トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年08月11日(木)

今朝は、書評家の岡崎武志さんにお薦めの本を紹介していただきました。

★ここ数年、仏教と仏像ブームが続いています。仏教に関する本はコーナーが作られるほどたくさん出ているし、2009年東京国立博物館の「阿修羅」展は、90万人もファンを集め、それを見るため長蛇の列ができるほどで、話題になりました。しかも、若い人が仏像に興味を持っている。仏像ガールと呼ばれる女性まで出てきました。

★そんな若い世代の仏像ブームの火付け役になったのがみうらじゅん。いとうせいこうと仏像を見てまわる紀行文『見仏記』という本を1993年に出して、シリーズ化されて5冊も出ている。ところがこの本で、「法隆寺の百済観音像は、ボディコン・ギャルのルーツ」など、思いつくままに言っていたら、あちこちのお寺さんからお叱りを受けたそうです。

★しかし今では、著者の仏像や仏教の見方をおもしろがるお坊さんが増えてきて、講演依頼があるそうです。そんなみうらじゅん流の仏教へのアプローチと、あくまで自分にひきつけて考えた仏教論を語ったのがこの本です。

★著者は「マイブーム」「ゆるキャラ」などのことばを作った人であり、じつにさまざまな趣味を持っていますが、「仏教」および「仏像」への関心は古く、小学四年生からだと言います。
★著者は昭和33年生まれで、私とほぼ同世代なのですが、子どもの頃、怪獣ブームがあった。ウルトラシリーズや怪獣映画に夢中になって、怪獣の写真をスクラップするようになる。そんなとき、京都の東寺で見た仏像たちを見て衝撃を受ける。
★「怪獣みたいでかっこいい」と思ったというのです。怪獣が仏像好きの入口になった。それからお寺巡りが始まり、お父さんから誕生日に、土門拳や入江泰吉の仏像写真集をプレゼントされ、完全な「仏像少年」ができあがる。

★将来は「住職」になりたいと思う。憧れの住職は奈良「薬師寺」の高田好胤。学校で弘法大師のマネをして浮きまくる。
★中学高校も私立の仏教系の学校へ通う。お寺の子弟が多く集まる学校だから、さぞ、仏教の話でクラスは持ち切りになると思って楽しみにしていた。しかし実際は、将来はお坊さんになることが決っているので、暴れるなら今のうちとヤンキーが多かった。
★学園は荒れる。「荒行」と著者は言う。当時の不良の髪型はパンチパーマ。「彼らが逃れたかったはずのお釈迦さんと不覚にも同じ髪型であるというのは、何とも皮肉」と書く。

★こんなふうに紹介すると、ふざけてばかりいるようですが、みうらじゅん流に解釈した、仏教の教えで、いいこともいっぱい書いてある。
★「諸法無我」とはいかなるものにも実体はない、というお釈迦さんの教えについて。サッカーの中田英寿が引退したあと、「自分探しの旅に出ます」と宣言し、やたらに「自分探し」というコトバを使う人が増える。しかし、自分探しを始めた人で、本当の自分を見つけたひとなどいない、と著者は言う。
★「諸法無我」では、「本当の自分」などいないと教える。そこから、「自分探し」より、「自分なくし」の方が大事と考える。「自分にも都合のいい自分」なんてどこにもいるはずがない。これはその通りだと思います。

★また、著者が会社員の友人から、部下が自分の話を聞いてくれないと相談を受けたとき、「フグ・カニ・スッポンを奢ったことがあるの?」と質問した。彼は「奢ってない」と答えた。著者は「フグ・カニ・スッポンを奢らない奴には人はついてこない」と言う。
★居酒屋の勘定を持つ程度ではダメで、「フグ・カニ・スッポン」レベルで自分の話ばかりしていても構わない状態になる。みうらじゅんによれば、これは「お布施」だそうです。

★こんなふうに、身近な題材にひきつけて、自分にとって「仏教」とは何かを考えた本で、まじめな方が読むと、仏教を冒涜していると腹を立てるかもしれませんが、「地獄」についての本格的な話もちゃんとある。「仏教」というと、その教義や修業など、難しくつらい世界のように思えますが、ぼくは笑いながらこの本を読み終えた。笑いながら読める仏教の本、というのも貴重なのではないでしょうか。

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