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【映画評書き起こし】宇多丸、『バーフバリ 王の凱旋』を語る!(2018.1.13放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

実際の放送音声はこちらから↓

宇多丸:
「映画館ではいまも新作映画が公開されている。いったい誰が映画を見張るのか? いったい誰が映画をウォッチするのか? 映画ウォッチ“シヴァ神”、シネマンディアス宇多丸がいま立ち上がる。その名も週刊映画時評ムービーウォッチメン!」

いや、本当に二部作を見終わるとね、「マジ、シヴァ神リスペクトっす!」っていうかね(笑)。本当に「ヒンドゥー教、ちょっと入っちゃおうかな?」ぐらいの、そんぐらいの心が沸いてくるぐらいでしたよね……もういきなり結論を言っているじゃないか(笑)。

毎週土曜、夜10時からTBSラジオをキーステーションに生放送している『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』、ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その“監視結果”を報告するという映画評論コーナーです。今夜扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『バーフバリ 王の凱旋』

(曲が流れる)

ヤバいなー、アガるなー! インド国内の歴代興行成績を塗り替えたアクションエンターテイメント超大作の後編です。インドの架空の古代王国を舞台に伝説の戦士「バーフバリ」を巡る三世代の愛と復讐の物語を壮大なスケールのアクションで描く。前編『伝説誕生』に引き続き監督を務めたのは、ハエが主人公という斬新なアイデアで日本でも話題になった『マッキー』の監督S・S・ラージャマウリさん。主人公のシヴドゥとその父バーフバリを演じたのはインドの国民的人気俳優プラバースさんということでございます(※宇多丸補足::後から説明する理由も含めて、少なくともこの作品以前は決してインド全土で知名度がある方というわけではなかったそうです)。

 

■「見た人が『バーフバリ! バーフバリ!』ばかり口にしている」(byリスナー)

ということで、この『バーフバリ』。以前から日本でも非常に一部で話題になっておりましたが、もう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、多め! 多めですか。なるほど。賛否の比率は絶賛が8割。

「血湧き肉躍る最高の映画体験」「完全にナーメテーター」「娯楽映画として完璧」「人生ベスト級」などのテンション高いメールのほか、「バーフバリ! バーフバリ!」と、あの民衆がこうやって称えるわけですけども……という風に書き連ねている人も続出。なにも書いていないというね(笑)。(『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の)「V8! V8!」に続く感じかもしれないですね。「イモーターン!」に続くね。あまりの衝撃に「娯楽映画ってなんだろう?」と考え込む人も少なからずいた。なるほど。

批判意見は「自分には合わない」「脚本がダメだった」など苦言を呈する人がわずかにいた程度ということでございます。ということで、代表的なところをご紹介いたしましょう。「もちこ」さん。「『バーフバリ 王の凱旋』を見てきました。見た人が『バーフバリ! バーフバリ!』ばかり口にするのでなんとなく縁起がよさそうだと思い、新年一発目の映画鑑賞でした」。縁起はいいやね。これはね。

「……見てみると、やはり私も『バーフバリ! バーフバリ!』と王を讃えるしかなく、王のぶっ飛び戦術(文字通りだいたい飛んでいる)の数々が脳に直撃するばかりで、『エンターテイメントとはなんだろう?』とぼんやり考えさせられました。その答えは出ませんが、セクハラ対応はあれぐらいでいいと思います」。ああ、はい。途中でセクハラ対応ね。「それじゃ足りない!」っていうところがトーン!ってありますけどね。

一方、ラジオネーム「オト」さん。「個人的にはいまいちでした」と。前編はご覧になってそれなりに楽しんだ感じみたいですね。なんだけども、「……脚本には正直がっかりです。前編を振りにした意外な展開もあるものの、結末が決まった長い回想を見せられただけに思えてしまいました」という。まあ非常に回想というか、前に戻る話が長い。「……期待していたラストでもなんの裏切りもなく、ただ一面的なおとぎ話で終わってしまい、前編・後編と長い時間見てきたことを後悔しました。周りの意見が絶賛の嵐のため、自分がおかしいのだろうか? と不安になってしまいました」。

まあ、後ほど言いますけども、非常に定型的なお約束の話を本当にやっているだけ、とも言えるっちゃあ言えるので。こういったご意見があるのも……海外の評とかでも、そういうひねりとかが全く無いので結末が見えていて、というようなご意見は当然あるようですからね。それもおかしくないんじゃないですかね。はい。ということで『バーフバリ 王の凱旋』を私も新宿ピカデリーで2回、見てまいりました。満席でしたね。めちゃめちゃ混んでいた。

■インド映画にとっての『七人の侍』

最初にちょっと訂正というかお詫びなんですけども、先週ガチャが当たった時に私、うっかりインド映画と言えば、という浅薄な思い込みから「ボリウッドの」みたいなことをうっかり口走ってしまいましたが、これは実は非常に恥ずかしい間違いで。「ボリウッド作品」というのは、ムンバイで製作されるヒンディー語映画群のことで(宇多丸註:放送では「ヒンズー語」とか言っちゃってました、重ねて申し訳ありません!)。まあ、これがいちばんインドの中では最もメジャーな映画群で、インドのハリウッドということでボリウッドなんて言われているんですけども。『バーフバリ』二部作はですね、ハイデラバードでつくられるテルグ語映画の括りなので、通称は「トリウッド映画」ということなんですね。

さらに、チェンナイでつくられる「コリウッド」っていう、この三大映画拠点がある。本当にインドは年間にめちゃくちゃいっぱい映画もつくられていますし、非常に質も高い映画王国であることはみなさん、ご存知だと思います。コリウッドはタミル語映画、ということらしいですけどね。まあとにかく、そういう初歩的な知識も先週までロクになかった程度には私、正直申し訳ございません、インド映画、ほぼほぼ門外漢でございます。なんだけど、そんな私でもはっきりとわかるのは……これは明らかにケタ違いでしょう! いろいろとインド映画がある中でも……もちろん、二部作あわせて映画大国インド映画史上でもぶっちぎりの製作費であるとか……まあ、つっても73.5億円ということなんで。で、実際に多分73.5億円かけても、これよりも全然ダメな映画になっちゃう例とかいくらでもあると思うんですけど。

とか、もちろんそのインド国内の歴代興行収入でもぶっちぎりの1位だとか、そういう結果を出している作品なんだけど、実際に映画を見てみれば全て、そういう「歴代1位」みたいなのは、「そりゃあそうでしょうね」って納得しかない、っていう感じなんですよね。ちょっと大げさな言い方かもしれないけど、僕、この『バーフバリ』二部作は、きっとインド映画にとっての『七人の侍』みたいな一本になっていくんじゃないかなっていう風に、大きく言えばそういう風に思ったぐらいです。っていうのはどういうことか?っていうと、つまり非常に強烈に、その国ならではのお国柄が刻印された作品なのは間違いないわけです。

■「何なんだこの無茶苦茶な面白さは?」

『七人の侍』も、チャンバラ映画、時代劇っていう、日本ならではの、戦国時代を舞台にした……っていうのはあるんだけど、同時に、世界中の誰がいつ見ても、圧倒的に面白い! と感じるに違いない、ものすごく普遍的な面白さ、普遍的な意味、価値を持つ、「これぞ映画だ!」っていう感じの一大娯楽作として、やがてこれは映画史に、「インド映画といえば『バーフバリ』」みたいな感じで、はっきりと名前を残すことになるんじゃないかな、と思うぐらい……非常に金がかかっているとか、大ヒットしたとか以上に、「大きな」存在感を持つ作品なんじゃないかな、という風に私は正直、思いました。

とにかく見ている間中ですね、「何なんだこの無茶苦茶な面白さは?」っていうね。無類の面白さ、至福の高揚感に包まれていましたし。見終わった後は、先ほどのメールにあった感じと同じで、「娯楽映画にとって『面白さ』って何なんだ?」っていうね、すごい本質論を考え始めてしまったぐらいですね。逆に言うと、いまちょっと大抵の、いわゆる娯楽超大作はもう、『バーフバリ』と比べると見劣りしちゃって。ちょっと分が悪い状態になっている感じかと思いますね。で、ですね、まずは前編『バーフバリ 伝説誕生』というのが、インド本国では2015年、日本では昨年、2017年4月に公開されて。こちら、すでにソフトも発売済みなんですね。

で、続いてこの後編が、2016年の本当は夏に公開予定だったのが大幅に遅れて、2017年4月にインドでは公開されて、日本では去年の暮れに公開されて……というこの流れになるわけですけども。なのでインド本国では、前編から約2年も……あの前編の、非常にクリフハンガー的な、「どうなるんだ!?」って、あの前編のラストから、2年も待たされた。だからこそですね、先ほど僕は古川(耕)さんに教えて見せてもらった、今回の『王の凱旋』の最初に予告映像が流された……あれは何かのイベントなんでしょうね? 上から紙吹雪みたいなのがひっきりなしに落っこちてくるんですけども。そこでの観客の熱狂が、いまだかつてこんなに熱狂し続けている人たちは見たことがない(笑)っていう映像なんですけども。ぜひ、ちょっとネットとかで見れると思うんで。

ただ、それも納得です。これで2年待たされてあの映像を見せられたら、「ファーッ! アアアーッ!」ってなりますよね。で、もちろんこの前編の『伝説誕生』、そして後編の今回の『王の凱旋』の、2本でセットの作品なので、今日も概ね二部作トータルでの話になっていくとは思います。ですし、今回は劇場での上映前に、ちゃんと一応『伝説誕生』のとてもわかりやすいあらすじ、ダイジェスト解説がちゃんと付いてくる親切設計なので、もちろん『王の凱旋』からいきなり見に行っても、最低限お話は今回から見てもちゃんとわかるようにはなっています。

■「面白さ」に向けて非常に周到に精緻に構築された作品

なっているんだけど……実はやっぱりこの二部作、伏線の張り方とか、後ほどもちょっと言いますけども、細部が非常に繊細に呼応し合う作りとか、実はとても周到に、精緻に作られた、「面白さ」に向けて非常に周到に精緻に構築された作品でもある。だからこそ、ここまで無類に面白くなっているわけなんですけども。要するに、ただ豪快に、荒唐無稽なアクションを釣瓶撃ちするだけじゃなくて、ちゃんと周到にそれを積み重ねる作りが……作りが丁寧なんですよね。

なので、たとえばそれこそラストのラストのラスト。本当に文字通り最後の最後に映し出される「ある物」があるんですけど、これは前作をちゃんと見ていないと意味がわからない。逆に言うと、前作をちゃんと見ていれば、もう鳥肌が立つような……思わず立ち上がって拍手したくなるような感動を覚えることが必至の、あるものがありますので。そんなこんなも含めて、やっぱりできれば前作を見ておいた方が絶対にいい、ということは断言させていただきます。まあ、ソフトも出ていますので、ぜひ予習してから行っていただきたいんですが。

でね、そのラストのラストの仕掛け。実は前編『伝説誕生』のいちばん最初。オープニング部分ともしっかり呼応していて。最初、舞台となるこの架空の古代のインドの国々の、その地図が映し出される。まあ、『ロード・オブ・ザ・リング』とかでもあるようなやつですよね。最初に地図が映し出される。マヒシュマティ王国っていうのがいちばん地図の上の方にあって……要するに舞台の、この世界の空間感覚でいうと、いちばん奥にマヒシュマティ王国があって。その手前にクンタラ王国というちょっと小さな王国があって、その手前にもいろいろなものがあって、で、滝があって……っていうのを、要は川をどんどん下ってくる形で、まずド頭で地図を見せるわけです。

で、もちろんその時点では観客は誰一人、なんのことやらわからないんですね。もちろん架空の地図ですし、「○○国」って言われてもピンと来ないんだけど……っていうか、この前編『伝説誕生』の二幕目いっぱい、つまり全体の2/3以上までは、観客はその主人公のシヴドゥと同じく、概ねなんのことやらよくわからないまま冒険に出ている。なんのことかわからないまま、でもなんかワクワクする冒険に出ているという、そういう状態で来ているわけですよね。いちばんわかりやすいと思うので、これをたとえに出しますけども、『スター・ウォーズ』で言うと、前編の最初の2/3と後編のラスト1/3が『新たなる希望』で、前編の後ろ1/3と後編の頭の2/3がプリクエルになっている。だからプリクエルと『新たなる希望』が一緒に、ニコイチになっている。そういう構成だという風に思ってください。

■お話そのものはコッテコテで古典的

まあとにかくでもね、その最初の川を下る、というその地図の見せ方。要するに基本物語は、地図上で下ったこの川を、ずーっと、今度は遡っていく形で進んでいくわけです。で、さっきから言っているラストのラストで、カメラは再びもう1回、川下へ川下へ戻っていって……という。こういう川を軸にした世界の位置関係というのが、映画を見終わる頃には観客にしっかりと叩き込まれている。これは要するに、映画的な世界観みたいなのがビシッと最終的には出来上がっているというか。僕はこれ、すごく映画的な空間感覚だと思うんですよね。だって現実には全く存在しないんですよ。その奥に王国があって、川があって……って。なのに、僕らの頭にはもうその地図が出来上がるわけですね。

で、その「川を遡っていく」というこのお話の基本構造もそうなんですけど、世界三大叙事詩のひとつと言われる、インドの叙事詩『マハーバーラタ』からの影響はもちろんのこと……これはパンフレットに載っている、亜細亜大学教授の前川輝光さんという方の解説がとてもわかりやすい。『マハーバーラタ』からの影響……たとえば、とある悪役的なキャラクターが、最後、ケロッとした顔で残っている(笑)あたりも、実は『マハーバーラタ』イズムらしいんですよね。そういう話とかも非常に面白いんですけど。

そういう『マハーバーラタ』イズム。あるいは、『十戒』でも『プリンス・オブ・エジプト』でも『エクソダス 神と王』でもいいですけど、とにかくモーゼとラムセスのあの関係……一緒に育った王族の兄弟同士の関係を彷彿とさせるあたりとか、要するに「ザ・貴種流離譚っていうんですかね。「川を遡っていく」という物語の原型みたいな骨格もそうですし、話そのものも、ザ・貴種流離譚。世界中で大昔から、それこそ普遍的に、繰り返し繰り返し語り継がれてきた、神話的ストーリー。『スター・ウォーズ』だってもちろんそうですよね。最も古いヒーロー物の形、と言ってもいいかもしれませんけども。とにかくお話そのものは、本当にコッテコテに古典的です。いまどき珍しいぐらい、明白な勧善懲悪ですしね。

とはいえ、その悪役側の行動の動機というか、心理的動機みたいなものの描き方はすごくちゃんとやるので……要は、(今風のバランス感覚としての)「悪役側にも言い分があるぜ」とかじゃなくて、ちゃんと動機を描く。そうすると、勧善懲悪も全然成り立つ、っていうね、こういうあたりをやっているんですけども。まあ、とにかくお話は、コッテコテに古典的。「世代を超えた復讐」とか、あるいは「忠義に殉じる家臣」とかね。そして「控えおろう!」もありますし。あと、「姑と嫁の確執」とか(笑)、そういう昔から日本人が好んできたような……まあ、アジア人好みなのかな? わかんないけども。汎アジア的なというのかな? わからないけども、そういう要素も多いし。

■これでもか!と投入されている映画的面白さのためのアイデア

ただし、封建的な身分制度――もちろんインドはカースト制がありますけども――封建的な身分制度や女性の扱いなど、ちゃんと現代の国際基準というか、現代の人権意識とかそういうコモンセンス、常識を意識したチューニングもちゃんとされているんです。これも後ほど、言いますけども。とにかくそういう古典的、神話的、つまるところ普遍的な物語構造の中に、古今東西の映画エンターテイメント……それこそバスター・キートンから香港武侠映画、『マッドマックス』から『300』、もちろん『ベン・ハー』とか、そしてその『ベン・ハー』的な馬で引っ張る戦車に、グルグル回る首チョンパマシンが付いているんだけど、あれなんか『カリギュラ』か?っていうぐらい、そのあたりまで含んだ、とにかく「映画における面白さとは何か?」っていうのを研究し尽し、考え尽くしたのであろう、要は映画的面白さのための仕掛け、アイデアが、これでもか! とばかりの質と量で投入されているわけです。

結果、「原始の映画であり、未来の映画」みたいな感じになっているのは、僕にとってはやっぱり、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や、『アポカリプト』を連想するような作品でした。とにかく名場面、名ゼリフ、名ポーズが絶え間なく連発されていくんだけど……全部は言い切れないんだけど、たとえば夜、お屋敷というか、城の中の廊下。お姫様がいると、そこに敵軍の襲撃者たちがやって来ます。で、お姫様は、廊下を後ろにまっすぐ下がりながら、矢を射続ける。お姫様……本作に出てくる主要女性キャラクターは、1人残らず、自分で戦ってもちゃんと強いキャラクターですね。なんだけど、こうやってピュンピュンピュンピュン矢を射るんだけど、ついに廊下の終わりが背中に近づいてくる。すると、その後ろからヒュッと、姫の頬をかすめて、3本の矢がフーッと行く。そこに主人公のバーフバリが、ビョーンと決めポーズで登場する。

そしてですね、姫の背後の敵に、ちょっとその弓の角度を変えてポーンと放つと、3本の矢が姫の顔をフッとかすめるんですけど、その時に、姫のイヤリングをチリーンと鳴らす。それによって、姫の恋のときめき、いま、恋に落ちた!というのをピーンと表現しつつ……そしてここは事前にしっかり伏線が張ってあるのが本当に効いているところなんですけども、姫にですね、「複数の矢を放つ時の射方」をレクチャーしながらの、2人のコンビネーションでの戦い。つまり、ストーリー、感情とアクション、そして廊下という狭い縦の空間という舞台立て、そのすべてが完全に一致する名場面。この、「ストーリー、感情と、その空間の舞台立てと、アクションが一致する」ってこれ、「映画的面白さ」のキモですよね。それがすべて入っている、ということですよね。

これ、ラージャマウリ監督は、たとえば『マッキー』のクライマックスでも、やっぱりそういう舞台立ての活かし方が本当に上手い監督だな、という風に思いましたけどね。事程左様に、ひとつのシーン、ひとつの見せ場にも、何個も何個も、「その場ならでは」のアイデアが投入されている。たとえば雪山が舞台だったら、雪山ならではの戦い方とか、雪山ならではのアクションシーン。たとえば戦いの場面でも、コンビのうち片方が心ここにあらずだった場合は? とか。とにかく、同じようなアクションシーンはひとつもない。あるいは、誰かの首をはねるっていうところでも、首をはねられた人間の身体がその後……とか。かならず「もっと面白く、もっとかっこよくなる」1アイデアが加わっている、ということでございますね。

■前の場面のリフレインのさせ方がめちゃめちゃうまい

しかもその直後、ブワーッて斬りかかろうとした相手の正体を、斬りかかろうとした瞬間に気づいた男……カッタッパという老剣士、これはいいキャラクターですよね。老剣士カッタッパがそこで取る、一度見たら忘れられない決めポーズ!とかですね(笑)。まあ、歌舞伎的とも言えるような、決めポーズのケレン味とかも最高ですし。そして、たとえば『王の凱旋』。今回の序盤の大見せ場。火鉢を頭に乗せてお参りに行く、という儀式のシーン。これ自体がもう本当に痛快無比、であると同時に、とっても工夫とアイデアが凝らされた、超絶楽しい見せ場なんですけども。超アガる場面なんだけど、これ、三幕目のクライマックスで、ちゃんとこの火の儀式がリフレインされるわけです。ここでまた来るか!っていう。

このようにですね、前の場面のリフレイン、呼応させ方もすごく上手くて。たとえば、「胸を刺す」っていう、後の恋人同士の駆け引きっていうね。この「胸を刺す」というアクション。あるいは、橋が落ちた状態で、ある同じ女性キャラクターが、どうやってそこを渡るか? で出る対比。自らその橋を渡る女性のもとに傅く真の王と、金ピカのハリボテでえばっている偽物の王の、この対比とかですね。そんな感じで、要は言うまでもなく、「前にあったこと、前にやったこと、前に見たことと、似ているけど違う」あるいは「違うけど似ている」というこのリフレイン、これもまた「映画的面白さ」の大きなキモで。この使い方がめちゃめちゃ上手い、とかですね。

あと、映画的面白さ、楽しさという意味では、インド映画の特徴としてしばしば語られる、ミュージカルの要素。これもいっぱい入っているわけです。ただ、この『バーフバリ』の場合は、歌のシーンはすべて、「手際よく物語を先に進めるため」か、もしくは「登場人物の心理を、説明のための説明ではなく、楽しく面白く説明するため」に使われている。とにかく、ミュージカルシーンなんだけどストーリーが止まらない……どころか、ストーリーをよりテンポよく前に進めるための機能を果たしていたりする。なので、インド映画的でありながら、よりユニバーサルな観客に受けやすいつくりにもなっている、ということだと思うんですよね。

■巨大なセット、膨大なエキストラ。圧巻のスケール!

ちなみにそのね、たとえば野に下ったバーフバリが、やっぱり真の王っぷりを証明してしまう下りを、ミュージカルというか歌劇スタイル、歌に乗せて見せていくんだけど、ここなんかね、尊敬される為政者・リーダーというのはどうあるべきか?っていうのを、これ以上ないほどのシンプルさで、しかも本質を表現しきっていて、本当に感動する。なので、王政の話なんだけど、ちゃんと現代的な民主主義とか人権意識を見据えたメッセージまで、全体に含んでいるわけですよ。これも本当に見事なあたりですしね。はい。

あと、とにかくあのね、「(言わずと知れた映画史上最大級の超巨編)『イントレランス』かよ!」って言いたくなるぐらいの、巨大なセット、膨大なエキストラなど、単純にスペクタクルとして圧巻のスケール、というのもまずありますし。一方、それを補完するCGとかVFXは……もちろんインドは世界的に、CG、VFXは非常に(技術的に優れているのが知られていて)、工房としてハリウッドの依頼を受けてやっているくらいなので、もう技術は十分にあるわけですけど、これはインド映画の特徴でもあるらしいんだけど、リアリティーというよりは、ケレン味を強調する表現として、特化して使っているわけです。

なので、特に今回の『バーフバリ』みたいに、リアリティーラインに終始ブレがない……最初から超人的な人物が登場する、ちょっと現実から浮いているような、神話的なリアリティーである作品。この作品二作に(そのリアリティーの基準が)一貫しているので、どんだけ荒唐無稽なことが起こっても、まったく問題がないようにちゃんと見せているし、ちゃんと楽しいっていうかね。「ああ、映画ってやっぱり、こんぐらい大風呂敷を広げてくれてもいいよね」っていうものにちゃんとなっている。ここがね、リアリティーラインがブレるとダサくなるんだけどね。

■いまやっているどの映画よりも「面白い」!!

あえて日本人的感性との違和感で言えば、主人公の父子二代とも女性への接近の仕方が、超ストーカーチックっていう(笑)。特に息子の方、マヘンドラ・バーフバリさんの、「勝手にタトゥーを描く」は、結構キてると思うんですけど(笑)。でもまあ、それもある種ちょっと、神話的な無茶さ感という風にちゃんと取れる物語でもありますし。あるいはまあ、ひょっとしたら南インドの方の、ある種の気風っていうかね、やっぱり男がある種、積極的に行くべき、という気風があるのかもしれないですけどね。まあこれは全然楽しめる。それよりも、『バーフバリ』のこの二部作、決定的な欠点がひとつあります……短い!(笑) ねえ。

特に我々がいま見ている、国際編集版ですかね? 日本で公開されている国際編集版は、元のテルグ語版、オリジナル版が171分あるのに対して、30分近く短いわけですけど。ぶっちゃけ見ていると途中、変なところでブツッと切れるような編集が何ヶ所かあって。ご覧になれば違和感を抱くであろうところが、何ヶ所かあると思うんです。171分、もう僕らは全然長いとは感じないんで(笑)、よろしくお願いします。フルで! 「えっ? っていうか、他のフッテージがあるなら全然見たいんですけど」っていう、そういう状態になっていると思います。

S・S・ラージャマウリ監督作、過去作も本当にすごく面白かったですし。僕、全然明るくなかったけど、やっぱりインド映画、これからちゃんと押さえなきゃダメだな、と思ったのと同時に、ただまだ見ていない方、やっぱりそのインド映画的な……たとえば『ムトゥ踊るマハラジャ』とかを我々が最初に見た時、もちろん面白いし驚いたけど、ああいうちょっとキッチュなもの、「ちょっとしたチープさとかそういうのも含んでの、キッチュなものとしての面白さなんでしょう?」っていう風に思っている人がいたら……。

あと、「逆に」。「『逆に』こういうのもいいよね」みたいな……いや、「逆に」の逆だから! もうこんなストレートに面白く、血湧き肉躍る、ストレートなエンターテイメントをちゃんと……そう、「ちゃんと」つくっているんです。もう細かいところまで。そこなんです。

なので、偏見ある方はぜひそれを捨てて、いますぐに映画館に走ってください。間違いなく、いまやっているどの映画よりも「面白い」です! これは保証します。まずは前編から必ずね、見ていただきたいと思います。最後に言います。昨年のシネマランキング、やりましたけどね。昨年度で言うとどこに行くかというとね……1位でーす!(笑) はい。ということでぜひぜひ劇場に行ってください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『勝手にふるえてろ』 に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

<以下、ガチャ回しパート>

シネマランキング1位『ドリーム』。で、心の1位が『ムーンライト』。で、チャンピオンが『バーフバリ』二部作!(笑)っていう感じですね。だから(2016年のランキングの)『クリード』枠だと思ってください。チャンピオンです。チャンピオン枠『バーフバリ』!

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