トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年07月07日(木)
今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。


★書いたのは、ドイツ人の作家。しかもデビュー作。なのに、これが海外で大評判。既に45万部売れ、映画化も決定している。
★内容は、犯罪をめぐる短編集。ドイツではクライスト賞という文学的な賞を受賞。つまり、文学的な作品でもあり、ミステリとしても読める作品。

★主人公は弁護士。弁護士の元にいろいろな犯罪者が依頼に訪れる。その弁護士を狂言回しにして、いろんな犯罪者の愚かさ、優しさ、悲しさ、、、をスケッチ風に描いていく。

★全部で11編入っているが、この作品の一番の特徴が1編が短いこと。20ページ。本としても200ページちょっとで非常に読みやすい。なのに、内容は濃い。

★どれも読みどころがある話ばかりなのだが、全部はご紹介できないので、一番のおすすめは、なんと言っても最後のエピソード「エチオピアの男」。この短編を読み為だけでもこの本を買う価値があると思います。

★どういう話かというと、冒頭は、銀行の前の芝生の上に男がぼぉーと座っていて、そこにパトカーが何台もかけつけ、警官が登場。銃を片手に「手をあげろ!」。そして、その男が取り押さえられて、芝生の上に顔を押し付けられるというシーンから始まる。

★なぜ、こういう事になったのか、この男の人生にいったい何があったのか、という事がここからどんどん、語られていく事になる訳ですが、これが壮絶。

★この男、元々は捨て子。牧師館の前に配給品の毛布に包まれて、捨てられている。その後、孤児院に預けられ、養子縁組で引き取られるが、不幸な幼少時代を過ごす。
★幼稚園に入ってもからかわれ、小学校に入っても友達もできない。というのも、ずうたいが大きくて、人一倍乱暴で、顔が醜い、と表現されている。さらに勉強が芳しくない。
★彼は結局、中学過程を終了すると、進学をあきらめて、勉学があまり芳しくないので、近くの町で家具職人に弟子入りするが、やがて軍隊へ。除隊後、自由を求めハンブルグに行き、建具屋に雇われるが、そこで起きた盗難事件の犯人に疑われ、そこを追われる。
★そうしたある日、ハンブルグの夜の街に出て行くと、兵役時代の知り合いに出会って、娼婦の館の管理人に紹介され、そこで悪友に囲まれ、酒におぼれ、銀行強盗に手を出す。

★と、ここまででこの話の半分。この後、彼は、銀行強盗した金で、飛行機にのって、エチオピアの首都アディスアベバに逃げるが、そこに待っていたのは悲惨な現実。6万人のストレートチルドレン、横行する犯罪。彼はこの世界に絶望する。
★男は、人生を終止符を打つ場所を求めて、草原を彷徨い、コーヒーの木の間に倒れて、「何もかもが最低だ」と思いながら、死を覚悟する。
★ところが彼が目を覚ますと、そこは清潔なベッドの上。コーヒー農園で働く、黒人達に助けられる。そこから彼の人生が変わる。その街で働き、家族を持ち、、、、ところが、、、

★エチオピアで幸せな生活を見つけた彼だが、実はもう一度、銀行強盗をする。それが、冒頭のシーン。「なぜ再び犯罪に手を染めたのか?」。バァーと20ページで語られる。

★特に最後がうまい。彼の犯した罪は消えない。彼が幼少時代に過ごした不幸せな過去も消えない。でも、最後は温かい話でまとまる。

★実はこの作家、デビュー作とはいえ、1964年生まれで50歳前と若くない。どうも高名な弁護士らしく、実際に事件に材を得ているものもあるのかもしれない。また、東欧や中近東からの移民の話が目立つのは、ドイツという土地柄か。

★他に10編入っているが、全部同じようなタッチではない。心温まる話、ゾッとする話、シャレた話。犯罪に手を染めてしまった人間達のいろいろな局面を描く異色の短編集です。

一覧へ戻る

ページトップへ