トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2012年03月29日(木)
今朝は、書評家の岡崎武志さんにお薦めの本を紹介していただきました。


★今日は、今月出た新刊。タイトルは『ご家庭にあった本』。著者は、岡崎武志さん。私です。図々しいですが、最後の放送という事で...自分の本を書評しました。

★副題に「古本で見る昭和の生活」とあります。私は古本屋で転がっている安い本を買って、そこに何が書かれているか、ああでもないこうでもないと、調べたりするのが好きなんですが、この本は、その研究成果を集めた本です。
★だから取り上げた本は、かつてのベストセラーあり、実用書あり、古い「文藝春秋」あり、さまざまです。けっして古書として価値があるとか、稀少であるとかいう本はほとんどない。そんな本でも、ちゃんと読めば、書かれた時代背景が見えてくる。

★たとえば昭和32年に出た少女雑誌のふろくマンガに『アパートちゃん』というのがある。私が生まれた年に出た本ですから、もちろん知らなかった。
★ラジオドラマだったのをマンガ化したようです。小学校一年のみどりちゃんがアパートに住んでいる。近所の人気もので、周囲の人たちと巻き起こす騒動を、明るく楽しく描いてある。
★私が注目したのは「アパートちゃん」というネーミングで、そんなあだ名の子どもっているのか? これはやはり、昭和30年代初頭、郊外に建ち始めた鉄筋のアパートや団地が、憧れの対象だったんだとタイトルでわかるわけです。いま「マンションちゃん」「ハイツちゃん」というタイトルのマンガが描かれるとは思えない。

★昭和10年に交通協会が出した「正しい安全な歩き方」という薄い本がある。2,300円で買いました。中身は、歩行者が交通事故に遭わないよう、より安全に歩くための指導書です。
★昭和10年頃、すでに自動車による交通事故が増えて、問題視されていた。それで調べたら、昭和9年の交通事故死亡者数は529人。1970年代に1万人超えることを考えたら、非常に少ないように思えるが、500人でも自動車が死亡者事故を起こせば問題だ、とされたのでしょう。そのほうが健全です。

★また、交通ルールのところを読むと、昭和10年は「左側通行」だった。人間も車も左だった。右になるのは戦後のようだ、なんてことも知る。

★昭和45年の『美容院と理髪店』という本。建築写真文庫の一冊で建築の写真がテーマ別に収録されている。「映画と小劇場」「ナイトクラブ」「居間と書斎」とか、建築設計の見本として使われていた。これ、いま人気があるんです。
★「美容院と理髪店」も東京・大阪の代表的な美容院と理髪店の外観や看板、内装やインテリアなどが写真で紹介されている。美容院や理髪店は、髪を切るだけでなく、やっぱりお洒落な場所として、かっこいい建物が多いんですね。
★そんななか、東京杉並区の「巴里院」という写真を見てアッと思いました。パリはカタカナじゃなくて漢字の巴里。受付台には水槽があって、中庭に洗髪所がある、実にゴージャスな美容院です。外観もじつに立派なんですが、これ、見たことがある。吉祥寺の北側、少し離れた裏通りに、まさにこの建物があった。
★すごい美容院があるな、といつも思っていた。そこで調べたら、巴里院という美容院はほかにもたくさんある。これは、日本における洋風美容術の草分け、マリー・ルイズという女性が、大正二年に有楽町で開いた日本初の美容院の名前だった。

★何気なく一冊の本を買って、その本を読んで、興味を持ったことを調べていくと、思いがけず昭和という時代の背景や風俗、さまざまな出来事が芋づる式に見えてくる。
★学生時代、ぼくは勉強はキライでしたが、この勉強はじつに楽しい。いつも言うのですが、古本は時代を運ぶタイムマシーンだな、と今回も一冊の本を書いて痛感しました。
★これからも、いろんな本を買って、楽しく勉強を続けながら、知らなかった時代の断片を追い続けていこうと思います。

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