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公文書改竄、検査不正、パワハラ…間違いに気づいても後戻りできないという「日本型組織の病」 村木厚子さん(元厚生労働事務次官)

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
9月8日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、元厚生労働事務次官の村木厚子さんをお迎えしました。スーツ姿の印象が強い村木さんですが、スタジオには水色のTシャツに白のパンツ姿という爽やかな姿でご登場。「体育の先生が来たかと思いました」と久米さん。元キャリア官僚らしからぬ、やわらかな物腰。なにより「ご自身の言葉」でお話しになるところが印象的でした(これも官僚らしくない)。

村木厚子さん

村木さんは1955年、高知県生まれ。私立の中高一貫校、土佐中学・高校の出身で、この日13時台の「今週のエンターテインメント」にお越しいただいた書評家の大森望さんとは同窓だそうです(村木さんが5年先輩)。社会保険労務士の父を見て労働行政に興味を持ち、高知大学卒業後、労働省(現・厚生労働省)に入省。当時は(1978年)いわゆるキャリア組のなかに女性がほとんどいませんでした。村木さんの記憶では2~3%ぐらいだったとか。そんな時代だったので、村木さんが入ることになった労働省の部署では、侃々諤々の大議論が起きたそうです。それは「お茶くみ事件」。当時はノンキャリアの女性職員が朝と午後3時に、課員30~40人分のお茶をひとりで入れて配っていました。それをキャリア採用で入ってくる新人の村木さんにやらせていいものか…? いま考えると笑ってしまうようなことでキャリア官僚たちが大真面目に激論を交わしたそうです。

スタジオ風景

「当時の上司がものすごく闘ってくれたらしいんです。でも、『課を真っ二つに割る激論があって一生懸命やったけれど、負けてしまった。申し訳ないけど、お茶くみをやってくれ』と言われました(笑)」(村木さん)

その後、村木さんは労働省同期の男性と結婚。2人の子供を育てながら障がい者政策や女性政策などに携わり、キャリア官僚としての実績を積みました。雇用均等・児童家庭局長、社会・援護局長などを歴任し、2013年、57歳のときに女性で2人目の厚生労働事務次官に就任しました。

そんな村木さんに今回お聞きしたのは、日本の組織が抱える「病」について。
このところ省庁の公文書改ざん、隠ぺい、セクハラなど不祥事が相次いでいます。民間でもメーカーの検査不正、銀行の不正融資、スポーツ界のパワハラ問題と、本当に後を絶ちません。どうしてこんなことになってしまっているのでしょうか。

村木さん自身が日本の官僚組織の闇に直面することになったのが「郵便不正事件」です。2009年、村木さんは身に覚えのない冤罪に巻き込まれ、大阪地検特捜部に逮捕されました。これは障がい者団体向けの郵便料金割引制度が悪用された事件で、ニセの障がい者団体が料金割引制度の適用を受け、実際には企業のダイレクトメールを大量に送っていたというものです。割引制度の適用を受けるためには厚生労働省の証明書が必要なので、そのニセの障がい者団体は申請を出しました。これを受けた当時の担当係長は予算の仕事で手いっぱいで証明書の発行をずっと先送りしていたのですが、ニセの障がい者団体から催促されたため、独断で証明書を偽造し、担当課長(村木さん)の印を勝手に押して、その団体に手渡してしまったのです。その係長は障がい者団体がニセモノとは知らずに証明書を発行(偽造)してしまったため、結果的には料金割引制度が悪用されてしまいました。

この事件はでニセの障がい者団体や厚生労働省の係長をはじめ多数の関係者が逮捕されるのですが、無実の村木さんも逮捕されてしまったのです。というのは、不正の金額が37億円と巨額だったことから、証明書の偽造は厚生労働省の係長が単独でやったことではなく、黒幕として村木さんが関わっていると検察は考えたのです。つまり係長が証明書を偽造してニセの障がい者団体に渡したのは当時、担当課長だった村木さんの指示だというストーリーを組み立てて取り調べを始めたのです。村木さんは164日間も勾留されます。しかし一貫して無実を訴え、裁判の結果、翌2010年に無罪判決を勝ち取りました。そして事件は思わぬ展開を見せます。村木さんを有罪にするために、なんと検察側が証拠となるフロッピーディスクの記録(日付)を改ざんしていたことが発覚、検事3人が逮捕されたのです。

久米宏さん

「大阪地検特捜部の検事が証拠を改ざんするなんて、なんでそんな馬鹿なことをするんだって思うんですよね。あり得ないことです。でもそれには理由がある。検察・警察というのは一刻も早く真犯人を逮捕したい。逮捕したら裁判に勝たなければならない。裁判に勝つためには証拠をしっかり固めなければならない。そうやってある程度まで行くと、それが間違っていても、もう逆戻りできない。それは先輩や同僚が調べたこと、書いた書類があって、みんなそれを信用して取り調べは一歩ずつ前に行く。ところが、その元になる証拠改ざんをやっていたんですね」(久米さん)

「あれは検事にとっても結構ショックな出来事だったんじゃないかと思うんです。この事件は係長ひとりでできるわけがない、きっと上司が関与している、厚生労働省が組織ぐるみでやってるに違いないというストーリーを立てて、その方向でいったん走り出すともう止まらない。検事という同じ職業、同じタイプの人たちだけで固めている組織がひとつのゴールを決めて動き出すと、止まらないんですよね。実は検察のなかには、そのストーリーはどうもおかしいと思ってくれた人もいるんです。でもひとりでそこに抵抗するのは非常に難しい。それで裁判が進んでいくと、みんなが「まずったかな」って思っているわけです。でも謝れない。途中で『ごめんなさい、間違えでした』って言えないんです。それで、自分たちが作ったストーリーに証拠を合わせてしまったということなんですよね」(村木さん)

この村木さんのお話は、元裁判官の木谷明さんに伺った冤罪はなぜ起きてしまうのかという問題にも通じるものです(2018年6月24日放送)。

スタジオ風景

「つまり、これが日本の組織の病なんです」(久米さん)

「あの事件のあと、私は無罪になって職場に戻って、何人かの検事総長や特捜部長に会ったんですけど、『村木さん、ありがとう』って言われたんです。検察という組織は、世の中から常に正義の味方であると期待され、失敗をしない、そして逮捕したら必ず有罪にできる…という立派な組織であろうということで無理がかかっていたんです。それを彼らも自覚していたということなんです。そのことをあとになって私も知って、ああ、これは病が深いなあと思いましたね」(村木さん)

「放送局でも後戻りができないってことは、実はいっぱいあるんですよね。こういうふうに報道してしまったんだけど違うんじゃないかということがあっても、先輩や同僚がすでにやってきたことを全否定することになるので、なかなか言えない。なんとかする方法はないかっていうふうになってくるんです」(久米さん)

「ダメージが小さい謝り方はないかっていうふうに考えるんですよね」(村木さん)

「全部オープンにして、『悪うございました』って言うのがベストな方法なんですけど、そうするとダメージが大きいものですからなかなかそれができない。こういうことはすべて組織にあることですね」(久米さん)

「そうやってごめんなさいを言うのを遅らせるとか、言い訳をしているうちに、最後には傷がものすごく深くなるというのが、いま世の中で起きていることですね」(村木さん)

「いじめの問題でも、学校が最初の対処を誤るとどんどん悪い方に進んで行っちゃって、収集がつかなくなっちゃうという例が無数にあります。調べた通りのことをオープンにすればいいのに、ちょっと都合が悪いとなかったことにして…。これは日本人特質の欠点でなんですか?」(久米さん)

村木厚子さん

「日本の組織って終身雇用ですよね。役所なんかその典型ですが、メンバーが入れ替わらないじゃないですか。そうすると、みんな同じ仲間なので、忖度してはいけない、セクハラはあってはいけない、いじめがあってはいけないと、いろんな文化をみんなが共有しています。そうすると何か不祥事が起こったときに、『まずいな』という気持ちも共有しますし、それを隠そうというときも阿吽(あうん)の呼吸でできますよね。そこにひとりで逆らうことはすごく難しくなるじゃないですか。だから、もうちょっと人の出入りがあったり、外部の人がいたり、文化の違う人がいたら、空気を読まずに『それ、本当にいいんですか?』とか『こうやったほうが傷は浅いんじゃないですか』と言いますよね。それが言いにくい組織の特質というのが、日本にはあるような気がしますね」(村木さん)

「これがキリスト教圏の人なら『神が見ているから』ということがあると思うんですけど、日本人は『御仏の目があるから私はひとりといえども正しい道を行く』という心根がなかなか持てないんでしょうか」(久米さん)

「でも日本では『お天道様が見てる』って言うじゃないですか。あの気持ちがあると本当にいいと思うんですけど。でもやっぱり組織ががちっと固まっているときにひとりで『違う』って言うのは勇気がいりますよね」(村木さん)

だとすれば、どうすれば日本の組織の「病」は改善できるのでしょうか。村木さんがお出しになった『日本型組織の病を考える』(角川新書)にヒントが書いてあります。

村木さんは、冤罪に巻き込まれたことでそれまで知らなかったことがいろいろ見えてきたと言います。それが退官後の活動につながっています。大坂拘置所に勾留されているときに若い女性受刑者の姿を見かけたことがきっかけで、貧困や虐待に苦しみ、さらにそれを背景に薬物や買春などに走ってしまう少女たちを支援するための「若草プロジェクト」もそのひとつ。いつかそのお話もぜひ伺いたいと思います。

村木厚子さんのご感想

村木厚子さん

久米さんにものすごく上手に話を引き出していただいて自然にお話しできました。ご自身の関心に引き寄せて私の本(『日本型組織の病を考える』)を読んでくださって、形式的な質問でなく話してくださったことが大変嬉しかったです。ありがとうございました。

「今週のスポットライト」ゲスト:村木厚子さん(元厚生労働事務次官)を聴く

次回のゲストは、「峠」研究家・中川健一さん

9月15日の「今週のスポットライト」には、日本全国におよそ3000ヵ所ある「峠」をすべて回り、それを本にして出版した〝峠研究家〟の中川健一さんをお迎えします。


2018年9月15日(土)放送「久米宏 ラジオなんですけど」http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20180915140000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)