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【映画評書き起こし】宇多丸、『アフターマス』を語る!(2017.9.30放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

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実際の放送音声はこちらから↓

宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーです。今夜扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『アフターマス』

(曲が流れる)

飛行機の衝突事故で妻と娘を亡くした男と、その事故の原因に関わる航空管制官の男。共に過酷な現実を背負った2人の運命が交錯するまでを描く。主人公ローマンを演じるのはアーノルド・シュワルツェネッガー。管制官を『モンスターズ/地球外生命体』などなどのスクート・マクネイリーが演じている。監督は『ブリッツ』のエリオット・レスターさんということでございます。ということでこの『アフターマス』を見たよというリスナーのみなさん、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。

メールの量は、ちょい少なめ。これはでもね、ちょい少なめなぐらいなのは全然……っていうのは、都内では1館のみで、全国でも4館のみぐらいでしたっけ? 非常に小さな公開規模なので。賛否の比率では「よかった」が8割。全面否定という人はいなかったので、概ね好評が多かったと言える。「こんな事件があったなんて知らなかった」「重い話だけど、これは誰にでも起こりうること。見れてよかった」「シュワちゃんが俳優としてネクストステージに突入」などが主な褒める意見。一方、「つまらなくはないが薄味で物足りない」「事実だから仕方がないが、話が一直線すぎて物足りない」といった声もちらほらございました。

ということで、代表的なところをご紹介いたしましょう。ラジオネーム「五目そば」さん。千葉県31才・男性。「『アフターマス』、シネマート新宿二番スクリーンにて鑑賞してまいりました。大満足でした。おい、シュワちゃん、なにをやらかす?というサスペンス的な興味が軸にしっかりありつつ、被害者と加害者を取り巻く絶望&不条理がジメジメしすぎない絶妙なバランスで描かれていて、サスペンスとしても家族愛物としても楽しめました。自分ではどうすることもできない理不尽にブチ当たった時、どうするか? など深く考え扠せられました。アクションなしで理不尽な社会と闘ったシュワちゃん。とは言いつつも、サービスショットのプリケツを……」。まあ、完全ヌードが出ますからね。

「……惜しげもなく披露してくれたシュワちゃん。俳優としてのネクストステージというより、完全体に到達したと言えるのではないでしょうか?」というご意見。一方、「ケン」さん。調布市27才・男性。「僕は映画を見始めるまで、このような事故があったことも知らなければ、この映画が実録物であることも知らなかったので、よい意味で一本の映画として楽しんで見ました。不謹慎な表現に聞こえたらすいません。ただし……」ということで、「展開がちょっとゆっくりに感じてしまった」とか、「物語に要求される理不尽さや悲惨さの描き込みが少し弱いように感じる」とか。「シュワルツェネッガーに関しては役柄に必要なリアリティーに彼の演技力が達していない」というようなこととか。「この作品ならではの面白さという面が少し弱いように感じました」というようなご意見がございました。

ということで、ありがとうございます。みなさん、本当に公開館数が少ない中、なかなか見るのが大変だったと思うんですが。あ、いま9館に増えた? そうですか。私もシネマート新宿で2回、見てまいりました。僕が見た回は割引回だったこともあって、結構埋まっていた感じではございましたが。ただ、公開館数は本当に最小ですね。パンフレットも作られていないぐらいで、劇場公開規模としては最小のレベルだと思うんですけどね。まあ、いくら非アクションの低予算映画で、本国でも特に高く評価されたわけでもないという感じとはいえ、アーノルド・シュワルツェネッガーの主演映画でこの扱い、というのは隔世の感があるなという風に思ったりもしますね。

個人的にはシュワルツェネッガー、俳優に本格復帰してからの第一作『ラストスタンド』……この番組では2013年5月4日にウォッチしました。僕は大好きですけどね。その『ラストスタンド』以降のシュワルツェネッガーは、それこそ結果的にはちょっと妥協的な出来にはなってしまったけども、デヴィッド・エアー監督の『サボタージュ』など含めて、なんだかとってもいい顔の、味わい深い……まだ「上手い」とまでは言えないと思うんだけど、味わい深い役者になってきているなと。やっぱり年輪が重なるといい役者になってきているなと思っていて。今回の『アフターマス』も、先週、2回もガチャを余計に回して……つまり、自腹2万円をドブに捨てて(笑)、「別に『ダンケルク』でよかったじゃねえか?」みたいなことをボヤきながらのこれ、ということになってしまったんですけども。


いやこれ、実際に見たらなかなかどうして! ちょっとこれは不当な冷遇ぶりというか、間違いなく「見てよかった」と断言できる、腹にドスンと来る良作でございました。少なくとも僕は、ガチャが当たらなかったらしばらくはスルーしちゃっていたと思うので、2万は出したけど、やっぱりこれは見ておいてよかった、と思えた作品です。むしろ、こういう予期せぬ作品というか、本来だったら見るつもりじゃなかったものを見るというために、このガチャというシステムはあるので……僕はこれ、非常に有効だったなと。「2万は有効だった……2万は有効だった! 無駄じゃなかった!」と思いたい!ということですけどね(笑)。

とにかく、2002年、ドイツ南部のユーバーリンゲン地方付近の上空で、ロシアのバシキール航空の旅客機と国際貨物航空会社のDHL611便っていうのが空中衝突して、乗員乗客あわせて71名が死亡した、という実際の航空事故を、その後にさらに起こった、ある悲劇的な余波……「アフターマス(余波)」込みで、ベースにしたお話でございます。あくまでも、「ベースにした」お話。舞台をアメリカ・オハイオ州コロンバスに変えて……このオハイオ州コロンバスというところは、実は、シュワルツェネッガーは非常に縁が深い土地で。シュワルツェネッガーが主催する「アーノルド・クラシック」っていう、非常にデカいボディビル大会が、もう40年ぐらいに渡って開かれている、非常に縁の土地なんですね、シュワルツェネッガーにとって。

なので、たとえば刑務所の中の撮影とかは(通常の映画製作では)いろいろと難しかったりするんだけど、そういうのにも非常に協力的で、地元の全面バックアップで撮られたと。あの、空港のカウンター前でシュワと一瞬ぶつかりかけるおじさん。「いい身のこなしだね」って言われるおじさん、いますよね? あれ、コロンバス市の市長だそうです。あと、シュワルツェネッガーともう1人の主人公である管制官の方の、奥さんを演じているマギー・グレイスさん。これ、『96時間』シリーズの、あのリーアム・ニーソンの娘役ですけども。マギー・グレイスさんの地元でもあるそうです。マギー・グレイスさんはここの高校に通っていて……みたいな、そんなことらしいですけどもね。

とにかく、そんなアメリカのオハイオ州コロンバス。アメリカの地方都市に舞台を移して、事故の規模とかも、今回の映画では(もともとの)71人から二百何十人という風に規模も大きくされ、人間関係なんかも大きく脚色してあるという。これ、脚色したのはハビエル・グヨンさんという、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『複製させた男』の脚本なんかを手がけた人ですけども。『複製させた男』はかなりシュールレアリズムな話なので、今回の(ストレートな)リアリズムとはちょっと違いますけども……ただ、ある男がちょっと精神的に追い詰められていく話、という意味では(『複製された男』との共通項も)あるかもしれませんけどもね。まあ、そのハビエル・グヨンさんの脚本による映画化ということで。ストーリーはもう、これ以上ないぐらいにシンプルです。

ある事故で家族を亡くした男と、その事故の責任を負った男。両者の苦悩を、交互に、並行して描いていき、ついにはその2つの人生がクロスする。ちょうど劇中、何度か象徴的に飛行機雲が出てくるんですけど、最後にその飛行機雲が……まあ、非常にわかりやすい象徴的描写ですね、それが交差する。その様のようにクロスして、ある決着を迎えるまでを、94分という非常にタイトな尺で……まあ、言っちゃえば余計なことは何もせずに、本当にそれ(事件の顛末)だけを描いているという作品でございます。被害者家族と、事故を起こした側が出会って、被害者家族側が恨みをずっと抱いていて……というような話だと、たとえばショーン・ペンの監督作『クロッシング・ガード』という1995年の映画がありました。

あれなんかを思い出しますけどもね。あれは交通事故ですけども。ただ、あれはデヴィッド・モース演じる加害者側の男が、実は非常に出来た男という話で。むしろ、遺族側の父であるジャック・ニコルソンが、割とはっきりと常軌を逸した行動にどんどん走っていっちゃう、というバランスだったのね。なんだけど、それに対して今回の『アフターマス』は、その遺族側も、責任を負った加害者側の男も、より人間的なバランスというか、より普通の人間、より「普通の人々」なバランスだと思います。まあ劇中ね、事件の責任者とされる、管制官のジェイコブという男。これを演じているのはスクート・マクネイリーさん

先ほどもチラッと言いましたが、ギャレス・エドワーズがハリウッド版『ゴジラ』の監督に抜擢されるきっかけとなった、『モンスターズ/地球外生命体』という、非常に面白い2010年の作品。これの主演であるとか。あとまあいろいろと出ているけども、たとえば『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』で、スーパーマンへの逆恨みをこじらせすぎちゃって、劇中であることを起こしちゃうあの人とか。とにかく、脇役で出ていても、なんか危うい繊細さというか、危うい神経質さみたいなのが非常に印象に残る、いい役者さんですよね。そのスクート・マクネイリー演じる管制官が、作中、思わず「僕は悪人じゃないよ! そうだろ!? 悪い人間じゃないんだよ!」って逆ギレをしてしまう。また、それがちょっとね……彼としては無理からぬ逆ギレがまた、ボタンのかけ違いを生んでしまうんだけど。


とにかく、「僕は悪人じゃないよ! そうだろ?」って逆ギレをしてしまうように、要は、それまではどちらかと言えばはっきり善良な一市民として、慎ましく幸せに生きてきただけの人が、ある不運をきっかけに……それもいきなりドカンと一発で道を踏み外してしまうんじゃなくて、1個1個、小さいけど、決定的なボタンのかけ違いっていうのを重ねていった結果、気がつくともう、取り返しがつかない、それこそ本質的な意味ではもうどうにも……たとえば、罪としては許されようもないような過ちを、気づいたら犯してしまっている、みたいな。要は、完全に我々の人生とも地続きにある話、世界だと思いますね。こういう風に人生が(決定的な不運に)巻き込まれることがないって、誰が断言できようか?っていう話だと思うんですよね。

で、まずは何しろこの『アフターマス』、その第一幕がすさまじくて。要は、シュワルツェネッガー演じる建築現場監督。非常に人からも慕われていて、本当にいい人として生きてきたんでしょう、建築現場のローマンが、もうすぐ孫を産む娘と妻を空港に迎えに行くと、「ん? なんか様子がおかしい……」という。「できれば人生で絶対に味わいたくない」くだりですね。それと、スクート・マクネイリーさん演じる管制官ジェイコブという人が、やっぱりいつも通り仕事をこなしているつもりだったんだけど……っていう、これまた「できれば人生で絶対に味わいたくない」くだり。要は、被害者側と責任者側、両方の視点で、事故を最初に知る瞬間までを順に描いていく、というこの発端部、一幕目。このインパクトが何しろ強烈で。ここのもう、胃にドスンと来る感じが、本当にすさまじい作品でした。ここだけでもう、見てよかった、というところだと思いますけどね。

たとえば、まずそのローマン(シュワルツェネッガー)側の視点。ある意味、幸せの絶頂なわけですよ。もう人生の総決算というかね。幸せな家族を築いて、しかも娘が孫を身籠って。そしてクリスマスの休日を一緒に過ごす、というその幸せの絶頂の最中。空港の駐車場に、もうニッコニコで車を停めて、ターミナルに歩いて向かおうとするその時。もう夜なんですけど、その時に一瞬、カメラが意味ありげに管制塔の方を向く。当然そこには、おそらくまさに「やらかしちまった」前後のジェイコブがそこにはいるであろうことが事後的に分かるんですけども。とにかくこの、ターミナルに行くシュワルツェネッガーを後ろから捉えたカメラが、一瞬、その管制塔側にパンするこの不吉さ。言葉にならないカメラワークの不吉さ。

そして、そういう感じで、ちょっとずつちょっとずつ、「あれ? なんか……あれ、なんか起きた?」って。ただならぬことが起ったことが少しずつ、なんとなく浮かび上がってくる。でも、表面上は冷静を装いつつ……なんですよね。これがまた辛いんですよ。だって、「別室にいらしてください」って、これはもう普通じゃないじゃないですか。でも、シュワルツェネッガーはたぶん「何かが起こった」ということは無意識に否定したいから、「いや、もうね、書類とか不備はないはずだしね」とかね、「いや、何時に着くんだい?」なんて。もう絶対にそんなわけがないのに。これがまた、痛ましい感じで積み重なっていく。

そして、ついにその、何が起こったのかをローマンが知らされる、その瞬間ですね。この作品の作り手たち、非常にここが上手いなと思ったのは、遺族として当然「うわーっ!」となる。慟哭のその場面を、文字通り、ある「間接的な」方法で見せる、聞かせるわけです。それによって、このシーンに限らずなんだけど、紋切り型ではないというか。より切実で重大な、要するに「当事者ではない我々が容易には想像することもできないような悲しみ、ショックなんだ」っていうのを、非常に上手く表現してるなと思いました。要するに、そこで泣いて「うわーっ!」ってなったりするって、当然それだっていいんだけど、そういう我々が想像できるものじゃないリアクションというか、見せ方をとっていて、非常に演出として上手いな、と思いましたし。

さらにこれね、展開として驚くべきことに、妻と娘と生まれてくる孫を一度に失ったというその現実を、そう簡単には受け入れられない……これもわかりますよね。「死んじゃいました」なんて言われても、正直ピンと来ないしね。そこでそのローマン(シュワルツェネッガー)はなんと、事故現場の整理のボランティアに紛れ込んで、自ら妻と娘の遺品と、その遺体を探し出そうとする。そして、実際に探し出してしまう。ここの見せ方も、要は悪趣味な見世物的になってしまわないように、非常に上手く抑制は効かせているけど、でもやっぱり、強烈ですよね。ネックレスを見つけて、「ナディア、ナディア……」って言ったところで、木にこうやってカメラがフッと向くと、木のところにね。「はっ!」って見えるというですね。これだけでももう、胸が張り裂けそうになる展開なわけですけども。当然、被害者側の方は。

一方の、この事故の責任者である管制官のジェイコブのエピソードも、また全く違った意味で、本当に胃がちぎれそうになるような辛さにあふれているわけですね。これね、もともとは本当に、ユーモアあふれる愛妻家であり、よき父であり、まあ要は本当に、普通の善人なわけですよ、この人ね。「俺は悪い人間じゃない!」って言いますけども。その夜も、いつものように仕事をこなしているつもりだった。ただ、たとえば本当は航空管制を、2人でやるべきところを、1人でやっている。これは、慣習化していたことではあるらしいんですが……なので、彼1人の責任ではない。とはいえ、規則違反ではある、ようなことがあった。

で、しかもそこに、非常に間の悪い形で、電話回線の工事が入ってくる。「5分だけつながりにくくなります」なんてことを言う。もう事の顛末を知っている我々は、「おーい! そんなもん、フライトが最終便だって言っているんだから、それが終わってからやれよ!」って思うんだけど。その時に、電話工事の業者の、担当の男の顔が、影で顔が見えないんですよね。で、「5分だけつながりにくくなる」なんてことを言うのを見るにつけて、我々は、「ああ、つまり何があっても、この後にこいつらは責任は取らないな」と……要するに、匿名感が見えてきて。「ああ、これは絶対にいいことにはならないやつだ……」っていう。で、そいつらが工事の作業が終わって、去っていく。

で、とにかく諸々……他にも、すごーく嫌な予感が重なっていく。諸々のボタンのかけ違いが重なっていく。パイロットの片側が、ちょっと誤解、手順違いをしたとか。実際のあれ(事故の顛末について書かれた記事など)も見るとわかるんですけども。ということで、かならずしもこの管制官ジェイコブ1人に責任を帰すべきではない、諸々のボタンのかけ違いが重なって、ついに考え得る限り最悪の事態が起こるんだけど、その管制室の中では、「事故が起こりました」というのは、単に信号が消えただけ、というね。ずっと鳴っていた音楽とか、いろんな音が、フッと消えただけ。起こったことは飛行機の空中衝突という、考え得る限り最悪の事態なのに、この場(管制室内)では(それが具体的な情報としては伝わってないこないので)「えっ、えっえっ、まさか……えっ?」っていう感じ。これがまた、「うわあ……」っていう感じですし。その後に何が起こったのかを改めて……「はい、ちょっとそこに座りなさい。えー、こういうことがありまして」って聞いた時の、もう、「背負いきれない……」っていうあの感じね。本当に辛いですよね。

これ、実際に自分個人では背負いきれないほどの何か大ごとをしでかしてしまった、その責任を背負った時に、彼のように……結局、彼はやっぱり、自分の罪というものに向き合いきれていなかった、ということは事実かもしれないけど。でもね、向き合いきれます? 270人が死んだ責任を、1人で……つまり、背負いきれない責任っていうのを1人で負った時に、もちろん猛烈な良心の呵責というのは感じつつも……やむにやまれずですよ、人間として、一種逃避的な態度を取ってしまう。内にこもるだけになってしまう、ってこれ、我々だってきっと、そうなるかもしれないじゃないですか。彼のこと、全然責められない。人間的な反応だっていう風にやっぱり思うんですよ。

だから、彼がそうやって内にこもったり、自己防衛的な発言をするたびに、僕はむしろちょっと、泣けてきちゃって。「かわいそうに」っていうか。でも、それ自体がまた、ある重大な悲劇をさらに引き起こす、決定的なボタンのかけ違いの元にもなってしまったりとか。「ああ、人間っていうのはなんて……」っていうことですね。ということで、事故をきっかけに人生を完全に破壊されてしまった2人の男、それぞれのその後……まあ、救済どころか、一時はそれぞれ自殺寸前まで追い込まれてしまうまでを、第二幕ではジリジリジリジリと描いていくわけです。

ここ、何と言ってもキツいのは、シュワルツェネッガー、遺族側のお父さんに補償案を提示する、航空会社と弁護士たちとのやり取りのシーンですね。ここ、弁護士が「こういう素晴らしい補償案を考えてます」って、テーブルの向こうからポーンって(書類を)投げてよこすとか……あともう1人の(弁護士役の)方の感じ悪さ! 「謝ったら負け」文化なのかもしれないけど……これね、見ていて結構な人が思ったと思うけど、「おい、ローマン! 仕返しするならこいつらだったろ!?」ってね。思いましたけどね。でもまあとにかくローマンが、どんどん怒りの方向に追い込まれていっちゃうのも、ごもっともだし。と同時に、ジェイコブの、さっきから言っているように保身で必死、っていう人間的な弱さも、僕は一概には責められない。なにしろ、「彼1人の責任だって言えるんですか、これ?」っていうね。本当は彼1人が負うようなことでもないし。ある意味、スケープゴートのようなところもあるわけで。

ということで、たとえばローマンと(ジェイコブが)出会ってしまうその瞬間も、あのタイミングでなければ、もうちょっとジェイコブ側に心の準備が出来ている時であれば、違ったのかもしれないのに……よりによってこのタイミング。でも、じゃあなんでローマンはよりによってあのタイミングに来たかといえば、ローマンはローマンで、「ああ、やっぱりやめようかな」って、いったんホテルに戻って悩んで……つまり、彼も人間的に迷っていたがゆえのこのタイミング、とかさ。まあ、考えれば考えれるほど、どっちも責めきれない。でも、どっちも間違っているし……っていうね。

ちなみにシュワルツェネッガー、家族とか妻子を殺されて復讐する、という役柄を、いままでも結構多く演じてきているわけです。『コラテラル・ダメージ』もそうですし、『サボタージュ』もそうですし。他にもあるかな? とにかく、それがいまこういう……なんて悲しい復讐劇なんだ、っていうか。そして、ねえ。なんて悲しい結末……あのシュワルツェネッガー、無敵の、世界中の誰でもひねり殺せた男シュワルツェネッガーが、こんな悲しい復讐を……っていう。だから、ある意味これは、シュワルツェネッガーにとっての『ランボー/最後の戦場』っていうか。自分がやってきた役柄に、キャリア後半になって……(それまでは)暴力的な役柄を演じてきたわけですよ。それに対してちょっとひとつ、キャリア的に、「落とし前をつける」作品選択でもあったのかな?っていう風に思ったりもします。そう考えてもグッと来るな、と思ったりします。


監督のエリオット・レスターさん、日本で見やすい映画だと、ジェイソン・ステイサム主演の『ブリッツ』っていう映画があって。でも、ジェイソン・ステイサム映画にしてはわりとリアル寄りというか……しかも、ジェイソン・ステイサム演じる主人公側にも実は、事件を引き起こす責任の一端がある話、っていう。要するに、加害者と被害者がグレーなまま二本線で進んでいく話、という意味では、通じるところがありますし。あと、実はこれ、いま見直すと、マーク・ライランスやらルーク・エヴァンスやら、めちゃめちゃ豪華なキャストなんですよね、『ブリッツ』。

という、過去にも非常に見応えがあるエンターテイメント作を撮ったエリオット・レスターさんですが。(今回の『アフターマス』では)上から見たショットが非常に……要するに、さっきから僕が言っているような、人間というものの理不尽さ、人生の理不尽を避けがたく、悲しみをどうしても背負ってしまうような存在である人間を、ある意味天から見つめるような、真上からのショットっていうのが、非常に何箇所も印象的に使われていたりして。「上手いな」というところがいっぱいある監督でした。まあ、四季の移り変わりを、桜とかさ、落ち葉、紅葉とかそういうののモンタージュで見せる……とかは、いくらなんでも垢抜けなさすぎだろ?って思ったりもしたけど。

あとまあ、これは脚本段階の問題ですけども、ラストで、もうひと捻りね、もうひと着地、ほしいですけどね。そしたら、着地次第では、結構名作にもなり得たのになっていう。若干ちょっとたしかに、「ううん……もうひと声!」っていう感じはある作品ではあるんだけど。ただまあ、十分ズシンと来る良作でございました。なんか、みんなが一斉に見るような映画を見るのもいいけど、やっぱりこういう、意外な拾い物みたいなのも、このコーナーではちゃんと見ていきたいな、というふうに改めて思いました。だから、ガチャは無駄じゃなかったんだよ! あのガチャは、無駄じゃなかった! ということを心から……(笑)。でも本当に見てよかったと思える一本です。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『僕のワンダフル・ライフ』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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