トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2012年03月15日(木)
今朝は、書評家の岡崎武志さんにお薦めの本を紹介していただきました。


★鹿島茂さんは明治大学教授で、専門は十九世紀フランス文学。それだけ見ると、お硬いイメージですが、学術的論文からやわらかいエッセイまで、何でも書ける当代一の売れっ子の書き手です。
★この本は「オール讀物」という月刊誌に連載されたエッセイをまとめたもの。
★エッセイと言うと、身辺雑記が多いですが、鹿島さんは、オヤ?と思ったことを、その疑問をテーマに調べて、じつに意外な方向へ読者を連れていく。
★お遊びと学術的がうまく共存して、知的興奮をもたらす。そんな書き方をする。

★とにかく話題が豊富なのにはオドロキます。目次からタイトルを拾うと、「ひげは自然か文明か」、「イルカと名古屋城」、「モアイ像の巨大化競争」、「持参金ゼロ娘が結婚するには」、「本棚の並べ方ベスト1は?」などと並ぶ。思わず身を乗り出すテーマの立て方。

★たとえば「西インド・リンゴ」という文章がある。「インド・リンゴ」と聞いて懐かしいのは、50代以上の方でしょうか。懐かしいですねえ、昭和30年代、ありました。
★著者のことばを借りれば「昭和三十年代、突如という感じで、果物屋の店先に姿を現し」、「ある時期を境にバッタリと姿を消してしまった」。

★まず、インド・リンゴはデリシャスと掛け合わせて、王林という品種を産み、役目を終えて消えた。著者はそこで納得しない。「インド・リンゴ」は、あのアジアの「インド」ではなく、アメリカの「インディアナ州が原産」だと突き止める。さあ、そこから、「インド・リンゴ」の謎を追う知的な旅が始まります。
★明治の始め、アメリカの宣教師・ジョン・イングが青森に派遣され、そこで学問のほか、アメリカ産の野菜や果物を移植する。イングの故郷、インディアナ州は青森と気候が似ていた。つまり、「インド・リンゴ」の「インド」はアメリカの「インディアナ州」から来ている。

★さあ、それで満足せず、著者は、「インディアナ」という呼び方が、もともとコロンブスの新大陸の発見の際「インド」と勘違いしたことに由来し、そこから歴史の歪みが生じたことを論証していく。一つのリンゴからアメリカの歴史をおさらいすることに。

★上野公園に立つ西郷隆盛像の話もおもしろい。鹿島さんは、上野の西郷さんは「なぜ、あんなに粗末な格好をしているのだろうか?」と疑問を投げかける。あたり前と思ってるから不思議に思わなかったけど、言われてみれば、英雄らしからぬ格好です。

★なぜ、維新の英雄・西郷さんは、陸軍大将の制服ではなく、あんな粗衣粗食に甘んじる「清貧」の姿で銅像が作られたのか。
★制作した高村光雲も、はじめはちゃんと制服姿の立派な姿を作ろうとしていた。ところが上から横やりが入る。つまり西南戦争を起こした賊軍の大将が軍服を着ているのは「おだやかでない」と言うわけです。そして、西郷さんがあんな格好でいることで、大いに救われた人たちがいた。それは誰か? まあ、それは本を読んで頂きましょう。

★疑問に思うだけでなく、そこから考える糸口を見つけて、より深くものごとの核心を探っていく。読者は読むだけで、ちょっと頭の回転が早くなる。
★帯に「考えるレッスン」とありますが、たしかに「考える」ための練習になる本だと思いました。

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