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宇多丸、『オーシャンズ8』を語る!【映画評書き起こし 2018.8.24放送】

アフター6ジャンクション

宇多丸:

ここからは週刊映画時評ムービーウォッチメン。このコーナーでは前の週にランダムに決まった課題映画を私、宇多丸が自腹で映画館にて鑑賞し、その感想を約20分間に渡って語り下ろすという映画評論コーナーです。今夜はこの作品。『オーシャンズ8』

(曲が流れる)

(曲を聞きながら)『オーシャンズ』っぽい!(笑)。はい。ジョージ・クルーニー主演で人気を博した『オーシャンズ』シリーズの最新作。女性のみで構成された犯罪プロフェッショナルチームが1億5000万ドルの宝石を盗み出すという、前代未聞の計画に挑む。メインキャストはサンドラ・ブロック、ケイト・ブランシェット、アン・ハサウェイ、ヘレナ・ボナム=カーター、リアーナ、サラ・ポールソン、ミンディ・カリング、そしてアジア系ラッパーのオークワフィナ。これ私、大注目でございます。監督はスティーブン・ソダーバーグから、『ハンガー・ゲーム』『カラー・オブ・ハート』などのゲイリー・ロスにバトンタッチということでございます。

ということで、この『オーシャンズ8』。やっぱりあれですね、(サントラの勢いに乗せられて)声が弾んできますね。『オーシャンズ8』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、少なめ。あら、なんたることでしょうか。そして賛否の比率は半々。結構分かれているということなんですね。

主な褒める意見としては「サンドラ・ブロックとケイト・ブランシェットをはじめ、主演女優全員が魅力的。彼女たちの豪華絢爛さ、かっこよさを見ているだけ幸せ」「湿っぽい人間ドラマはなく、軽快で気軽に楽しめる娯楽作にふさわしい作品」。あとは女性リスナーから「こんな映画をずっと待っていた!」という意見も多かった。否定的な意見としては、「単調なリズムのストーリー、浅い人物描写、スリルのかけらもないクライマックスと引っかかるところがひとつもなかった」というようなご意見でございました。これ、でもね、褒めている人と結構表裏一体だったりすると思いますけどね。

■「私たちは長年これを待ってたんだ!」(by女性リスナー)

ということで褒めてる方。30代女性ラジオネーム「もふもふ」さん。「『オーシャンズ8』、見てきました。マジ最高! サンドラ・ブロック最高! ケイト・ブランシェットかっこいい! こういうのが見たかったんだよ、マジで! でした。この作品は『女にとってのブラックパンサー』って言われてますけど、本当にその通り。異論なし。脚本が少しゆるいっていうのはありますが、男による軽妙洒脱な泥棒物ってこれまでに何百も作られてきたのに、女にとってはこれがおそらくはじめてですよ。脚本がどうのこうのじゃねえんだよ! これが作られてることに意義があるんだよっていうことです。本当、私たちは長年これを待ってたんだ!」っていうことです。

でね、たとえば途中で出てくるハッキングのシーンで、これまでの男主役映画だったらエロ動画とかになりそうなところを、ワンちゃん動画とかにして、っていうような、そういうちょっとしたチューニングも優しい、というようなことを書いていただいて。これなんか僕、目から鱗でしたね。「泥棒計画に入る直前にサンドラ・ブロックが鏡に向かって『これは私たちのためにやるんじゃない。泥棒に憧れてる8歳の女の子のためにやるんだ』と言った時に号泣メーン! でした。プリンセスに憧れている女ばかりじゃないんだよ! 泥棒に憧れている女の子だって世界にはたくさんいるんだよ!」っていう。

正しさだけじゃないっていうかね。まあ、ヒラリー・クリントンのあの敗北宣言スピーチとかにも多少インスパイアされているのかな? 「軽いポップコーンムービーなんだけど、それが2018年まで女にはなかったのです。それを宇多丸さん、男性リスナーに言ってください。肩の力が抜けたかっこいい女が活躍するポップコーンムービーがこれ一本で終わらずに、これからもたくさん作られますように」ということでございます。

一方、ダメだったという方。「イソッチ」さん。「今回の狙いは、セレブなコスに身を包んだ、人種も様々な8人の女たちによるスタイリッシュでスノッビーな、要は『華麗なるギャツビー』的なゴージャス感ある映像を作ることにあるんだな、と思いました。ただ結果、出てきたものがケイパー物のくせに必死さもスリルも微塵も感じられない代物だったな、という印象でした」。まあこれはね、『オーシャンズ』シリーズ全体がそうなんだけどね。「ケイパー物で重要な、嫌な感じの敵キャラに最後ギャフンと言わせる“ギャフン演出”が圧倒的に不足しているのも残念。まず、それほど嫌な感じの敵キャラがいないのも問題で……」と、まあ諸々ということでございます。

はい、一方ですね、こんな方からも来ております。「TBSアナウンサー、宇垣美里です」っていうね。はい、非常にごっつりした、またさすがの感想メールが来ております。「『オーシャンズ8』、なんて華麗でおしゃれで痛快でクールなんでしょう。『女の子に生まれて良かった!』とブルゾンちえみのごとく宣言したくなる、そんな映画でした。なんかもう一生解けない魔法をかけてもらった気がする」ってまあ、いろいろと本当に書いていただいて。「……女が集まったら男の話しかしてないとでも思ってんの? 彼女たちの間では、安く描かれるマウンティングも、現彼女と元彼女のキャットファイトも嫉妬も嫌がらせもない。信頼があり尊敬があり連帯感があり、みんなで集まってキャッキャ騒いでる時は何よりも楽しく、そこに男など介在しないのだ!」って。だんだんと檄文になってくる(笑)。

「女というだけで『どうしてそんなにがんばって勉強するの?』『なんでガシガシ仕事するの?』と問われることは多いけど、デビーが『何のために宝石を奪うのか?』とルーに問われた時の答えが全てだと思う。『得意だから』。得意だから、どこまでやれるか試したいから。好きだから。自分にはこれがあるんだってギュッと抱きしめて生きていくため。それ以上の理由なんてないんです。その単純な動機が全てのきっかけになるのがたまらない」ということでございます。先ほどの、計画決行直前にサンドラ・ブロックがつぶやくセリフについてもね、宇垣さんも書いていただいております。ありがとうございます。はい。もう『オーシャンズ8』評はこれでいいんじゃないかな?(笑)

■豪華ではあるが、あらゆる面で「軽い」のがオーシャンズ・シリーズ

ということで、私もTOHOシネマズ六本木、そしてバルト9で2回、見てまいりました。『オーシャンズ』シリーズ……まずね、一作目の『オーシャンズ11』、2001年の作品自体が、フランク・シナトラがその一派と作った『オーシャンと十一人の仲間』、1960年の作品のリメイクなわけなんですけども。要はどっちにしろ、“オトナのオトコたちの、粋な遊び”的なノリですよね。大のオトナが、ものすごく金をかけて、粋な遊びを……みたいなやつですよね。そういう、言ってみれば「古き良き、優雅でゴージャスなエンターテイメント」感みたいなのを、現代的な感覚で再構築、的な。まあ、ちょうどシリーズ全体の音楽の使い方が、そういう方向っていうか。

「60年代、70年代のネタものを、ヒップホップ以降の感覚でアップデートしたジャズファンク・バンド」みたいな、そういう感じね。これ、音楽に関しては、パンフレットで宇野維正さんが例によって非常にわかりやすい音楽解説を書いてらっしゃるので、こちらを参照するといいと思いますが。まあ大雑把に言えば、そんな感じのシリーズだったわけですね、『オーシャンズ』シリーズは。ジャンルとしては、まあ肩書き的には詐欺師たちではあるんだけど、コン(詐欺)ゲーム物というよりは、やっぱりケイパー物、チーム強奪物、っていう感じなんだけど……特に『オーシャンズ』シリーズの場合、とにかく優雅さ、ゴージャスさ、粋さ、スムースさが何よりも優先される。だから「遊び」感ですよね。遊戯感がなによりも優先されるので、ぶっちゃけそんなに極端にハラハラしたりはしない、っていうところがキモのシリーズなんですよ。

なので、さっきの不満メールに関しては、「いや、『オーシャンズ』シリーズってもともとそういう感じなんだよね」っていうところがちょっとある。キャラクターに、そんなに重たい葛藤を背負わせたりもしない。あくまでも軽妙洒脱に、彼らの計画が見事に達成されていくのを、限りなくストレスレスに、スルスルスルスル見せられて、「はい、お疲れさまー!」くらいの(笑)、そんな感じですよ。「実は計画通りでした」「ああ、そうですか。よかったですね。お疲れさまでーす!」っていうね、こんぐらいの感じ。本当に、とにかく諸々超豪華なのに、金かかってるのに、あらゆる面で「軽い」っていうのが、このシリーズのそもそもの色なわけですね。

■あえての「ライトさ」こそが『オーシャンズ8』の凄味

で、その意味で今回の『オーシャンズ8』も、「8」って人数が一気に少なくなっていることにもちょっと象徴されていると思いますけど、もともとその軽さが売りのシリーズ中でも、ある種もっともライトな味わいの……まあ、舞台だてのリッチさはシリーズぶっちぎり1位ぐらいなんだけど、話としては実は、わりと「小さい」一作になっている。あと、そのチームが仕掛ける仕掛けも、実はかなり小ぶりなものになっている、っていうことですね。で、そこを物足りなく感じる人っていうのがいるのも当然なのかな、とは思うんだけど……僕は特に『オーシャンズ8』は、このライトさこそが、実はすごみだと思います。先ほどのメールにもあったのとちょっと通じると思いますけども。っていうのは、やはり今回メインの役柄がオール女性キャストという、実は何気に革新的な挑戦作でもある、っていうところがあるからなんですね。

さっきも言ったように、それこそ元のシナトラ……フランク・シナトラって言ったらもうね、マフィアとのつながりがばっこりあって。もうゴリゴリの、マンズ・マンズ・ワールド!の人なわけですよ。その元のシナトラ版しかり、そもそもがさっき言ったその“オトナのオトコたちの、粋な遊び”的なね、思いっきりホモソーシャル感ビンビンなシリーズだったわけですよね、『オーシャンズ』っていうのは。まあ女性キャストはもちろんね、ジュリア・ロバーツとか出てるけど、あくまでもやっぱり「紅一点」的な扱いなわけです。で、やっぱり「男たちの絆」に対しては、多少の蚊帳の外感がある感じっていうかね。

まあ、やっぱりすごいホモソーシャルな感じのシリーズだったんだけど、それを完全に女性たちへと反転して入れ替えるような試みですよね。で、これは2016年のリブート版『ゴーストバスターズ』とかもそうでしたけど、『オーシャンズ』シリーズはさらに「オールスター・キャスト」性っていうのを求められるので、さらに企画としてのハードルは高いと思われたんだけど……これ、特に近年のハリウッドで、女性の扱いに関しての意識が劇的に変化していく中で、ようやく実現し、たっていうことらしいんですね。やっぱりちょっと数年前までは結構難しかったみたいで。

■リベラルな意識をさりげなくエンタメ化する職人監督、そして新進気鋭の女性脚本家コンビ

そもそもこれ、構想を2013年頃に立てて持ちかけた……だから、5年はかかっているわけですけども。本作の脚本・監督ゲイリー・ロスという。このゲイリー・ロスっていう人がまた構想を持ちかけた、っていうのも僕、面白いなと思って。この人、フィルモグラフィー上いろんな脚本も書いていますし、いろいろと撮っている、もはやベテランだし、たたずまいとしてはちょっと職人監督風に見えるんだけど……そもそも監督デビュー作の『カラー・オブ・ハート』、1998年。僕これ大好きなんですけど。、『カラー・オブ・ハート』からして、要は異物を排除して、守って守ってという保守性よりも、いろいろとこれから起こるかもしれないけど、波風が立つかもしれないけど、ちゃんと多様性を受け入れていこうよ、っていうメッセージを強く打ち出した、非常に社会的な意識を込めた作品でしたよね。

だったし、あるいはたとえば近年の『ハンガー・ゲーム』。もちろんヤングアダルト小説の映画化なんだけど、それまでの業界の通念を打ち破った作品でもある。つまり「強いヒロイン物はヒットしないですよ」って言われていた中で、それを打ち破って、たくましいヒロイン像っていうのを打ち出しつつ、しっかりと大ヒットを記録してみせたという。要はこのゲイリー・ロスさんは、職人監督、職人脚本家的に見えがちだけど、実は明確にリベラルな意識を織り込んだエンターテイメントを、しかしさりげなく作る、っていう人なわけですね。なかなか粋な人なわけですよ。

で、今回もうひとつ、さらにその意味で言うと座組として面白いのは、そのゲイリー・ロスが「今回の『オーシャンズ8』、特に女性キャラクター同士の生き生きしたやり取りならばこれ、女性の作家が入らないとダメだろう、不可欠だろう」っていうことがわかっていたということで、オリビア・ミルチさんという方。この方を共同製作、脚本に呼んできた。このオリビア・ミルチさん……Netflix配信の、今年の作品ですね、『エンド・オブ・ハイスクール』っていう日本語タイトルがついています。『Dude』っていうシンプルな原題ですけども……という作品で、脚本・監督デビューしていて。

この作品はまあ、青春物なんですけど、本当によくある青春物に出てくるような、女の子たちのステレオタイプにはまらない、本当にリアルな女の子たちの生態……性的な描写とか、まあお酒飲んだりマリファナ吸ったりみたいな、そういうアメリカのリアルな女の子たち。つっても特に悪い子たちとかじゃなくて、むしろ学校の中の花形と言われるような、メインのところにいるような子たちの、「普通のリアル」っていうか。だから学園物とかでついつい、たとえば「生徒会長役はこうだ」とかみたいな、そういうステレオタイプにはめられるところをはみ出すような、ちゃんとリアルな生態を描き出して、非常にいま、評価をグイグイ上げている人なんですね。オリビア・ミルチさん。

■要注目の女優/ラッパー、オークワフィナ

で、その『エンド・オブ・ハイスクール』のメインキャストの1人が、今回の『オーシャンズ8』でコンスタンスという役をやってる、これおそらく今回の中では比較的まだ、いちばん無名と言っていいでしょうけど、オークワフィナさんというこの方、アジア系のフィメールラッパー。ラッパーなんですね、この人ね。彼女のラッパーとしての活動については、やはりNetflixで見られる、『バッド・ラップ』っていうこれ、アジア系アメリカ人ラッパーのドキュメンタリー。これもすごく興味深かったですけど、見ることができる。ちなみにこれ、Base Ball Bear小出祐介くんに教えてもらって。で、「これに出ているあの女の子が、今度の『オーシャンズ8』に抜擢されたんだよ」って最初に小出くんに教わったんだよね。

で、とにかくこのオリビア・ミルチさん、オークワフィナさん、セットでの大抜擢なわけですよ、今回。で、ちなみにオークワフィナさんは、これまた大方の予想を裏切って目下アメリカで大ヒット中のコメディー、『クレイジー・リッチ!』という、日本でも間もなく公開されますが、『クレイジー・リッチ!』にも出演していて。これから間違いなくスターになっていくんじゃね?っていう人なわけですよ。僕はなんとなく、21世紀のアジア系ウーピー・ゴールドバーグ的な、そんぐらいの感じになっていくんじゃないかな?ってオークワフィナさんについては思うんですけども。

で、たとえば彼女が今回の『オーシャンズ8』で演じているコンスタンスっていう役柄も、これまでのハリウッド映画の中のアジア人、もしくはアジア人女性のステレオタイプから、微妙にはみ出すキャラクターと言えるわけです。たとえば、アジア系のキャラクターっていうと、だいたい言葉はカタコトとかね、なんか変な風なしゃべり方をする、っていうのが多かったのに対して、彼女はそもそもラッパーですから、むしろメンバーの中でもいちばん口八丁手八丁なキャラクターとして描かれていたり。あるいはやっぱり、アジア人女性に欧米文化っていうのが託してきた性的ファンタジー……まあ、アジア人女性が出てくるとしたら、すごくめちゃめちゃセクシー、みたいな感じもありましたけど、そういうのも全くまとっていない。

それでいて、彼女はそういう性的な匂いは全くないキャラクターなんだけど、彼女にもちゃんと公平に「ドレスアップ」するターンもちゃんと用意されている、みたいな、そんな感じのバランスになっている。あるいは、逆にこのメンツの中ではトップクラスのスーパースターである、アン・ハサウェイね。まあ、スーパースターすぎて、それゆえに苛烈なバッシングにもたびたび晒されてきた彼女なんですけど。今回のそのアン・ハサウェイは、そんなパブリック・イメージを逆手にとって、非常に知的なセルフパロディで遊んでみせつつ……あとは見事な「えずき」演技(笑)。もう千両役者!っていうね、えずき演技とかで遊んでみせつつ、最終的にそういう、その「女に嫌われる女」的な、それこそ男が喜びそうな構図から、スルリと抜けだしてみせるアン・ハサウェイ、っていうのがあったりとかね。

■「世間から求められる女性キャラクター像」から逸脱する人物造形

あるいはですね、現実では、今回舞台となるメットガラ……まあ要するに、メトロポリタン美術館で開かれる洋服の祭典というかね。詳しくは、日本では今年公開されたばかりのドキュメンタリー『メットガラ ドレスをまとった美術館』でその裏側が見られるんですけど。ちなみにこのドキュメンタリーを見ちゃうと、今回の映画の宝石強奪、ちょっと複雑な気分になっちゃうんですね。っていうのは、今回もチラッとレッドカーペットのところに出てきた、アンドリュー・ボルトンさんていう、そのメトロポリタン美術館の服飾部門のキュレーターの方がいて。「彼の責任になっちゃうじゃん! 何てことしてくれるんだよ! メットガラに命かけてるんだよ!」みたいなのはあるんだけど(笑)。

まあ、とにかく現実のメットガラ。ドキュメンタリーの中でも出てきますけど、その現実のメットガラではメインホスト、つまり主役を務めていたリアーナが、この『オーシャンズ8』の中では、もっともインドアな、もっともオタク的なポジションを、スターフェロモン抑え気味で演じていたりとか、っていう感じで。事程左様にですね、これまでわりとエンターテイメントの中でありがちだった、「世間から求められる女性キャラクター像」から微妙に、もしくは大胆に逸脱する登場人物造形、っていうのがされていて。なおかつ、それが声高でも重たくもなく、あくまでも軽くスルスルッと見られちゃう、「普通の」娯楽作として当たり前のようにそこにあるっていう、ここが今回の『オーシャンズ8』という作品のすごみであり、真にエポックメイキングなところだと思います。だから、僕もさっきのメールに同意ですね。「普通の作品だからすごい」っていうか、大事っていうことですね。

■眼福なセレブ、ファッション……そしてルー姐さんのハンサムぶり!

もう、ここに出てくる女性たちは、何をするにも後ろめたさとか葛藤をいちいち感じないでいい、真に解放された女性キャラクターたちなわけですよ。ド頭のところ、『オーシャンズ11』オープニングのわかりやすいオマージュで始まる冒頭シーン。で、ムショから出てきたサンドラ・ブロック演じるデビー・オーシャン。まあジョージ・クルーニーの役柄の妹という役のデビー・オーシャンが、ムショを出てまずすること。あれの痛快さですよね。僕、ここでもう「おおっ、この映画最高だな!」って思いましたけど。「その手があったか!」(笑)って、もう声を出して笑っちゃう、もうあまりにも見事な手口で。

で、すごいのは、彼女が見事な手口で諸々をかっさらっていくバーグドルフ・グッドマンっていう高級デパートも、あるいは宝石を盗まれるカルティエも、そしてもちろんメトロポリタン美術館も、こんな話なのに……だって、その人たちが見事に手玉に取られちゃってひどい目にあう話なのに、余裕で全面協力しているっていう。こういうところはやっぱり、アメリカのエンターテイメント界の余裕を感じますし。カルティエなんか、あの盗まれるネックレス。あれ、もちろん作ったのはジルコニアですけど、わざわざカルティエがオリジナルで作っているんですから。職人たちがね。すごいことをやっている。

まあそんな感じで、宝石にしろ、舞台となるそのセレブな様々な空間にしろ、そしてもうポイポイポイポイ出てくる本物セレブたち……たとえば『プロジェクト・ランウェイ/NYデザイナーズバトル』でおなじみのハイディ・クルムとか、あとはもちろんアナ・ウィンターその人も出てきますし。そういうその本物セレブたちとか、あとはまあ、そういうファッション諸々みたいなのを眺めているだけでも十分にもう、「ああ、眼福眼福」というかね。料金の元は取れるような感じ。その余裕のお得感、みたいなのもあるわけですよ。

特にやっぱりね、僕の好みで言うと、ケイト・ブランシェット演じるルー姐さんですね。ルー姐さん! ルー姐さんの徹頭徹尾、隙のないドハンサムぶり。これ、本当にもう、惚れ惚れしますよね。これ、しかも同性の女の子が見たらそりゃあ憧れるよっていうぐらい、もう、ハンサムすぎるだろう!っていう。あの途中の、スカジャンに、ジャラッとした首の周りの金色のアクセサリーに、足元はルブタンのブーツで……みたいな。スカジャンをこんなおしゃれにかっこよく着こなせる人、います? みたいな。もうそういう1個1個を見るだけでも「はぁ~……(溜息)」ってなりますしね。

ただですね、さっき言ったように、極論、とにかくスルスルスルスルと彼らの計画がスムースに成就するのを「確認」するだけ、ともいえる『オーシャンズ』シリーズ。先ほどの不満メールにもありましたけど、「いや、『オーシャンズ』シリーズって前からこんなもんだよ」っていうところはあるんだけども、その中でも今回の『オーシャンズ8』、たしかに、特にひっかかりが少なめな作りなのはやっぱり事実で。要はやはり、メールにもあった通り、敵の存在感が限りなく希薄なんですよね。あとはさっきから言っているように、仕掛けとしても実はかなり小ぶりではある、っていうのはあるんだけど。

ただ、ここでその「悪い男=敵」という構造を殊更に強調する……つまりそれは「女=被害者」っていう構図でもあるんだけど、それを殊更に強調も、もはやしたくないっていうか。だからたしかに男は悪者で、その仕返しなんだけど、「まあ別にそこまで(そのことばっかり考えてるわけじゃ)じゃないんだけどね」くらいっていうか。「まあ、やっといた。アッハッハッハ」ぐらいの、なんかその、軽さ感。徹底した軽さこそが、やはり今回の『オーシャンズ8』独特の新しい味であり、すごみっていうか。そんなことにすら拘泥は別にしない、っていうことじゃないかと思います。

上映時間も110分とコンパクトですしね、僕はこれはこれで非常に、狙いとしてすごく正確な作りなんだな、という風に思いました。もちろんそんな、僕がいままで言ってきたようなことは何も考えずに、夏休みにサラーッとね、サラーッと見るのに本当に……暑苦しくない。暑苦しさの要素がゼロなんで、サラーッと見るのに本当にベストな作品でございます。もちろん続編もキボンヌ!という感じですね。僕としてはやっぱりね、あのサンドラ・ブロックがいるならね、メリッサ・マッカーシーとの『デンジャラス・バディ』コンビ再びみたいなこと、ないかな? でも、そうするとルー姐さんとぶつかっちゃうな、とかね。

(いずれ出演してもおかしくなさそうな)クリステン・ウィグとか、どういう登場の仕方をするのかな? とか、いろいろとこの先が楽しみになるような作品でございました。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『インクレディブル・ファミリー』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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