまでは気にならない、っていう感じなんですね。

東京オリンピックという巨大国家プロジェクトを手掛けてらっしゃる人物が、こんな終わり方の作品を……?

で、クライマックス。さっきから言っている、いわば法廷シーン。ほぼ原作通りの展開ながら、さっき言った菅田将暉さんの演技スキルそのものがひとつの見せ場でもあって。非常に見応え十分でもある。それぞれの声のトーン、リズムの違い、みたいなところでグイグイと話が前に進んでいくあたり、これはたぶん役者のみなさんの相性がよかった、っていうのもあるのでしょうね。山崎さんの撮り方として、要するに会話劇であまりカットを割らないために、あんまりそのアンサンブルがよくないとヌルいところが残っちゃうんだけど、今回はやっぱり、そこがよかった、っていうことなんだと思うんですけどね。

ただ問題は、その法廷物として原作通りの決着があった、その先。さっきから言っている史実の壁……どうしてもカタルシスが減じてしまう史実っていうのが、その先の壁としてあるわけです。ここはですね、山崎さんの脚本……原作ではストレートに敵役だった、田中泯さん演じる平山造船中将。その田中泯さんのどっしりした存在感も借りて、大胆に、さらにひとひねりしてみせるわけですね。要はですね、主人公の櫂直が、不合理と分かっている大和建造を、最終的には彼も納得して、そこに乗っかるに足る論理を持ってこなきゃいけない。

で、これは具体的にはもちろん言いません。ぜひ見ていただきたいんですけども。まあ、言ってみれば『ウォッチメン』のオジマンディアスとか、あとは『ダークナイト』のオチとかにもちょっと通じるかな? はっきり言えば非常に傲慢な思想ですし、詭弁だし、ほとんど狂気とも言えるような論理なんだけども。つまり、ストレートに「イイ話」では全くないです。だから、「ああ、これはなるほど、いい話」っていうんじゃなくて、「なんという結論を出すんだ?」っていう。

でも、あの2人は、やっぱり2人とも、さっきのメールにもあった通り、悪魔に魂を売った2人で。「君もわかるだろう? 君もこの船がつくりたいだろう?」っていうね。まあメールにも「メフィスト」っていう風に書いてありましたけど、誘惑をする。でも、これは僕ね、全くいい話ではないんだけども、冒頭シーンで示された圧倒的な絶望感と合わせてですね、これは僕の解釈ですが、要は主人公ほどの人物をもってしても、日本という巨大な不合理に対しては、より巨大な不合理性で回答するしかなかった、というこの皮肉な結末。アンハッピーエンドならではのカタルシスが、しっかりあると思います。

あの大和の甲板上でですね、真珠湾攻撃後、得意の絶頂なんでしょうというその山本五十六に、もうすでに軍人の中の1人、その一列と化して敬礼する時の、あの菅田将暉さんの表情。「僕はもう、悪魔に魂を売ってしまったんだ」っていう、その怜悧な表情に変わっている。あと、その直前でですね、山本五十六が得意げに話しているところを、國村隼さんが演じる永野修身がですね、表情一発で、「えっ、お前って……」っていう感じを見せるあたりとかもですね、非常に演技の積み重ねとかもすごく見事で。僕は、饒舌すぎず、ちゃんと伝えるべきことを伝えているな、という風に思いました。

非常にこの、後味の悪さこそがカタルシスになるような着地にちゃんとなっている。「考えたな!」という風に思います。そして、冷静に考えてみると、東京オリンピックというまさに巨大国家プロジェクトをいままさに手掛けてらっしゃる人物が、こんな終わり方の作品を……?っていう風に考えると、さらに興味深いな、という風に思います。おそらく山崎貴さん自身、今回は満足度が非常に、段違いに高い一作だったんじゃないかな、と思います。

言ってみれば山崎さん版『風立ちぬ』、という面もあるんでしょうが。ということで、僕は初めて……偉そうではございますが、山崎貴さん作品としては初めて、ストレートにおすすめです! いま、劇場で見ていただくといいんじゃないかな、という風に思います。

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『よこがお』です)

(以下、ガチャパート文字起こし)

あの『アルキメデスの大戦』、先週『ペット2』が出て、1万円払っての『アルキメデス』でしたけど、正直そうじゃなければ、ひょっとしたら見てなかったかもしないから。あの、すげえ見てよかったです。それだけは本当に保証できます。はい。

(2019/8/12月 放送分より)

宇多丸:あと、ひとつ。これ、すいません、熊崎くん。ベラベラ話しちゃって。この間も言ったけど、僕は金曜日に、ムービーウォッチメンっていう映画時評のコーナー、やっているじゃないですか。で、やった後にやっぱり、「ああ、ここが足りてなかったな」「これは言い方がもうちょっとあったな」とか、反省は後からいろいろとするんですね。で、この間の『アルキメデスの大戦』。山崎貴さんの脚本・監督作としては、僕は異例なほどの大絶賛をさせていただきました。本当にでもいい映画ですよ。面白いです。

なんですけど……番組が終わって、その後の『バラいろダンディ』も終わって、ご飯を食べている時に、「ああーっ!」っていう風にもだえ苦しむような、自分の言い忘れに気づきまして。要するに映画を2回も見て、その時に「ああ、このことは絶対に言わなきゃ」って思っていた、あることを完全に言い忘れて。失念してしまっていて。ノートをつくる時にも忘れちゃっていて。これ、なにかと言いますと、菅田将暉さん主演で、その相方として柄本佑さん、この2人がバディ化していて、という役者さんのお話。このあたりがいい、なんて言っている流れで、ぜひ取り上げるべきだったのが、敵役というか、主人公の敵チームで、主人公の回りを嗅ぎ回って嫌がらせをしてきたりする嫌なやつ。熊崎くんもご覧になりました?

熊崎風斗:見ました、見ました。あの憎たらしいあいつですね?

宇多丸:たしか高任とかいうやつかな? それを演じているのが……僕、最初に見た時に、「うわっ、なんだ? このいやらしい爬虫類顔したやつ、誰なんだよ? すげえ悪役。見たことない感じの……」って思っていたら、見たことないどころか、奥野瑛太さんっていう若手俳優で。この方は、僕らの周りではとにかく「マイティ」という愛称で知られています。なぜかというと、入江悠監督の出世作『SR サイタマノラッパー』という、埼玉で細々と活動しているラッパーたちを描いた作品の中で、マイティというラッパーのキャラクターで一躍知られて。

で、『SR サイタマノラッパー』チームはみんな、駒木根隆介くんも「イック」って呼ばれているし、役名で呼ばれがちなんですけども。ずっと僕らも奥野くんのことを「マイティ、マイティ」って呼んでいて。ちなみにみなさん、ぜひ『SR サイタマノラッパー』、一作目だとマイティは主人公たちをある種裏切って、離れていってしまう若者の役なんだけども、三作目の『SR サイタマノラッパー  ロードサイドの逃亡者』、これ、大傑作ですけども、主人公になって、最後の彼の魂のフリースタイル……もう号泣せずにはいられないラストシーン、ぜひ見ていただきたいんですが。

で、奥野くんはいろんな作品でバイプレイヤー的に活躍をされていて。その後も、たとえばそれこそ菅田将暉さんの出世作、役者としての開眼作と言ってもよかろう、『そこのみにて光輝く』という作品で、綾野剛さんのかつての後輩、事故で死んでしまう後輩役。あまりセリフとかは多くないんですけども、非常に印象的な役をやっていたし。最近だと、ホラー映画の『来る』という作品で、結婚式の場面でクダを巻いている、嫌な感じの同級生と言いましょうか、のあいつとか。あと、『凪待ち』のノミ屋の、入り口の受付やっているあのチンピラ。あれ、奥野くんなんですよね。

いままではこんな感じで、ちょっとチンピラめいた悪役みたいなのをやることが多かったんですけども。今回の『アルキメデスの大戦』では、それとは全く違う、ちょっとエリート然とした、シュッとした嫌なやつ、みたいな。だから、奥野くんの演技としても非常に新境地だったし。「このことは絶対に言わなきゃ!」って思っていたのに、ちょっと言い忘れてしまった。ちなみにいま、菅田さんと柄本さんと奥野くんがすごい仲良しになって、一緒にいつも遊んでいるらしくて。ねえ。ということで。ちょっと奥野くんが年上だとは思うんですけどもね。

ということで、今後もさらなる活躍を……いまから目をつけておいて、奥野くんの出る映画に注目をしていただくと嬉しい限りでございます。特に『サイタマノラッパー』からキャリア順に見ていくともうね、みんなそうなんだけどね、やっぱり応援をしたくなる。名優・駒木根が出てくると、まずその「失笑力」に……彼がスクリーンに登場した時にかならず場内から失笑を起こる、という間違いのない失笑力。あれもさすがなものでございます。ということでぜひ『アルキメデスの大戦』、奥野くんの演技にも注目をしてご覧いただければ、と思います。

以上、「誰が映画を見張るのか?」。週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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