トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年12月08日(木)
今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。


★実は、「本の雑誌」が30周年を迎えた時(5年前)、それまでの30年間のあらゆる本のベスト30を決めようという企画をやったんですが、その時のベスト1がこの作品。
★元々は1987年に出た本。ずっと取り上げたかったが、絶版だったので取り上げられず。その本が文庫化して12月6日発売。本屋で見つけたが大興奮!取り上げる事にした。

★主人公は証券会社の証券マンで、ある事から透明になってしまうところから話が始まる。この男、透明になって、まず何をするかというと、、、どう会社に行くかを考える。

★これが意外に難しい。透明な訳で、電車に乗る時も切符だけが宙に浮いている状態。車で運転しようと思っても、誰も運転していないように外から見える。じゃあ、どう移動したらいいのか...
★他にも、食事を買う為にスーパーマーケットに入るとする。その時にレジでどうやって買ったらいいのか。お金だけ浮いていたらおかしい。
★あらゆる生活の面で困難に直面。それをひとつずつクリアして行くのですが、これが  重要なポイント。

★「透明人間」。100年前に、HGウェルズが書いた、超有名な古典の「透明人間」という作品で登場するが、100年前の透明人間は、透明になってまず、なぜ俺は透明になってしまったのか、と苦悩する。つまり、レゾン・レートルの考え、自分の生存理由は何なのか、という哲学的な命題にぶつかる。

★ところが、現代の「透明人間」は違う。「どうやって会社に行ったらいいのか」「どうやって買い物をしたらいいのか」という事を考える。つまり、透明人間の『暮らしの手帖』。
★例えば、食事をすると、消化されるまではずっと食べたものが見られてしまう。なので、隠れて、誰もいないところで食事をしなくてはいけない。また、町を怖くて歩けない。ローラースケートの若者、車が避けてくれない。


★我々にとってはごく普通の町の風景が、彼にとっては危険なジャングルになる。視点を変えるとこんなに世界が違うんだと、ビックリする。これが実に面白い。

★文庫本で上下、2巻本で結構長い。『暮らしの手帖』で2巻持つ訳ないじゃないか、と思われるかもしれないが、そこはさすがのストーリーテラー。
★この男を追って、政府の秘密諜報機関が追っかけてくる。透明人間になったという事を知って、こいつをスパイに利用できないか、と。なので、大都会を逃げなきゃいけない。サバイバル小説の要素もある。

★さらに、一番最後の趣向がいいんですが、恋愛小説でもある。透明人間の男と普通の人間の女性が恋をする。いったい、どうやって恋をするのか?これは読んでのお楽しみ。

★河出文庫の解説を椎名誠が書いているんですが、帯で使われている解説の言葉、「30年に一度の傑作。黄金本」。
★透明人間になった男の話なんですが、ちょっとこれまで我々が知らなかったような、イメージ、話がどんどん出てきて、まぁ、ビックリします。まだ、読んでいない方がうらやましい。是非、読んでください!

★因みに...実は、この著者、H・F・セイントさん。これ一作しか出していない。解説で作者について書かれているが、「第2作を書いているという噂があったんだが、 結局出てこなかった。最近の動静もあまり伝わってこない。どうしているかわからない。何だか彼自身が透明人間になったかのよう。」

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