トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年05月19日(木)
 

今朝は、書評家の岡崎武志さんにお薦めの本を紹介していただきました。

★被災地に、天皇皇后が訪問されるシーンがニュースで流れました。   
★体育館の硬い床に膝をつけて、被災者の人たちと同じ目線で慰めの言葉をかけて、おられたのが印象に残りました。被災者の人たちはそれを正座して迎えていました。
★じつに日本的な風景だと思いました。

★そこで、この本。実は、日本人は床に直接座るという特有の風習を持っている。しかも、さまざまな座り方があり、それは時代によって、変化もしてきた。
★『日本人の坐り方』の著者は、それを「身体文化」と呼び、坐り方の多様性から日本人について研究した。じつに独創的な着眼点です。

★えっ、坐り方って、そんなに種類あったかな、と思われるかもしれないが、この本によれば、「正坐」に始まり、「割坐」「横坐り」「胡坐」「安坐」「貴人坐」「畳立て膝」「楽立て膝」「もたれ立て膝」(早口ことばみたいですが)などなど、じつに日本人の坐り方はバリエーションが多いことに気付く。

★まず、これだけ、多様な坐り方を日本人が持っているのは、畳や床の上に直接座るから。西洋のように家のなかでも靴を履いて、椅子の上に座る生活とは違ってくる。
★ここにおもしろいアンケートがありまして、2009年の畳に関する意識調査で、八割の人が畳の部屋が「ほしい」と答えている。畳の部屋は、いまどんどん失われつつありますが(うちにもありません)、やっぱり気持ちの中で、畳の部屋に足を投げ出して、というのに憧れている。

★ところで「正坐」。茶道や華道をやっている方以外は、いま日常ですることがなくなりました。慣れていないから、たまにすると長時間耐えられない。
★でも、恋人の家に行って、「お嬢さんを下さい」なんて言う、かしこまったときはやっぱり正座をする。これが「正しい座り方」だと思っているから。

★ところが、本書によると、「正坐」が正しい座り方とされたのは、江戸時代以降、それまでは胡坐、安坐(胡座の足を組まない座り方)、立て膝が普通。
★なんでそんなことがわかるか、というと、絵や文献からわかる。たとえば、茶道の神様みたいな千利休の肖像画を見ると、胡坐をかいていることがわかる。戦国武将だって、殿様の前で正坐はしなかった。胡坐か安坐です。
★もっとすごいのは、写真が帯に出ていますが、幕末の武士は、殿の御前に控えるとき、いまで言う「ヤンキー坐り」をしています。衝撃的な写真です。「とりあえず頭さえ高くなければ、足の処し方はうるさく言わない」のでは、と著者は想像する。

★一般に「正坐」が、正しい座り方として一般の人に浸透したのは明治。東京の小学校に、小笠原流の礼法の教科書が広まり、そこで「正坐」が奨励された。教科書には正しい座り方について、こんなふうに書かれています。
★「両足を揃えて立ち、止まり、左の足より、一足ずつ後の方へ引き、爪先を立てながら、両膝をつき、両足の拇指を、重ねて坐すべし、坐せる時、直に其手を膝上に置き、腋のあたりに、鶏卵一個ずつを挟みて、落とさぬようなる心得に、腕を据えるべし」
★なんだか足がこんがらがってひっくり返ってしまいそうです。

★もう一つおもしろい話。兵士が戦場で休憩を取る時、下が水たまりやぬかるんでいたりすると、フランス兵は長靴を履いて立ったまま、に対し、オーストラリア出身の兵は、踵の上にしゃがんで身体を休めることができた。この踵を曲げてその上に尻を乗せる坐り方は、日本人の得意で、この本にたくさんの実例が図で示されている。

★ただ、この多様な座り方も、椅子の生活に慣れると退化していく。座ることも文化だと、この本は言いますから、座り方の変化で、日本もこの先、変わっていくかもしれません。
★そうした事を考えさせられる一冊です。

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