トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年10月27日(木)
今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。


★きょうは、すごいノンフィクション。

★私ぐらいの世代ならば、木村政彦と力道山が戦った試合をテレビ観戦した人は多いはず。「昭和の巌流島」と呼ばれた一戦で、視聴率100%とも言われている。
★昭和29年(1954)当時、僕が8歳の時。街頭テレビでそれを見た記憶があるが、印象に残っているのはその試合内容。木村政彦は一方的に潰され、血だらけ。
★当然、子供なので力道山のファンだった私でも、「ちょっと力道山やりすぎだ」と思ったのを今でも覚えている。

★日本スポーツ史上に残る謎「なぜ木村は簡単に敗れたのか?」という点が、この本のクライマックス。この試合後、本来、台本が決まっていて、引き分けの予定だったのに、途中から力道山が怒っちゃって本気出しちゃった、などの憶測が流れたが、実際はどうだったのか。台本の内容は?なぜその通りにならなかった?

★ただ、この本。700ページ近くある分厚い本だが、クライマックスに至るまでに、日本の柔道界最強と言われた木村政彦という男の半生を辿っていくのだが、これがとにかく、おもしろい。
★柔道とか空手とか格闘技を好きな方ならば、完全にはまってしまうと思うのですが、つまり、これを読むと戦後の格闘技界の歴史が一望できる。柔道、空手、プロレス、総合格闘技が全部、出てくる。

★例えば、柔道界。今、柔道といえば講道館となっているが、なぜ一流派に過ぎない講道館が、柔道という競技の中心に居座っていられるのか。
 ※ これは他の格闘技界では考えられない事。空手でも、極真会館(大山倍達が創始)、日本空手道連盟、日本空手道松濤會と、多くの流派がひしめき合っている。

★その理由を知るためには、歴史を遡る必要があるのだが、この本では、戦前・明治から柔術、柔道の歴史、背景を紐解いていく。ここも知らなかったことばかり。おもしろい。

★そして、日本の柔道界最強と言われた木村政彦。国内の柔道大会では、「15年不敗、13年連続日本一」と無敵の強さを誇るも講道館の人間ではない為に、その後、再評価されることもなく。今やあまり知られない存在になっている。
★ただ、本当に強かった。柔道の後、木村はプロレス転向し、世界を放浪。その時、ブラジルの国民的英雄。グレイシー一族、エリオ・グレイシー(あのヒクソンの父親)と対戦し、必殺技の「木村ロック」で勝利。グレイシー一族から尊敬される人物。
 ※ のち、世界最強と言われたヒクソン・グレーシーが試合後、「日本の木村政彦さんを敬服してます」と言ったことから、「木村とは何者だ」と世界中の脚光を浴びる事に。ただ、その時、残念ながら本人は亡くなってしまっていたが、、、
★木村政彦は、大酒のみで、女関係もだらしなかったが、政治的な事を一切しない「男は黙って強くあるべき」というタイプ。
★一方、木村と全く対照的なのが力道山。日本のプロレスの黎明期と共に描かれる彼の人物像はある種のショーマン。演出に長けている。ものすごく営業的で、金持ちへの擦り寄りがうまい、演説もうまい、そして、嫉妬深い。とても人間的な男。

★タイプは違えど、魅力的な人物として描かれる木村、力道山という2人の男。この2人がプロレスという政治的な構図の中で、戦わざる終えなくなり・・・

★著者、増田俊也さんという方は、実は『このミステリーがすごい!』大賞でデビューした作家だが、小説だけではなく、ノンフィクションや評論の分野でも活動している。元々、柔道部をやっていて、新聞記者もやっていたらしい。
★10何年かけて集めたという膨大な資料をもとに、当時のことを細かく細かく追って 書いていく。ノンフィクションとして非常に面白い一冊です。

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