トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年04月21日(木)


今朝は、書評家の岡崎武志さんにお薦めの本を紹介していただきました。

★連日、福島原発の放射能汚染について報道されていて、この先、いつ終息するのか、大気や土壌、海洋に将来的にどんな影響を及ぼすのか、心配は続きます。
★人間の歴史は、地球環境を破壊してきた歴史とも言えて、森林破壊、大気汚染、地球温暖化など、世界的なテーマになったのはつい最近、という気もしますが、じつは数百年単位の以前から、ちゃんと小説や記録など、古今東西の名作には描かれていた、と教えてくれのがこの本です。

★著者は元新聞記者、現在、環境問題の専門家として多数の著書を出している。

★ここに登場するのは、宮澤賢治「グスコーブドリの伝記」、スタインベック「怒りの葡萄」、ルイス・キャロル「不思議な国のアリス」、メルヴィル「白鯨」、ヴィクトル・ユーゴー「レ・ミゼラブル」などなど。映画化された作品も多い。
★いま、そう言われて、そうかな、環境問題なんか、描かれていたかなと映画などをご覧になった方は、疑問に思われるかもしれませんが、じつはこれらの作品が地球の危機を描いていた。

★宮澤賢治の童話「グスコーブドリの伝記」は昭和初期の作品。グスコーブドリは主人公の名前。彼が住む村では、冷夏による干ばつで、たくさんの人が飢えて死にそうになった。彼は、火山を爆発させて大気中に炭酸ガスを増やせば、地球全体が温まるはずと考え、博士に相談し、火山に火薬を仕掛けるため、自分の身を捧げるという話。

★賢治が「この時代に二酸化炭素による地球温暖化の知識をすでに持っていたことは驚くしかない」と著者は言う。そして、東北地方に続いた冷夏と干ばつ、そして世界的な地球温暖化の歴史を繙いていく。自己犠牲という抹香臭いテーマの小説が、たちまち現代的なテーマとして甦る。

★近代中国文学の名作「駱駝祥子(らくだのシアンツ)」は、1920年代の北京で、人力車引きをする若者の話。著者の老舎(ラオショオ)は、文化大革命で弾劾され、自ら命を絶つ。
★この車引きの青年が砂漠から吹いてくる舞う黄塵(黄色い砂埃)の中を、ペキンの町を走るシーンがある。著者はこの砂埃を「黄砂」だと言う。日本にまで風に乗って流されてくる黄砂ですが、「万葉集」のなかにも黄砂を歌った歌があり、「おくの細道」にも芭蕉が黄砂に苦しめられた記述があるという。ずいぶん歴史は古い。

★ところが、古いと言えばそんなものじゃない。
★その黄砂の発生の原因を探ると、紀元前まで遡る。紀元前223年に秦に滅ぼされた楚の時代には、原生林に近い森が広がっていた。代わって権力をにぎった秦の始皇帝が巨大な建造物を造り、武器製造のための金属精錬のため、広大な森林を伐採した。そのため砂漠化し、黄砂が発生したと言うんです。地球環境問題も紀元前まで話が発展していく。スケールが大きい。

★「白鯨」の話もおもしろかった。クジラに足を食いちぎられた捕鯨船のエイハブ船長が、復讐に燃えて巨大クジラを追う。映画ではグレゴリー・ペックがエイハブ船長に扮した。著者は、この「白鯨」と、日本の幕末維新史のつながりを教えてくれる。

★「白鯨」の舞台となった時期は、捕鯨が空前の繁栄を謳歌した19世紀、捕鯨船の母港となったニューベッドフォード。じつはジョン万次郎が漂流して、助けられたのが捕鯨船で、彼が住んだのがニューベッドフォードだった。
★ジョン万次郎が23歳で帰国した1851年は「白鯨」が出版された年。その2年後、ペリーは黒船で日本にやってきて開国を迫る。その目的の一つに「北太平洋で遭難した捕鯨船員の救助と船舶の寄港地」として絶好の地理的位置にあった日本を選んだという。
★しかし、その後、クジラの乱獲で、日本は世界中から抗議を受ける。捕鯨と維新という視点で「白鯨」を読みなおせば、違った角度から味わえるかもしれない。

★そのほか、「不思議な国のアリス」に登場するマッドハッターという帽子屋が、いかれた行動をとるのは、帽子屋には恐ろしい職業病の「水銀中毒」が関係していた、あるいは、ユーゴー「レ・ミゼラブル」に見る、臭いパリの下水道事情など、よく知っている作品を、環境問題という視点から読みなおすことになる。

★すぐれた作品というのは、作者が意識するしないとは別に、やはり時代を映し出し、そこに未来を予言する力も持っている、と改めて名作のすごさを感じることができました。


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