トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年11月10日(木)
今朝は、書評家の岡崎武志さんにお薦めの本を紹介していただきました。


★いま、日本全国に出版社は約4000社あると言われています。
★そのうち数百人の社員を抱え、誰もが名を知る出版社はほんの一握りで、一人から十人ぐらいの人数で活動している中小の出版社が非常に多い。また、おもしろいのは、一人で作った本でも数百人の大手出版社の作った本でも、見た目は変わらない。同じ「本」という商品だということです。

★出版不況と言われるなか、最近目立つのが、この小さな出版社のがんばりとユニークな活動で、特に、マスコミなどでよく取り上げられたのが、ミシマ社(ミシマはカタカナ)。
★2006年に若い男性一人で始めた出版社ですが、すでに30点の単行本を世に出して、内田樹『街場の中国論』『街場の教育論』、益田ミリ『ほしいものはなんですか?』などのヒット作を飛ばしている。現在はスタッフ7人で、京都に出張所まで作った。

★そのミシマ社を作った男性が、出版社を起こすにいたる経過と、出版社を経営する理念、どんな社員がいて、どんな出版社かをつづったのがこの本『計画と無計画のあいだ』です。

★著者三島邦弘は、1975年京都生まれで、京都大学を卒業して出版社2社を渡り歩いて  独立。「いい本をつくり、しっかりと読者に届けたい」という、出版の「原点回帰」を目ざしてミシマ社を東京で作りました。ここまではさほど珍しい話ではない。
★この出版社が短期間の活動なのに話題になったのは、次々とヒット作を飛ばしたこともありますが、その経営スタイルにもある。

★ふつう、出版社は書店に本を流すとき、取次という「問屋」に仲介してもらう。ミシマ社は取次を通すのを止め、直接、書店と取引をして本を売る。また、手書きによる「ミシマ社通信」など、その「手売り」感覚が話題になり、書店も応援するようになった。

★また、社屋が東京・自由が丘の住宅街にある、築50年近い一軒家というのもユニーク。
★全室和室の畳の部屋で、会議は一階の茶の間に置いてある丸いちゃぶ台を囲みながらする。何も奇をてらっているのではなく、四角い机と違って、丸いちゃぶ台を囲んで顔をつきあわせていると対立関係が生まれないという利点がある。
★従来の出版社というものが持つ固定観念から、みごとに自由になっている。合宿と称して社員旅行の先が三島(静岡県)というのもおかしい。

★社員の雇い方もユニーク。今年はぜったい人を取らないと決めていたのに、どうしても会いたいという大阪から来た若者と話をすると、吉本の芸人養成所にいたというクボタくんの話があまりにおもしろく、帰ったあとも、スタッフがみな「元気なやつでしたね」「おもしろい男でしたね」というので、採用してしまった。出版社勤務経験はないにもかかわらず、です。

★もちろん、少人数の小さな出版社だからできる、ことだとは思います。しかし、大手の会社が学ぶべきところもある。
★たとえば、ミシマ社では、毎日午後すぐから3時までパソコンオフタイムを設けている。このあいだは、パソコンに触っちゃダメ。パソコン依存を防ぎ、野性を磨くため。また、毎週、スタッフの座る席を替える。席替え、ですね。
★視点も変わるし、変化が脳みその硬化を防ぐ。また、ちゃぶ台での会議に書類は一部しか置かない。みんなでその一部だけの書類を、顔を突っ込んで代わる代わる見る。不思議とそれだけで一体感が生まれると言います。
★『はやくはやくっていわないで』というミシマ社初の絵本を作ったとき、帯に対称年齢を「〇歳から百歳」とした。こういう柔軟な発想がミシマ社の特色です。

★タイトルの『計画と無計画のあいだ』ですが、著者の考えるところによると、決まり事としての計画線をまず引く。もちろん、これは大事。
★そして、すこし離して、それとは逆の無計画線を引く。これが柔軟な野性的思考を表す。そのあいだにできるのが「自由」な空間で、それが非常に重要、というわけです。これこそ、著者が出版社を起こして、自分なりに発見できたことだと言う。
★自由が丘で「自由」を発見する。今後、このユニークな出版社が、あんまり大きくならないように願いつつ、どんな本を出していくか、見守りたいと思います。

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