トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年11月03日(木)
今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。


★主人公は歴史学者のルークという男。
★彼はアメリカの小さな田舎町で生まれ、安物雑貨店を経営している両親の元で育つが、親の雑貨店を継ぐ事を「嫌だ!」と拒否。将来は、有名な歴史学者になって、みんなをあっと言わせる新鮮な歴史書を書きたい、と夢見ていた。 
★それから20年後。彼は歴史学者になり、新作のプロモーションの為に、セントルイスに向かう。ここから物語が始まることになる。
★20年経って、歴史学者となり夢が実現したのか、というと現実は違う。三流大学の  講師の職で歴史を教えながらの執筆作業。書いている本も、理想とは程遠い、ただの解説書。忸怩たる思い。しかも、妻にも去られ、失意の人生を送っている。

★そうして、やって来たセントルイスのプロモーション会場。講演を終え、講演後のサイン会をしていると、、、、そこに、思いがけない人物が現れる。
★ローラ・フェイという女性。47歳。ちょっとくたびれた、中年女性。「えっ!?あのローラ?」。ルークにとっては、2度と再会する事はないだろうと思っていた女性。

★というのも、かつて、主人公ルークの父が経営していた安物雑貨店で雇われていたのが、ローラ・フェイ。当時、22歳若い女性。
★それで、ローラは父の愛人になり、ローラの別居中の夫がその事に怒って、父を殺してしまう。それでローラは居づらくなって、その町を去った。
★つまり、ローラ・フェイは、遠い故郷でルークの家族に起きた悲劇のきっかけとなった女性だった。

★「なぜ、今、会いに北のだろうか?」、疑問を持つルークだったが、とりあえずホテルのラウンジで、酒を飲みながらの2人の対話が始まる。
★そして、その後、、、、この本のタイトルは『ローラ・フェイとの最後の会話』だが、文字通り、延々と会話が続く。最後まで。他、出てくるのは回想の挿入のみ。

★実は、トマス・H・クックという作家のこれまでの作品にわりと、よくあるパターン。過去に何か事件があって、それがいったい何だったのかを、読者が(加えて主人公も)知らないまま話が始まり、読み進めるうちに徐々に明らかになってくるという展開。
★ただ、今回はクック「らしい」作品ではあるが、中でも特にシンプル。主人公ルークとローラの会話だけで話が展開。むしろ、現代の部分で出てくるのは2人の会話のみ。
★ただ、シンプルという事が「単調か」というと、決してそうはなっていなくて、もの凄く豊穣な(豊かな)世界が現れてくる。

★具体的にはネタばらしになってしまうので、どこまでしゃべっていいか難しいが、帯にある「20年ぶりに再会した女性と交わす会話は、私が忘れようとしていた過去をよみがえらせる」がヒント。

★もう少し言うと、主人公ルークは、小さい頃、父の安物雑貨店を手伝っていた。ところがある日、「お前、来なくていいよ」と言われて、このローラが手伝いに来る。「何で経営が豊かでないのにわざわざ人を雇うんだろう?僕じゃダメなんだろう?」
★つまり、この主人公は小さい頃、父に愛されていなかった、とずっと思っている。
★ほか、主人公ルークの結婚生活。大学でジュリアいう女性と知り合って結婚するが、段々と、うまく行かなくなり、いろいろと責められたりする。
★一見すると、回想が全部バラバラに見えるのだが、実は全部つながった話で、それが最後まで読むとわかる。これが凄い。

★結論から言うと、この小説のモチーフは、「人は過ちを償うことが出来るのか」。この小説を読み終わると、非常に実感する。そして、もうひとつ、私が思ったのが「我々は愚かな生き物であろう。しかし、人生は捨てたものではない」。言えるのはここまで。
★素晴らしい小説です。

一覧へ戻る

ページトップへ