トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2012年01月12日(木)
今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。


★桂望実さん、有名な作品は「県庁の星」。映画化もされた。面白いものを立て続けに書いている作家。今回のも凄くいい。

★まず設定。小劇団を主宰している大介という男と、妻の瑞穂、という夫婦。この2人が、週末だけひなたという少女を児童擁護施設から引き取って一緒に暮らしている。
★というのも、「週末里親制度」という制度があって、これは施設で暮らす子供を週末だけ引き取って里親になる、というもので、これを利用している。

★それには、理由がある。小劇団を主宰している大介は、なかなか劇団経営が苦しくて食えないので、アルバイトで人材派遣業をやっている。これがちょっと変わった人材  派遣。役者を派遣して、現実社会で「ある人」を演じるというサービス。
★例えば、長く離れ離れに暮らしている親子。その息子が親を安心させる為に、奥さんを連れて帰りたいが、奥さんが拒否。そんな時、大介の派遣会社に発注すると、妻役の劇団員が来て、しっかりと妻を演じてくれる、というもの。
★ところが、この人材派遣アルバイトで、子供がいない為に仕事を受けられなかった事が度々。そこで、「子供がいた方がいい」と。
★ある日、児童擁護施設の学芸会を見に行くと、そこで演じていたのが、芝居のうまい天才少女、ひなた。「週末里親制度」を利用して、彼女を引き取り、週末のアルバイトを手伝ってもらう事にする。

★実は、この設定。以前、この番組で荻原 浩さんの母恋旅烏という作品を紹介した事があるが、それと似ている。母恋旅烏は、大衆演劇の一座が解散して、その座長が自分の家族を使って食う為に、同じように人材派遣業をする、という話があった。

★なので、設定自体にオリジナリティがあるという訳ではないが、この小説でいいのはひとつは、何と言っても際立つキャラ設定。
★まず、ひなたという少女。キャラが立ちまくり。10歳の女の子。母親が14歳の時に産んだ子が育てられないので、児童擁護施設に預けられている。
★このひなた。母親のことを「あの人」と呼ぶのだが、再婚の度に引き取りに来る母親を迷惑がる。一緒に暮らしても、毎回、ろくな目にあわない。ほっといて欲しい、と。
★ひなたは、母親を「あの人は思い込みで、母親は子供と一緒に暮らさないといけないんじゃないか、という思い込みがあるから、私を引き取りたがっているだけ。」と言う。「本当に愛するとか、そういう事はないんだ。」と。

★一方、引き取る大介と瑞穂という夫婦も、キャラが立っている。
★瑞穂という妻は、「無性愛者」という設定。知らなかったのですが、これは恋愛感情も性的欲求も全く感じない人のこと。若い時、瑞穂はそれで悩んでいるんですが、友人  関係の大介と大学時代の演劇部で知り合って、大介は全て承知の上で、結婚をする。
★また、大介。シェイクスピアに心酔している劇団の演劇家兼役者。単純で、いい人なのだが、演劇一筋。シェイクスピアに凝り固まり、劇評で叩かれると、一週間ぐらい部屋から出てこない、というぐらい落ち込んでしまう。

★この3人が週末を使い、ある種の擬似家族として過ごしていく訳ですが、この小説には全体を通してのメッセージがある。ヒントはひなたの言葉。それは「思い込み」は    いけない、「思い込み」から開放されるともっと自由に生きられる、というもの。
★大介と瑞穂とひなた。血は繋がってなくても家族になっていく、週末だけでも家族になっていく、10歳の女の子が逆に大人を変えていく。新しい人間関係が生まれてくる。

★帯にあるのは、「訳あり夫婦と母親に捨てられた少女が紡ぐ新しい家族の物語」。そして、「親子じゃなくたって、仲良しかもしれないじゃん」。
★よく血のつながりがなくても家族という言い方があるが、それともちょっと違う、「思い込み」を覆してくれる、そんな一風変わった家族小説です。

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