トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年12月15日(木)
今朝は、書評家の岡崎武志さんにお薦めの本を紹介していただきました。

★もうすぐクリスマス。私は、この時期になると、必ず観たくなる映画がありまして、それがアメリカの映画監督フランク・キャプラの「素晴らしき哉、人生!」。1946年の作品です。
★2006年にアメリカ映画協会が選んだ「感動の映画ベスト100」で圧倒的一位に輝いたのがこの「素晴らしき哉、人生!」だった。ほか、3本のキャプラ作品が100位内に選ばれている。アメリカ人はみんなキャプラが好き。
★そんなフランク・キャプラについて書いた本で、日本では初めての評伝だそうです。意外です。もちろん、タイトルは、「素晴らしき哉、人生!」にかけてある。
★ラストシーンがクリスマスイブというクリスマス映画で、私はDVDを持っていまして、クリスマスが近づくとこれを観て、おいおい泣きます。これを観て泣かない人はいないだろう、といっていいほど感動的な映画なんです。

★まずはフランク・キャプラから。1897年に生まれ、1991年に94歳で亡くなっています。キャプラは、イタリアからの移民で、若い頃、新聞売りをしたり、上流階級の家で家庭教師をしたり、詐欺師まがいの訪問販売もしたという。苦労人です。いろんな階層や世間を見たことがのちの映画作りに生きてくる。
★20代初めに苦労して映画界入りしますが、最初は、短編コメディのギャグマン(脚本のなかのギャグを専門に考える)として、スタート。キャプラの初期作品といえば「或る夜の出来事」が思い浮かぶが、そこに至るまで、長い下積みの修業時代があった。

★そんな中、クラーク・ゲーブルとクローデット・コルベールを主役に据えた「或る夜の出来事」は、キャプラの名を大衆に知らしめる。深窓の令嬢と失業中の新聞記者のロマンスを描いたこの作品は、日本映画にも大きな影響を与えて、類似作品がたくさん作られた。
★この映画がどれほどヒットしたか。映画が公開してから、例えば、クラーク・ゲーブルを真似て、下着なしで素肌にシャツを着るのが流行した。下着が売れなくなって、下着メーカーは悲鳴を上げたと言います。

★しかし、キャプラがアメリカの「夢と理想」を描く、もっともアメリカ的な監督として、意識され始めたのは、「我が家の楽園」「オペラ・ハット」「スミス都へ行く」そして「素晴らしき哉、人生!」といった、キャプラ最盛期のハート・ウォーミングな作品。

★この本では、キャプラの人生を振り返りつつ、それぞれの映画が作られた時代的背景や、キャプラ自身についての考えを折り込みつつ、キャプラ映画とは何だったかを追う。

★ここでは「素晴らしき哉、人生!」と主演のジェームス・スチュワートを中心に紹介したい。
★ジェームス・スチュワートが最初にキャプラ作品に登場したのが「我が家の楽園」(38)。
★キャプラは自分の映画の理想として、ずっと主役に「オールアメリカン(アメリカを代表する役者)を考えていた。そこで白羽の矢が立ったのが、当時30歳になる無名のジェームス・スチュワートでした。 正直で知性があって、清純な役者。それが彼だった。

★「我が家の楽園」の恋人役、ジーン・アーサーが、ジェームス・スチュワートの真面目さについて証言している。
★「彼は撮影期間中、毎朝五時に起きて、事故を起こさないようにと、時速五マイル(約八キロ)で車を運転してスタジオに来ていました」(時速八キロで車を運転は、やりすぎだろう。)

★「素晴らしき哉、人生!」ですが、じつは公開された当時、興行的には失敗で、制作費も回収できないほどだった。「古くさい」と酷評されたと言います。「真の価値は時間が決めた」と著者は言う。リバイバルは80年代、テレビでひんぱんに放送されるようになり、特にクリスマスにはこの映画と定着した。オバマ大統領も家族で観るそうです。

★簡単に映画紹介をしますと、1920年代、アメリカの片田舎の町に住むジョージ・ベイリーという青年。父親の急死で住宅金融会社を継ぐことになる。貧しい者に貸し付け、町の信頼を得ますが、これを快く思わない悪徳業者と対立している。
★大雪のクリスマスイブの日、会社が破産の危機に遭い、絶望したベイリーは自殺を考え橋の上に立つ。彼を救ったのが「クラレンス」という羽根のない二級天使で、とぼけた冴えない老人なんです。「生まれてこなかったほうがよかった」と絶望するベイリーに、それではキミが生まれてこなかった世界を見せようと言って、ベイリーがいなかった 町を見せる。友人も母親も妻も彼のことを知らない。
★町は悪徳業者に牛耳られ、人々は殺気だち、荒れ果てていた。ベイリーはそこで「元の世界へ戻してくれ!どんなに苦しくてもかまわない」と言って、元の世界へ戻る。そこに感動的な結末が待っている。

★キャプラはこの映画に「もてる才能のすべてを投じた」「完璧主義はあらゆる細部にまでおよんだ」と言います。
★たとえば、ラストの雪のシーン。それまで映画の「雪」は白く塗ったコーンフレークが使われていたが、この映画では新技術を導入。1万6000ガロンの化学繊維の綿毛、
★トラック15台分の白雲母、175袋のアスベスト、1万(トン?)の氷が投入された。町のシーンはロケでなくセットで、20年の時間の経過を8回、お色直しをすることで  表現した。小さいことでは、主人公ベイリーの事務所に置かれた写真は、ジェームス・スチュワートの子どもの頃の写真だった。それをジェームス・スチュワートは気づかなかったという。

★映画でアメリカの「夢と理想」を描いたキャプラの集大成ともいうべき作品。著者はこの本の最後をこう締めくくっています。
★「栄光と挫折を幾度となく繰り返した九四年の生涯、アメリカと恋に落ちた男は、決して人生をあきらめることはなかった。素晴らしき哉、フランク・キャプラ。」

★さらに...岡崎さんが本を出版!
   岡崎武志『古本道入門』中公新書ラクレ 861円


※ 本は好きだけど、古本屋へはなかなか行かないという人のために、こんなに古本、古本屋っておもしろいところだよ、と書いたのがこの本。
※ 買い方はもちろん、売り方についてもアドバイス。また、古本屋が元気な地方都市の紹介や、神保町ガイドもしています。「敷居は低いが、奥は深い。」が売り文句です。  
    


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