トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年05月05日(木)
 

今朝は、書評家の岡崎武志さんにお薦めの本を紹介していただきした。

★5月5日こどもの日。せっかくこういう日に私の出番が回ってきたので中学から高校に入ったぐらいの人に読んでもらいたいと思って、少年少女向けの本を選びました。

★1977年に出た本で、私は大学生でしたが、これを読んで非常に感動したんです。

★1920年代から40年代初めのドイツのお話。1925年に生まれた二人の少年が出てきます。主人公で語り手の「ぼく」と、同じアパートに住む「フリードリヒ」です。
★二人はこのあと、同じ小学校、中学校へ通い、大の仲良しです。目次を見ると「入学式」「ボール」「シュナイダーさん」「先生」「プール」なんて単語が並んで、仲の好い少年同士の友情の物語かと思います。
★しかし、彼らが少年時代を過ごした1930年代のドイツがどんな状態だったか。これは、少年の「ぼく」の目を通したナチス迫害の過酷な真実を描いた物語なんです。

★この小説は最初、何事もなく静かに始まります。「雪」という二人が四歳のときの話。
★雪の日、表でフリードリヒが遊んでいる。ぼくも一緒に遊びたいがお母さんが許さない。雪だるまを作ってるフリードリヒをうらやましく眺めていると、アパートの家主であるレッシュ氏がフリードリヒを怒鳴りつける。「こらっ、おれのバラを痛めるな!ユダヤの野郎め!」ここでドキッとします。
★しかし、これは単なる序曲で、次第にじりじりとユダヤ迫害の輪が縮まっていく。

★「ぼく」のお父さんは失業中で家は貧乏。一方、ユダヤのフリードリヒのお父さんは郵便局員で生活は安定していた。
★ある日、お祭りの日に、この二つの家族が広場へ遊びにいくが、ぼくの家にはお金がない。食べ物やメリーゴーランドのお金をフリードリヒのお父さんが出してくれる。
★楽しい一日となり、二つの家族は木馬に並んで座って記念写真を撮る。これが1931年。フリードリヒ一家が幸福な最後の年となります。
★1933年にヒトラーがドイツの首相になる。「ぼく」とフリードリヒはナチスの少年団の集まりに参加する。フリードリヒは「すごいなあ、わくわくするよ。ぼくもピンプ(少年団員)になるぞ」と言う。
★しかし、リーダーはそこでユダヤの悪口を言い、「ユダヤ人はわれわれの災いのもと」と大声でみんなに唱和させる。「ぼく」の隣りにはフリードリヒ。どんな思いなのか。
★やがて、フリードリヒのお父さんは郵便局を辞めさせられ、アパートも追い出される。フリードリヒもユダヤ人学校へ転校していく。逆に「ぼく」のお父さんはナチスの党員となることで職を得る。立場が逆転していく。

★1938年11月9日夜、「水晶の夜」と呼ばれる、ドイツ市民による反ユダヤの暴動が起き、ユダヤ人の教会や建物が破壊される。フリードリヒの家もめちゃくちゃにされる。心痛のあまりお母さんが亡くなる。
★フリードリヒがヘルガという美しい少女に恋をする。15歳。二人は公園を散歩し、少女がベンチに座ろうと言う。しかし、フリードリヒは立ったまま座ろうとしない。
★それは緑色のベンチ。ユダヤ人には専用の黄色いベンチがあった。座ってはいけないベンチだった。フリードリヒの恋は破れる。
 
★1939年9月、第二次大戦が勃発。ポーランドでまずユダヤ人虐殺が始まる。ナチスはユダヤ人を強制収容所へ送り込み、ガス室で殺害。敗戦までに約600万人の命を奪う。
★そのことをフリードリヒは知らない。そこまで生きていられなかったからです。

★人間が同じ人間にどれだけ残酷なことができるか。その極限がナチスによるユダヤ差別でした。同じ年に同じドイツで生まれた少年二人を通して、著者はそのことを描く。
★「あのころはフリードリヒがいた」という、そのタイトルを思い浮かべるだけで、何とも言えないような気持になります。本にはそういう力もあるんです。

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