トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年09月15日(木)
今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。



★連作短編。全部で11編あり、各短編のタイトルは料理の名前。何の話かというと、60歳そこそこの女性3人が一緒になって、小さなお惣菜屋をやっていて、そのお店の話。

★1人がオーナーで、2人が使われる立場だが、3人に共通するのは一人暮らしで、各々の理由、過去がある。
★61歳のオーナーは、旦那が不倫相手と恋仲になってしまい、離婚。1人は、未婚の60歳だが、ずっと想い続けている幼ななじみの男性がいる。あと1人は、半年前に夫が死んだばかりで、息子も2歳の時に亡くなっている。
★、、、という3人が、お総菜屋を一緒になってやっていく。

★話は、基本的に、3人の視点で順番にそれぞれ一話ずつ語られていく形だが、季節ごとの野菜や魚などを使った料理の話に、女性達の過去の回想などがうまく絡んでくる。
★その絡ませ方。元々、著者の井上荒野さんは直木賞(『切羽へ』2008)受賞の実力作家なので、今さら、感心しても仕方ないのですが、やっぱりうまい。感心させられる。

★ただ、あくまでお総菜屋の話。特別な事件が起きる事もなく、「まさか!」の展開がある訳でもなく、、、でも、これが何かいい!

★「何か」って何か。考えてみると、何といっても出てくる料理がおいしそう!
★例えば、タイトルになっている"キャベツ炒め"の話。
★オーナーの結婚式の日。後に不倫し別れる事になる旦那と、結婚式、2次会を慌しく終え、お腹をすかして帰ってきた時に、夫が作ってくれたのがこのメニュー。
★材料が何もない中、旦那は「じゃ、キャベツだけあるから、作ってあげるよ。俺が」と言って、キャベツ炒めを作る過程がじっくり描かれる事になるですが、、、、
★バターでニンニクをゆっくり炒めて、充分に香りがたってから、火力を強めて、千切ったキャベツを放り込む。味付けは、塩だけ。黒胡椒をたっぷりひいたところで、皿にのっけて「はい!」と出される。凄くおいしそう。

★実は、私、基本的に料理の話が好き。というのも、かつて、家に帰らないで会社に泊まっている時に、ずっと一人で料理を作り、はまる。料理本も出したくらい。1冊だけだが、、、
★料理好きからすると、小説の料理は作り方が書いていないのは、つまらない。それがこの小説ではかなり細かく、具体的に描かれる。料理本としても役立つほど。楽しい。

★そして、もうひとつ。この小説がいい、という「何か」。それは、3人の女性の料理を媒介とした人間関係。60歳を過ぎた一人暮らしの3人が一緒にひとつの事業をやるが、実に仲がよい。惣菜を考え、作り、お酒を呑み、しゃべり、笑って、ケンカして・・・ 
★同年輩の私からみると、うらやましい関係。でも、これは女性だからあり得る事で、男には「あり得ない!」と思う。男だと、過去の職場や仕事から引きずるものもあり、もっと「俺が俺が、、」というのが出てしまい、きっと続かない。うまく行かない。
★基本的には、女性の方が友達を作るのがうまい。30代の頃から思っていたが、40代、50代となるにつれ、女性は、何かと友達と海外に行くは、音楽会に行くは・・・違う。
★お惣菜屋。ちょっとやってみたい気にもなったが、私が2人集めて始めたとしても、男3人でやっているお惣菜屋に客は来るか、、、、やっぱり無理だな、と思う。

★私がこの本を読むと、料理の話に「おいしそうだな~」と思ったり、60代女性3人の関係に「いいなぁ~」と思ったり。ただ、もっと若い人が読めば、より季節の食材を使った料理本と楽しむかもしれない、女性が読めば、女性3人の恋愛小説と読むかも。
★老若男女、いろいろな人が、いろいろな立場で、楽しめそうな小説です。

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