TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
1月19日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、「食品ロス」問題の専門家でご自身も食品ロス削減に取り組んでいるジャーナリストの井出留美さんさんをお迎えしました。井出さんには1ヵ月前(2018年12月1日)にお越しいただいたばかりですが、久米さんたっての希望で2度目のご出演をお願いしました。こんなに間を空けずに再登場していただくのは量子コンピュータのお話を伺った根本香絵さん(国立情報学研究所)以来のこと。リスナーのみなさんからもたくさんの反響をいただいた食品ロスのお話を再び。

井出さんが食品ロスの問題に関わることになったひとつのきっかけは2011年の東日本大震災でした。当時、日本ケロッグで広報室長を務めていた井出さんは被災地への食料支援に奔走します。せっかく用意した食料が本当に必要としているところに行き渡らないということがあちこちで起きていた一方で、食料が届いた避難所でも信じられないようなことが起きていました。ある避難所では、せっかく届いた食料の数が避難者たちに配られないまま放置されていたのです。食料が避難者の人数に少し足りていなかったので、そのまま配ると受け取れない人が出てしまう。それでは「平等」でない、という理由で配らないというのです。そうやって放置された食品は傷みが進んで、結局すべて廃棄されてしまいました。また、同じ食品でも作ったメーカーが違うからということで、これも「平等」でないからということで配られないまま廃棄されました。お役所のこんなおかしな平等意識って何なのでしょう。
そろそろ節分の季節がやってきます。スーパーやコンビニでは恵方巻の予約が始まっています。この恵方巻もここ数年、大量廃棄が問題になっています。そこで先日、農林水産省は業界団体に対して需要に見合った販売をするように文書で通知を出しました。恵方巻の食品ロスを減らそうということです。

「最近、SNSやインスタグラムなんかで山のように捨てられている恵方巻の画像が出回りました。それが今回の農水省の通知のきっかけなんですか」(久米さん)
「ひとつのきっかけは2016年の2月3日にフランスで世界で初めての法律ができたことです。ある一定以上の面積のスーパーでは、売れ残った食べ物を捨ててはいけないという法律だったんです。だからスーパーは売り切る努力をする。これがSNSなどで『すごい』と話題になりました。2月3日といえば日本では節分です。それで、日本ではこんなことになっているんだと言って、ソーシャルメディアでかなりの人々が売れ残った恵方巻の写真をあげました。それから結構、社会問題になってきたかなと思います」(井出さん)
「食品ロスに関してはソーシャルメディアはかなり武器になる。SNSがあってよかったですよね」(久米さん)
「あってよかったです。去年(2018年)の2月3日前後に、兵庫県のヤマダストアーというスーパーが『もうやめにしよう』という広告を出したんです。もう恵方巻の大量販売はやめにしようと。それがすごく人々の共感を呼んだんですね。恵方巻の中にはニワトリが24時間産み続けている卵も入っているし、枯渇している海洋資源も入っている。それをもうこれ以上ムダにしたくないと。それでヤマダストアーが素晴らしかったのは、去年と同じ実績で作りますと言ったんです。ほとんどの小売りは前年実績を上回る数で、ずっと右肩上がりというような目標を立てるんですね。だけどヤマダストアーはそれをやりませんと宣言した。それがすごく素晴らしいんですけど、兵庫県の地場のスーパーですから全国的には知られていなかったんです。それを地元の方がソーシャルメディアにあげて、それが全国区になって今回の農水省の通知でもヤマダストアーを見習いなさいということが入っているんです」(井出さん)
「でも、恵方巻を作りすぎるなって、これ、役所が言わなきゃだめな問題ですか? ぼくはもう、日本人あたまおかしいよって思いました」(久米さん)

「私も、ありがたいなというポジティブな気持ちと、日本もここまできたかというすごい残念な思いと両方あるんです。でもなぜ国が通知を出すことがありがたいかというと、食品業界の中に上下関係があって、作り手(メーカー)が欠品を起こすと販売者(小売店)から取引停止になる可能性があるんですよ。だからメーカーは廃棄コストを払ってでも多く作らざるを得ない。多く作りすぎないと取引を続けられないというような関係があるんです」(井出さん)
「それは日本の商習慣ですか?」(久米さん)
「食品業界の商習慣です。例えばメーカーが100個納めますと言っていたのにほかのところですごく売れちゃってその店に100個納められなかったら、販売者から『どうしてくれるんだ、この売上があがらなかったじゃないか』と言われて、メーカーがその分を補填、補償しないといけない。悪くすると取引停止になる。だからメーカーはすごく欠品を怖れているんです」(井出さん)
「省庁が言わなかったら、また恵方巻を半分ぐらい捨てちゃったりなんてことが起きるんですか」(久米さん)
「また起きると思います。今月も起きてると思います。なぜなら、恵方巻って予約のチラシや幟(のぼり)を見ませんか? あの写真を撮影するときにも、撮影が終わったら捨てているんです。チラシというのは見栄えが良くなければいけない。何度も何度もやったらそれだけ無駄が出て、それを全部捨てるんですよ。だからもう1月から恵方巻のロスは始まっているんです」(井出さん)
同じようなことは、クリスマスのケーキやお正月のお節料理でも繰り返されています。小売店は前年よりも多く売ろうとし、そのためにメーカーは需要よりはるかに多くのケーキやお節を作る。そしてクリスマスが過ぎ、三が日が明けると、リサイクル工場には大量のケーキとお節が回ってくるのです。
クリスマスケーキやお節料理が結構いいお値段するのは、捨てるコストが入っているからです。百貨店やスーパー、コンビニで売られているあらゆる食料品の価格には、廃棄処分にかかるコストが含まれているのです。そうでなければ商売が成り立ちませんから。そしてそのコストを払っているのは、私たちなのです。
日本では自治体のゴミ処理費用が1年間におよそ2兆円かかっています。そのうちの40~50%が食べ物を焼却する費用といわれていますから、なんと8000億円から1兆円。その多くが、まだ食べられるのに捨てられる食品ロスです。それも私たちの税金から出ているのです。
いま全世界の食料支援が年間で380万トン。日本の食品ロスはその2倍近い646万。そして忘れてはいけないのは、646万トンのおよそ半分は私たちの家庭から出ているということ。食品ロスは、実は私たちの冷蔵庫の中がどうなっているかという問題なのです。
井出留美さんのご感想

先月と今月、2回続けての出演でしたけれど、前回の放送(2018年12月1日)のあとに出てきたクリスマスケーキやお節料理、恵方巻のロスのことを具体的にお話しできたのですごくよかったと思います。国の対処の話や、コンビニ会計のことも触れましたので、前回より深く、広くお話しできたかなと思います。

リスナーの方からのメールを読ませていただいたのですが、前回の放送を聞いてからご自身の食品ロスが激減したという方がいたり、スーパーにお勤めの方が食品を廃棄することにすごくうしろめたさをもってくださったり、海外のリスナーの方が日本にいる身内の方に私の本を送ってくださったり、いろいろな方が放送をきっかけにご自分の生活を良い方向に変えたということを伺いました。頭では「ロスを減らした方がいい」と分かっていてもなかなかできないことがいっぱいあるので、みなさんがそうやって実践なさったというのはすごいと思います。久米さんは前回の放送は失敗だったとおっしゃっていましたけど、リスナーのみなさんの生活が変わったという意味では、前回は失敗ではなかったのだと思います。
食品ロスの問題はみなさんが知らないお話がまだまだたくさんあるので、「5年後」と言わずまた呼んでください(笑)。ありがとうございました。
次回のゲストは、「木下サーカス」4代目社長・木下唯志さん
1月26日の「今週のスポットライト」には、木下サーカスの4代目社長・木下唯志さんをお迎えします。10億円という負債を背負いながらもそれを跳ね返した木下さん。いまも年間なんと120万人の観客を集め、木下サーカスを世界3大サーカスのひとつに数えられるまでに成長させた方!