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見直される伝統医療

森本毅郎 スタンバイ!

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忙しい朝でもニュースがわかる「森本毅郎・スタンバイ!」
(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)
8時からは、話題のアンテナ「日本全国8時です」
全国ネットで、日替わりゲストとともに放送。

毎週木曜日は、東京大学名誉教授、月尾嘉男さんの「賢くなれる雑学コラム」!

月尾嘉男

今日5月5日(木)は「見直される伝統医療」

今日は「薬の日」

今日は「こどもの日」ですが、実は「薬の日」にもなっています。これは1987年に全国医薬品小売商業組合連合会が制定した、歴史の浅い日で、端午の節句と関係なさそうですが、なかなか深い関係があるのです。5月初旬の時期は急速に気候が変わるため体調を崩しやすいということで、古くから中国では薬効のある菖蒲を菖蒲酒にして飲んだり、菖蒲湯(しょうぶゆ)に入る風習があったそうです。それが日本にも伝わり、戦国時代から菖蒲湯の風習がありましたが、江戸時代になって「菖蒲」は「尚武(しょうぶ)」すなわち武道を重んじるという意味に重なるとして、菖蒲湯が盛んになったという歴史があり、薬とは関係があるというわけです。

しかし、今日が「薬の日」になったのには、さらに長い歴史があります。今から1400年以上前の推古19年(611年)の今日、推古天皇が臣下を引き連れて、奈良の兎田野(うだの)という場所に出掛けて、シカの若いツノで薬効のある鹿茸(ろくじょう)や薬草を採取する行事をされたのですが、この薬狩りが恒例行事となり、5月5日は「薬日(くすりび)」になりました。これは「日本書紀」にも記録されている由緒ある記念日です。

軽視された漢方

現在、世界で使用されている薬品の8割近くは化学薬品ですが、近代になって合成化学が進歩するまではすべての薬品は鉱物、動物、植物という天然の物質を原料とした生薬(しょうやく)でした。しかし、石油など化学物質を原料として安価に生産される化学薬品が普及するにつれ、薬草などが劣勢になりますが、とりわけ日本では明治7年(1874年)に、西欧を見習えという文明開化のなかで、西洋医学を修めて医師免許を取得しなければ医師になることができないという制度が成立してしまいました。明治28年(1895年)には漢方医の反対運動により、医師法改正案が国会に提出されましたが、僅差で否決され、現在に至っています。

その結果、東洋医学とか漢方といわれる医療行為は軽視されてきましたが、戦後になって少しずつ回復しはじめました。1967年に、武見太郎医師会長の努力により、4種類の漢方薬が健康保険の対象になり、その後、次第に拡充され、生薬から成分を抽出したエキス剤が148種類、生薬そのものが約200種類、健康保険の対象になりました。

ところが1990年代から医療財源の逼迫のため、漢方薬を保険対象から外すという議論が出始め、2009年の民主党政権時代の行政刷新会議の事業仕分けで、漢方薬を保険対象から外すという結果になりました。これに対して反対運動が起こり、3週間で93万人以上の反対の署名が集まり、何とか継続になりましたが、今後、医療財政の逼迫が拡大していくと、再び議論にならないとも限りません。

世界で見直される東洋医学

しかし世界全体では「代替医療」(オルタナティブ・メディシン)といわれる、近代西洋医学ではない医療が、見直される傾向にあります。例えば、アメリカでは1992年に、国立衛生研究所(NIH)に国立補完代替医療センターが設置され、年間100億円以上の予算で研究していますし、アメリカの125の医学校のうち6割に当たる75校で代替医療の教育が行なわれています。イギリスでも1983年に補完医療研究委員会が設置され、1991年には科学的に証明された代替医療には保険が適用されるようになり、2004年には鍼灸やハーブ療法の資格制度も作られています。

日本でも1997年に日本補完代替医療学会が創設され、2002年には金沢大学に補完代替医療学講座が誕生し、以後、北陸大学や大阪大学にも講座ができ、厚生労働省も2012年に様々な系統の医術を統合して治療するという統合医療の検討会を開催するようになっています。

現代にも生きる伝統医療

私がアリゾナ州に生活するナバホ族やインドネシアで海の上で生活しているバジャウ族の人々を訪ねたとき、立派な病院などがあるにもかかわらず、人々はメディシンマン(祈祷師)などの伝統治療を受けていましたし、ニュージーランドのマオリ族やベトナムの山岳民族も薬草を使用しており、意外に根強く生残っているのです。

このような伝統医療見直しの傾向を反映し、研究所や医薬品会社の研究員が、新しい生薬の原料を探しに世界の秘境に出向いています。16世紀の大航海時代に発見された新大陸で、珍しい植物や、新しい食料や香料の原材料となる植物を探す「プラントハンター」と呼ばれる人々が活躍した時代があります。マラリアに効くキナノキや防水素材になるゴムを採集するゴムの木は、このような人々が発見した植物ですが、現在、再度、プラントハンターが医薬品の原料となる植物や動物を探しまわる時代が始まっています。

また、中国や韓国は自国の伝統医療を国際標準にするため、世界保健機関(WHO)や国際標準化機構(ISO)に働きかけていますが、日本は出遅れています。

日本の漢方を文化としてとらえ直す

日本の漢方の製剤技術は世界で抜きん出ており、中国の観光客が日本製の漢方薬を爆買いしている現実があるにもかかわらず、日本は明治時代以来の西洋科学信仰が支配しているようです。現在、「対症療法」中心の西洋医学ではなく、人間の心身全体を診断する「原因医療」により、個人の特性に対応したオーダーメイド医療をおこなう「統合医療」が注目されています。

様々な分野で西洋文化が見直されはじめている現在、和紙や和食や能楽だけではなく、古くからの伝統を維持してきた日本の文化を再発見する時期ではないかと思います。


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