トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年09月29日(木)
今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。


★翻訳ミステリーで、ちょっとマニアックな作品。これは「15年ぶりに、ベルンハルト・グンターが帰ってきた!」という話。

★ベルンハルト・グンターは、私立探偵の名前。彼を主人公にした私立探偵グンター・シリーズ(『偽りの街』『砕かれた夜』『ベルリン・レクイエム』)3冊は、「ベルリン3部作」として15年前に一世風靡。一応、3部作の中で完結していたが、長い期間をあけて、新シリーズが再開し、その1作目が出た。それが、この『変わらざるもの』。

★グンター・シリーズの魅力は、なんと言ってもその設定。かつて、著者フィリップ・カーが語った言葉を借りると、「フィリップ・マーロウをナチス統治下のベルリンに置いたらどうなるか」。そういう発想で書かれたシリーズ。
★私立探偵といえば、「ワイズクラック(気の利いた警句・軽口)」と言われる減らず口をたたく事がダンディズムとなっているが、その減らず口をたたく相手がゲシュタポ。
★本来、おとなしくすべき所を、余計な事ばかり言う。命がけで減らず口をたたきながら、何かを調べていく私立探偵。それがベルンハルト・グンター。これが面白い!

★そして新シリーズ。かつての『ベルリン3部作』がナチス政権下のベルリンが舞台だったのに対し、今回の舞台は戦後。1949年のミュンヘン。

★最初、主人公グンターはベルリンを離れミュンヘンで、ホテルの経営をしている。カミさんの実家がホテルを経営していて、訳があって、それを手伝っているのだが、そこに、私立探偵として活躍したグンターのかつての評判を聞いた依頼者が訪ねてくる。

★そして、探偵稼業を再開することにしたグンター。そこに、夫の安否確認をお願いしたい、と一人の女性が訪れるのだが、直後、依頼人本人との連絡も途絶え......。
★戦後とはいえ、1949年のドイツは混乱期。いろんな勢力がうごめいている。例えば、ナチスの親衛隊の連中がなんとか秘密組織を頼って、アルゼンチンなど海外に逃げようとしている。それをユダヤ人の狩人部隊が暗躍して、追っかけている。さらに戦後の主導権を握るためにアメリカ、CIAも出てくる。
★そうした非常に複雑で混乱した中を、私立探偵ベルンハルト・グンターが人探し。思わぬ事件に巻き込まれる。

★特に圧巻は後半。混乱した背景を非常に手際よく紹介しながらアクション、サスペンスが続いてくというテンポのよさ。一気読みです!

★ひとつ、注意は「せっかち」にならないこと。というのも、600ページもある、かなり分厚い文庫なんですが、前半をちょっと長く感じる人がいるかもしれません。
★理由は、夫探しの依頼の受けた私立探偵グンターがすぐ夫を探しに行くのかと思いきや、なかなかその事だけに専念しない。2、3つ他の話が平行して進み、途中、「グンターよ、どこに行く?」という感じになる。
★ただし、散漫なのかと思いきや、最後に向かって、全ての話がひとつにまとまってくる。やはりフィリップ・カー、ただものでない、と思わせてくれる。

★前作を読んでいなくても十分、楽しめる1冊。特にハードボイルド好きにはたまらないはず。理由は、ハードボイルドの定型がバッチリ。「ワイズクラック」、「失踪人探し」、あと私立探偵は後頭部を殴られて気絶する、というパターンが多いがちゃんと気絶する。

★最後に、私立探偵グンター・シリーズのファンの方に朗報。フィリップ・カーは、15年ぶりにこのシリーズを復刊した後、毎年、このシリーズを1巻ずつ書いているらしい。
★今後、この『変わらざるもの』が順調に売れれば、翻訳本が出るらしいので、是非とも次を読みたい人は、グンター・シリーズの面白さを周りに教えてあげましょう。

一覧へ戻る

ページトップへ