トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年11月24日(木)
今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。


★長い小説。文庫で3巻、上中下。これが凄い!

★リン・シャンタラムという名前の男が主人公。オーストラリア人。
★銀行強盗で捕まってオーストラリアの刑務所に入るんですが、白昼に脱獄。インドへと逃亡する。そして、ボンベイのスラムへ、、、、というところから物語が始まる。

★まず上巻は、一言で言うと、スラム小説。
★インドのボンベイにあるスラム。これがとてつもない場所だが、、、このスラムに入った主人公は何をするかというと、診療所を開く。
★元々、しがいない物書きで医者じゃないのだが、ちょっとした知識があり診療所を開くと、患者が殺到。元々、スラムには、医者がいないので非常に重宝がられる。
★そこで、ボンベイ・マフィアのボスと知り合い、奴隷市場、臓器銀行などを知り、、、とにかくスラムには、どういう人々がいて、どういう暮らしをしているのかというのが、まぁ、具体的に描かれていて、これが凄い!

★例えば、ひとつ。大家族が狭い家に住んでいるが、15、6歳の少年が、いつも外の地面で寝ている。なぜかというと、幼い妹に寝るスペースをあげたいから。彼は働いたお金を全部、母親に差し出す。ただ暗い顔ではない。明るく生きている。

★スラム小説としてだけでも十分に面白い。ところが、中間では話が一転。主人公シャンタラムが、何者かの罠にかかって、インドの刑務所にいれられてしまう。刑務所小説へ。
★今度はインドの刑務所がどういう状態か、どういう世界なのかが具体的に描かれるの だが、これがまぁ、とんでもない世界!苛烈な拷問、同房者との対決・・・

★そして、3巻目となる下巻。当然、誰が投獄したのか、罠にはめたのか、復讐の話が始まるんですが、今度の舞台は、戦時下のアフガニスタン。つまり、戦場小説へ。
★というのも、刑務所を出所した主人公はボンベイ・マフィアにスカウトされるが、そのボスがソ連占領下のアフガンで、ソ連と戦うレジスタンスに武器を運ぶ際、にお供する事になる。そして、戦争に巻込まれていく。このディテールも、凄まじい!

★最後は、アフガンから脱出し、自分を投獄した裏切り者と対決するという話なんですが、、、それまでに、スラム、刑務所、戦場と、盛りだくさんの要素が盛り込まれる。
※さらにこの小説には、激しいドラマのほか、「生きる事はないか」という哲学的なディスカッションも度々、出てくる。派手好きには、「うざったい」と感じるかもしれないが、、、

★とにかく、凄いのが細部に渡るディテール。なぜこんなものが書けるのか、と思ったが、驚くべきは、、、、著者の経歴。これを見て納得。
★ヘロイン中毒からカネ欲しさに強盗。服役中に脱走、ボンベイに渡り、スラム住民の為に無資格・診療所開設。ボンベイ・マフィアと行動を共にし・・・小説を地で行く人生。恐らく実体験の要素もかなり小説に盛り込んでいるものと思われる。

★帯には「現代の千夜一夜物語」と書かれているが、とにかく多くの要素があり過ぎてジャンルとして何なのか、と分類するのが難しい小説。
★私はいろいろと考え、1ヶ月かかって、ミステリにしちゃおう、と決めた。異論はあるかもしれないがSFでもなく、純文学でもなく、ミステリでもないとなれば、なかなか、年末恒例となる"今年のベスト本"の集計に名前があがって来ない。

★翻訳小説冬の時代。これだけ面白いのに、ジャンルに入らないからと言って、見逃される可能性があるのは何とももったいない話なので、「シャンタラム」はミステリの今年 No.1として私はこの年末、強く訴えていこう、と思う。そんな作品。

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