トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年05月26日(木)
 

今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。

★ちょっと変わった小説。5月20日にでたばかり。

★舞台は海辺の街。岬の崖の下に石造りの一軒家があって、そこに魔法使いが住んでいる。そして、その事はその街の子ども達だけしか知らない。

★この魔法使いは何か、というと質屋。思い出を預かって、その代価としてお金を払う。
★つまり、楽しかった思い出、怒られた思い出、悔しかった思い出、寂しかった思い出、、、そういう思い出を魔法使いに話すと、その思い出に対して、お金を貸してくれる。

★いくら払うかは魔法使いが決め、それに文句はつけられない。だいたい人生で始めての想い出は、8800円くれる。

★お金をもらって想い出を預けてしまうと、「質屋に想い出を預けた」という記憶以外はなくなってしまう。そして、お金を返せば、想い出を返してくれるというシステム。

★ただ、返してくれるのは20歳まで。20歳を過ぎると、想い出自体がその人の記憶から抜けてしまう。つまり、20歳になるまで通える子どもだけの秘密の場所、という設定。(大人で、想い出をお金にしたい人もたくさんいるでしょうが、、、20歳まで)

★例えば、ゲームソフトが欲しくて、そこに通っている子供とか出てくるのだが、話の主人公は永澤 里華という女の子。この子の中2から20歳になるまでの話。
★この主人公。最初は中学の時、新聞部の部長として魔法使いに取材に行き、そこから魔法使いを気に入り、いつも通うようになる。

★でも、この子は一度も想い出を預けていない。むしろ、想い出を質に入れてお金をもらうシステムを批判。しょっちゅう、魔法使いと議論している。
★「あなたはどうして、そういう事をするのか」と、、、実はその魔法使いは理由がある。「退屈だから」。つまり、魔法使いは死なない。ずっと、生きているのでつまないと。面白いかだけで判断して何が悪い!と。

★一方、お金を借りにくる子供。基本的にいやな事があると想い出を預けにくる子が多い。嫌な事を忘れてお金にして何が悪いの!と。

★その典型的な子が、副主人公という形で出てくる。名前は遥斗(はると)くん。彼は小学3年の時から魔法使いの所に来だすのだが、ちょっと嫌な事があると、すぐ質へ。
★お母さんに「勉強しなさい」などと言われた、たいした事がないものでも、全て質屋に預けお金に換えてしまう。
★そうして、遥斗(はると)くんがどんどん成長していって、、、、最後はネタばらしになってしまうので言えないが、なかなかジーンと来る、落ちのあるいい話となっている。

★そして、物語の最後。主人公の女の子、里華が20歳を迎える。これまでのように魔法使いの家に行くが、そこに魔法使いの家はなくなっている。
★そこで、度々、魔法使いの家で会い、顔なじみになっていた遥斗(はると)くんと会い、魔法使いへの伝言を頼むのだが、、、これもちょっといいラストシーン。(でも言えない)

★この小説を書いた吉野万理子さん。元はテレビドラマの脚本(「仔犬のワルツ」2004)を書いた方で、2005年に小説家デビュー。これから、という作家だが、この作品がブレイクするきっかけになるかもしれない。そういう作品です。

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