トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2012年02月09日(木)
今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。


★銀婚式というタイトルなので、夫婦の話かなと思うが...イメージと違う。

★どういう話かというと、主人公は大手証券会社の普通のサラリーマン。アメリカの現地法人に勤務しているが、そこでバブル崩壊。勤めていた証券会社が破綻...ここから始まる。
★会社破綻後、同僚たちが次々と日本に帰国、再就職先を探す中、主人公の彼はそれが出来ない。まじめな男。責任感と義務感から仕事を放り出せず。
★彼は後始末をきちっとしなくてはと、現地に残り、後始末をするが、あっという間に時が過ぎ、全て終わるのに2年かかってしまう。

★後始末後、帰国した主人公であったが...働き口が見つからない。結構、大手証券会社に勤めていたので、破綻直後には働き口もあったが、2年の歳月は長く。目ぼしい再就職先は全部埋まっていた。
★何とか、と就職先を探す主人公。人の紹介で、やっと見つけたのがある損保会社。ところが、転職した先の損保会社も事業を縮小するところで、彼を雇ったのは、リストラ担当職として。つまり、肩たたき役。ここでもまじめな主人公は、精神的に   まいってしまい、体を壊してしまう。そして、辞めてしまう。

★続いて、人から紹介されたのが、金融関係の会社で働いていた人を探しているという新設の大学の講師。大学で教えた経験もなく不安を感じつつも、引き受ける。
★実は、大学の話がこの小説の半分以上を占める。証券会社と損保会社の話は、前半の最初の1/3、あるいは1/4ぐらい。

★ここでも、まじめに講師の仕事にあたる主人公。大学の講師をやるんですが、問題を起こす学生がいて、また、学内では、企業と変わらず、どろどろした次期学長をめぐる派閥争いがあり、欲望渦巻く人間関係に巻込まれていく...という展開になる。

★つまり、どういう事かというと、バブル崩壊後のビジネスマンが"第2の人生"をどう生きていったのか、という、その後の人生を描いた作品。それがもの凄いリアリティをもって描かれている。

★描かれるのは仕事だけではない。家族の話。回想で出てくるのだが主人公はアメリカに赴任する際、子供を連れて妻と渡米した。ところが、妻はアメリカの環境に馴染めずノイローゼに。そして、離婚。子供を連れて日本に帰ってしまっていた。
★ただ、その家族はのちのちも主人公と度々、関わってくる。息子が頻繁に訪ねて来て相談を持ちかける。受験はどうすればいい、おばあちゃんの介護はどうすればいい・・・

★会社倒産したり、転職した会社でろくな事がなかったり、息子がいろいろ問題を起こしたり、親の介護の問題が出てきたり、いい女がいるとフラッとしたり、丸ごと我々の生活に起こりうる事がこの主人公に降りかかる。それに、本人は一所懸命まじめに取り組むだが...激動の時代の中、貧乏くじをひく主人公。

★バブル崩壊の時期、同じような境遇だった方には身につまされる話だと思う。ただ、この本を読み進めると、同じような境遇の経験がなくても、他人事とは思えなくなる。
★僕のように、証券会社のサラリーマンとは、全く畑の違うところにいた人間でも、「何かここにあるのは、俺の人生だよな」と感じるのは、本が持つリアリティの力。

★直木賞作家である著者の篠田節子。前作、この番組でも取り上げた「はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか」は、非常に奇想天外な話だったが、今回は一転、もの凄いリアリティのある話。こういう事ができるのは篠田さんならでは。すごく面白い!

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