トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2012年03月22日(木)
今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。


★3月に出た新刊。これが、なかなか面白い。

★主人公は、ケンカしつつも仲がいい姉と弟の2人。小野寺家の姉弟。小野寺より子と  小野寺進。

★どういう姉弟かというと、例えば、スーパーの福引で浅草・花やしきのペアチケットが当たると休日に2人で出かける。花やしきなので、コーヒーカップでぐるぐる回るようなやつに2人で乗ったりして、遊んだりする。姉は、水筒にお茶をつめたり、おにぎりをもっていき、昼になるとベンチに座って、2人で食べたりする。
★そして、クリスマスイブは必ず2人でテレビゲームをする。ただするのでは面白くないから、その時にいろいろなルールを決める。ある時は、英語をしゃべっちゃダメ。それをするとマイナス1点などと競う。

★凄く仲のいい姉弟...これは、いいのですが、問題は2人の年齢。姉が40歳、弟が30代半ば。今でも木造一軒屋で一緒に2人で暮らしている。
★2人とも未婚で、恋人もいない。一般的にはさえない感じの2人の日常を淡々と描いた、というだけの小説なんですが、これがすごくいい。

★何がいいのかと言うと、ひとつは2人のキャラクター。こだわりが強く生命力も強い姉と、引っ込み思案な弟。対照的だが、それぞれがしっかり描かれている。
★2人が「実家で2人暮らし」という状況には各々の理由がある。途中で語られていくが姉は長年の片思いの人がいる。弟は恋人がいたが、「あんた、お姉ちゃんと私、どっちが大切なの?」と言われて何もいえなくなり、はっきりしない間に恋人がいなくなる。

★そんな姉弟だが、なんといってもいいのが2人の関係性。端的に表す、いいエピソードがある。
★進の高校時代。自己紹介の時に、受けを狙ってスベリり、大きく落ち込んでいた時のエピソード。元気付けようと思った姉が、からし色の模造紙を買ってきて、しおりを作る。そこには小鉢を書いて「酢味噌」の文字。これを弟に渡す。
★「酢味噌」は「すすむが/みんなから愛される/存在になりますように」の頭文字。弟はわからないだろうが、そういう感じがすごくいい、と姉は満足する。
★実は、この小説。章ごとに姉と弟と語り手が変わるのだが、実は弟が「すみそ」の意味を知っている事がわかる。理由は、間抜けな話だが・・・

★確かにこの2人。はたから見ると、ちょっと変わっているし、さえない感じがする。ただ、本を読むうちに形は違えど、自分の人生もそうなのかな、と考えさせられる。

★周りの人からするとさえないと見える人生。でも、本人としてはそれなりに、いい事も悪い事もあり、捨てたものじゃない。そして、何だかんだ家族の事は気にかけている。

★改めて言っておきますが、、、この小説、特別、どうというドラマがある訳ではない。でも、ちょっといい話を読んだなと思える小説。

★この小説の作者、西田 征史さんはどういう人かというと、結構、話題になったテレビドラマ「妖怪人間ベム」などの脚本を書いている脚本家。
★昔から、テレビの脚本家が書く作品は多く出版されており、山田太一さんなどが有名だが、この作品、最近の中では特に光る出来だった。

一覧へ戻る

ページトップへ