トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年10月13日(木)
今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。





★辞書編集部に配属された、若い編集者を主人公にした長編小説。

★主人公は、玄武書房という出版社に勤める入社3年目の馬締光也(まじめ・みつや)という27歳の若者。元は営業部にいて変わり者扱いされていたが、「こいつは辞書向き!」と辞書編集部の目に止まり、新しい辞書『大渡海』を作る事に。そして、、、、という話。

★辞書編集部の4人。定年間近のベテラン編集者、日本語研究に人生を捧げる大学の教授、事務をする契約社員の40代の主婦、そして主人公まじめ君で辞書を作っていく訳だが、、、これが面白い!

★まず、面白いのは、辞書を作る作業がどういうものか、というのが、具体例も含めて、たくさん出てくること。

★例えば、辞書編集部が主に行っているのが、カード作り。町を歩き、スナックに入り、若者が知らない事を言っていると、それをメモ。それをみんなで持ち寄りカード作成。

★そして、次は、どういう風に使うのか、どう使われているのか、という用例探し。
今度は、街歩きや書籍などを調べて、どんどん用例カードを作っていく。すごくアナログな気の遠くなる作業をしている。

★もうひとつ面白いのは、辞書編集者。彼らは常に言葉について、考えるようになる。例えば、主人公まじめくんもデートの約束の最中で・・・

★また、彼らの会話の中には、「へぇー」という言葉のトリビアも出てくる。例えば今、よく話題になっている言葉の誤用問題(本来の意味と違う風に使っちゃっているもの)。

★若手編集者が主人公なんで、よく先輩編集者に怒られるが、その中の会話。先輩編集者「こだわりはいい意味で使ってはならん言葉だぞ。」「匠のこだわりの一品というのは誤用である」「こだわり」の本当の意味は、拘泥(こうでい)すること、難癖をつけること。僕も知らなかったんですが、そうなんだそうです。

★この小説。国語の辞書を作るのがいかにたいへんか、という事を描きつつ、その中に辞書や言葉のトリビアをうまく混ぜてくるが、それだけではないのが凄いところ。

★もうひとつの重要な要素は、人間ドラマ。これがなかなか読ませる。例えば、私が好きなのは、ひとつの章を使って描かれるチャラ男のエピソード。

★このチャラ男。元は辞書編集部にいたのだが、とにかくチャラくて、先輩はいつも怒られている。例えば、先輩の質問「お前は『島』という言葉をどう定義するか」。これにチャラ男は、「海にぽっかり浮かんでいるもの」と回答。「それじゃ、鯨も土左衛門も島になっちゃうじゃないか」と先輩編集者にあきれられる。

★結局、チャラ男は主人公とは逆に、辞書編集者に向かないと追い出される。そして、彼なりに寂しい思いをし、考える。本当に辞書編集部として落ちこぼれなのか? 

★ほか、老齢になった大学教授がこの辞書だけに何年も情熱をかけてやるドラマも。

★『舟を編む』というタイトルは本文中に出てくる辞書一筋に生きてきたベテラン編集者の言葉から来ている。「辞書が言葉の海を渡る舟」「だから、海(言葉)を渡るにふさわしい舟を私たちは編むんだ」と。

★この小説を読んだ後は、これまで時々しか使わなかった辞書にすごい親近感がわき、用がない時もちょっと読んでみようかな、と思う。なんか、楽しい気分になる本です。

★因みに辞書『大渡海』は完成するのか?辞書は10年とか膨大な時間がかかるので、本編で描かれる辞書を始めてから2,3年とは別に最後エピローグという形で語られる。

★10年後、主人公も中年になり、先輩編集者と大学の教授も年をとり・・・果たして・・・・

★著者の三浦しをんさんは、『まほろ駅前多田便利軒(2006)』で5年前に直木賞受賞している作家ですが、綿密に取材して書く、こういう職業小説は特にうまい。

一覧へ戻る

ページトップへ