トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2012年03月08日(木)
今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。



★池井戸潤。直木賞受賞後の第一作目がこれ。おもしろい!

★池井戸潤という作家。もともと、企業小説の作家で、直木賞を受賞した『下町ロケット』は、精密機器を作るという下町の工場が大企業に対抗していく話。
★他にも、吉川英治文学新人賞(2010年)をとった『鉄の骨』は建設会社、その前の『空飛ぶタイヤ』は中小の運送会社・・・
★だいたい、物語の中心は中小企業で働く人間たちで、そのドラマ。大企業の横暴に困っていて、しかしあきらめないで、戦う。大企業、銀行がいかにひどいかが描かれる。
★その点、大企業を舞台にした昔の経済小説とはちょっと違う。加えて、人間ドラマも面白いので、ついつい読まされてしまう、という小説が得意。

★その作家が始めて野球小説を書いた。「ん、どうしたんだろう?」と思ったが、読むと納得。池井戸潤しか書けない野球小説になっている。

★というのも、野球小説というのは、対象が高校野球からプロ野球までいろいろあるが、池井戸潤が選んだのは、社会人野球。

★最初、なんで社会人野球なんだろうと思ったのだが、その手があったかという設定。社会人野球のバックにいるのは企業、そして今、日本は不景気で社会人野球部はいつ縮小、もしくは廃部されるか、存続の危機に立たされているところも多い。
★今回の小説はそうした時代背景の中、存続の危機を迎えている、ある社会人野球チームの話。彼らがどうやって戦っていくのか。

★なので、チームの親会社が不景気に悩み、どう生き残っていくか、という企業の戦いが描かれる一方で、それに加えて、もうひとつ社会人野球チームのドラマがある。

★この社会人チーム。おんぼろで強いチームではないんですが、試合に勝つだけでは足らず、チーム存続のため野球部監督、それを応援する企業内の重役も戦っている。
★だから、普通、野球小説というと、勝つために努力し、いろんなドラマを克服し、大きな大会に勝てば終わり、ハッピーエンドとなるが、この小説は単純ではない。

★会社の景気がいいと、「大会が近いのでちょっとお先に・・・」となるが不景気だと「なんでこんな時期に野球なんかやってられるんだ」と各部署で白い目でみられる。
★また、同じチーム内でも、今の親会社、チームに見切りをつけ、ライバル企業のチームに行ってしまうやつもいる。そういったドラマが絡み合ってくる。
★野球小説がお好きな方も、企業小説がお好きな方も両方が楽しめる小説。これは、企業小説で直木賞をとるぐらいの実力がある池井戸潤だから書ける話。

★最後、どうなるのか。結末は言いませんが、試合に勝って、チーム存続と絵に描いたようなハッピーエンドじゃ、あまりにもお粗末。リアリティがない。
★しかし、試合に負けて、チームも存続できないのではあまりにも救いがない。どうするんだろう、と読みながら、ドキドキするのだが、うまいんですよ、なるほどという着地。

★最後に、タイトル『ルーズヴェルト・ゲーム』の意味。これは昔からよく言われている、「野球の試合の一番面白い展開は、8対7である」という言葉から来ている。
★出所を知らなかったのだが、ルーズヴェルト大統領が昔言った言葉。その意は、最後に8点とって、一発逆転ではなくて、点を取って、取られて、のシーソーゲームの事。
★大事なのは、逆転をされても、再逆転を目指して戦う姿勢。それは我々の人生もそう、企業もそう、野球だってそうだ、という作者のメッセージが込められているよう。この小説にピッタリのタイトルです。

★読み始めたら、一気読みの傑作です。

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