お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

放送中

放送中


  • 放送ログ
  • 音声あり

宇多丸、『カメラを止めるな!』を語る!【映画評書き起こし 2018.7.6放送】

アフター6ジャンクション

宇多丸:
ここからは週刊映画時評ムービーウォッチメン。このコーナーでは前の週にランダムに決まった課題映画を私、宇多丸が自腹で映画館にて鑑賞し、その感想を20分以上に渡って語り下ろすという映画評論コーナーです。ちなみにゴスペラーズ黒沢薫くんが、コンサルタントのコーナーで「(映画評の時間が)短くなった」って言っていたんだけど、評論の中身(実質の長さ)は実はそんなに変わってないはずなんですよね。ただ、彼の「ラストは早口で畳み掛けてくれ」っていう……難しい注文をつけるなぁっていう(笑)。今日、がんばってみようかな? 今夜評論する映画は、こちら! 『カメラを止めるな!』

(曲が流れる)

映画専門学校「ENBUゼミナール」のワークショップ「シネマプロジェクト」の第7弾として製作された日本映画。ストーリーの詳細に関しては、あえていま、省略いたします! 監督・脚本・編集は本作が劇場用長編デビュー作となる、上田慎一郎さん。オーディションで選ばれた、今のところは無名の俳優のみなさんが、非常に好演されております。大評判です。

ということで、この『カメラを止めるな!』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、やや多め。ただですね、これ公開規模。都内で2館だけですし、それで本当に満員続出で、なかなか見れない人もいっぱいいる中でこの「多め」はかなり……だから、見て感想を出した人の率が超高い、みたいなことですよね。賛否の比率は、褒めが99%! すごい。否定的な意見は2通のみ、といったあたりです。

全体を通して多かった意見は、「事前情報一切なしで見るべし」という。だから(評も)聞かないべし!っていうね(笑)。主な褒める意見は、「作り手の映画への愛と情熱があふれる大傑作。今年ベスト級」「映画って面白いと再認識」「劇場全体が笑いであふれる最高に幸せな映画体験ができた」「伏線をきちんと回収していく脚本も見事だが、それだけにとどまらず映画的な面白さも満載」といったご意見でございます。一方、否定的な意見としては、「つかみとなるワンカットゾンビ映画部分が面白くなかったので、その後にいろいろと見せられても全く乗れなかった」「伏線回収というかただの後出しジャンケンなだけでは?」という風に意見が分かれております。

■「こういう体験こそ映画に求めていたもの」(byリスナー)

といったところで、代表的なところをご紹介しましょう。絶賛メールはちょっと全ては読み切れないんですけども。ラジオネーム「ゲソ」さん。「1日の映画の日に見てきました。噂通りの盛況で満席。これは人のたくさん入った映画館でみんなで見るべき映画でした。このコーナーのリスナーメールの常套句『今年ベスト級』。正直、このセリフには飽き飽きしていましたが、こればっかりは言わざるを得ない。間違いなく今年ベスト級。情報がなければないほど面白いので詳しいことは言えませんが、こういう体験こそ映画に求めていたひとつのものなんだよな、と実感、変わる視点、演技とディレクション、虚構と現実、その境をはっきりさせるために話が進むはずが、どんどん境目が見えなくなり、クラクラさせられる感覚。これから何も知らずに新たな気持ちでこの映画を見られる人が本当にうらやましい。しかし、何度見ても絶対に面白い映画であるのも間違いない、と思いました」というご意見でございます。

一方、ダメだったという方。「まだ斬る」さん。「『カメラを止めるな!』、新宿K’s cinemaで見ました。当時から評判がよかったので期待せずに見ましたが、ちょっと期待はずれでした。俳優が有名無名は関係ありません。おかっぱのおばちゃんが話すだけで面白かったです」。ああ、あれね。プロデューサー役の方。「その絶賛の嵐の中、『期待はずれ』と言ってしまうと興ざめされそうですが、後出しジャンケンとは違うのでしょうか? ネタばらしが進むにつれて、『そりゃそうだろよ。知らんがな!』とうんざりしてしまいました」という。これ、だから後ほど言いますが、頭の部分に対する捉え方で、結構はっきりと(評価が)分かれるところはあるかもしれませんね。

■どこまでネタバレしていい作品なのか……?

ということで、私も『カメラを止めるな!』、結果としては2回見ているんですけども。この作品、実は公開前から、浅草キッドの水道橋博士の熱烈なプッシュを受けていまして──まあ、博士はだいたいいつも何かを熱烈にプッシュしているんですけども(笑)──それにしたって、ちょっと明らかに尋常じゃない熱量でのプッシュを受けて。で、これも本当に実は……なんですけど、監督・脚本・編集の上田慎一郎さんの間接的なご厚意もあって、公開前に一回拝見しておりました。ただ、いざ公開が始まってみると、連日、毎回満席連発。しかも整理券もわりと早めになくなってしまう、なんていう状況を聞いて。

で、まあガチャが当たってしまったので、先週ガチャが当たって以降、劇場に行けるポイントはここしかない!っていう日を狙って、私、念には念を入れて、K’s cinemaが開く朝10時すぎ……10時10分ぐらいかなと思って。最初の回が10時30分だから、10時すぎに行って整理券をもらって。ただ、その10時の時点でも(整理番号)14番でしたけど。それで一旦帰って、この番組の準備をしてから、ちゃんと満席の劇場で見てまいりました。上映後には出演者の方の飛び入り舞台挨拶もあったりして。あれは毎回やられている感じなんですかね? とにかくまあ、稀に見る熱気というのを直に感じながら、見てまいりました。そんな感じで、まだまだ小規模ながら明らかに普通じゃない大評判を呼んでいるという、この『カメラを止めるな!』。

ただまあ、見た方はお分かりの通り、作品の構造そのものに大きな仕掛けがあって。できればそれを知らずに見た方が、少なくとも初見時の驚きは大きかろうことは間違いない一作でもあって。要は、ネタバレされるのが嫌だったら四の五の言わずに見に行ってください!(笑) ただまあ、オフィシャルの予告編で、実はその二重構造みたいなところに関してはネタバレしているので、そこまで気を遣うこともないのかな? とも思いますが……結構気を遣いながら行こうと思います。僕は何も知らずに見て、本当に「おおーっ!!」ってなったのでね。

■ラジオ映画評の新方式「映画を見ている時の感情の流れメソッド」

ということで、まず先に新方式。「映画を見ている時の感情の流れだけを抽象的にお伝えする」という新方式でお送りします。

まず最初はね、「ああ、なるほどな……ああ、まあ、なるほどね。そういうアイデアね……はいはいはい。わかります。まあまあまあ、がんばっているんじゃん? そういうアイデアにしては、がんばっているんじゃん?

……ん、ん? ああ、ちょっとこれ上手く行ってないのか? ん? やっぱりここは素人くさいのかな? うん?っていうか、おかしくない? これ、ちょっとやっぱりおかしい……ん? っていうか、がんばっているのはわかるけど、これは明らかにちょっと、なんかの仕掛けか? これ、ひょっとしたら。明らかになんかおかしいだろ? 面白いけどさ……

ああーっ! そう来る? あ、そういう話! “そっち”のジャンルだったんだ! なんかいま俺、猛烈にワクワクしてるし、すんげー面白いんじゃないの、これ!? ひょっとしたら……ああ、なるほどね。ああ、そういうことだったんだ。いや、しかし……あっ、なんかでもこれ、大変なことになってきたぞ、おい。大変ですぞ、これは。

そして、そしてそして……実際に序盤にあった“アレ”が始まってみると……うわーっ、最悪! そして最高だーっ! うーん、だけどこれはさすがに……おい、ちょっとこれ、さすがにマジの大ピンチじゃない? これ、マジの大ピンチじゃん。これ、大丈夫? 大丈夫? 大丈夫? 最後の“アレ”、じゃあ一体どうやってアレをやったんだ?……って、そ、そんなアホなーっ!? お前ら、がんばれーっ!……ってオレ、なんでいま大号泣してるんだろう。ありがとう、本当に面白い映画を……!!(拍手)」

■大評判も納得の「ただの大傑作」!

というようなね、見ていない人には一切わからない(笑)、でも見た人はわかると思いますけど。っていう感じで、本当に僕、どういう話か……ゾンビ映画的な、ということしかわからないまま見たら、感心させられて、気持ちよく騙されて驚かされて。まあハラハラドキドキもさせられつつ、声を出して大爆笑させられた挙げ句、気づけば泣かされほっこりさせられて……という。まあ、アイデアを凝らしたホラーであり、見事な伏線回収を見せるコメディー、喜劇であり。また本当に泣かせる人間ドラマでもあり、サスペンス・アクションでもあり、最後にはあっと驚く身体を張ったスタント、もしくはスペクタクル的な見せ場まで用意されていて。要は娯楽映画として、ほぼこれは満点じゃないかな?って思うぐらいの満足感を得ました。

まあ、さっき言ったような作品構造自体の仕掛け、そのサプライズが大きなキモになっている作りの分、「でもこれ、二度目以降は、ネタがわかって見ると面白さがだいぶ半減するタイプの作品かな」とも思ったんですけど、いやー、なかなかどうして。むしろ2回目を見たら、序盤から今度は笑えて仕方ない。序盤、ホラーだと思って見ていたものが、序盤から笑えて仕方がない。「ちょっと……」「いや、“ちょっと”って何だ!」みたいなこのやり取りだけでもう笑えるし。逆に二幕目、コメディー的な展開になるところはむしろ、いきなり胸が熱くなる。

つまり、この映画の言っちゃえば『ロッキー』的な側面というか。ある男が仕事に、そして人生に再び尊厳を取り戻すまでの話なんだ、っていうことを分かって見ていると……そして、「人生、“やる、やらない”の分かれ目で、“やる”という決断をした勇気ある人々の物語」(※宇多丸補足:『月曜ロードショー』における荻昌弘先生の『ロッキー』名解説オマージュです、念のため)なんだと分かっていると……しかもこれ、現実のこの『カメラを止めるな!』っていう作品を作ったみなさんの姿とも重なる、というのもあって。もう二幕目のところから、その『ロッキー』的側面に胸が熱くなる。

だから僕、二幕目でタイトルが改めて出るところで、もう泣いちゃってましたから、2回目は。ということで、初回はサプライズを楽しめるし、それ以降はより深くドラマを噛みしめることができる。要は、ちゃんと普遍的な魅力もある作品だということで。まあ正直やっぱり、悔しいかな、大評判も納得の……正直、大傑作です。悔しいかな、大・傑・作です! 「なんだ、大傑作か」っていうね(笑)。ということで、ここから先、決定的なネタバレは避けるように引き続き話すつもりですが、ちょっとだけ踏み込んだことも言うので、完全に白紙の状態で見たい方はしばしね、アレをアレしていただくとね。だいたい10数分後ですかね。それが安全だと思いますね。

■過去作にも通底する上田慎一郎監督の作家性とは

監督・脚本・編集の上田慎一郎さん。これがなんと劇場用長編の第一作目ということなんですね。短編をいろいろと撮られていて、非常に賞なんかもとられて、評価もされている方だそうなんですが、僕はまあ、今回はじめて知って。まあ、かろうじて何個か見れた過去作の中では、たとえばYouTubeで普通に「上田慎一郎」って検索すると出てくるのは、2015年の『テイク8』っていう、これは結婚式場かなんかのタイアップの短編なんですかね。その短編を見たし、あとはこれちょっと申し訳ないですけど、とある方のご厚意で見ることができた『4/猫』というオムニバスの中の一編、『猫まんま』という短編。この二作をこのタイミングで拝見したんですけど。

これ、どちらも非常に共通しているし、今回の『カメラを止めるな!』に完全に通じているモチーフの作品で。どちらも、要はギクシャクしていた人間関係、コミュニケーション不全に陥っていた人間関係が、本音が入り交じる「演技」のプロセスみたいなものを経ることで……ただの演技じゃない、本音が入り交じる演技プロセスを経ることで、一歩踏み込んだ相互理解、そしてそれぞれの成長に至る、という話で共通している。完全に今回の『カメラを止めるな!』とも通じるモチーフですよね。

あともう1個ね、これはスーツカンパニーのタイアップで『正装戦士スーツレンジャー』っていう、これもYouTubeで見たんだけど。これは完全に、いわゆるコンバットREC案件ですね(笑)。70年代、80年代戦隊物パロディーということで。コンバットRECは本当にこういうののディテールについてクソうるせえので(笑)。コンバットRECに言わせるといろいろとあるかもしれないけど。ということで、それら過去作と比べても、通じるモチーフ、メッセージというかテーマはあるんだけど……今回の『カメラを止めるな!』はでもはっきり、一段上に突き抜けた作品になっているという風に思いました。で、そのキモは、やっぱりなんと言っても第一幕目。37分間の映画的挑戦。それは同時に三幕目、クライマックスの布石にもなっているわけですけども。

■「ネタ振りのためのネタ振り」になっていない冒頭37分間

まあ要は一種、無謀な挑戦に「実際に挑んでいる」というのがポイントなんですよね。これは言ってもいい部分なはずですけど、要は、37分間ワンカット長回しのゾンビ映画が、最初に始まるわけですね。で、舞台となっているのは、水戸にある浄水場らしいですけども、ロケ地。そのロケ地の本当に200%の有効利用ぶりも含めて、とにかく本当に、この37分間ワンカット長回しのゾンビ映画が、「ちゃんとがんばっている」わけですよ。普通にそれ単体で見ても、「ああ、がんばってちゃんと作っているな」と。もちろん、その後の伏線としての、あえてやっている変なところもいっぱいあるんだけど、基本的にはワンカット、すげえがんばってやっているし。いろんな見せ場を作って……ゾンビ映画の定番的な展開がいくつか入っていたりとか、あとは違う場面場面での見せ場があったり。「結構これ、がんばってんじゃん」っていう感じになっていて。単なる「ネタ振りのためのネタ振り」になっていない。

つまり、ここを本当にただナメた、「ゾンビ映画“風”」の作りにしちゃうとどっちらけなんだけど、(本作は)ただネタ振りのためだけじゃなく、ちゃんとがんばって作っているし、やっぱり、ワンカットでずーっと撮らなきゃいけない37分……つまり、作り手の計画通りのパズルをはめていくだけ、そして我々はそれを見せられていくだけの、「お上手」な作りに終わらない構造に、これはもう監督が意識的にしている、ということだと思います。インタビューでもそんなようなことをおっしゃってますし。ただ、この37分間の部分が面白く感じるかどうかで、たしかに分かれると思います。ここで何らかのわざとらしさの方を強く感じちゃったりとか、つまんなさの方を強く感じちゃって鼻白らんじゃうと、後半も乗れない、という傾向はたしかにあるのかなとは思います。

僕はまあ、「ああ、結構がんばっているな」って思いました。たしかに要所要所は「ん、ん?」ってなるし、「ああ、これはネタなんだな」って思うんだけど、全体としては「これはめちゃめちゃがんばらねえと撮れねえぞ!」っていうのがあるわけですね。単なるネタ振りのためのネタ振りに終わっていない。たとえばクライマックス。複数の登場人物が、非常に困った暴走をしだす、というくだりがあるわけです。これ、それだけ取り出すと、ともすると単に腹立たしく見えたりするわけですよ。「お前が邪魔するから苦労してるんだろ!」とか、「お前がちゃんとやらないからだろ!」っていうだけに見えちゃったり、あとはわざとらしく見えかねない。「“暴走”ってなんだよ!」みたいな話になるから。

……っていう風に見られかねないようなネタなんだけど、我々観客は、すでに最初の37分間で、それらの登場人物の暴走が、結果的にはゾンビ映画として一応プラスに働いていることを知っているわけですよ。たとえば、「やはり暴走する人間こそがいちばん恐ろしい」っていう、ゾンビ映画によくある展開とか。あと、ゾンビとしてのリアリティーとかも増してるじゃん、っていうのがわかるから。要は作品がトータルで上手く行くよう、素直に応援する気持ちにちゃんとなる、という構造になっている。あるいはですね、最初の長回し。37分間ずっと長回しをしている途中、ルール破りというか、はっきり言えば「あっ、これ失敗してるだろ? 長回しとしては失敗してるだろ?」って思える瞬間があるわけですね。いくつかあるわけです。

■「映画を作るプロセスそのもの」が作品の魅力と直結している

しかし、それらが不思議と、「このまま行ったれ!」っていう映画それ自体の勢い、パワーを醸し出している。僕、最初に後半の仕掛けを知らないまま見ていても、「あ、いまのこれ、失敗だろ? いまのこれ、どうやってカバーするんだ? ……大胆! 大胆なカバー!(笑) 勢い、その勢いや、よし!」みたいな感じになった。で、実際にそれは、本当に起こったアクシデントだったりするわけですよ。まあ、とあることが起こるんですけど、カメラに(笑)。で、それをさらにクライマックス、劇中にもう1回……要するに、実際に撮っている長回しで起きたアクシデントを、もう1回フィクションの中に取り込むことで…映画を作るとか、あるいは作品を一丸となって作り上げるということ自体の、そのものの楽しさ、エネルギーというものを表現するのに、そのアクシデントさえも昇華している。

で、ワンカットでカメラを回していくというのは、はっきり言って下手にやっていくと……下手にやらなくても、逆にカメラの存在が目立っちゃって。これはだから『ゼロ・グラビティ』とかなんでもそうなんですけど、逆にカメラの存在を意識させちゃって、むしろフィクションっぽさが際立つ手法だったりすると僕は思っているんですけども。それもこの作品では、それを逆利用して、二幕目以降がむしろ「だからこっちは“本当”ですよ」っていう風に見えるようになっているし。つまり、言ってみれば前半のワンカットで撮っているところは「演劇的」で、後半こそが「映画的」、という作り方になっているということですよね。

とにかくですね、いわゆるバックステージ物とか、メタ構造を持つ作品は数多あれど、ここまで「その映画を作るプロセスそのもの」がその映画の魅力と直結しているような、言ってみればフィクションとメイキングがシームレスに折り重なっているような、そしてそれゆえの楽しさに満ちた映画っていうのもこれ、なかなかないんじゃないかな、という風に思いました。あとですね、一幕目のその37分間長回しワンカットと三幕目のクライマックス。さっき言ったように対にはなっているんですけど、クライマックスの方は、現実時間そのままじゃなくて、バンバンバンバン編集で省略を重ねているわけです。

つまり、ある意味正攻法のエンターテイメント映画の作り、構えになっているわけですね。で、グイグイグイグイとスピードを増していくわけですよ。ドライブ感を増していくわけですよ。この編集のテンポのよさ。映画でしか表現できないテンポのよさ。この手腕も非常にたしかですね。あと、たとえば「父と娘の心が通じ合う」というのも、これはヘタクソな映画だったら、説明セリフだらけの湿っぽいシーンなどを挟み込んで、しかもそれがクライマックス手前にそんなのがあるんで、いきなりテンポとかが削がれちゃったりしがちなところを、そうやってド下手に表現するんじゃなくて、むしろ最後の最後で事後的に、あくまでそれも絵のみで……しかも、見た人ならわかる通り、その絵一発で、見事すぎる伏線回収。「お見事!」という伏線回収で見せきる、この粋さ。そして言うまでもなく、こういう粋な見せ方の方が、人間ドラマも泣けるんだよ!っていうことですね。

■無名でもこんなに素晴らしい役者がまだまだいるじゃないか!

全編に渡ってこんな感じで、伏線の張り方の自然さ、必然性の組み込み方、その回収の意外性を含めた上手さ。これは本当にもちろん、練りに練った脚本の賜物ですよね。たとえば娘さんが言う、序盤の本当に何気ない一瞬のセリフ。しかもすぐ後のセリフがかぶってきちゃう何気ないセリフが、第三幕で、二段階に回収される。特にクライマックス中のクライマックス。「うわっ、危機一髪! おい、どうするんだよ、これ?」っていうその一瞬からの、アクション見せ場に生かされるところとか、もう本当にね、最高!としか言いようがないという感じですね。あとはやはり、ワークショップを重ねて俳優さんそれぞれの個性をしっかり把握した上で、当て書きして完成した脚本、というこの流れも大きいですよね。

それこそさっき言った娘さん。真魚さんという方が、その映画を撮るというワークショップの時に、もう監督が座るべき位置に、前に立っていたとか。そういうキャラクターを生かしているっていうね。だからこそ、もういまとなっては完璧と言う他ないこのキャスティング……本当に、世にそれほど知られていない方でも、こんなに素晴らしい役者さんがまだまだいるじゃないか、なのになんでみんな同じような役者ばっかり使うんだ?って腹が立ってくるぐらいの感じで。とにかく脇に至るまで、全員素晴らしい! の一語です。たとえばですね、事実上の主役ですかね。監督役の濱津隆之さん。序盤のキレ演技も素晴らしいですし、あの、ちょっと困ったような、シャイそうな笑顔のキュートさが、個人的にはものすごい涙腺を刺激する。

実際にたぶん監督も、彼の顔の力というものにすごい自信があるからこそ、ここぞ!というところでやっぱり、正面からのアップで決めてくる、というのはありますよね。あと、奥さん役のしゅはまはるみさんもそうだし、娘さん役の真魚さんもそうだし……とにかく挙げていったらキリがない。細かいところで言うと、たとえばちょっとチャラめのイケメンプロデューサーを演じてらっしゃる、大澤真一郎さん。彼はたぶん、「エイベックスから出向してきたラインプロデューサー」風っていうね(笑)。目は鋭いんだけど、みたいな。あと、これはたぶん吉本とか芸能畑でしょうね、あのプロデューサー役を演じられている竹原芳子さん……まあ要はこのゾンビチャンネルっていうチャンネルは、おそらく吉本とエイベックスの共同出資なんじゃないかなっていう(笑)。

まあ、こういう感じの人、いるわ!っていう感じのキャストも本当に見事ですし。あと僕、個人的にはね、AD役の、吉田美紀さんが演じている、「おばちゃん」って言われているADの……なんていうの、「スクリプター感」というか。無表情で、あんまり口を開かないで低くしゃべるあのしゃべり方とかが、非常に効果的だったりとか。あとはやはり、秋山ゆずきさん。女優さんを演じている。あの「よろしくでーす」っていう(笑)、もう流行語間違いなしのセリフ回しとかも、本当に見事でしたし。とにかくもう、全員挙げたらキリがない。もうマジで全員素晴らしいです!

■日本の喜劇映画史に名を残す傑作

しかもそのね、それらの登場人物を、ほぼ全員……特に汗をかいた登場人物はほぼ全員に、しっかり成長とか救いが用意されているあたり。本当に見事なものだと思いますね。もちろん、37分間ノンストップで、そのゾンビ映画をやり遂げた実際のスタッフたち。撮影監督の曽根剛さんをはじめとしたスタッフの手腕と労力は、本当に感服するしかないし。最後の最後にその労力が、まさにその『カメラを止めるな!』というそのアクションへのメタ視点が、最後に三段階目というか、もっとも俯瞰的になるのがエンドロール、というあたりで、あの……ちょっとネタバレになっちゃう(のでモチーフになっているであろう曲の具体名などはここでは伏せる)けど、ホニャララ風のあのエンドロールの曲も、非常に楽しくて。思わず、やっぱりちょっと拍手したくなってしまうこの幕の引き方を含めて、本当にストレートに面白い、楽しい、グッと来る、という感じだと思います。

日本の娯楽映画、特に喜劇として……大げさに言えば、やっぱり歴史に残るレベルじゃないかと思います。「インディー映画だからこういうところは大目に見てあげてよ」みたいなのがあんまりないんですよ。っていうか、作りそのものが、インディー映画の弱点みたいなものをちゃんとカバーする作りになっていて。本当に見事なものです。差し引かなくていい作りになっていて。俺、このレベルで日本映画の喜劇として文句なし!ってなったの、それこそ井筒さんの『のど自慢』以来とか、それぐらいの感じですね。本当に見事だと思います。公開規模、もっともっと広がってほしいし、多くの方に見てほしい作品です。まだまだ、たぶんこのカルト的熱狂は絶対に広がると思います。めちゃくちゃ面白いっす。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

++++++++++++++++++++++++++++++