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【映画評書き起こし】宇多丸、『SING/シング』を語る!(2017.3.25放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

20170325_08

宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーです。今週扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『SING/シング』

(BGM:曲が流れる)

『ミニオンズ』『ペット』等を手がけるイルミネーション・エンターテイメントの最新長編アニメーション。倒産寸前の劇場が再起をかけたオーディションを開催。そこにそれぞれの人生の鬱屈を抱えた登場人物……ならぬ登場動物たちがやってきて、歌と思いをぶつけていく。マシュー・マコノヒー、リース・ウィザースプーン、スカーレット・ヨハンソンら豪華キャストが声優として歌も披露しているという。監督と脚本は『銀河ヒッチハイク・ガイド』とか『リトル・ランボーズ』とかのガース・ジェニングスさんということでございます。

ということで、もうこの映画を見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、普通。ああ、そうですか。公開規模とかね、結構大きいと思いますけども。そしてみなさんの感想は、賛否両論。「良かった」という人が4割。残り4割が「いいところもあるけど、乗れないところもあった」という人。残り2割程度の人が「ダメだった」という人でした。「歌のパフォーマンスが圧巻」「ラストでは号泣です」「日本語の吹き替えも良かった」と絶賛の声が並ぶ反面、何人か「登場人物たちの行動が不愉快で乗れない」「話も単純で深みがない」など厳しい感想もありました。ということで、代表的なところをご紹介しましょう。

ラジオネーム「切れ目はない」さん。「宇多丸師匠、タマフルクルーのみなさん、こんばんは。『SING/シング』、吹き替え版をウォッチしてきました。個人的には暫定ベストです。やられました。正直言ってナメてました。私にとってナーメテーター案件です。まさかトレンディエンジェル斎藤司さんに泣かされるとは。キャラクターたちは人(動物)として決して正しくはない。むしろ間違っているぐらいですが、だからこそ、内側からこみ上げる衝動をなんとしても発露したい。自分を自分として認めてほしいという原初的な欲求は誰であっても尊重されるべきだという熱いメッセージにつながっていますし、それに見事に打ちのめされました。全編テンポよく笑わせつつ、要所で泣かせにかかり、クライマックスで一気に盛り上がる隙のなさは圧巻です。特に、ゴリラのジョニーのエピソードでは毎回泣かされました。ラストでミーナが歌うシーンでは、(吹き替えを)演じるMISIAさんの圧倒的歌唱力も相まって体の震えが止まりませんでした」。日本ではあの役、たぶんMISIAさん以外では無理でしょうね。「……本職以外での芸能人がアニメ映画の声優をするのはどうなのか? という話が吹き替えには毎度つきまといますが、今回の『SING/シング』に関しては大成功です。演じている芸能人の顔が浮かばない好演ぶりには頭が下がります。さらに吹き替え版での字幕も効果的だったので、映画としてもアニメ洋画の吹き替え版作品としてもかなりの大傑作ではないでしょうか」という意見でございました。

一方、ダメだったという方。「ヒヤマ」さん。「今回、はじめて感想メールを送らせていただきます。『SING/シング』を見た感想ですが、結論から言うと酷評です。理由は、まず主人公がひたすら周りから甘やかされ続けて自分は何の努力もしていない。むしろ周囲には迷惑をかけ続けているのに、なんか知らないけど最終的には上手く行っているからです。また、出演者たちも何の努力もないのに成功しますよね。それはつまり、もともと才能がある者は努力をしなくてもいいし、悪いことをしても才能があるから問題がないっしょ?っていう結論になると思うのですが……」。まあ、特にネズミのキャラクターが引っかかっているんでしょうね。「……でも、ネットで今作の評価を見るとめちゃめちゃ高いので、僕の感覚がおかしいのかもしれませんね。ただ、ラストのショーのシーンはたしかによかったです」ということでございます。ヒヤマさん、ありがとうございます。

さあ、ということで『SING/シング』、私も各形態というか、バルト9で2D字幕、T・ジョイPRINCE品川で2D吹き替えとIMAX3D字幕で見てまいりました。3DはIMAXでしかやっていなかったので3回、見てまいりました。後ほど言いますが、私も、この吹き替え版が、オリジナルと比較しても全く遜色ないくらいの、ものすごく丁寧に作られた吹き替え版で、もう本当にめちゃくちゃ感心しました。これ、後ほどお話しますが。ということで『SING/シング』ね、当コーナー初のイルミネーション・エンターテイメント製3DCGアニメということですね。まあ、代表作はもちろん、ミニオンでおなじみ『怪盗グルー』シリーズ。最近も、ガチャには当たらなかったけど『ペット』とかありましたけども。

で、先週ガチャを回すくだりで、「『哭声/コクソン』当たってくれ!」なんつってね、2回ガチャを回して。2万を払って。で、最後にコロンとこれ、『SING/シング』が出て、「もう『SING/シング』でいいです……」っていうね、『アシュラ』の中のクァク・ドウォンさんよろしく、私の心がポッキリと折れる瞬間が(笑)あったと思います。なのでちょっとね、「もう『SING/シング』でいいです……」みたいな感じで、失礼なピックアップの仕方をしてしまったのですが……結論から言えば、私もこっちです。完全にナーメテーター! ものすごく楽しい上に、最終的には結構な勢いで泣かされてもしまう、大変見事な音楽群像劇だと思います。特に群像劇として大変よくできていると思います。見て本当によかったなと思います。

僕的には本当に……少なくともイルミネーション・エンターテイメント作品としては、明らかに最高傑作じゃないかなという風に思います。とにかく、これまでのイルミネーション作品は、特にやっぱり『怪盗グルー』シリーズに顕著なように、基本スラップスティックに徹しているというか。それはそれで全然いいんですけど、基本、軽いスラップスティックに徹してきたイルミネーションの中では……今回の『SING/シング』は、ちょっとだけモードが違うというか。ちょっとだけ大人向けというか、ドラマ的な厚みが、割りとしっかりある作りだと思います。というのも、脚本・監督に、このイルミネーション作品としてははじめて、実写映画の監督を呼んできている。

これ、実写映画の監督を呼んできて、あえて3DCGを作らせるという話で言うと、昨年、2016年11月19日にこのコーナーで取り上げた、ワーナーアニメーショングループ(WAG)の『コウノトリ大作戦!』。あれなんかも、ニコラス・ストーラーさんという実写大人向けコメディーで知られている監督を起用して。で、要は実写監督とアニメ畑監督の共同監督でやるという、このシフトでしたよね。なので、ひょっとすると最近の3DCGアニメのひとつの潮流と言えるのかもしれないな、という風には思うんですけどね。とにかく、イルミネーション社初の実写映画出身の監督として、今回起用されたのがガース・ジェニングスさんという方。プラス、アニメ畑の専門家ということでクリストフ・ロードゥレさんという方が共同監督をしている。イルミネーションは制作部はフランス・パリに本拠があるのでね。フランス系の人が多くて。はい。

で、ガース・ジェニングスさん。この方、キャリアがなかなか面白くて。ミュージックビデオをたくさん撮っている人なんですけども、結構、一流アーティストの。ただ映画だと、実は2本しかない。まず2005年の『銀河ヒッチハイク・ガイド』。SFの非常に有名な小説の映画化でございまして。で、あれは何しろあのオープニングですよね。「さようなら。いままで魚をありがとう」ってイルカが言うメッセージを、ミュージカル的に仕立て上げたあのオープニングがもう、最高ですね! 「もう、5億点! サイコーッ!」っていう『銀河ヒッチハイク・ガイド』。僕も大好きな作品ですけども。

とか、次が作品的評価、これ非常に高かったです。2007年の『リトル・ランボーズ』という映画。要は、こんな話。80年代にシルベスタ・スタローンの『ランボー』を見て感化された孤独な少年……違う意味で孤独な少年2人が、自分たちでもビデオカメラで『ランボー』風の、拙いんだけど、映画を作り始め、やがてそれに周囲のいろんな人も関わっていくことになってっていう、まあちょっとだけまた群像劇的でもあったりして。とか、80’sの音楽が様々、上手い形で出てきたりして。で、最終的にはそれぞれに、実生活では抑圧されていた部分を、映画を作るという、表現という形で解放して、ささやかな自己実現を果たしていくという。これは監督自身の本当に自伝的内容らしくて、DVDに特典映像として入っている『Aron』っていう(監督自身が少年時代に作った)短編があって、これがもう完全に劇中で主人公たちが作るような拙いアクションビデオっていうかね。という感じだったりするんですけど。


で、とにかくこの『リトル・ランボーズ』を気に入ったイルミネーション・エンターテイメント創設者にしてCEOのクリス・メレダンドリさんが、今回のこの『SING/シング』のアイデアを、このガース・ジェニングスさんに託そうという風に考えたというのも、なるほどなというぐらい、たしかに『リトル・ランボーズ』は、今回の『SING/シング』にすごく通じる要素が、いまから振り返ると非常に多い映画だったなという風に思います。ただ、なんでかよくわかんないんだけど、その2007年の『リトル・ランボーズ』、非常に高く評価されたのに、そこから今回の本作『SING/シング』まで……『SING/シング』のアメリカ公開は去年の暮れですから、どっちにしてもこの約10年間、ガース・ジェニングスさんは、少なくとも劇場用長編映画は1本も撮っていないというね。10年間ブランクがあった。

で、これは完全にただの僕の想像ですけど。今回の『SING/シング』の登場人物というか「登場動物」たちがそれぞれに抱えるね、要はなかなか思うように表現することができない、表現できる場がない。そうこうするうち、そういう状態が続くうちに、なんだか自信もなくなってきて、「もう諦めるべきなのかな?」っていうところまで思うこともある、みたいな感じは、結構この、ガース・ジェニングスさん本人のこの10年間の悶々、映画が撮れないっていう忸怩たる思い、それが結構投影されてたり、しないかな?……っていうのは、個人的な想像ですけどね。まあ、ご自分で今回、脚本も書かれているので。

ということで出来上がった『SING/シング』なんですけど、まあ非常に身も蓋もないざっくりとした説明の仕方をしてしまえば、まあテレビドラマの『glee/グリー』に、井筒和幸監督のあの大傑作『のど自慢』のようなエッセンスを足した話を、『ズートピア』的な動物たちだけの街、というスタイルで描いたというね、非常に身も蓋もない要約の仕方をすれば、そういうことですね。様々なジャンルの、新旧のポップミュージックと、ちょっとだけオペラが、まあパンフレットに載っているだけで64曲。まあ60曲以上ブチ込まれていて。歌詞の内容込みで登場人物たちの心情を代弁していくという、ここはすごい『glee/グリー』的な感じですし。

で、並行して語られてきた複数のキャラクター。今回で言うと6人っていうか、6匹分のキャラクターのストーリーが……この『SING/シング』だとクライマックスのステージ、その一点に向けて……複数のストーリーが一点に収斂されていくという、いわゆる大団円構成。まあ、群像劇として非常に王道的な作りだと思うんですけど、構成として。僕、とにかくもうこの、複数の線が1個にまとまって……っていうこの大団円構成だけで、「そんなのもう、大抵泣かされるでしょ、それは」っていう感じがすでにしてきちゃう。僕なんかはそうなんですけども。

まずその、それぞれのキャラクターたちのドラマ、その語り口が、とてもスマートなのに僕、すごい感心しました。たとえばオープニングの方でね、それぞれのキャラクター紹介をしていくところで、たとえばブタの主婦ロジータ。これ、リース・ウィザースプーンが声をやっていますけども。子育て、家事に追われる毎日の中で、「自分」っていうのが埋没しつつあるということに、ちょっとモヤッとしているんだなとか。あるいは、ゴリラの青年ジョニーは、マッチョで強面の父親の前で、歌が好きな繊細な自分みたいな……マッチョな家庭で育っているから、繊細な「自分」っていうのを出せずにいるんだなとか。あとは、ボーイフレンドのことが好きすぎて、やはり「自分」を殺して付き合おうとしているヤマアラシの少女のアッシュであるとか。

とにかく、全部言っているとキリがないんだけど、諸々のいま僕が言ったようなキャラクター設定・心情……『SING/シング』を見た人だったら「ああ、そうそう。そういう感じだよね」ってわかると思うんですけど、実は、全く具体的なセリフで説明はされていないんですね、いま言ったようなことって。最小限の、的確な描写をポンポンッて置くだけで、あたかも言葉で説明されたかのように、完璧にその設定とか情報が「入ってくる」っていう感じになっている、とかね。そのあたり、語り口の手際が非常に上手い、上質だなと思いますし。

あと、たとえば一応の今回の主人公、劇場支配人。コアラのバスター・ムーンっていう男がいますね。まあ、こいつはどうしようもないやつなんですが(笑)、彼が舞台上で、三日月の舞台装置を結構好んで使うというくだりが、何度か出てきますよね? 三日月のセットが上がったり下がったりするという、それが何度か出てくる。なんだけど、見た方ならわかると思うんですけど、そもそもオープニングで、子供時代の彼が劇場というものにはじめて魅せられたその瞬間。大歌手のヒツジのナナ・ヌードルマンというキャラクター――(歌う場面では)ジェニファー・ハドソンが歌っていますけども――が、ビートルズの『Golden Slumbers』をオペラ風に歌っていると。その時の、ナナの後ろにある舞台装置の月は、実は満月。

で、クライマックス……本当にクライマックス中のクライマックス。あるキャラクターが歌っている最中。その歌の中でもいちばんの頂点のところで、ドーン!って、とあることが起こって、劇場裏の本物の月が見える、っていうくだりがあるんですけども。そこもまた、満月になっているわけです。つまり、子供の時に魅せられた瞬間の満月。でも、その間の(自ら劇場支配人を務めるようになった)バスター・ムーンの世界は、三日月なわけですよ。で、それが最後、また満月になる。つまり、ずっと何かが欠けた状態……まあ、実際にこの(バスター・ムーンという)人は、人としてかなり欠けた人なんだけど、その欠けた状態だったバスター・ムーンさん、およびムーン劇場が、ついに理想の状態を取り戻したというか、ついに満たされた状態に……満月の、最初の理想の、夢に見た状態になった、っていうことを、図像的にも、言葉じゃなく、それとなく――(登場人物がいちいち)「あっ、満月だ!」なんて言わないですよね(笑)――伝えているということで。こういう細部まで、実はね、すごいさり気なく丁寧なのが、全編に貫かれているということだと思います。

で、こういうね、まさに本当に「腕がある」作り手たちだからこその領域だと僕は思うんだけど、この『SING/シング』は、全体に感動の質がちょっと重層的というか、「泣き笑い」な感じなんですよ、全体に。シーンとしてははっきりギャグっぽいシーンのはずなのに、なぜか「泣き」の感情も相当成分入っているとか。逆に、泣かせるはずの場面にも、ちゃんとバカバカしい要素が同時に入っていたり。つまり、伝えようとする、伝わってくる感情が、重層的で厚みがある。その分、大人だということだと思うんですけど。

たとえばね、これは見た人誰もが思い出す名シーンでしょうね。さっき言ったブタの主婦ロジータが、「やっぱり私には無理。普通の主婦に戻ります」って(悲観して劇場を去り)、閉店間際のスーパーでポツーンとつまんなそうに買い物をしていると……っていうあのシーン。かかる曲はジプシーキングスだし、非常に陽気でコミカルな場面のはずですよね。こう、ついつい踊りだしちゃう、っていう。でもその、要は、ロジータの誰にも知られることがない秘めた情熱……でも、実は1人だけそれを知っているっていうか、見ている。しかもその、1人だけ見ていたやつの最後のセリフにまた、笑い泣きさせられる……のも含めて、その秘めた情熱がついつい表に出てしまったっていう、その様の切実さにやっぱり、つい涙も出てしまうし、とかですね。

その方向で最高の名シーンで言えばやはり、もう僕はこのシーンだけでこの映画、最高!って思いますけども、「洗車」シーン(笑)。具体的にはもう言いません。ぜひ、みなさんの目でたしかめてください。とにかくやっていること自体は、バカバカしいにも程がある、しょうもない大爆笑シーンなんですね。そこで流れる『トゥーランドット』っていうオペラが、大げさな感じ込みで、まあすごくバカバカしい場面なんですけども。と、同時に、バカバカしい。大爆笑しているはずなのに、人生のどん底で、それでも腐らず、「もうどんな恥ずかしい姿になっても、俺はやってやるよ!」、そしてそれを「手伝ってやるよ!」っていう、あいつらの心意気に、やっぱり大笑いしながら、ちょっと涙がポロッと出ちゃうっていうね。そういう風に、なんか重層的なんですよね。伝わってくる感情が。

そういう意味でやっぱりすごく、大人な要素を含んだ作品だなという風に思いました。いまね、『トゥーランドット』の感じが(伝わってくる)感情を倍増させて……なんてことを言いましたけど、やっぱり今回の『SING/シング』の最大の魅力は、曲・歌の素晴らしさですね。もともとね、イルミネーション・エンターテイメントは、選曲センスがすごくいいみたいなのは定評があって。たとえば、前作にあたる『ペット』で、『ペット』自体は『トイ・ストーリー』の1、2、3を合わせたような感じの映画なんだけど(笑)、最後の最後で、ビル・ウィザースの『Lovely Day』っていう曲が流れて、とあるモンタージュシーンが来るんですよ。で、やっぱり抵抗不能で泣いちゃう……っていう場面があったりして。もともとそういう風に、音楽の使い方が上手い会社ではあるんですけど。

まぁ、既存の名曲を使っているんだから、それはいいに決まっているんで、ある意味、曲のパワーを借りまくっているとも言えるから、ある種ズルいとも言えるんだけど(笑)。いい言い方をすれば、音楽の力を信じて、そこに託しているわけですけど、やっぱり選曲とか配し方が絶妙で……それこそクライマックスのステージ。全部で5曲分のステージを見せるわけですね。クライマックス。それがまたね、段階的にエモーションを高めていく、見事な構成になっていて……とかね。あと、歌っているところで別の事態が同時に進行している。それによってまたさらに、シーン全体のテンションがどんどんどんどん高まっていくというね。カットバックで、「その頃こっちではこれが起こっていて、同時にこいつがこっちに駆けつけていて……」ってところで、もうグイグイ盛り上げていく感じ。まさに群像劇の醍醐味だと思うんだけど。

たとえばですね、ここでネズミのマイクが歌う『My Way』っていうね。みなさんご存知、フランク・シナトラでおなじみの曲がありますよね。このマイク、さっきメールでも怒っている方がいたように、もう最低キャラなんですよ。もう本当に、許せねえ!っていう最低キャラなんですね。で、(本作では)無理に「成長」もさせないというか。最後にちょっといいやつになったりもさせない、っていうのはこれ、ガース・ジェニングスさんが「イルミネーションがそういうことを要求してこなくてよかった」って言うぐらい、意図的にそういう(バランスにしている)……でも、そういう成長もしない、我が道を行く、唯我独尊な最低キャラが歌うからこそ、この『My Way』っていうのが、「ああ、こいつはこいつで……ちゃんと修練を積んでここまでのスキルを手に入れてるわけだし、こいつはこいつで立派だし、かっこいいぜ!」って、不思議に感動的に響いてくるというあたり、見事な曲の選択だと思いますね。

とかですね、トリを飾る内気なゾウのミーナっていうのがいて。これはトリー・ケリーがね、若き天才歌手が、もうめちゃめちゃなスキルで(クライマックスの歌のシーンを)やるわけですけども……このミーナが歌い出す手前で、一応主人公のコアラのバスター・ムーンが一言いう言葉が、この映画自体のタイトルであるっていうあたりとかも素敵ですね……で、ついにその彼女、内気なゾウが、圧倒的な歌唱力を発揮するのか?っていうその場面。そこでね、彼女が歌いだした時に僕、見ていて、「おい、その曲で来たか~! それはズルいぞ~!」って(笑)。今日は流しませんけど。あえて伏せておきますけど。「そんな曲で来たら、これは泣くに決まっているだろ~!」っていう、素晴らしい選曲と配し方じゃないでしょうか。

で、ラストにまたオープニングと同じ、ジェニファー・ハドソンが歌う『Golden Slumbers』のオペラ風に乗せて、「夢が再び現実になる」っていうのをワーッと見せられるとですね、やっぱりこれ、ここまで来ると涙腺が僕は決壊しまくりでしたね。もう、結構だから、グイッと力技で泣かされるようなところがありますけどね。ちょっと時間もないんで大急ぎで行きますけども、吹き替え版が本当に素晴らしくて。実はこの吹き替え版の音楽プロデューサーは、蔦谷好位置さんっていう、日本を代表する名ポップミュージックプロデューサーですね。あと、吹き替え版の演出の方は三間雅文さんという、非常にアニメの音響演出では有名な方。で、このお二方の対談記事が『音楽ナタリー』に載っていて、これがめちゃめちゃ読み応えがあるんでぜひ、これを読んでいただきたいんですけど。

で、この『SING/シング』、なにがすごいって思うかと言うと、ちゃんと歌も日本語詞に置き換えていて。それも、たとえばディズニーのいろんな曲を、それこそ「Let It Go」を「ありのままで」って置き換えるのも、それも大した仕事ですけども、今回の『SING/シング』は、既存のポップミュージックをさらに日本語詞にしなきゃいけないわけで……しかもそれを、ギャグっぽくなく、やらなきゃいけないわけじゃん、「王様」みたいな感じじゃなくてさ。だから、すごく難しいことをやっているんですけど、これはなんと作詞、いしわたり淳治さん。さすがですね。意味もしっかり通して、音楽的にもちゃんと成立させて。で、アメリカ側のスタッフとも相当やりとりしながら作ったというこの『音楽ナタリー』のインタビュー、すごい面白いんで。ぜひ読んでいただきたい。

「テイラー・スウィフトの曲だけは訳詞が許されなかったんだけども……」っていうくだりとかもめちゃめちゃ面白いですね。そこで、せめて実際に本人が歌おうということで、たとえばトレンディエンジェルの斎藤さん……あのね、トレンディエンジェル斎藤さん、ブタのグンターっていう役なんですけど、めちゃめちゃハマっているんですよ。1ヶ所だけね、「グンターさんだぞ?」みたいなの(わかりやすい持ちネタ)が出るんだけど、それも全然キャラと合っているし。歌も完璧にちゃんとやっているし。素晴らしかったです。はい。とかですね、あと、山寺宏一さんが、さっき言ったマイクっていう役で、『My Way』を歌っているんですよ。もう、登場人物の中でいちばん歌が上手い役っていうことだし、『My Way』だし……。

(山寺宏一版『My Way』が流れる)

でもやっぱり、山寺さんの『My Way』が、まためちゃめちゃいいんですよね。さっきから何度も言っている『音楽ナタリー』の記事で、その山寺さんをめぐるエピソードとかも、もうね、やまちゃんの声優としての天才ぶりに背筋が凍る!っていうね。「怖いわ、やまちゃん!」っていう、素晴らしいエピソードがいっぱいあったり。あと、これは忘れちゃいけない。ゴリラのジョニーをこの日本版で演じているのは、スキマスイッチの大橋卓弥くん。この番組、来ていただきましたよ。卓弥くん、ばっちりだね! やっぱりソウルフルなああいう歌とか、キャラとしても合っていますし。声優部分もばっちりでした。MISIAさんも素晴らしかったです。ちょっと内気な感じ……MISIAさんご本人もまあ、シャイなイメージもありますし。で、クライマックスでドーン!って歌うあの歌唱力はね、MISIAさん以外では絶対に無理だったと思いますしね。

とにかく、本当にこの吹き替え版はびっくりしました。こんなに丁寧に作っている吹き替え版も、なかなかないという風に思いました。世界的にも、この日本語バージョンのように……その国バージョンでここまで作り変えているのは、日本だけらしいですよ、これは。最後のクレジットもちゃんと、日本人の声優キャストのクレジットが最初に出ますからね。ということです。まあ、あえて言えば、ちょっと日本人には居心地が悪く感じられる描写がひとつ、あります。見ればわかりますが、ちょっと居心地が悪く感じるところはあります。ただこれもね、吹き替え版は(日本の観客の違和感がなんとか薄れるように)上手く処理していたなという風には思ったりしました。あとたしかに、バスター・ムーンっていう主人公が、結構ひどい嘘をついて、結構ひどいことを周りにしているのに、たしかに周りが、ちょっと優しすぎねえか?っていうのはちょっとありますけどね。気になるところがあるとしたら、それぐらいでしょうかね。

ただまあやっぱり、実は繊細で見事な演出の力と、そしてやっぱりね、曲のパワー。曲のパワーがもともと100あるとしたら、それを500ぐらいに見せる、ドラマの流れの配し方も含めて、僕は見事な作品だと思いましたね。本当に見てよかったです。これ、絶対に劇場で、大音響で見た方がいいと思いますんで。『SING/シング』、ぜひ。吹き替え版と字幕版を見比べるのも本当におすすめなぐらいでした。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『パッセンジャー』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

◆過去の宇多丸映画評書き起こしはこちらから!