トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年12月22日(木)
今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。


★フィギュアスケートの世界を描いた長編小説。
★主人公の藤里小織(さおり)という少女がお母さんと一緒にフィギュアスケートの世界で、懸命に努力をしていく、という話。中学から始まって大学に行くまでを描く。 

★面白い点、まずひとつは、フィギュアスケートの世界がどういうものか、という事が、克明に描かれている事。

★例えば、非常にお金が掛かるスポーツである事がわかる。教えてもらうコーチの先生に払う謝礼は、この本によると、月20万円~30万円。
★また、大会直前。リンクを貸切って個人レッスンを受けるが、リンク代を負担。そして、大会に出るにはコスチュームが必要となる。そのお金も負担。
★さらに、大会はショートとフリーで競うが、その振付、プログラムも、オリジナルを専門の振付師に作ってもらわないといけない。これが高額!ショートで100万円、フリーやエキシビジョン用で150万円。計250万円!

★さらにわかるのは、親がいかに大変か。コーチの元に10人近くの生徒が集まるが、親は、昼飯を順番に作ったり、コーヒーを出したり。
★また、コーチも1人という訳ではなく、ジャンプは○○先生、ダンスは○○先生と頼む。振付師も有名になれば、コネがないと引き受けてもらえず、苦労する事に。

★そこで、この主人公・小織ちゃんのお母さん。離婚していて母娘2人。お金に余裕がある訳でなく、フィギュアのお金を離婚の慰謝料で賄っている状況。
★ここで、ひとつのミソは、小織ちゃんのフィギュアの実力が、微妙な位置だという事。超一流選手でもなく、どうしようもない選手でもなく....だから、しょっちゅう大変。

★例えば、学校選び。フィギュア強豪校に入るのに問題となるのはお金だが、入学金や授業料免除を受けるには、日本スケート連盟のランクで、より上位を目指す必要がある。強化選手Aクラスならば全額免除、Bクラスならば半額免除、とシビア。厳しい戦い。

★そして、この話の最大のミソとなるのが、小説の冒頭。大学に入った、小織ちゃんが自分のアパートに、大学で知り合った友達を招いて、お互いの話をしている時の会話。「実は私、昔、スケートやってたんだよね。」「えっ、あんたスケートやってたの!」
★つまり、小織ちゃんは、大学に入ったら既にスケートを辞めている、という設定が、いきなり冒頭で明らかになる。はたして、ケガをして辞めたのか、お金が続かなくて辞めたのか、それとも、自分の能力に見切りをつけて辞めたのか、、、、

★この手のスポーツ小説。いくつかパターンがあるが、王道は、主人公が努力をして、いろんなドラマを克服、最後、その種目の中で優勝、試合に勝つ、という事で、カタルシスを読者に与える。しかし、この本は最初から、それとは「違う」と宣言!
★これが、非常に面白いと思う点。必ずしも主人公の努力が報われ「勝つ」、という展開でなくても、おもしろく読めるんだ、という。そういう意味で、現代的なスポーツ小説。 
★もう1点。おもしろいのは、本当の意味での主人公は、小織ちゃんだけじゃないこと。
★最後の方で、小織ちゃんがかつてのコーチに挨拶をしにいくシーンがあるんですが、そこで、おやっと思うコーチの言葉。「私があなたを教えていて一番驚いたのは、あなたのお母さんの成長です」
★つまり、普通、読者は小織ちゃんがどう成長したのか、という風に読んでいくんですが、それだけでなく、母親の成長も描かれる。親子二人三脚で一緒に生きていくという感じ。
★母親がどう娘を見てきたか、最後の方に出てくるのだが、それがいい。割と先入観で感じるような、べったりとか、ケンカするとか、苦労の連続とか、そういうのではなく、非常に複雑な、でも、いい話としてまとめあげられています。

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