お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

放送中

放送中


  • 放送ログ
  • 音声あり

司法書士は見た! 家賃トラブルは日本の貧困問題の縮図 太田垣章子さん

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
6月30日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、2000件以上の家賃トラブルに立ち会ってきた司法書士・太田垣章子(おおたがき・あやこ)さんをお迎えしました。

太田垣章子

太田垣さんは家賃の滞納に困っている家主からの相談を数多く受けています。そして裁判の手続きを進める一方で、家賃滞納者や連帯保証人に直接会いに行って事情を聞いたり、滞納分の支払いや任意での退去を促しています。滞納者の生活保護の手続きに足を運ぶこともあります。そこまでやる司法書士はまずいません。書面で法的な手続きを進めれば司法書士としての仕事は十分なのです。滞納者のところに何度も足を運んでいると、なぜ何ヵ月も家賃を滞納することになってしまったのかが見えきます。そこには深刻な貧困の問題があると太田垣さんは言います。

スタジオ風景

実は太田垣さん自身も、かつて貧困生活を経験していました。

太田垣さんは1965年、大阪府堺市生まれ。実家は、山名宗全が築いたと伝えられる竹田城の城主・太田垣氏の末裔で、私立の中高一貫校からお嬢様学校として知られる神戸海星女学院短期大学に進みました。短大卒業後は広告情報誌や旅行雑誌のフリーライターを経て、プロ野球のオリックス・ブレーブス(当時)の球団広報に。3年半後、病院の経営者とお見合い結婚をして専業主婦になり、30歳の誕生日を迎える少し前には男の子を出産しました。ところがそのあと、恵まれた生活が一変します。子供が6ヵ月を迎える頃に離婚。シングルマザーとなりましたが実家を頼ることができず、安アパートでの極貧生活を余儀なくされたのです。家賃を払ってしまうと、残るお金はわずか3万円。それで食費・光熱費・雑費のすべてをやりくりしました。財布に紙幣が入っていることはなかったそうです。

親子2人で生きていくには手に職をつけるしかない。離婚調停でお世話になった女性弁護士のアドバイスで、太田垣さんは30歳をすぎて司法書士試験にチャレンジすることを決意しました。司法書士は弁護士に次ぐ難関資格。それを働きながら、しかも1人で赤ちゃんを育てるなかで勉強を続けるのですから、とても大変なことです。朝、子供を保育所に預けて仕事に出かけ、家に帰ると夕飯、お風呂。赤ちゃんを寝かしつけたあと大量の洗濯(保育所では1日に何着も着替えるのです)、翌朝のごはんの下ごしらえを済ませて、ようやくすべてが終わるのが深夜11時。普通はこの時点で寝落ちしていまうのですが、太田垣さんはここから真夜中すぎの3時まで勉強! そんな生活をなんと6年間も続けたそうです。そして5回目の受験でついに合格。これで貧困生活から抜けられると思いきや、世の中は甘くありません。すでに36歳になっていたシングルマザーで、しかも実務経験のない太田垣さんを雇ってくれる事務所はどこもありませんでした。面接さえ受けられないことが30社以上続いたあと、ようやく大阪の司法書士事務所が採用してくれました。でも月の給料は20万円で、税金を引かれると手取り15万円。司法書士になってもなかなか生活は楽にならなかったそうです。シングルマザーや働く女性がいかに大変な生活を強いられているかということを、太田垣さんは身をもって知ったのです。

スタジオ風景

いま太田垣さんは家賃滞納トラブルに伴う訴訟手続きを数多く請け負っています。実はいま、家賃を滞納する人が増えているそうです。日本賃貸住宅管理協会が賃貸住宅管理会社を対象に行った「賃貸住宅市場景況感調査」(2017年4月~9月)によると、全国の月初全体の滞納率の平均は、8.2%。12戸に1戸が家賃を滞納しているのです。家賃滞納には悪質なケースもありますが、一方でその背景には深刻な貧困の広がりがあると太田垣さんは言います。厚生労働省によると、平均的所得の半分未満で暮らす人の割合は、15.6%。日本人の6人に1人が貧困という状況です。すぐには信じられない数字ですが、太田垣さんは家賃滞納の現場で、若者、高齢者、シングルマザーと、様々な貧困の実態を目の当たりにしてきました。また、子供たちも6人に1人が貧困だそうです。きょう餓死してしまうという状態ではありませんが(これを絶対貧困といいます)、周りの子供が持っているものを持てないとか、歯医者に行けないとか、学校での給食が一日で唯一の食事だとか、そういった子供たちは家賃滞納の家庭にたくさんいるそうです。

家賃滞納は本人に問題があると思われているところがありますが、決してそうとばかりは言えません。そうでないケースもたくさんあると太田垣さんは言います。バブル崩壊以降のいわゆる就職氷河期世代の中には、転職を何度かして40代になっても履歴書にひとつも「正社員」の文字がないという人もいるでしょう。

「そういう人は派遣切りにあいやすい。でも次の転職先が見つからなくて家賃の滞納が始まることも多いんです。いまは普通の生活をしている人でも、何かひとつ歯車が狂うとすぐに滞納が始まってしまう。貧困に陥ってしまう。そういうリスクがあるんです。シングルマザーもそうです。シングルマザーは元々の年収が低いので、ぎりぎりで生活しています。だから何かあったらすぐに貧困になってしまうんです。そうなったときに生活費の中でいちばん大きい家賃を滞納すると、ほかにお金が回せるんです。国は子供を産みましょうと言いますけど、こんな状況では産んでも育てられないですよ」(太田垣さん)

家賃滞納の背景には、子育て、家族や地域とのつながり、若者の働き方、高齢者の暮らし、国の福祉政策、税金の使い方、外国人の受け入れ政策など、様々な問題が複雑に絡み合っているのです。

「だから家賃滞納はとても根深い問題なんです。家賃トラブルは日本の貧困の縮図です」(太田垣さん)

太田垣章子さんのご感想

太田垣章子

久米さんに、いろいろな思いを含んだ笑顔で見られて、すごく緊張しました。久米さんの目はすごいですね。優しいけれど、何か話を引き出そう、引き出そうという目が印象的でした。ああ、報道の方の目だなあと思いました。

できれば子供の貧困の話をもっとしたかったですね。きょうは素敵な機会をいただきまして、ありがとうございました。

「今週のスポットライト」ゲスト:太田垣章子さん(司法書士)

次回のゲストは、写真家・大石芳野さん

7月7日の「今週のスポットライト」は、この日が永六輔さんの三回忌ということで、永さんと長年親交があった写真家の大石芳野(おおいし・よしの)さんをお迎えします。永さんは写真を撮られるのがあまり好きではありませんでしたが、大石さんなら大丈夫だったそうです。そんなお二人の共通点は、戦争がいかに悲惨なものかということをずっと伝えてきたことです。


2018年7月7日(土)放送「久米宏 ラジオなんですけど」http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20180707140000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)