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スライムをボコボコにする勇者は本当に正義なのか? 山本さほが“ラブデリック系”作品『moon』を語る

ライムスター宇多丸とマイゲーム・マイライフ

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■何も悪いことしてないスライムをボコボコにするRPGの世界の勇者

「マイゲーム・マイライフ」の今までのゲストの中でもおそらく最もゲーマーである漫画家の山本さほさんが、先日の放送で「マイベストゲーム」を紹介。そのゲームが非常に興味深いものでした。

山本「一番(好きなゲーム)はラブデリックという会社が作っている『moon』というRPGですね」

宇多丸「どういうゲームなんでしょうか?」

山本「これはですね、当時『moon』が出た頃って、ドラクエ、FFとかの王道RPGがいっぱい出ていて、みんながみんな自分が勇者になって魔王倒すぞという時代だったんですね。そこにポッと出てきた『moon』というゲームは、RPGをしている少年をプレイする自分という、なんというんですかね……」

宇多丸「ちょっとメタ的な?」

山本「そう、メタの世界で。例えば、(『moon』の世界の中のRPGの)勇者にはその世界が魔王のいる悪い世界に見えていて、野良犬とかを『モンスターだ!』ってボコボコにしているんです」

普段、自分がRPGの中で当たり前にやっていることに警鐘を鳴らす、皮肉のきいたゲームのようです。これはめちゃくちゃ面白そう……!

宇多丸「あー、要は現実世界が多層というか、パラレルワールドのように重なっていて、そっちから見るとこっちは現実世界が悪く見えているんですね」

山本「そうですね。主人公として、この勇者の後ろを追っていくんですね。そうすると、何もしてないのにボコボコにされた犬とかがいて、かわいそうじゃないですか。で、私たちは一方、ほかのいわゆる王道RPGでは、何もしていないスライムをボコボコにしているわけですよ」

宇多丸「確かに、そこらへんにいるからって」

山本「いた! 経験値だー! って言ってボコボコにしているじゃないですか。それって本当に正しいのかな? ラブはそこにあるのか? と問いかけてくるゲームなんですよね」

宇多丸「へー。じゃあある意味、当時流行っていたRPG批評というか」

山本「そうですね。アンチRPGというか、ちょっと違う角度から切り込んだっていう、不思議なゲームで」

『moon』のほかにも、ラブデリックでは一風変わったゲームをたくさん出しているのだとか。ラブデリックが会社として作ったゲームや、元ラブデリックのスタッフが関わっているゲームは「ラブデリック系」と呼ばれ、山本さんが「『moon』好きです」というと「ラブデリック系好きです」と反応が来るようなカルト的なファンがいるようです。

今でこそRPGの世界の“常識”にツッコミを入れるような発想で作られたゲームは珍しくなく、スマホの無料ゲームでもこの手のものはよく見かけます。ですが、王道RPGが大流行した頃、誰もが当たり前のように16歳の誕生日に突然勇者として旅立ち、すぐに逃げるメタルスライムを追いかけ回して何体も倒し、人様の家のタンスを勝手に漁り、小さなメダルをくすねる――『moon』はこの奇妙さに一石を投じた最初の作品なのかもしれません。今まで、数多くのゲストがこの番組でイチオシゲームを紹介してきましたが、その中でも私個人的には最も面白そうと感じた作品でした。Amazonで調べてみたところ、なんと2017年や2016年の日付で絶賛のレビューが新しく書き込まれています。20年も前の、1997年にプレステのソフトとして発売されたにも関わらずです。今でもこのゲームの良さを語りたい熱狂的なファンがいることがよくわかります。こんな隠れた名作を知らなかったとは、イチゲーマーとして恥じる思いです。

宇多丸「小学校のときのドッヂボールで、僕逃げることしかできないんですよ、基本的には。取るのも苦手、投げるのも苦手だから。避けるのはそこそこ上手いんですけど。俺が序盤で(ボールに)当たっちゃったら、何の役にも立たないわけですよ。みんなから、はい役立たずーって。あの感じをね、思い出して。つらい気持ちに……」

このあと山本さんは、役立たずだったプレイヤーに対して、お叱りのメッセージを送ってくるオンラインゲームユーザーの存在について語っていました。オンラインではよくあること、というさらりとした口ぶりでしたが、そんな恐ろしい文化があるとは……。「とはいえ、初心者ならゲームスキルがなくても皆さんたいていは察してくれますよ」と山本さんに励まされる宇多丸さんでしたが、以前からしばしば「ゲームしているのに知らない人にボコボコにされたくないの! アホなAIを僕がボコボコにしたいの!」と吹聴している宇多丸さんのことです。そんな恐ろしい話を聞いてしまっては、その後「オーバーウォッチ」は続けていないんじゃないかと内心思っております……。

マイゲーム・マイライフ

■今回のピックアップ・フレーズ

山本「私は生涯ゲーマーなので」

宇多丸「年間1000時間。(これから50年生きるとして)あと5万時間か(笑)」

山本「だから私、おばあちゃんになって老人ホームに入って、ほかのおばあちゃんはやることないのに、私にはゲームがあるから、完全に一人勝ちだなって」

宇多丸「勝ち組(笑)」

山本「ほかのおばあちゃんがやることなくて、ボーっとしているときに、私はゲーム楽しめるんで」

文/朝井麻由美(ライター、コラムニスト)

 

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